人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う 作:てぬてぬ@TSF
「ふっ、ふっ・・・・・・」
いつも通っているスポーツジムの一角。俺はフィットネスバイクを漕ぎ続けながら荒い息を吐いていた。高鳴る鼓動に流れる汗、溜まる疲労を感じるがどこか心地良くもある。やっぱり体を動かすのはいいな。悪いものが削ぎ落されてく感じがする。
「っ、はあぁ~」
体力の限界を感じ、俺はフィットネスバイクから降りた。近くに置いていたボトルを手に取り水分を補給する。一息ついてから、次から次へと流れる汗を拭き始めた。最近タオルも新調して、吸水性が高いものにしてある。肌触りも悪くない感じだ。
このジムに通い始めてからそれなりに経つけど、結構鍛えられてきたように感じる。ジョギングや素振り、壁当ても継続しているので当然と言えば当然か。筋肉痛に悩まされるのも減ったし、基礎的な筋力は付いてきたんだろうな。
と言っても、見た感じそこまで変化は無い。足は多少がっしりしてきたかもしれないが、腕は相変わらずほっそりとしている。うーん、どうなんだろう。病的な細さは無くなってる気がするけど・・・・・・。
「ま、いいか」
呟いて、俺はゆっくりと立ち上がった。下半身には乳酸がたっぷりと溜まったし、次は上半身だ。足の疲労が抜けないまま、俺は別の器具へと向かう。今日はもうちょっとだけ追い込もう。少しずつ強度を上げなきゃマンネリになるしな。
「・・・・・・腹、減った」
ジムの帰り道。俺は力の抜けた声で呻いた。トレーニングの結果は上々で、全身がしっかりと疲れ切っている。しかし、空腹がどうしても耐え難い。昼ご飯はいつもの質素な自作お弁当だった。量も多めにしたんだけど、あれでは足りなかったようだ。
駄目だ。アパートに帰るまで耐えられない。どこかの飲食店に入ろう。大丈夫だ、あれだけトレーニングしたんだから少しくらい外食してもバチは当たらない。自身の考えを正当化しながら視線を彷徨わせると、何か甘く、香ばしい匂いが漂ってきた。すぐにそちらの方を向く。
「あれって・・・・・・」
小ぢんまりとした店構え。ショーウィンドウに並んでいるのは色とりどりのパンだ。俺は引き寄せられるようにフラフラとパン屋に近付き、扉を潜り中に入った。うおぉ、美味そうな匂い。焼き立てなんだろうか?
「いらっしゃいませ」
店員さんの挨拶に会釈を返し、トングとプレートを手に取る。どのパンも美味しそうで目移りしてしまうな。ぐぅ、とお腹が鳴って空腹を訴えてくる中、どれを買うか思考を巡らせる。甘いのとしょっぱいのと、後は・・・・・・。
「ありがとうございましたー」
気付けば、俺は大量のパンが入った袋を抱えて店の外にいた。空腹のせいで衝動的に爆買いしてしまったらしい。流石に一食で食べ切れる量じゃないぞ、これ。そう思いながらもベンチを探し、腰を落ち着けると同時に袋からパンを取り出した。
「いただきます」
まず最初は揚げあんぱんだ。カロリーの暴力が具現化したような存在に、大きく口を開けてかぶりつく。かりっとした表面はじゅわりと油が滲み出し、中の生地はもっちもち。極めつけは濃厚なこしあんが襲い掛かってくる。
脳が痺れるような美味しさに、俺は手足をばたばたさせそうになるのを堪えた。ヤバい、腹減ってる時にこれはヤバい。一緒に買っておいたパックの牛乳で口内を洗い流しなつつ、かなり早いペースで食べ切ってしまった。
次に袋から取り出したのは、ウインナーをパン生地で包んである奴。俗に言うウインナーロールだ。これにも一気にかぶり付くと、ウインナーと生地の間にマヨネーズソースが注入されているようだ。さらに油の旨味、そしてウインナーの肉々しさ。さっきとは食感の違うサクサクしたパン生地とも相性抜群だ。
次。目玉焼きが乗ったベーコンエッグトーストだ。カリカリに焼き上げてあるベーコンと食パンは勿論最高だし、目玉焼きも胡椒が効いていてスパイシー&ボリューミー。玉ねぎのスライスも入っていて、甘みがいいアクセントになっている。
ガツガツと貪り、牛乳を啜る。流石に三個もパンを食べたからか落ち着いてきた。というか、完全に空腹に意識を乗っ取られてたな。いつも以上にハードなトレーニングをしたのが理由だろうけど、なんとなく野球部時代を思い出す。練習で疲れた帰り道、よくコンビニに寄って総菜パンを買い食いしていたのだ。
あの頃は常に腹が減っていた気がする。朝練の後の1、2時限目で早弁して、お昼には真っ先に購買に向かって。馬鹿みたいな量を食べていた。それに比べれば今日買ったパン達は慎ましい量・・・・・・と、言うには多過ぎるか。
袋の中にはまだまだパンが残っている。コーンマヨパンにカレーパン、アップルパイ、焼きそばパン、フランスパン・・・・・・。いや、買い過ぎだろ。全然慎ましくない。以前の俺ならこの量もぺろりだろうけど、今は流石に無理だ。残りは食べずに持って帰ろう。
ベンチから立ち上がり、疲れ切った体で帰路に着く。袋からは美味しそうな匂いが漏れており、思わず取り出しそうになるのをグッと堪えた。いけないけない、歩きながら喰うのは行儀が悪いぞ、俺。
それにしても、空腹に任せて買ったパン達はどれもこれもカロリーが高そうなものばかりだ。まぁしかし、動いた分だけ食事量が増えるのは健全である。同じような言い訳を何度も言ってるような気がするけど、別にダイエットじゃないので食べたっていいのだ。うん。
とりあえず、これだけあれば明日の昼か夜くらいまでは持つはず。帰りにスーパーへ寄ろうと思ってたけど、このままアパートに直行しよう。心地良い疲労と程良い満腹感を感じながら、俺は夕暮れの街中をゆっくり進むのだった。
総菜パン、体には良くないんでしょうけどその分うめぇんですわ。作者はカレーパンが大好きです。