人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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69.焼き鳥(中編)

「いやぁ、まさか君と相席になるとはなぁ。世間は狭い、つっても病院近くの店だし当然か」

 

「おい、失礼だぞ。すみません、騒々しくて。嫌だったらすぐに立ち去りますから」

 

「い、いえ。全然大丈夫です」

 

テーブルの対面に座る二人は親しげに言い合っている。俺と話してる時と同じような振る舞いのカウンセラーさんに対して、医者の先生は随分砕けた雰囲気だ。これが彼の素なんだろうか。

 

「よし、それじゃあ失礼ついでに奢るよ。好きなもの頼んでいいぜ?」

 

「いいんですか?でも・・・・・・」

 

「大丈夫大丈夫、変に気遣わなくても!こう見えても高給取りなんだぜ、俺は」

 

にっこりと笑うカウンセラーさんに、その様子を見て溜め息を吐く先生。うん、この二人絶対に仲いいな。カウンセリングの時に感じたことは正しかったみたいだ。

 

「はぁ・・・・・・まぁ、折角です。最近は食欲旺盛らしいですし、沢山食べてくださいね。こいつの言うことじゃありませんが、君が好き勝手食べても問題くらいには稼いでいますから」

 

「は、はい。えっと、それじゃあ」

 

二人にメニュー表を勧められ、俺はおずおずと目を通した。さっきもメニューの確認はしたんだけどな・・・・・・。とりあえず、促されるがままに色々と注文する。ちょっとだけ居心地が悪い。だけど、折角の厚意だ。ありがたく受け取るとしよう。

 

「そういえば、お二人はお酒を飲むんですね。俺は経験無いんですけど、どんな味なんですか?」

 

俺も含めて注文を終わらせた後、ふと気になって訊ねてみる。医者の先生は日本酒の冷や、カウンセラーさんはビールを頼んでいたからだ。慣れた様子を見るに普段から飲んでいるんだろう。

 

「んー、まぁ、味はお酒の種類によるかな。ビールはホップの苦みや風味、後は炭酸の喉ごしがーとか言うけど・・・・・・最初に飲んだ時は炭酸ジュースの方が美味しいって思ってたくらいだ。まぁ、慣れると美味しいと感じるようになるのかもね」

 

「日本酒もフルーティーで飲みやすかったりしますが、苦手な人は口に含むだけでキツいような銘柄もありますね。お酒に共通しているのは、味というよりもアルコールです。様々な味のお酒を、つまみと共に酩酊感を味わう。私としては、お酒はそういうものだと思っています」

 

「へぇ~・・・・・・」

 

知らない世界の話に興味津々で耳を傾ける。なんというか、普通に聞いていて楽しい。俺にとってお酒は未知の飲み物だし、今まで知識を深める機会は無かった。こうして二人と相席したのも何かの縁だ。存分に教えてもらおう。

 

「そう複雑な話でもないさ。好きに呑んで好きに酔っ払う。美味い飯と一緒に美味い酒を呑む。そんなもんだよ」

 

「流石に簡略化し過ぎな気もするが。それに、飲み過ぎには注意しないとな。人様に迷惑をかけるような飲み方は言語道断ですから。もし君もお酒を飲む時があったら気を付けてください。経験が浅ければ浅い程、自分の体の限界は分からないので」

 

「そうですね、気を付けます。まぁ、今の所お酒を飲む気は無いんですけど。仕事もしてないのにお酒にハマっちゃったら、それこそまともな生き方が出来なくなりそうですし」

 

「んー・・・・・・君は自制の利く性格だから、そうなる可能性は低いと思うけど・・・・・・ま、無理に呑めなんて言わないよ。アルハラって最近問題になってるからさ。っと」

 

三人で話していると、早速注文した飲み物が届き始めた。二人のお酒に、俺が頼んだジンジャーエール。後はお通し?のわかめと油揚げの和え物が小皿で。ぬたという料理らしい。

 

「それじゃ、ひとまず乾杯しようか。ここで出会った奇縁を祝して、かんぱーい!」

 

「乾杯」

 

「か、かんぱい」

 

ちょこんとグラスをぶつけ合わせ、俺はジンジャーエールを飲み下す。しゅわしゅわしながらすっきりした甘さに、生姜の風味が鼻を抜けて爽快感がある。ふと見れば、カウンセラーさんはジョッキの半分以上を一気飲みしているようだ。医者の先生も日本酒の入ったグラスを空にしている。す、凄い飲むな。

 

ぬたを食べながら、取り留めも無い話をして他の料理を待つ。ぬたは酢味噌の和え物の総称らしく、酸っぱいながら優しい味わいが特徴的だ。油揚げのおかげでジューシー感も出ていた。

 

「結構美味しいですね、これ。今度自分でも作ってみようかな」

 

「それは素晴らしい。酢味噌で和えるだけですし、具材のバリエーションもある。自分好みのぬたを作れそうですね」

 

「市販の酢味噌を買ったら、俺達でも作れそうだよな。あぁいや駄目か、食材切るのに包丁使うから無理だ」

 

「スーパーとかコンビニとかだと最初からカットされてるのも売られたりしてるんで、包丁が無くても作れるかもしれません。俺も自炊する前はカット野菜とか食べてましたし」

 

そうこう話している内に、どんどん料理が運ばれてきた。追加のお酒も。テーブルにずらりと並んだ様はちょっと壮観だ。どれから手を付けようか迷ってしまう。とりあえず焼き鳥の一本を選び、口に運んでみる。

 

「んむ、んぐ。あ、美味しい」

 

ぷりっとしたもも肉の食感にタレが絡み、溢れる肉汁と混ざって滅茶苦茶美味しい。味が濃いからご飯や飲み物が進む味だ。

 

「でしょう?ここの焼き鳥はどれも美味しいですから」

 

「そうそう。この辺りの行きつけの中では、焼き鳥に限れば一番だな。あーむっ」

 

カウンセラーさんが食べているのはつくねだろうか。丸い肉塊が串に刺さっている。これにもたれがたっぷりと絡んでいて、見ているだけで涎が出てきそうだ。しかし、美味しそうに食べるなカウンセラーさん。

 

「はい、凄く美味しいです。コンビニの焼き鳥とかとは別物ですね」

 

「あれはあれで美味しいけど、確かに別の料理みたいなもんか。肉が新鮮なのかね?」

 

「他の患者さんに聞いたことがありますけど、この店は食材の仕入れ先を厳選してるんだとか。その上でコストを抑えて低価格で提供・・・・・・頭が下がる企業努力です」

 

「小難しい話だなぁ。でも、そのおかげでこうして美味しいもん食えてるってのはありがたい。うんうん」

 

カウンセラーさんはいつも通りだけど、医者の先生はいつもより少し饒舌に見える。頬もやや赤らんでいてとても気分が良さそうだ。お酒、好きなんだろうな。そんなことを思いつつ鳥皮串を口にする俺。うん、これも美味しい。パリッとしてて脂が沁み出て、塩が程良く利いている。

 

なんだろう、正直楽しい。他の人とご飯を食べるのなんて、大家さんやお姉さんとするくらいだったから新鮮だ。全然緊張もしていないし、相席してよかった。俺は自然と微笑みながら次の串に手を伸ばす。賑やかな夕飯は始まったばかりだ。




飲み屋でくだを巻きながら一緒にだらだら過ごしてくれる友人(TS済み)が欲しい人生だった。
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