人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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71.長芋のとろろご飯

「うわ、凄い立派だなこれ」

 

定期的に配達されてくる実家からの仕送り。その中に見慣れない食材を見つけた俺は、思わず声を漏らした。太くて長い、立派な長芋だ。うちでは栽培していないはずなので、多分ご近所か親戚に貰ったんだろう。

 

長芋と言えばとろろかな。いや、輪切りにして焼くステーキ風の調理もいいかもしれない。うーん、悩む。他の仕送りを冷蔵庫や棚にしまいつつ、どう食べるかを思案する。よし、ここは王道のとろろご飯にしよう。

 

「あ、いや、すり鉢あったっけ?」

 

そう決めたはいいものの、確かとろろはすり鉢ですらないといけないはず。実家にはすり鉢はあったけどこの部屋には無い。・・・・・・買いにいくか?いや、そもそもすり鉢なんて滅多な料理じゃ使わないぞ。無駄な買い物になるんじゃ・・・・・・。

 

いやでも、鉄鍋を買った時もそう思ったけど、今では結構使っている。色んな料理をするなら無駄にはならないはず。いやいや、鉄鍋とすり鉢じゃ汎用性が全然違う。むむむ・・・・・・。無駄な出費は出来るだけ避けたいけど、どうするべきか。

 

「・・・・・・よし」

 

思案に暮れた俺は、一旦長芋を新聞紙に包みつつ覚悟を決めた。買っちゃおう、すり鉢。自炊の幅も広がるし、俺が無駄にしなければいいんだ。考えを正当化しながらスマホを起動し、通販のサイトを開く。どこで売っているか分かり辛いものは、ネットで注文するのが手っ取り早い。

 

大きめのすり鉢を探し注文する。2、3日後には届くようだ。ふふ、楽しみだな。俺はうきうきしながら、新聞紙に包んだ長芋を日の当たらないスペースに保管するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

数日後。庭での素振りを終えたタイミングで、念願のすり鉢がアパートに届いた。逸る気持ちを抑えてシャワーを浴び、手早く着替えて段ボールを開封する。

 

「おぉー・・・・・・」

 

想像していたよりも大きい。まぁ、長芋用と考えたらこれくらいの方が良さそうではあるか。鉢の内側には、紋様にも見える溝が幾重にも彫られている。しっかりとすり下ろせそうだ。セットで付いてきたすりこぎ棒は、今の俺でも扱えそうなくらいの大きさだった。

 

軽く水洗いをして水気を拭き取った後、早速新聞紙で包んだ長芋を取り出す。こちらも土を落とすように洗った後、皮をピーラーで剥いていった。少しだけ皮を残すのは、すりおろす時の持ち手部分として掴む為だ。

 

「よーし」

 

気合いを入れて、長芋をすり鉢へとあてがう。そのままごりごりとすり下ろしていった。あー、なんか気持ちいい。どんどん削れていく長芋と、手に伝わってくる振動は心地の良さを感じるな。鍛えてるおかげか腕も大して疲れず、多少の時間をかけつつもすり終わった。

 

次は味付けだ。三倍濃縮のかつおの麺つゆと溶き卵を投入。すりこぎ棒でムラがなくなるまで混ぜていく。濃縮のものを使っているのは、水気が多過ぎるとせっかくのとろみが薄まってしまうからだ。まぁ、この辺りは好みだな。

 

じっくりと混ぜていき、なめらかになっていくとろろ。ここで隠し味として味噌をほんの少しだけ入れる。こうすると味わいが奥深くなると、過去に母が言っていた。更に混ぜ続け、味見をして都度麺つゆを追加。長芋のとろろの完成だ。

 

こうして作ってみると比較的単純な料理ではある。火も使わないし、調理器具が少し特殊なだけ。というかあれだ、生で食べられる芋類って珍しい気がする。他にもあるんだろうか。そんなことを考えつつパック飯を温め、大きめのどんぶりによそう。すり鉢を運んでおいたちゃぶ台まで向かい、腰を下ろして手を合わせた。

 

「いただきます」

 

おたまですくったとろろをご飯の上にたっぷりとかけ、更に青のりを振りかける。箸で軽く混ぜた後口に運んだ。とろっとした口当たりに温めたご飯がよく合っている。長芋本来の味に量を調節した調味料が組み合わさり、意外に複雑な味わいが口の中に広がった。うん、美味しい。

 

青のりの風味もぴったりだ。子供の頃はこの独特な風味が苦手だったんだけど、今はとても美味しく感じられる。我慢出来なくなって、どんぶりに口を付け一気にかき込んだ。とろろを啜ると下品な音出てしまうが、一人暮らしだし問題は無い。

 

とろろをどんぶりに足し、今度は米としっかり混ぜる。こうすることで食感や味わいがちょっと変化するのだ。両方が混ざることで、よりなめらかな感じが強くなる。例によってかき込んで食べると最高に美味しい。

 

米粒一つ残さず平らげて、最後にとろろだけを味わう。ご飯と混ざっていないそれは濃厚で、自然と笑みが漏れてしまった。この食べ方は実家でよくしていたけど、やっぱりいいな。長芋のとろろを余さず味わえているみたいで、性に合っている。

 

「ごちそうさまでした」

 

手を合わせ、ゆっくりと息を吐いた。食べ過ぎたみたいで少しだけ苦しい。炭水化物と炭水化物の組み合わせだから、がっつり腹に溜まっている。食器を洗い片付けつつ、俺は膨れたお腹を撫でた。明日はジムに行く日だし、しっかり栄養を消費しないと。

 

すり鉢も丁寧に洗い、台所の収納棚に入れる。手狭なスペースだがまだまだ余裕がありそうだ。どうしても気が引けてしまい調理器具とかを買い足していないからなんだけど、この調子だと収納棚が埋まる時は来ないだろう。

 

すり鉢はいい買い物だった。今後も自炊に活かしていきたいけど、それはそれとして際限無く物を買うのは絶対に駄目だ。確かに、俺一人が好き勝手散財しても問題無いくらいには支援金を貰っている。だからこそ堕落はしたくない。そこは、アパートに越してきてから今に至るまで変わらない線引きだ。

 

・・・・・・とはいえ、今回みたいにたまに買うのは許してもいいよな。日頃から厳しく節制出来るような性格でもない。そもそも食費だって最近上がり気味だし。堕落したり怠惰に染まったりしなければ、いいとしよう。

 

戒めと言い訳を繰り返しつつ、俺は明日のジム用にタオルやスポーツウェアをバッグに詰める。そうだ、明日は早めに起きて弁当を作らないといけない。残ったとろろをタッパーに詰めればいいかな。手を動かしつつ、俺は弁当のメニューを考え始めた。




とろろご飯は炭水化物&炭水化物なんですけど、一つの料理として定着してるんですよね。少なくとも食べる時にほんのり罪悪感を感じたりはしません。
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