人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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58.小アジの南蛮漬け(後編)

「ふわぁ・・・・・・」

 

スマホのアラーム音に起こされ、俺は意識を覚醒させた。昨日は早めに寝たはずだけどどうしても眠気は付きまとう。男だった頃はこんなこと無かったんだけどな・・・・・・。軽く頭を振りながら眠気き飛ばし、寝汗を流す為に浴室に向かった。

 

「あー・・・・・・」

 

冷水のシャワーを全身で浴びるのは気持ちがいい。一時の暑さよりはマシとはいえ、まだまだ残暑が尾を引いているのだ。最近は暑い期間がどんどん伸びてるし、四季が崩壊気味だと思う。地球温暖化がどうこうとか関係あるのかな。そんな取り留めも無いことを考えながら浴室を出て、バスタオルで水気を拭き取っていく。

 

鬱陶しくなりそうなギリギリまで伸びた髪の毛をドライヤーで乾かし、過ごしやすい部屋着に着替えた。軽くストレッチをして筋肉をほぐしつつ、スマホでスポーツ関連のニュースを確認する。ざっと目を通してから立ち上がり、台所に向かった。

 

さて。朝ご飯はお楽しみの小アジの南蛮漬けだ。すぐには食べずじっくりと漬け込んだ為、期待は大きい。寝起きだというのにうきうきしつつ、冷蔵庫に入れていたタッパーを取り出す。開けて中身を確認してみると、見た感じはそこまで変化が無いようだ。

 

南蛮漬けをお皿に盛りつけ、パックご飯をレンジで温め茶碗によそう。お腹はもうペコペコだ。しっかり運動しているから代謝がよくなっているらしく、朝はいつも空腹になってしまっている。逸る気持ちのまま、手を合わせてから箸を持った。

 

「いただきます」

 

真っ先に箸を向けたのは当然南蛮漬け。アジの身をつつくと、漬け込んだにしてはしっかりとしていて崩れたりはしない。一尾丸々つまみ、ご飯にバウンドさせてから口に運ぶ。瞬間、甘酸っぱさがぶわりと広がった。

 

「んん・・・・・・!」

 

思っている以上に食感が残っている衣にジューシーなアジの身。骨は噛み砕ける程度に柔らかくなっていて、頭ごと全部食べられそうだ。何よりも味付けがいい、これは食欲をそそる。白米をかき込みつつ、追加の南蛮漬けを箸でつまんだ。

 

ニンジンに玉ねぎ、唐辛子も良い感じ。食感と風味、辛味のおかげで甘酸っぱさ一辺倒にならない。そしてアジの身はしっかり漬け込んだだけあって濃厚だ。魚介類特有の旨味と染み込んだ漬け汁が合わさって、いくらでも食べられそうである。

 

「あむ、はふっ」

 

いや、マジで美味い。大家さんから貰ったアジが新鮮だからなのか、普段食べている魚介類より数段旨味を感じる。それに、初めての南蛮漬けにしては結構ちゃんと調理出来た自負もあった。満足感と達成感に包まれながら、俺はどんどん食べ進めていく。

 

茶碗によそった分のご飯が無くなったので追加。タッパーから更なる南蛮漬けも盛り付ける。うおぉ、止まらない。朝っぱらから暴食だ。白米をどんぶりでかっ込んでいた高校時代を思い出す。

 

「ふぅー・・・・・・」

 

たらふく食べて、ようやく食欲が落ち着いた。思った以上にタッパーの南蛮漬けが減っている。これは悪くなる前に絶対食べ切れるな。全身に栄養が行きわたるような感覚を覚えながら、俺は手を合わせた。

 

「ごちそうさまでした」

 

そうだ、こんなに美味しいしお姉さんにおすそ分けしよう。最近頻度が増えてるけど、多分嫌がられてはいないはず。問題は今部屋にいるかどうかだ。朝方に帰宅しているかどうかは分からない。一応チャイムを鳴らしてみるか・・・・・・そう思った所で俺の部屋のチャイムが鳴った。

 

ちょっと驚きながらも覗き穴を確認してみると、タイミングのいいことにお姉さんだ。が、彼女は何故か半泣きに見える。・・・・・・面倒事の予感がするぞ。

 

「おはようございます。どうしたんですか、お姉さん」

 

「おはようー・・・・・・朝早くに突然ごめんね。ちょっと、お願いがあるんだけど」

 

申し訳無さそうな表情で頭を下げるお姉さんに、俺の警戒心が反応している。いや、お姉さんが悪いってわけじゃないんだけど。

 

「と、とりあえず顔を上げてください。お願いってなんでしょう?」

 

「えっとね、大家さんからアジをいっぱい貰ったの。それで・・・・・・」

 

「あー・・・・・・」

 

そういう感じかぁ・・・・・・。どうやら大家さんはお姉さんにも大量のアジをお裾分けしていたらしい。つまりまぁ、今から頼まれることも簡単に予想出来た。

 

「お願い!いっぱいのアジを使ってお料理作ってくれないかな!?」

 

こうなるよな、うん。・・・・・・どうしよう。お姉さんの頼みを無下には出来ないし、ここはどうにかするしかないだろう。

 

「・・・・・・分かりました。とっておきのレシピがあるんで、一緒に作りましょう。色々準備するんで部屋に戻っていてください」

 

「え、あ、うん。なんか、用意がいいね?」

 

「気のせいですよ、気のせい」

 

適当にお姉さんをあしらい部屋の中に戻る。さて、もう一度南蛮漬けを作らないと。確かお姉さんの部屋にもタッパーはあったはずだし、足りなさそうな調味料だけ用意すればいいか。文字通り二度手間な気もするけどこれも巡り合わせだ。それに、お姉さんに頼られるのも悪い気分じゃない。

 

「よし」

 

予感通り面倒事だったけど、俺は普通に受け入れているみたいだ。別に嫌な感じもしないし、これも成長というかいい変化なのかもしれないな。そんなことを思いつつ、俺は調味料を買い物カゴに突っ込んでお姉さんの部屋に向かうのだった。




小アジや豆アジって堤防でサビキ釣りすると引く程釣れるんですよね。時間は深夜がおすすめです。
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