人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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50.ピーマンの肉詰め(前編)

もう何回目になるかも分からない実家からの仕送り。色んな野菜が送られてきたが、その中でも一番目を引いたのは子供に嫌われがちなあれだった。

 

「うぉ、つやつやしてるな」

 

ピーマン。俺は苦手じゃなかったけど、小学校の給食で出た時はクラスが阿鼻叫喚だったのを覚えている。野菜炒めの中にあるピーマンの切れ端をみんな俺に押し付けてくるのだ。当然先生は怒るんだけど、人数が多くて止めきれない。結果こんもりと山になったピーマンを食べる羽目になったこともある。懐かしい。

 

野菜は生鮮食品だし足が早い。しばらく食事は野菜祭りだな。さぁて、どう調理しようか。いつものようにスマホで適当なレシピを検索する。せっかくならがっつりピーマンを食べられるやつがいいけど・・・・・・。

 

ざっと目を通す中、気になったのはピーマンの肉詰めだ。そんなに難しい料理じゃないし食べ応えもしっかりしている。うん、いいな。材料で足りないのは・・・・・・ひき肉か。丁度いい、卵も切らしていた所だしスーパーに買いに行こう。

 

財布と買い物カゴを用意して身軽な格好で部屋を出る。もう随分と気温は高くなって、どこか初夏を感じさせる空気だ。眩しげな日差しは暖かく俺や街を照らしている。ジョギング中にかく汗も多くなってきて、予備のタオルを多めにしている程なんだよな。

 

うっすら汗を滲ませつつ、俺はいつものスーパーに到着した。買うものは決まっているのです目移りせずに歩いていく。えーっと、ひき肉ひき肉・・・・・・合い挽き肉でいいよな。割引はされてないけど特段高くもない値段のパックをカゴに入れ、次いで卵のパックを手に取った。割引されているやつはおひとり様一パック限りらしい。

 

まぁ、問題は無い。一人暮らしだし、賞味期限が切れる前に使い切るなら1パックでも十分だ。というか支援金のおかげでお金には困ってないので、お得な方を買わなくてもいいのだけど・・・・・・働いて貰ったお金じゃないので、出来るだけ節約したかった。

 

というわけで手早く買い物を済ませ、俺はアパートへの道を戻っていく。沢山買い込んだわけじゃないのでカゴも軽い。この程度なら腕が疲れない程度には、ジムや素振り等で鍛えることが出来ていた。見た目はあまり変わらず細い腕に見えるのは不思議だけど。と、

 

「っ」

 

目に入ったのは柄の悪そうな男性の二人組。周囲を憚らない笑い声を上げながら、向かい側から歩いてきている。その雰囲気はかつて俺をナンパしてきた三人組によく似ていた。胸の辺りが苦しくなり、息が上がる感覚。

 

「ふうぅ・・・・・・」

 

しかし、俺はそのまま胸を張って歩き続ける。きっと大丈夫だ。いつまでも隠れたり逃げたりするわけにはいかないんだから。緊張と恐怖で跳ねる心臓を鎮めつつ、俺は前を向き続けた。二人組の男性との距離がどんどん縮まり、すれ違おうとする。その瞬間、彼らの視線が俺に突き刺さった。

 

ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、こちらを見てくる二人組。無視して通り抜けようとした所で、彼らが話しかけてくる。

 

「ちょっと、そこの姉ちゃん」

 

身が竦み、俺は動きを止めてしまった。無遠慮に近付いてくる二人組は、まるで品定めするかのような視線を俺の全身に這わせる。あの時と同じだ。

 

「ねぇ、暇?どう、俺達と遊ばない?姉ちゃん綺麗だしさ、なんでも奢っちゃうぜ」

 

「そうそう。俺ら女の子には優しいから。どんな時でもな。ギャハハ!」

 

「っ・・・・・・いえ、遠慮します。食材が悪くなっちゃうんで」

 

なんとか言い返して痺れ始めた足を動かす。半ば駆けるようにその場を離れると、幸い二人組は追ってこなかった。それなのに視界は乱れ、呼吸は落ち着かない。へたり込みそうになる自分を叱咤して、どうにかこうにかアパートまで辿り着けた。

 

「はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

安心してしまったのか、体の力が抜けてしまう俺。アパートの塀を背にずるずると座り込んでしまう。駄目だ、立ち上がりたいけど上手く動けない。そのままぼーっと空を眺める。いい天気だなぁ。場違いな感想を覚えていると、どこかから声が聞こえた。聞き馴染みのある声だ。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

 

気が付けば隣人のお姉さんが目の前にいた。眉尻を下げて心配そうな表情を浮かべている。

 

「あ・・・・・・ええと、大丈夫です。ちょっと力が抜けちゃっただけなんで」

 

「大丈夫じゃないでしょそれ!何かあったの?」

 

「・・・・・・えっと、いや・・・・・・」

 

お姉さんの問いには答えられず、俺はゆっくりと首を振った。話したくない。弱みというか、無様を晒したくないのだ。口ごもる俺を見て何かを察したのか、お姉さんは質問を止めて肩を貸してくれた。なんとか足に力を込めて、欄干を一歩一歩上がっていく。なんか、あれだな。前とは真逆だ。

 

「すみません、迷惑かけて・・・・・・」

 

「いつもは私の方が迷惑かけてるんだから、お互い様だよ。ほら、着いた」

 

部屋の前まで辿り着き、震える手で鍵を取り出す。だけど、鍵穴に差し込むのも難しい。俺の代わりにお姉さんがやってくれて、ようやく部屋の中に入れた。情けないにも程がある。

 

「ほんと、あの、助かりました」

 

「気にしないでいいってば。それより、救急車とか呼ばなくていいの?すごく苦しそうだけど・・・・・・」

 

「あ、っと・・・・・・病気とか怪我とかじゃないんで、大丈夫です。心の問題、なので」

 

全部説明するわけにもいかず、濁しつつもお姉さんに伝えた。彼女は心配そうな様子だったが、「何かあったらすぐに呼んでね!明日の昼くらいまでは隣の部屋にいるから!」と言い残し去っていく。一人になりたい俺の気分を察してくれたのだろう。

 

「は、あぁぁぁ・・・・・・」

 

盛大に息を吐いて、俺はちゃぶ台に突っ伏する。ひき肉と卵を冷蔵庫に入れる気力も湧かない。くそぅ、最近は上手くいっていたのに。まさかまたナンパされてしまうとは。もしあの二人組がしつこく追いかけてきていたら、またしてもその場でへたり込むことになってしまったかもしれない。

 

それでも、ちゃんと進歩はしている。きちんと断って逃げることが出来たんだから。大丈夫だ、大丈夫・・・・・・。俺は自分に言い聞かせながら、暫くの間ちゃぶ台に突っ伏し続けた。




逃走成功。色々あった主人公ですが、徐々に克服してきています。まだまだ辛いのには変わりないけどな!
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