人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う   作:てぬてぬ@TSF

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73.クリスマスケーキとローストビーフ(前編)

「えーっと・・・・・・」

 

先日隣人のお姉さんから教えてもらった住所を頼りに、俺はケーキ屋を探していた。アップルパイモンブランだったっけ?1ホールを半分こしたあのケーキは美味しかった。だから、クリスマス用のケーキを買いに来たんだけど・・・・・・。

 

「あれー、この辺だよな。こっちか?」

 

普段足を運ばない場所だったので迷ってしまっている。うーん、周囲にそれっぽい店は無いし・・・・・・。もしかして、路地を一つ間違えてるのか?そう思って別の路地に移ると、あっさりとケーキ屋が見つかった。地図の見方を間違えていたらしい。

 

落ち着いた店構えのケーキ屋は、やはりというか混雑していた。黒を基調とした色合いでどことなく瀟洒さを感じさせる。列の最後尾に移動した俺は、防寒具を着込んでいる体を震わせながら順番を待った。随分繁盛してるんだな。まぁ、時期的にも当然か。

 

何せ今日はクリスマスイブだ。ケーキ屋が混むのは当然である。ただ、ここは都心からは外れているし、飲食系の店をやるには適していない場所なはず。それなのにここまで混んでいるのは、やっぱり販売しているケーキが美味しいからなんだろう。

 

買うケーキはもう決めていた。一番スタンダードないちごのショートケーキと、お姉さんから一押しされたブルーベリータルト。流石に1ホールじゃなくて1ピースずつ買おうと思っている。一般的にはケーキを2ピース食べるのも多い気がするけど、まぁクリスマスだからな。うん。

 

そんな感じで待っていると、思ったよりも早く店内に入ることが出来た。ショーケースには色とりどりのケーキが並び、見ているだけでも華やかだ。とはいえ買うケーキは決まっている。並んでいる客もまだ多いし、さっさと購入して退店しよう。そう思っていたのだが、

 

「すみません、ショートケーキとブルーベリータルト、1ピースずつお願いします」

 

「ごめんなさい、ショートケーキは先ほど売り切れてしまって・・・・・・」

 

いきなり予定が狂ってしまった。店員さんの話によると、再度ショートケーキが店頭に並ぶのは二時間程かかるらしい。整理券を貰えば優先して購入出来るけど、俺には帰ってからやることがある。しょうがない、別のケーキにしよう。

 

「え、っと・・・・・・じゃあ、タルトの代わりにレアチーズケーキでお願いします」

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

混んでるし時間をかけたくないので、真っ先に目に入ったレアチーズケーキにした。程無くしてケーキ入りの紙箱を渡され、料金を払って店の外に出る。ちょっとだけ疲れたな。店内はかなりの人混み密度だったし、流石にあそこまで他人が近いと緊張してしまう。

 

まぁそこまでキツくはなかった。後はアレだな、帰ってからの調理が上手くいくかどうか・・・・・・。足取りを少し早め、俺はアパートへの帰路を急いだ。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー、っと」

 

アパートの部屋に戻った俺は、コートを脱いで手洗いうがいを済ませてから冷蔵庫に向かった。シャワーの前にやることがある。冷蔵庫の中にある肉塊を取り出し、室温に晒す。チャックの付いた保存袋に入っているそれは、昨日の内から準備していたものだ。

 

クリスマスイブに作る料理を悩みに悩んだ結果、今年はローストビーフに挑戦することにした。やっぱり肉は好きだし、なんとなくクリスマスっぽいからだ。なので昨日の内に牛もも肉のブロックを用意し、全体に塩をふりかけ冷蔵庫に寝かせていた。

 

ももブロックが入っているチャック付きの保存袋は、ストローで吸って空気を抜き真空に近い状態にしてある。こうすることで塩がしっかり染み込み、完成度に違いが出るらしい。常温に戻す為に台所に放置しつつ、俺は冷えた体を温める為に浴室に向かった。

 

さっさと服を脱いで全裸になり、熱めのシャワーを頭から浴びる。思えば自分の体に覚える嫌悪感も薄くなっているな。好き好んでじろじろ見るものじゃないけど、鏡に映る自分が見えても目を閉じたりはしていない。いい加減、慣れてきたんだろう。

 

全身を温めた後、浴室を出てバスタオルで水気を拭う。部屋着に着替えても牛肉はまだ冷たかったので、お湯を沸かしつつ炬燵を出すことにした。去年はもう少し早く出していたんだけど、いつの間にかこんな時期にまでずれ込んでしまったのだ。

 

ちゃぶ台を折りたたみ押し入れにしまい、代わりに炬燵を取り出す。説明書通りに組み立てて、あっという間に完成だ。これだけ早く終わるのになんで今まで出していなかったんだろうか。自分に反省を促しつつ、早速電源を入れる。少しすれば暖かくなるはずだ。

 

さて、牛肉の方はどうかな。台所に放置してあるそれの様子を見ると、いい感じに室温に馴染み始めているようだ。そろそろいいだろう。

 

「よーし、始めるか」

 

調理器具を並べつつ気合を入れる。上手くいくかは俺の腕次第、気張っていこう。まずは鍋に水を張り、コンロにかけつつザルを入れた。今から牛肉の湯煎をするんだけど、鍋に直接入れると鍋底に触れて温度の通りにばらつきが出るらしい。なのでザル越しに温めるわけだ。

 

次に温度計とお玉を輪ゴムで止めたものを用意する。温度を測るのと、保存袋ごと入れた牛肉が動かないよう重し替わりにするためだ。何せ湯煎はかなりの時間がかかる。入念に準備しないといけない。

 

鍋のお湯が55度まで上がった所で保存袋ごと牛肉を投入。ザルとお玉で固定して、コンロの勢いを調節する。大事なのはずっと55度を保つこと・・・・・・らしい。火の強弱や水を追加で投入しないといけないので、中々温度計から目が離せないのだ。

 

「ここから長いぞ・・・・・・」

 

呟きながらも、正直こういう手間暇かける作業も嫌いじゃない。なんというか、本格的な料理を作ってる感じがする。コンロの火を少し弱めながら、俺は薄く微笑んだ。失敗しないよう、丁寧にやっていかないとな。




クソでけぇ肉塊でローストビーフ作りてぇ~~~!!!
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