人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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45.カツオの竜田揚げ

スーパーで買ってきた魚の刺身・・・・・・カツオのブロックを前に、俺は腕を組んで悩んでいた。このまま食べてもいいんだけど、実は試したいことがあるのだ。一応準備は出来てるんだけど・・・・・・。

 

「うーん・・・・・・」

 

試したいこと。それは揚げ物である。自炊にも慣れて、色んな料理を作ってきた。そろそろ揚げ物に挑戦してもいい時期かと思ったんだけど、実行するとなると躊躇ってしまう。油の後処理が面倒なのはまだいいとして、火災のリスクだってあるのだ。

 

いや、心配し過ぎだとは自覚している。落ち着いてやれば普通火事は起きない、はず。それに揚げ物自体は好きだ。自炊のバリエーションが増えるのは悪いことでは無いし、うん。やってみるか。

 

「っし、そうと決めたら真剣にやらないと」

 

気合いを入れて腕組みを解く。まずはカツオのブロックを食べやすい大きさに切らないといけない。刺身よりは大きめがいいかな。包丁を取り出して、カツオのブロックをまな板に乗せた。少し分厚くなるように切っていく。

 

今回挑戦する揚げ物は竜田揚げだ。唐揚げとの違いは詳しくは知らないけど、主に衣部分が片栗粉だけの場合竜田揚げと呼ぶことが多いらしい。唐揚げは何種類かの粉を使ったりするようなので、今回は簡単そうな竜田揚げにしようと思っていた。

 

いい感じのサイズにカツオを切り終わったら、料理用の保存袋に全部投入。そこに醤油と料理酒、みりんをかけ、チューブの生姜とニンニクを入れて軽く揉みこむ。全体が馴染んできたら一旦放置して漬かるのを待つか。大体2、30分くらいでいいようだ。

 

その間に片栗粉の準備。深めのトレイに片栗粉を敷いていく。ちょっと多めにしておこう。サラダ油も鍋に入れて、いつでも加熱出来るようにしておいた。後はカツオに味が染みるのを待つだけだ。・・・・・・準備も早く終わらせようとするなんて、ちょっと焦ってるか、俺?

 

いや、大丈夫だ。確かに揚げ物ということで少し緊張してるけど、事前に用意するのは悪いことじゃないはず。深呼吸を繰り返してリラックスするように努めつつ、ある程度時間が経った所でコンロに火をかける。竜田揚げの場合、大体180℃まで温めるといいらしい。

 

一応料理用の温度計は用意しているので、そこは問題無いはず。それに並行して漬け込んでいたカツオを取り出し、キッチンペーパーで汁気を吸い取った。油跳ねが怖いので念入りにやっておく。その後片栗粉を表面全体にまぶしたら、揚げる準備は完了だ。

 

温度計で油の温度を確認。178℃・・・・・・まぁ、そろそろいいだろう。菜箸で片栗粉塗れのカツオをつまみ、油へと投入する。油の量はカツオの切り身全体がぎりぎり浸るくらいにしておいたが、どうやら目分量でも正しかったようだ。

 

パチパチ、ジュワジュワという音が部屋の中に響く。次々にカツオをサラダ油に入れていくと、香ばしい匂いが俺の嗅覚を刺激した。量的には二回に分けて揚げた方がいいだろう。一旦カツオの投入を止めて様子を確認する。キツネ色になったら油から上げるらしいけど、いまいち感覚が分からなかった。

 

「・・・・・・そろそろか?」

 

切り身の一つを菜箸で持ち上げてみる。うーん、見た感じは問題無さそうだ。とりあえず全部のカツオを取り出した後、一つをほぐして火の通り具合を確認する。よし、大丈夫そうだ。油の温度を見つつ、残ったカツオも投入し揚げていく。

 

実際にやってみればとんとん拍子に進み、心配とは裏腹にトラブルも無く揚げ切ってしまった。目の前にはこんもりと積み上がった竜田揚げが完成している。案外なんとかなるもんだな、うん。竜田揚げをちゃぶ台に運んだ後、油が冷める前に凝固剤を入れておく。こうすると処理が楽らしい。

 

さて、少し早いけど夕飯にしちゃうか。せっかくなら揚げたてを食べたいしな。パックのご飯を温めてお椀によそい、ちゃぶ台に座って手を合わせた。

 

「いただきます」

 

早速竜田揚げを箸でつまんで齧る。さっくりした衣とカツオの身の食べ応えのある食感、下味を付けていたお陰でご飯が進む味だ。初めてにしてはかなり良く出来ている。

 

「うん、美味い」

 

漬け汁に入れておいた生姜とニンニクの風味も良い感じ。臭み消しにもなってるんだろうか?それに、揚げ物なのにそこまで油っぽくない。これならいくらでも食べられそうだ。とはいえ流石に一食で全部平らげるのは暴食過ぎる。半分くらいは明日の朝に回そう。

 

「ごちそうさまでした。ふぅー・・・・・・」

 

手を合わせた後、残りの竜田揚げにはラップをかけておく。熱が取れたら冷蔵庫にしまおう。凝固させた油の処理や調理器具の片付けもしないと。満腹による怠惰な感情を抑え、俺はのそのそと立ち上がった。このままだとうとうとしてしまいそうだ。

 

片付けをしつつ思う。これ程の出来なら、今度何か揚げ物を作った時にお姉さんへおすそ分けしても大丈夫そうだ。思っているより俺の自炊の腕は上がっているのかもしれない。自炊を始めてからまだ一年も経ってないんだけど、継続は力なりってことなんだろうか。

 

最近はジムに行ったり、アパートの庭で野球の練習の真似事をしたりと運動量が増えてきている。それに応じて食欲も増し、自炊する量も増えがちだ。細かった手足にも少しずつ筋肉が付いてきたような気がするし、好循環な気がするな。

 

なんの因果か性別が変わる奇病に罹ってしまったけど、なんとかここまでやってこれた。それはきっと、周囲の人達に恵まれたからだろう。感慨に浸りながら凝固した油を鍋から剥がそうとすると、何故か上手くいかない。というより固まり切っていないようだ。

 

「あれ?」

 

首を捻りつつ凝固剤の説明を確認する。どうやら凝固剤を入れた後しっかりと混ぜなければいけなかったようで、そのせいで固まり方にばらつきが出てしまったらしい。明確な失敗だ。ま、まぁ、火災に繋がるようなミスじゃないし次気を付ければいいよな。うん。

 

現実はこんなもんか。全部上手くいくのは普通はあり得ない。苦笑を浮かべながら、俺は中途半端に固まった油の処理方法を考えるのだった。




竜田揚げには竜田揚げの、唐揚げには唐揚げの良さがあります。というより、油で揚げれば大体なんでも美味いのです。
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