人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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6.迷走ごった煮野菜スープ

「・・・・・・うーん」

 

冷蔵庫の中身を確認した俺は、思っていた通りの状況にゆっくりと首を振った。実家から送ってくれた野菜。その大部分を消費したはいいが、どれもこれも中途半端な量が残ってしまっているのだ。

 

俺の自炊スキルはかなり低い。その為、殆どを生野菜として食べている。ジャガイモや玉ねぎは流石に生で食べられないので火を通したけど・・・・・・とにかく、鮮度が落ち切る前に食べ切ってしまいたかった。問題は、なんのレシピも思いつかないことだ。

 

「どうすっかなぁ」

 

スマホで検索していい感じの料理を探す。沢山の種類の野菜を使ったレシピは・・・・・・お、いっぱい出てきた。特に多いのは野菜スープか。いいかもしれない。とりあえず切って煮込めばそれっぽくなるだろうし。

 

しかし、ここで別の問題が浮上した。鶏がらスープの素やコンソメ顆粒、トマトジュースやケチャップなど、味付けに必要な材料が部屋に無いのである。そりゃそうだ、そもそも自炊なんて殆どしないし買い置きもしていない。最低限塩と醤油に麺つゆ、味噌とドレッシング各種はあるが・・・・・・野菜スープの味付けに合うのだろうか。

 

色々調べてみると、この辺りの調味料で作る野菜スープのレシピが複数見つかった。だけど、入れる量や種類がレシピによって全然違う。そもそも余ってる野菜を全部入れる場合ほぼ全てのレシピから外れる結果になってしまう。ど、どうしよう。

 

我流でやるしかないか。いやでも、この流れは確実に失敗する気が。うーん・・・・・・。悩みながらも、俺はとりあえず野菜を包丁で切り始めた。そのまま鍋に入れるのは絶対に違う、ということくらいは分かる。適当な大きさに切りつつ鍋に放り込んでいく。

 

あー、にんじんやジャガイモの皮どうするか。芽は食中毒を起こすから最低限取り除くとして、皮は・・・・・・面倒だからこのままでもいいか。野菜を全部切るのも結構な手間なので、出来るだけ楽をしたい。怠け者の思考だなぁ。

 

それなりの時間を掛けて、俺は全部の野菜を切り終わった。持っている中で一番大きな鍋が半分近く埋まっている。ここでようやく気付く。野菜スープを作った所で、ちゃんと食べ切れるのか?この量だぞ?男だった頃はともかく、今は絶対に無理だ。冷蔵庫で保存するにしてもこの大きさの鍋は入らないし・・・・・・。

 

タッパーに移し替えればいけるか?でもうちにはタッパーは一つしかない。食べられるだけ食べたとして、野菜スープの残りがタッパー一つに収まるだろうか。不味い、明らかな凡ミスだ。料理が出来る前からこのザマでは先が思いやられる。

 

だけど、もう野菜は切ってしまったのだ。今更引き下がれない。悪手だと分かっていても、前に進むしかないんだ。やけっぱちな気分のまま野菜の入った鍋に水を注ぐ。・・・・・・これ、水の量はどれくらいが適性なんだ?とりあえず野菜全部が浸るくらいか?いや、スープだしもっと多くても・・・・・・。

 

「ヤバい、ヤバいぞ」

 

思わず呟きが漏れる。絶対失敗するってこれ。あぁもう俺の馬鹿。もっとちゃんと調べるか、いっそいつも通り生野菜を齧っていればよかったのに。ここからリカバリー出来るか?いや、リカバリーしないといけない。実家から送ってくれた野菜を無駄にするのは絶対に駄目だ。

 

ひとまず、水は野菜が浸る程度にして鍋を火にかける。最悪、水は途中で足してもいいはず。様子を見つつ臨機応変に対応しなくては。思考がドツボに嵌まっている気がしなくもないけど、その考えを振り切って冷蔵庫を漁る。味付け、味付けに何を入れよう。

 

醤油や麺つゆなら不味くなることは無い、か?いや、一番シンプルに塩だけとか。ドレッシングは相性が悪そうだ。む、むむむむむ・・・・・・!コンソメとか鶏ガラとか、大体のレシピに書いてあった奴が無いのが痛過ぎる。

 

「むぐぐ・・・・・・って、あ!?」

 

冷蔵庫を覗いている間に鍋が吹きこぼれかけていた。そ、そんなに強火にしたつもり無いんだけど・・・・・・!?慌てて火の勢いを弱め、目減りした水を追加する。落ち着け、まだ大丈夫だ。鍋の中身をおたまでかき混ぜながら、汗が垂れないように額を拭う。あっヤバい冷蔵庫開けたままだった。

 

てんやわんやになりつつ、俺は塩をスープに投入する。一番不味くならなそうだったからだ。適量が分からないので、都度味見しながら少しずつ入れる。・・・・・・駄目だ、塩だけだと旨み的なあれが感じられない。野菜の風味が強いからか?

 

思い切ってかつお出汁の麺つゆも投入。旨みを補えればいいんだけど・・・・・・。おたまから小皿に移し、息を吹きかけ冷ました後啜ってみる。頼む、上手くいってくれ・・・・・・!

 

「ん、んんー?」

 

不味くはない。さっきの塩だけよりはよっぽどいい感じだ。後はそうだ、胡椒とか振っておけばスープっぽくなるかもしれない。ペッパーミルを回して黒胡椒をふりかけ、弱火にして鍋に蓋をする。い、いけたか・・・・・・?

 

「ふぅー・・・・・・」

 

暑い息をゆっくりと吐く。とりあえずは一段落だ。後はじっくりと煮込めば大丈夫だろう。最後に麺つゆや塩で味を整えれば完成、のはず。滝のように汗が流れているのは、決してコンロの熱気のせいだけでは無い。見切り発車で料理するのは金輪際やめよう。そう心に誓った俺は、コトコトと音を立てる鍋を疲れ切った表情で眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿野郎・・・・・・!」

 

やってしまった。煮込む時間を見誤った結果、鍋の中は凄いことになっている。殆どの野菜が煮崩れし原形を留めておらず、ドロドロの液状に成り果てていた。匂いは悪くないんだけど見た目がヤバい。端的に言って、その、ゲロみたいな感じ。食欲をそそるどころか減退させてしまう有様だ。

 

「・・・・・・い、いや。大丈夫なはず。口に入れちゃえば問題無いって、うん」

 

自分に言い聞かせ、お椀にスープを盛る。うーん、ドロッドロだ。スープというより、シェイクやゼリーの方が近いかもしれない。だが、これは俺が産み出してしまったものだ。責任を持って食べないと。食事に似合わない悲壮な決意を抱き、俺は目の前のスープと向き合う。スプーンを手に取り、ドロリと濃厚なそれを掬った。

 

「い、いただきます」

 

意を決してスプーンを口に突っ込む。ゼリー状に近いスープを味わうと、やはり味は不味くない。美味しいとも言い難いけど。そして、溶け切っていない野菜の食感が舌をざらりと刺激した。具材というよりも不純物のように感じてしまう。本能的に飲み下すのを拒否したくなるが、どうにか気持ちを押し殺し嚥下した。

 

「んん、ごくっ」

 

・・・・・・。うん。胃に入れば同じだ。スプーンを動かしどんどん食べ進めていく。食パンを浸せばもっと食べやすくなるかと思ってけど、嫌な予感がしたのでやめておいた。代わりに追加で黒胡椒をふりかけ、食感の嫌悪感を誤魔化そうとする。

 

いや、本当に味は悪くないんだ。滋味にあふれるというのか、色々の野菜の味が混ざり合っていて健康的に感じる。それに、スープと言ってもこの質量。腹持ちもいいに違いない。

 

「・・・・・・ふー・・・・・・」

 

半分程飲み干した辺りでスプーンを置き、大きく伸びをする。どろりとした食感にも多少は慣れてきた。次の問題は、圧倒的な量。どうして俺は残った野菜を纏めて調理してしまおうと考えたのだろう。どんな時でも、後悔は先に立たないようだ。

 

残りのスープを腹に詰め込んだ後、俺はお椀を洗いつつ鍋にチラリと目をやった。タッパーには入り切りそうに無い。夕飯にも食べるとして、他の深皿とかにも移せばギリギリいけるか・・・・・・?上手くやれば冷蔵庫にも入り切るはずだ。きっといける。信じよう。

 

自分に言い聞かせつつも、俺は一旦寝転ぶ。食べてからすぐ横になるのはよくないけど、アパート暮らしを始めてからは度々やってしまっていた。ひと眠りすればスープの熱も冷めるだろう。それまでに、精神的な疲れを少しでも取らないと。

 

ぐったりと横になったまま、口の中に残っていた野菜の皮を舌で舐め取り飲み込む。ちゃんと皮剥きもするべきだった。女性の服を着る判断と同じで、考え無しに何かをしようとすると痛い目を見るんだな。散々分かっていたことを、俺は繰り返しているようだ。

 

まぁ、いい。医者の先生からは窘められつつも褒めてくれたし、野菜だって食べられる程度には調理出来たんだ。良かったことだけ考えよう。後ろ向きになっても何も変わらないんだから。見慣れた天井をぼんやりと眺めながら、俺は溜め息を吐いた。今度はちゃんと全部用意した上で料理しよう。そう心に決めながら。




住んでる場所が全焼したりしないのなら料理の失敗はいくらでもするべきだと思います。
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