人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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34.石焼き芋

窓の外、降りしきる雪を眺めながら俺は炬燵で寛いでいた。本来ならばジョギングに出る時間だが、ここまでの大雪に降られてはどうしようもない。滑ったら大変だし、既に車道にも積もりはじめている。明日になったらアパート周りの雪かきをするべきかもしれない。

 

去年も雪が積もったことはあったけど、引きこもっていたので外がどうなっていたのか知らなかった。多分大家さんが雪かきしてくれていたんだろう。そうだとしたら今年は手伝いたい。まだまだ非力なこの体で、どこまで手伝えるかは分からないけど。

 

炬燵に入ったまま右腕で力こぶを作ってみる。左手で触るが、ふにゃふにゃと柔らかい。足回りにはそこそこ筋肉が付いてきた気がするけど、上半身は特にトレーニングしてないから当然だ。まぁそれでも、少しだけ太くなった気はする。引きこもっていた頃とは違い、三食しっかりと食べるようになった影響だろうか。

 

「太ってるって言わないか、それ?」

 

自分で自分に突っ込みながら、二の腕の肉をつまんだ。結構伸びるな。肉というより皮膚が伸びてるのか。そんなとりとめの無いことを考えながら、俺は自身の二の腕を弄ぶ。筋肉も殆ど付いていなくて日焼けもしていない細い腕。この腕で野球は無理だろう。

 

「・・・・・・腕も鍛えようかな。あぁいや、だったら全身だ。せっかくジョギングで体力付いてきたんだし、うん」

 

ここ最近続けてるジョギングで、足の筋肉だけじゃなくて全体的な体力、それに心肺機能も鍛えられている気がしていた。最低限、日常生活に支障は無いくらいまでにはなっているはずだ。それなら少し強めのトレーニングに移ってもいいかもしれない。

 

「えっと、確か・・・・・・」

 

スマホで検索し、以前見つけていたスポーツジムを調べる。アパートからは少し遠いけど徒歩で行ける程度の距離だ。公営のやつなので料金も比較的安い、らしい。まぁ、体の鍛え方はそれなりに知っている。トレーナーやインストラクターがいなくても器具さえあればなんとかなるだろう。

 

それに、他人にトレーニングを見てもらうのは正直不安だ。いくら改善してきてるとはいえ、俺の精神的問題は解決していない。ジムでパニックを起こす可能性も0じゃないんだ。他の人との接触は避けられるなら避けた方が安牌な気がする。

 

うーん、わざわざトレーニングに行くのにこの考え方は矛盾してるか?どっちにしろ、もう少し基礎体力を付けておきたい。もう一月くらいはジョギングだけにしておこう。そんなことを考えつつも、俺は炬燵の温もりに微睡み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃまた、凄いな・・・・・・」

 

日は変わって朝。いつもより早めに布団から這い出て窓の外を確認した俺は、一面の銀世界に溜め息を吐いた。ニュースサイトを見るに、ここ数年で最大の降雪量らしい。幸い今は止んでるけど、道路脇には凄い量の雪がどっさりと積もっていた。除雪車でも通ったんだろうか。

 

寝間着から厚着に着替えて外に出てみると、肌を刺すような寒さと共に真っ白な光景が広がっていた。風は穏やかだったようでアパートの通路まで雪は来ていない。と、下の方から物音がする。そこには着込んだ姿の大家さんがいて、アパート横の小さな倉庫から雪かき用と思われるスコップを取り出していた。

 

「お、おはようございます・・・・・・!」

 

「おはよう。早いのぅ」

 

階段を降りて挨拶すると、大家さんは会釈し言葉を返してくれた。そして流れる沈黙。雪かきの手伝いをしようとするのは初めてだし、俺の思惑が分かるはずも無い。雪かきの準備を進めている大家さんに意を決して提案する。

 

「あ、あの!雪かき、手伝ってもいいですか?」

 

「・・・・・・構わんが」

 

俺の言葉に大家さんは怪訝な表情を浮かべた後、目を細めながら頷いた。スコップを受け取り気合を入れる俺。いくら非力でも、猫の手くらいにはなれるはずだ。

 

「屋根の雪下ろしは業者に頼むでの、アパートの周りをやるだけじゃ。まずは、うむ・・・・・・道路沿いを片付けるか」

 

「は、はい!」

 

大家さんに言われた通り道路沿いの雪塊を除去しにかかる。除雪車によって積み上げられたっぽい雪はずっしりと重く、一気にどかすのは不可能だ。今の自分の身体能力でやれるだけ、少しずつ削っていくしかない。

 

あっという間に額に汗が滲み全身が暑くなってきた。時折大家さんの視線を感じるのは、きっと心配してくれてるからだろう。上がった息をなんどか整えつつ俺はざくざくと雪塊を削っていく。結構な重労働だけど、精神的な苦痛はあまり無い。なんというか健全な疲労感だ。

 

「粗方片付いたか。一旦休憩じゃな」

 

「はい・・・・・・ふぅ、ふー・・・・・・」

 

しかし、重労働ということには変わりない。大家さんに言われ、俺は積み上げた雪を椅子代わりに腰を下ろした。特に腕がヤバい。予想はしてたけど、酷使した腕はまるで鉛になったかのように重くなっている。ちょっと張り切り過ぎたのかもしれない。

 

ゆっくりと深呼吸しながら休んでいると、道路の先に人影が見えた。知っている顔だ。カレーの時の女性が、腕に紙袋を抱えながらこちらに歩いてくる。足取りがフラフラと頼りなくて不安になるな。積もりまくっている雪のせいもあるんだろうけど。

 

「おはよー、二人とも!雪かきお疲れ様だねぇ」

 

ふらつきながらもアパートに辿り着いた女性は、夜の仕事帰りなのか酒臭い息を吐きながら満面の笑みで挨拶してきた。同時になんだか甘い匂いがする。どうやら彼女が抱えている紙袋から漂っているようだ。

 

「お、おはようございます」

 

「おはよう。仕事帰りか、お疲れさん」

 

「ありがと、大家さん。そうだ、雪かきしてくれてるお礼にこれどうぞ!ほら、君にも!」

 

女性はハイテンションのまま紙袋の中身を大家さんに渡し、次いで俺にも差し出してくる。新聞紙に包まれたそれは温かく、剥いてみると中に入っていたのは焼き芋だった。二つに割ると甘い匂いが強くなり、思わず唾を飲み込む。

 

「いやぁ、帰ってる途中で石焼き芋の販売車に出くわしてさ。なんだか懐かしくなって大人買いしちゃったんだよね」

 

「こんな、朝早くにですか?」

 

「うん。早起きは三文の徳ってやつかな。まぁ私は今から寝るんだけど。アハハ!」

 

ずれた返事をしながら女性は欄干を上り部屋に戻っていく。あれだけの量の焼き芋、どうするつもりなんだろうか。っと、それよりせっかくもらったんだ。温かい内に頂いてしまおう。

 

「いただきます」

 

湯気が立っている焼き芋を齧ると、口内に甘さがぶわりと広がった。下手なお菓子とかよりも甘い。ねっとりした食感と一緒に疲れた体に沁みていくようだ。大家さんも焼き芋を食べながら、満足気にほぅと息を吐いている。

 

「おいしい、ですね」

 

「うむ。甘いな。焼き芋は、やはりこの時期が一番美味い」

 

大家さんによると、収穫されたサツマイモの水分が抜けるこれくらいの時期が焼き芋に最適らしい。そんなうんちくを聞きながら、俺達は焼き芋に舌鼓を打つ。素朴ながら濃厚な甘みは飽きることが無く、丸々一本食べ切ってしまった。

 

「ごちそうさまでした。よし、十分休んだんで再開しましょう!」

 

「そうするか。もうひと踏ん張りじゃの」

 

包み紙を防寒着のポケットに突っ込みながら俺は立ち上がる。疲労は抜けていないが気力は漲っていた。後で女性にお礼しないとな。そんなことを思いつつ、俺と大家さんは雪かきを続けるのだった。




雪かきは重労働です。ちゃんと栄養摂らなきゃ倒れちゃうぜ。
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