人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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49.煮込みそうめん

「ぐおぉ・・・・・・」

 

時刻はお昼近く。窓から日差しが燦々と差し込んでいる時間帯に、俺はお腹を押さえて横になっていた。今月の生理は滅茶苦茶重い。意識が朦朧とする程だ。なんでここまで酷いのか、原因を考えることも出来ない。

 

「薬、飲まなきゃ・・・・・・」

 

朝は昨夜に作っておいたおにぎりを食べて薬を飲んだが、お昼に食べるものは準備出来ていなかった。自炊の弊害で、レトルト食品の買い置きは殆ど無い。それでも何か食べて、痛み止めを飲まないと・・・・・・。

 

「ふぅっ・・・・・・よし」

 

なんとか体を起こし、ふらつきながら立ち上がる。消化に良くて温かい何かを作ろう。ぼうっとする思考のまま台所に立ち、とりあえず鍋に水を張った。ええっと、どうしよう・・・・・・。そうだ、確かあれが残ってたはず。緩慢な動きで棚を漁り、目当てのものを見つける。

 

手にしたのはそうめんだ。これを茹でてそのまま煮込み、適当に味付けして食べよう。消化にいいしあったかいし、完璧な判断だ。流石にそうめんだけだと味気ないので、鍋を火にかけながら他に入れるものを漁る。

 

「お、これは」

 

見つけたのはパウチに入ったツナが複数。そうめんとの相性は抜群だ。よし、これにしよう。丁度お湯も沸騰し始めたので、雑にそうめんを入れて茹でていく。適当なタイミングでツナと、後は味付けに麺つゆをぶち込んだ。出来れば一度の調理で済ませたいので、量はかなり多めだ。

 

痛む下腹部と気だるい全身をなんとか動かし、菜箸で鍋の中を混ぜる。正直立っているのも億劫だ。だけど火を使ってる以上気張らなくては。前かがみのような奇妙な体勢のまま、ぐるぐるとかき混ぜ続ける。

 

そろそろ、いいかな。一旦火を止めてそうめんの様子を確認すると、いい具合に柔らかくなっていた。味付けもまぁ、食べられる程度にはちゃんとしている。もうしんどいしこれくらいでいいや。どんぶりにそうめんを盛り、のっそりとちゃぶ台に移動する。

 

「あー、しんど・・・・・・」

 

湯気を立てるどんぶりを前に座り込むが、すぐに食べる気が起きない。痛いしだるいし気分は最悪、食欲が湧かないのも当然か。でも、食べなきゃ駄目だ。栄養摂って薬を飲んで、休むのはそれからにしないと。

 

いつもとは違うような痺れ方をしている手でなんとか箸を持つ。そのままそうめんを啜ろうとして、手を合わせていないのに気付いた。

 

「いただきます」

 

これでよし。別に手を合わせなくてもどうということは無いんだけど、なんとなく合わせた方が良い気がする。改めてどんぶりに口を近付け、汁とそうめんを同時に啜った。うん、温かい。具はツナだけだし味付けも麺つゆだけ。それでも温かいだけありがたいな。

 

無心で啜り、咀嚼もそこそこに胃袋に収めていく。ボロボロの心身に温かさとしょっぱさが沁みていく感じ。それに、ほんの少しだけ下腹部の痛みも和らいだ気がする。時間の感覚が曖昧な中、なんとか食べ切ることが出来た。

 

「ごちそう、さまでした」

 

もうこのまま寝てしまいたい気分だけど、せめて薬は飲まなきゃ駄目だ。どんぶりをシンクに放置して、ちゃぶ台に出しっぱなしだった紙袋から錠剤を複数取り出す。奇病に罹った人に効きやすいらしい痛み止めを、病院から処方されているのだ。

 

水と一緒に錠剤を嚥下し、俺は今度こそ横になった。消化には悪いと思うけど知ったことか。自分で自分を抱き締めるように丸まり、ぎゅっと目を閉じる。痛み止めが効いて睡魔が来るまで、ひたすら耐え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ている。街中を歩いている夢だ。人混みの中なのに、何も苦痛に感じない。前にもこんな夢を見たような気がする。その時は、確か・・・・・・。

 

「・・・・・・あ」

 

やはりそうだ。俺の視線の先、女性らしく着飾った俺が男性と手を繋ぎながら歩いている。だが、あの時に感じたような吐き気は湧き上がってこない。所詮これは夢だ。こんなものを見せられても、俺の性自認には関係無い。無いのだ。

 

そう自分に言い聞かせても、夢は覚める気配が無い。自分と知らない男性とのデートを無理矢理見せ続けられる。吐き気はしなくても嫌な気分だ。俺のメンタルが多少マシになっているから良かったものの、悪夢には違いないだろう。

 

俺ではない俺は男性と楽しげに会話をし、ショッピングを楽しみ、映画に涙している。高級そうなレストランで食事をして、傍目に見ても男性といい雰囲気だ。勝手にやってくれ。そう思いながらも、夢特有の理不尽さで目を背けることは出来ない。

 

「はぁ・・・・・・」

 

そういえば、以前こんな夢を見た時は医者の先生に相談出来なかったな。なんというか、話そうと思っていたのに話せなかったのだ。でも、きっと今なら大丈夫のはず。次の定期検査の時に、医者の先生とカウンセラーさんに相談してみよう。そう思っていると目の前の景色が急に切り替わった。

 

大きなベッドが鎮座している部屋。照明は薄暗く、どこか不気味に感じられる。これは、もしかしてあれか。知識としては一応知っているけど、一度も訪れたことが無い場所。

 

「ラブホテル・・・・・・?」

 

流石にこれはやり過ぎだ。悪趣味過ぎるって、クソ。俺じゃない俺はバスローブを身に纏い、ベットの隅に腰を下ろしている。男性はシャワーを浴びている最中のようだ。この後何が起こるのか、経験の無い俺でも流石に理解出来る。

 

早く目が覚めてくれ。そう祈るが、中々覚醒出来ない。このままだと最悪の光景を見せられてしまう。こんな夢も俺の深層心理が影響してるっていうのか?冗談じゃないぞ、ちくしょう。

 

シャワーの音が止まった。不味い。何よりも気持ち悪いのは、目の前の俺じゃない俺は頬を赤らめ期待するような視線をバスルームの方向に向けていることだ。怖気が走る。完全に追い詰められた俺は、焦りと悍ましさのまま狂ったように叫んだ。

 

「うわああああぁぁぁっっ!!!」

 

目の前の全てが霧散し飛び起きる。慌てて周囲を確認すると、いつも通りのアパートの部屋だった。しかし、先程までの光景は脳裏にべったりと焼き付いている。久しぶりに特大の悪夢を見てしまった。

 

バクバクと跳ねる心臓に荒い呼吸、そして全身から噴き出している汗を感じながら、俺は心を落ち着かせようと努める。悪夢を見たとはいえひと眠りしたからか、生理痛自体は多少収まっているようだ。気分は最悪を通り越しているけど。

 

「あー・・・・・・クソッ」

 

思わず口から悪態が零れる。あんな光景を見せられても、そういう気分になったりはしない。逆に凄まじい嫌悪感が脳内でぐるぐると渦巻いていた。しかし、ほんの少しだけ安心もしている。俺の心はまだ男のままらしい。

 

とりあえず、シャワーを浴びよう。汗と地獄の様な気分を洗い流す為、俺はどうにか立ち上がり浴室に向かうのだった。




絶対に嫌だからこそ夢に見てしまうのって普通の現象なんですかね?
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