人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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67.秋刀魚の梅煮

近所のスーパーに訪れた俺は、鮮魚コーナーの一角で足を止めた。先日まで結構な値段だった秋刀魚がいい具合に値引きされている。そろそろ旬が過ぎるからだろうか?少し気になりつつ細かく確認してみると、秋刀魚の身は太くたっぷり脂が乗ってそうに見える。美味しそうだ。

 

「うーん」

 

丁度いいから夕飯の食材にしようかな。支援金のおかげでお金には困っていないけど、自堕落にならない為に過度の贅沢は避けてきた。でも、この秋刀魚は値引きされてるし大丈夫だろう。

 

・・・・・・なんというか、最近自制心がガバガバな気がする。いや、実際これくらいじゃ贅沢じゃないはず。いやいや、問題は働いてもいないのにお金を使ってる現状であって・・・・・・。ぐるぐるし始めた思考を強引に打ち切り、俺は秋刀魚を何尾かカゴに突っ込む。今更考えても仕方ないことだし、どうせならこの秋刀魚をどう食べるか考えた方が建設的だ。

 

秋刀魚、秋刀魚かぁ。定番なのは塩焼きだけど、もうちょっと難しい調理法も試してみたい。スーパーの一角でスマホを操作し秋刀魚料理を調べる。えーっと・・・・・・お、これとかいいかもしれない。定期的に実家から送ってもらっている梅干しも活用出来そうだ。

 

そうと決まればアパートに帰って作ってみよう。幸い、食材は秋刀魚以外買い足す必要は無い。俺は手早く会計を済ませ、秋刀魚の鮮度が落ちないようにアパートまで急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、やるか」

 

帰宅して手荒いうがいを済ませ、すぐに台所に立つ。今回作ろうと思っているのは秋刀魚の梅煮だ。煮込む時間が長くなりそうなので、早めに調理を始めないと。早速まな板の上に秋刀魚を置き、頭の根本辺りに切り込みを入れた。大体身の半分くらいまで。そして、頭を慎重に引っ張れば・・・・・・。

 

「おー、上手くいったな」

 

頭が取れると同時、秋刀魚の内臓がずるりと引っ張り出される。わざわざ三枚に下ろさなくていいこのやり方は、ネットで発見したものだ。いやぁ、便利な世の中だよな。残りの秋刀魚も同じように処理し、さっと水洗いする。脂が落ちないように出来るだけ手早く洗うのがポイントだ。

 

尻尾の部分を切り落とし、身の部分は四等分に切って下ごしらえは完了。骨ごと煮込むつもりだから背骨を取る必要も無い。キッチンペーパーで身の水気を取りつつ、次は煮汁の準備をしないと。

 

鉄鍋を取り出し、料理酒に砂糖、醤油、みりんに穀物酢、最後に水を分量通りに入れる。そこに薄切りの生姜、実家の梅干しをたっぷりと投入。強火で煮立たせた。あー、いい匂いだ。この煮汁だけでご飯が食べられそう。

 

ある程度煮立ったらブツ切りの秋刀魚を入れていく。秋刀魚の身同士が重なり合わないよう、出来るだけ満遍なく。火を中火に下げ、再び煮立つまで灰汁を取りつつ待った。煮立った所で弱火にして、キッチンペーパーで落とし蓋をする。

 

「おっけー。えーっと、タイマーを・・・・・・」

 

ここから大体一時間、じっくりと煮詰める工程だ。時折確認しつつ、水分が飛び過ぎていたら水を追加するのを忘れないようにしないと。スマホのタイマーをセットし、俺は一旦台所から離れた。一時間立ちっぱなしで鉄鍋を見つめ続けるのは、無理とは言わないがやめておこう。

 

明日図書館に返却する予定の小説を読みつつ、十数分毎に鉄鍋の様子を確認する。今読んでいるのは西部開拓時代を舞台にしたやつで、いわゆるウエスタンとか西部劇とか呼ばれているジャンルだ。

 

さすらいのガンマンが仇敵に襲われ重傷を負い、死にかけていた所をキャラバンに拾われる。ガンマンは恩義を返す為、キャラバンの用心棒として雇われるが・・・・・・といった内容である。言ってしまえばよくある話なんだけど、心情描写が丁寧なのと西部開拓時代の暮らしをしっかりと書いてくれているので俺は気に入っていた。

 

小説を楽しみながらも鍋を確認するのは忘れない。二回水を追加した辺りでタイマーが鳴ったので、キッチンペーパーを取り除いて中の様子を見てみた。うん、いい感じ。煮汁が沁み込んで秋刀魚の色が変わっている。骨ごと食べられそうだ。

 

最後に中火でもう少しだけ煮詰め、秋刀魚の梅煮の完成。じっくりと煮込んだから丁度そろそろ夕飯の時間だ。早速今夜食べる分をお皿に盛りつけ、レンジでパックご飯を温める。汁物は・・・・・・今日はいいや。ご飯を茶碗によそい、ちゃぶ台の前に座り手を合わせる。

 

「いただきます」

 

ブツ切りの秋刀魚を箸でつまみ、丸ごと口に放り込んだ。生姜の風味に強めの酸味、そして甘じょっぱさが噛む度に染み出してくる。骨も柔らかくなっていて、簡単に噛み砕けた。白米に滅茶苦茶合う味だ。

 

「うっまい・・・・・・!」

 

実家の梅干しを使ったからか味付けが濃く、白米をかき込む手が止まらない。いや、本当に美味しいぞ。骨ごと食べられるかちょっと不安だったけど、自炊でここまで出来るなんて。大成功だ。

 

薄切りの生姜もまた美味しい。そして梅干しは果肉が蕩けて、塩気が抜けたからか優しい味わいになっている。

 

これは、アレをしてしまおうか。ご飯の上に生姜と梅干し、身をやや崩した秋刀魚を乗せて、そこに煮汁をかける。白米に煮汁と具材を絡ませて、一気にかき込んだ。あー、たまらない。最高だ。こういう食べ方が一番美味しく感じてしまう。品が無いのは分かってるけど、どうにもやめられない。

 

「ごちそうさまでした」

 

米を一粒残さず平らげて、俺は手を合わせた。梅煮はまだ結構な量が残ってるしそれなりに保存が利く。熱が取れたらタッパーに移し替え、冷蔵庫に入れておこう。いやぁ、それにしても美味しかった。大満足である。

 

食器を片付け、一息ついた俺はぐっと背筋を伸ばした。秋刀魚を買ったのは正解だったな。やっぱりそれなりの値段するだけはある。さて、シャワーを浴びる前に小説をもう少し読み進めよう。一応既に一回読み終わってるんだけど、明日返却する予定なので名残惜しいのだ。

 

満腹感と幸福感の余韻を味わいつつ、俺は小説のページをめくり始める。俺には過ぎた幸せを噛み締めながら。




秋刀魚のワタで天狗舞を飲みたいです。
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