人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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62.唐揚げ定食

「おー・・・・・・」

 

電車を乗り継いで相応の時間をかけつつ、俺はバッティングセンターへと辿り着いた。思っているより大きい。この体になる前は何度も通っていた実家近くのものと比べて、1.5倍くらいの広さがあるように見える。

 

バットケースを肩にかけたまま入り口に向かうと、美味しそうな匂いが俺の鼻まで届いた。バッティングセンターにはそぐわないような匂いは、駐車場の方から漂ってきているらしい。屋台でも出てるのか・・・・・・?バッティングセンターに入る前に見に行ってみるか。

 

「え、マジ?」

 

匂いの漂ってくる場所を確認した俺は思わず呟いてしまった。屋台ではなく、きちんとした店舗がバッティングセンターに併設されている。のぼりや看板を見るに揚げ物屋のようだ。なんでバッティングセンターに併設されてるのかは分からないけど、既に何人かがテラス席で飲み食いしてる。

 

・・・・・・。反射的に溢れる涎を飲み込み、俺はバッティングセンターの入り口に向けて踵を返した。帰りに寄ろう。うん、そうしよう。誘惑を振り切って建物の中に入ると、清潔感のある店内が出迎えてくれた。受付は無い代わりに、料金表が提示されている。

 

1ゲームは21球。購入機でメダルを買って、それを打席近くの機械に投入するパターンのやつだ。肝心の料金だけど、建物の大きさにしては安めに思えた。4ゲームセットだとさらに割安でお得。折角だから4ゲームセットにしようかな。

 

バットの貸し出しもやっているけど、俺には自前で持ってきたやつがある。4ゲーム用のメダルを購入した俺は、早速打席の方に向かう。ネットで囲まれている中にはピッチングマシーンがずらりと並び、それなりに人が入っているようだ。

 

時折響く快音を聞きつつ空いている打席に立つ。球速はどうしようかな・・・・・・80kmから150kmまで選べるけど、今の自分がどこまでやれるか把握出来ていない。とりあえず最初は80kmにしとこう。

 

メダルを投入して設定を決め、俺は打席に立ってバットを構えた。これだけでもう懐かしい。細く息を吐きながら正面を見据える。プロジェクターのような画面にピッチャーの投球モーションが映り、白球が放たれた。

 

「っ!」

 

ギィンッ

 

衝撃が両腕に走る。芯が外れたスイングは、ボールをファースト方面に転がしていた。この感じはファーストゴロで1アウトって所か。しかし、まさか一球目で当てることが出来るなんて。スローボールとはいえ嬉しいな。

 

二球目はタイミングが早くて恐らくファール。三球目はセンターへのフライ気味。だけど空振りだけはしていない。思っている以上に投球を目で追えている。勿論、非力さも味わっているけど。打球が中々伸びないのは、以前に比べて筋力が落ちているからだろう。

 

1ゲーム21球が終わり、俺は呼吸を整えながら一旦打席から出た。ベンチに腰を下ろし手首をほぐす。結局、ヒットと言えるのは3球くらい。これでも十分な結果だ。

 

「ふぅー・・・・・・」

 

両腕に残る痺れに、どうしても昔を思い出してしまう。後悔や絶望を伴っていない純粋な追憶。よく部活のメンバーとバッティングセンターに通って、ホームランを先に出したらジュースを奢ってもらえるとかやってたっけ。うん。懐かしいな、本当に。

 

よし、折角だし今日もホームランを狙ってみよう。斜め上の遠くに見えるネットに、丸い的があり、あそこに当たるとホームラン判定になる。店にもよるだろうけど、このバッティングセンターではホームラン賞としてメダルが三枚貰えるようだ。

 

徐々にマシーンの球速を上げつつ、俺は一心にバットを振る。蓄積する疲労と流れる汗が妙に心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

くたくたになってバッティングセンターを出る頃には、外は既に夕焼けに染まっていた。休憩を挟みつつ長居したので相当な時間が経っていたみたいだ。自販機はあったから喉は乾いてないけど、お腹はペコペコ。そんな俺の元に、揚げ物の何とも言えない美味しそうな匂いが漂ってくる。

 

フラフラと揚げ物屋に近付く。クソ、いい商売してるな。立地条件が完璧過ぎる。店内に入ると予想通り混んでいて、俺はカウンター席の隅に案内された。キッチン側から聞こえるジュワジュワという油の音に空腹を加速させつつ、メニュー表に目を通す。

 

唐揚げ、串カツ、コロッケにチーズフライ。野菜系の揚げ物も豊富だ。天ぷらなんかもある。揚げ物ばかりがずらりと並ぶメニューは圧巻だ。絶対に油分を摂らせるという意志に満ちている。

 

「うーん」

 

どれもこれも魅力的だけど、あえて選ぶなら・・・・・・悩みに悩んだ結果、俺は唐揚げ定食を頼むことにした。六つの唐揚げに千切りキャベツ、大盛のご飯に味噌汁とポテトサラダがついたボリュームたっぷりのセットだ。

 

「すいませーん」

 

「はーい!少々お持ちください!」

 

忙しそうにしている店員を呼ぶ。店柄か、随分威勢がいい。前だったらビビッて縮こまってしまったかもしれない程だ。今の俺でも多少気圧されたけど、空腹が勝っていたので注文は問題無く出来た。お冷やを舐めながら出来上がりを待つ。汗のべたつきが少しだけ気になるな。

 

「唐揚げ定食お待たせしましたー!」

 

大した時間も経たずに定食が運ばれてきた。揚げ物なのに結構早い。目の前に置かれたのはメニュー表にあった写真通りのものだ。早速俺は箸を持ち手を合わせた。

 

「いただきます」

 

まずは唐揚げ。レモンやマヨはかけずにそのままかぶりついた。サクサクの衣の中から肉汁が溢れ、ぷりぷりの鶏肉が姿を現す。美味い。食べ応え抜群だ。下味が濃過ぎないおかげか、揚げ物なのにそこまでしつこくない。

 

次はマヨネーズとレモンを垂らして一口。あぁ、やっぱりこの組み合わせは最高だ。揚げ物なのにさっぱりしてる。こんなのいくらでも食べられるって。白米をかき込み、味噌汁にも口を付けた。具は豆腐とわかめ。この組み合わせも俺好みである。

 

店がバッティングセンターに併設されているからか、定食全体の量はかなりのものだ。が、空腹状態の俺からすればなんの問題も無い。ガツガツと、品が無いと思われても仕方ない勢いで食べ進めていく。あぁ、ポテトサラダも美味い。具材はじゃがいもと輪切りのきゅうりだけのシンプルさがまた唐揚げにも合っていた。

 

唐揚げ、ご飯、味噌汁。たまに千切りキャベツとポテトサラダ。このループが止まらない。運動後の飯ってなんでこんなに美味しんだろう。疲れた体に栄養が沁み込み、細胞が喜んでいるみたいだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

米粒一つ残さず平らげて手を合わせる。あぁ、美味しかった。しばらく余韻に浸った後、料金を支払って外に出る。絶対また来よう。バッティングセンターにも、この店にも。結局ホームランは打てなかったし、頼みたいメニューが沢山ある。最高の気分になりながら、俺は駅へと歩き出した。




揚げたての唐揚げにレモン果汁とマヨネーズ。これが揚げ物界の諸兵科連合です。
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