人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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40.キウイフルーツ(前編)

ジムでくたくたになった帰り道、アパートの目と鼻の先まで戻ってきた俺は既視感のある光景を見かけた。大きめの袋を提げた隣人のお姉さんが、危なっかしい足取りで歩いている。今にも転びそうな様子に思わず駆け寄った。

 

「ちょ、大丈夫ですか?」

 

「んー、誰・・・・・・って君かぁ!」

 

「うるさっ・・・・・・」

 

結構な声量に顔をしかめながらも体を支え、一緒にアパートまで歩いていく。やっぱり酒臭い。前にお酒弱いって言ってたけど、体は大丈夫なんだろうか?と、お酒の匂いとは別に甘酸っぱいような匂いもする。手にしている袋からのようだ。

 

「いやーありがとねぇ。というかシフト変わったから最近よく会うねぇ。えへへへへ」

 

「いいからちゃんと歩いてくださいって。ほら、階段ですよ」

 

遠慮無く体重を預けてくるお姉さんをなんとか引っ張りつつ階段を上る。慣れてしまったのかそこまで緊張はしない。どうにか彼女の部屋まで辿り着くと、のろのろと鍵を取り出す様子を支えながら待った。ガチャリと鍵が開いたので、扉の中にお姉さんを押し込む。

 

「仕事だから仕方ないと思いますけど、飲み過ぎには気を付けてくださいね、ホント」

 

「うん、ありがとー!あっそうだ、お礼にこれあげるよ。ほら」

 

何が楽しいのか満面を笑みを浮かべたまま、お姉さんは袋の中のものを差し出してきた。緑色で卵っぽい形をしたそれは、受け取るとなんだかチクチクする。表面に産毛のような何かが生えてるらしい。

 

「えっと、これは?」

 

「ん?キウイフルーツだよ、キウイフルーツ。いい感じに熟してたからさ、まとめ買いしてきちゃった」

 

「えぇ・・・・・・」

 

焼き芋の時も思ったけど、この人には一つのものを買い込む癖でもあるのだろうか。俺だったら全部食べる前に絶対飽きる。ぶんぶんと手を振るお姉さんを後にして自分の部屋へと戻り、渡されたキウイフルーツを眺めた。・・・・・・折角だし食べてしまおうか。っと、その前にシャワー浴びよう、シャワー。

 

 

 

 

 

 

 

シャワーと着替えを終わらせ、キウイを持って台所に立つ。まだ夕飯には早いのでおやつ代わりにさせてもらおう。普段三時のおやつとかは食べないけど、キウイ一個くらいなら太ったりもしないだろう。とりあえず真ん中で切ればいいかな。

 

キウイに包丁を入れると、大した抵抗も無く両断出来た。そのままお皿に乗せスプーンを用意する。なんか懐かしいな。子供の頃はこうやって食べたのを覚えている。早速スプーンでキウイの果肉をすくい口に運ぶと、予想以上に甘かった。お姉さんの言ってた通り熟しているのだろう。酸味はそこまで感じない。

 

「あむっ」

 

果物由来のくどくない甘さに、俺はどんどん果肉をスプーンで削ぎ取っていく。うん、美味しい。実はキウイを食べるのは久しぶりだ。舌にちょっと残るピリピリした感じは記憶通りで、思わず笑みを零す。

 

ヨーグルトとかとも相性いいんだよな、キウイは。だけど冷蔵庫にヨーグルトは無い。まぁ、このままでも十分だ。残り半分のキウイにスプーンを差し込み、のんびりと食べていく。と言ってもそんなに量は無い。数分ちょっとで皮だけになってしまった。

 

「ふぅー、美味かった」

 

一人呟いて皿とスプーン、残った皮を片付ける。一個でも結構満足感あったな。お菓子系統とは違う甘さは結構好きだ。お菓子の方も好きだけど。とりとめのないことを考えつつ、俺は炬燵に突っ伏した。ジムでのトレーニングでくたくたなのである。

 

「ふぁ・・・・・・」

 

当然睡魔が襲ってくるけど、先にスマホで目覚ましをセットしておいた。あれだけ鍛えたんだ、少しくらい休んでも許されるはず。というわけで、夕飯の準備をする時間まで俺は仮眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

「ん・・・・・・」

 

チャイムの音。うっすら目を開けてスマホを確認すると、セットした時間の10分前だった。のっそりと立ち上がり玄関まで向かう。宅配とかは頼んでないはずだけど・・・・・・。扉の覗き穴を確認すると、そこに立っていたのはお姉さんだった。訝しげに思いながらも扉を開ける。

 

「えっと、どうしたんですか!?」

 

「お願い、助けて!」

 

食い気味に言いながらお姉さんが抱き着いてくる。な、なんだ何があったんだ。困惑しながらも全身に緊張が走り、身動きが取れなくなる。急な出来事で心の準備が出来ていなかった。緊急性があるかもしれないのにこれは不味い。と、

 

「き、キウイフルーツ冷蔵庫に入らなくて、このままじゃすぐに腐っちゃうの!」

 

・・・・・・は?

 

「全部入ると思ってたんだけど、全然駄目で・・・・・・せっかくいっぱい買ったのに・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

ぐすぐすと涙声で言うお姉さん。もしかして、いやもしかしなくてもこの人って大分アレな人寄りなんじゃないか・・・・・・?少なくとも奇人変人の類ではある。

 

「と、とりあえず落ち着いてください。というか離れて・・・・・・!」

 

どうにかお姉さんを引き剥がし、仕方ないので一旦部屋に上げる。あぁもう、なんでこんなことに。カウンセラーさんや大家さんみたいに、適切な距離を保とうとしてくれる大人相手なら普通に振る舞えるんだけど。お姉さんはあまりにも距離感が近過ぎて調子が狂ってしまう。

 

「えぇと、それで・・・・・・なんで俺の部屋に来たんですか?」

 

とりあえず、真っ先に感じた疑問を口に出してみた。キウイが腐ってしまうというのは分かったけど、俺の部屋に来る理由が分からない。もしかして冷蔵庫を貸してほしいとかそういうのだろうか?そんな予想をしていると、斜め上な提案がお姉さんの口から発せられた。

 

「ほら、君って料理得意でしょ?だからさ、大量のキウイフルーツを使って何か作ってほしいなーって。駄目、かな?」

 

「は、はい?」

 

お姉さんの言葉に間の抜けた声が出てしまう。彼女は真っすぐな瞳で俺を見つめ、真剣な口振りで頼み込んできた。

 

「いっぱいのキウイフルーツを消費したいから、何か作ってほしいの。君って料理得意みたいだからさ」

 

「いや、いやいやいや・・・・・・」

 

俺はブンブンと首を横に振り、お姉さんの言葉を否定する。料理が得意なんてとんでもない。最低限自炊が出来る程度だ。しかし、彼女はキラキラとした尊敬の眼差しを送ってきている。何か勘違いされているらしい。

 

「お願い!勿論お礼はするから!」

 

「いや、そういう問題じゃなくて・・・・・・あのですね、別に俺は料理上手じゃないんですって。一人暮らしの手慰みみたいなもので」

 

「大丈夫!私は全然出来ないから!」

 

何が大丈夫なんだろうか。満面の笑みを浮かべているお姉さんに問い質す気力も湧かず、俺は盛大な溜め息を吐いた。駄目だ、説得出来る気がしない。だったらせめて・・・・・・。

 

「あぁもう、分かりました。分かりましたから。でも、俺からも条件があります。まず、お礼はいりません」

 

「えっ?でもほら、それは流石に申し訳ないというか」

 

その辺りの分別はあるのに、なんでこんな頼みをしてくるのか。出かけた言葉を呑み込みつつ俺は続ける。

 

「その代わり、お姉さんも調理を手伝ってください。それと、色々準備があるので実際の調理は明日にしたいんですけど。キウイ、一日で腐ったりしませんよね?」

 

「う、うん。それは大丈夫だと思うけど」

 

「じゃあ、明日空いてる時間を教えてください。それまでに準備しとくんで」

 

一気に畳みかけることで会話の主導権を握った。お姉さんの頼みを断れないなら、いっそ自分に有利な状況にするしかない。なんか本末転倒な気もするけど、これ以上の無理難題を吹っ掛けられるよりはマシだ。

 

「はあぁ・・・・・・」

 

空いてる時間を聞いた後、俺はなんとかお姉さんを追い返し扉を閉める。なんでこんなことになったんだろう。近所付き合いってこういうのが普通なのか?いや、多分違うはずだ。とにかく、キウイを大量消費出来るレシピを調べないと。

 

スマホで検索している中、ふと気付く。そういえば、会話の途中から全然緊張しなかったな。どもりもしなかったし。お姉さんのあんまりな頼みと態度に気にする余裕も無かったというか。いい傾向・・・・・・なんだろうか。

 

まぁいい、それよりも今はいいレシピを見つけないと。俺は夕飯の準備も忘れスマホをタップし続け、なんとかそれらしいレシピを発見するのだった。




キウイは勿論美味しいんですが、名前の元ネタになったキーウィって鳥も滅茶苦茶可愛いんですよね。ニュージーランドバンザイ。
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