人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う 作:てぬてぬ@TSF
スーパーまでの道のりを歩く最中、俺は考え込んでいた。近所の女性に焼き芋を貰ったお返しをどうしようか、と。
「うーん・・・・・・」
正直、あの押しの強い性格は苦手というか対応し辛い。こっち側の精神的な問題なので彼女が悪いわけではないんだけど。それでも、俺が作ったカレーを食べていた時の笑顔は忘れられなかった。チョロいというかなんというか。単純だな、俺も。
せっかくならまた料理をお返しにしたい。自分が食べるだけよりも調理に気合が入るし。だけど、何を作るかはまだ決まっていなかった。さて、どうしよう。多少は凝った料理を作ってみたい気もするけど、失敗したら目も当てられない。むむむ・・・・・・。
スーパーに到着した後も、俺は悩みながら店内を練り歩いた。並んでいる商品や食材を見たらいい考えが浮かんでくると思ったけど、そう上手くはいかないようだ。うんうん唸りながら陳列棚を眺め、あぁじゃないこうじゃないと思案する。中々これ!という料理が思い浮かばないな。
「うーむむむ・・・・・・」
生鮮コーナーの確認しつつ静かに呻く。魚よりはお肉の方がいいだろうか。カレーの時も入れてたのは牛肉だったし、あの人の嫌いな食べ物ってことは無いはずだ。と、目に付いたのは牛と豚と合い挽き肉。値段も手頃でそれなり以上の量もあるようだ。
合い挽き肉かぁ・・・・・・。ハンバーグとかいいかもしれない。食べ応えもあるし、調理が滅茶苦茶難しいってわけでもないはずだ。やってみるか。目の前の合い挽き肉をカゴに放り込み、スマホで必要な食材を調べる。うん、これならスーパーでも集まるな。
首尾良く食材を買い込みスーパーを後にした。まだ昼下がりだし、夕飯までには十分時間がある。アパートに帰ったら早速ハンバーグ作りを開始しよう。
帰宅した俺は手洗いうがいと着替えを済ませた後、玉ねぎをまな板の上に乗せた。寒くなるのを承知で換気扇を回しみじん切りにする。これなら多少は目に沁みるのが軽減出来るな。本当はセラミック製の包丁を使えばもっと痛みが減るらしいけど、生憎買う機会が無かった。
みじん切りにした玉ねぎをフライパンに投入しじっくりと炒める。カレーの時よりは短めに、大体十分くらいか。食感を残すならこの程度がいいっぽい。丁度いいくらいに火を通したら粗熱が取れるのを待ち、次はハンバーグのタネ作りに移った。
ボウルに合い挽き肉を入れ、熱の取れた玉ねぎも投入。そこにパン粉と牛乳、塩と砂糖におろしにんにくもぶち込んだ。最後に胡椒を振りかけて、素手でしっかりと混ぜ込んでいく。味のムラが出来ないよう全体を馴染ませたらタネの完成だ。
さて、次は成形だ。今回は俺の分と女性の分、それと予備の計三個を作るつもりなので、大体三等分になるようタネを削ぎ取る。ある程度楕円形になるよう形を整えた後、右手から左手に軽く叩きつけた。中に残っている空気を抜く為だ。
20回くらい繰り返したら、最後に真ん中の部分を少しへこませておく。焼いたら真ん中が大きく膨らむので、その対策らしい。よし、成形完了。残りの二つも同じように成形して、後は焼くだけだ。入念に手を洗ってからフライパンを用意する。
油を満遍なく引き、中火でコンロにかけた。しっかりと温まってから三つのハンバーグを投入。火の勢いを少し落としつつ片面を焼いていく。形が崩れないよう、軽くフライ返しで押さえつけつつ3分程焼いたらひっくり返し、綺麗に焼き色が付いてるのを確認した。
三つ全部ひっくり返したら、蓋をして弱火で十分蒸し焼きにする。よし、順調だな。自炊を始めた頃に比べて手際が良くなってるし、慌てる状況に陥り辛くなっている。成長したにしろ慣れてきたにしろ、嬉しい変化である。
十分経ったら一旦蓋を開け、竹串をハンバーグに刺し溢れる肉汁を確認した。これで透明な肉汁が出てきたら火が通ってるってことなんだけど・・・・・・まだちょっと白っぽいな。追加で1分程蒸し焼きにして再度確認。よし、今度は透明だ。
フライパンからお皿に移し、ハンバーグ本体は完成。次はソースだな。ローストチキンの時みたいに、フライパンに残った肉汁を利用するグレービーソースにしよう。ハンバーグ用なので入れる調味料も違う。ケチャップとウスターソース、後は醤油という感じだ。
調味料を全部入れた後、コンロに火をかけ軽く煮詰める。ここでちょっと味見。うん、肉汁の旨みがたっぷりで美味しい。ただちょっと酸味が物足りないかも。少しだけケチャップを追加して味を調えた。これでよし。
さて。後はハンバーグにソースをかけて完成なんだけど、女性に渡す前に一口試食しておこう。ハンバーグを箸で一口サイズにすると、肉汁がどろりと溢れてきた。そこにスプーンですくったソースを垂らし口に運ぶ。
「んぐ・・・・・・うん、いい感じ」
合い挽き肉のいかにも肉って感じに、酸味の利いたソースが絡まって食べやすくしている。ボリュームたっぷりだ。ちゃんと火も通ってるし、これなら女性に渡しても大丈夫だろう。食べかけのハンバーグにはラップをかけておいて、残った二つの内大きい方を耐熱用のタッパーに入れた。そこにソースを多めに投入。冷める前にと俺は部屋を出る。
外は相変わらずの寒さなので、最低限コートだけは羽織った。女性の部屋の前で深呼吸。・・・・・・いや、待てよ。そもそも部屋にいるのだろうか。時刻はまだ夕方だけど、俺とは生活リズムが違うのだ。しまった、根本的なこと見過ごしていたっぽい。と、
ガチャリ
「うおぉっ!?」
目の前の扉が突然開き、俺は情けない声を上げてしまう。出てきたのは件の女性。目を丸くして、驚いたような様子で俺を見つめていた。突然のことでしどろもどろになり、視線から逃れるようにタッパーで顔を隠す。
「え、あれ?どうしたの、君?」
「え、あ、いや、その・・・・・・」
舌が回らない。呼吸が苦しい気がする。パニックになりかけてる俺とは裏腹に、タッパーの中身に気付いたらしい女性が嬉しそうな声を上げた。
「あれ、これ・・・・・・もしかして作ってきてくれたの!?」
「え、えぇと・・・・・・は、はい。先日の、焼き芋の、お礼にって」
途切れ途切れながらなんとか返事をすると、女性は満面の笑みを浮かべて抱き着いてきた。く、苦しい。パニックとか関係無く女性の力が結構強いのが原因である。
「わーありがとう!本当に作ってくれるなんて、優しいね君は!お姉さん感激!」
「ぎ、ぎぶ・・・・・・!」
「あっ、ごめんごめん」
じたばたともがいてなんとかハグから抜け出し、ぜぇぜぇと息を吐く。きょ、距離感が近過ぎる。パーソナルスペース無いのかこの人・・・・・・!あぁもう顔が熱い。心臓の鼓動が激しいのはパニックのせいだけじゃない。俺だって元男だ、年上の女性に抱き着かれたらこうもなる。
「ありがとね、今から仕事だから職場で頂くよ!タッパーは洗って返すから!それじゃまたね!」
女性・・・・・・お姉さんは手をブンブンと振りながら嵐のように去っていった。背中に声をかける暇も無い。一人取り残された俺は、部屋に戻りながらゆっくりと息を整える。炬燵に潜り込んで温まりつつ、徐々に精神を平常に戻していった。
「いや、ほんとなんなんだあの人」
ようやく一息ついて、上半身を寝そべらせながら呟く。彼女もいたことが無い、色恋沙汰に疎い俺には過度な刺激だ。それに、ああいう肉体的接触があるとすぐにパニくりそうになってしまう。二重の意味であのお姉さんは天敵なのかもしれない。
まぁ、お姉さんは事情を知らないからという理由もあるだろう。俺が見た目通りの女の子じゃなくて、中身は男だって知ってたらあんな振る舞いはしないはず。・・・・・・しないよな?とにかく、これで焼き芋のお礼はした。これ以上積極的に関わる理由は無い。
「・・・・・・よし」
気を取り直して、早めだけど夕飯にしてしまおう。少し冷めてしまったハンバーグを温め直しながら、俺は先ほどのことを頭から振り払った。そうしないと罪悪感が湧いてきてしまいそうだったから。
サイゼのイタリアンハンバーグが好きです。チーズがたっぷり乗ってる奴。値段に対して満足感が凄いんですよね。