人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う 作:てぬてぬ@TSF
「そろそろいいか・・・・・・?」
3時間に及ぶ湯煎の末、恐る恐る保存袋入りの牛肉を鍋から取り出す。火がキチンと通ってるかは、直接触って弾力で判断しないといけない。指で牛肉を押してみると、弾力があって生肉のような感触じゃなかった。多分だけど大丈夫なはずだ。
よし、それじゃあキッチンペーパーで牛肉を包もう。ここから更に30分寝かせた後、焼く工程に移る流れだ。うーん、本当に手間暇かかるな。空いた時間で鍋やお玉を片付けつつスマホを開く。確か、追ってるWEB漫画が更新されているはず。
「んー・・・・・・」
うん、やっぱり更新されている。暖まった炬燵の中に入りじっくりと読んでいった。物語としては佳境で、退場したはずの味方キャラクターが敵として復活を遂げている。滅茶苦茶気になる引きのまま、次回に続いてしまった。むぐぐ、気になるけど先読みは解放されてないし、次の更新を待つしかない。
読み直したり感想欄のコメントにも目を通していると、そろそろ30分過ぎそうだ。既に日も暮れている、牛肉に焼き目を付けるとしよう。フライパンにオリーブオイルを引き、火を通しながら馴染ませる。しっかりと熱したら牛肉を投入。一面大体1、2分くらい焼き目を付けていった。
湯煎の段階で火は通っている。だから、今やってるのは風味付けに近い。牛肉の全面に焼き目を付けることで香ばしさを追加するのが目的だ。
「これくらいかな」
全体に焼き色が付いた所で牛肉をトレイに移し、余分な脂をキッチンペーパーで拭き取る。そして、丁度いい厚さになるようスライスしていった。断面はピンク色で美しい。3時間に及ぶ湯煎で火が通ってるはずなんだけど、少し生っぽく見えるな。
出来るだけ綺麗に皿へ盛り付けた後、冷蔵庫からソースの入ったタッパーを取り出した。ローストビーフの調理には長時間かかると分かっていたので、昨日の内に作っておいたものだ。
りんご、玉ねぎ、にんじんとニンニクをすり下ろして混ぜ合わせ、薄口と濃い口の醤油を両方投入。更にみりんと料理酒、砂糖を入れて中火でとろみが付くまで煮詰めたら完成だ。味見ではちゃんと美味しかったけど、自家製ローストビーフとの組み合わせはどんなものだろうか。
盛り付けた上からたっぷりとソースをかけ、ちゃぶ台に運ぶ。ご飯とケーキも忘れずに。そういえば、ローストビーフが白米に合うか否かって話をネットで見たことあるけど、普通におかずになると思っている。そもそも肉料理で白米に合わないのって存在するのか・・・・・・?
そして、これも事前に用意しておいた飲み物、シャンメリー。シャンパンのノンアルコール版らしい。なんとなくクリスマスっぽいと思ったので買ってみた。コップに注ぐと炭酸ジュースにしか見えないけど、これもまぁ雰囲気だ。
ちゃぶ台の上に並んでいるものを見ていると、クリスマスって感じがしてくる。しかもローストビーフは手作りだ。我ながらよく作ったなぁ、うん。さて、もういい時間だし頂こう。ナイフやフォークじゃなくて箸で食べるのには少し苦笑を浮かべつつ、俺は手を合わせた。
「いただきます」
早速箸を向けたのはローストビーフ。ソースの絡んだ一枚を掴み、そのまま口に運ぶ。咀嚼すると肉の旨味と共にしっとりとした柔らかさを感じた。すごい、全然パサついてない。時間をたっぷりかけたおかげだろうか。
ソースはフルーティーで甘みが強めだ。それが柔らかい肉と合わさってジューシーさを増している。いや、本当に美味しいな。実家で食べたことのある市販のローストビーフとは大違いだ。長時間の低温調理の賜物だろうか。
「はむっ」
ローストビーフでご飯を包んで食べてみると、やっぱり相性がいい。ただ、単品で食べる時よりも少しだけ物足りない感じもする。ソースが甘めだからだろうか。ふと思いついて立ち上がり、冷蔵庫から練りわさびを持ってきた。多分、いい感じのアクセントになると思うんだけど・・・・・・。
「ん、いい感じ」
わさびのツーンと鼻に抜ける辛さが味を引き締め、ご飯との相性が増している。よし、正解だ。こうなると甘めのソースがベストマッチだな。じっくり噛み締めて飲み込んだ後、今度はシャンメリーの入ったコップを手に取った。一口啜ってみる。
・・・・・・うん、普通の炭酸ジュースだ。シャンパンは飲んだことが無いのでそれくらいの感想しか出てこなかった。微炭酸寄りなので、口の中をさっぱりさせるのには丁度いい。
合間にシャンメリーを挟みつつ、黙々とローストビーフとご飯を食べ進める俺。自分で作ったというのもあって感動もひとしおだ。自分ではいまいち分からないけど、自炊の腕は着実に上がっているっぽい。嬉しいな、うん。
気付けばローストビーフもご飯も食べ切ってしまった。また今度作ってお姉さんや大家さんにお裾分けしよう。初めての調理で不安だった為、お裾分け用の分は作っていなかったのだ。
さて、次はいよいよケーキである。紙箱を開けて、まずはレアチーズケーキをお皿に移す。箸の代わりにフォークを手に取り、先端部分を切り分けた。
「あーむっ」
口に含むと、まず感じるのは生地のなめらかさ。レモンのような風味はさっぱりとしていて、それなのにコクがある。クリームチーズのおかげだろうか。濃厚なのに後味が尾を引かなくて、それこそ1ホールでも食べられそうな美味しさだ。
レアチーズケーキをぺろりと平らげ、最後に取り出すのはブルーベリータルト。先日お姉さんにオススメされたやつだ。タルト生地の上にこれでもかという程のブルーベリーが敷き詰められている。我慢出来ず手掴みで持ち上げ、そのままかぶりついた。
うわ、これもめっちゃ美味しい。ブルーベリーは勿論のこと、中のクリームの甘さが絶妙だ。そこにサクサク食感のタルト生地が合わさって、口の中が幸せになっていく。お姉さんがオススメするだけあるなぁ。
駄目だ、じっくり味わう間も無く食べ切ってしまった。ローストビーフとご飯を結構な量食べた後なのにな・・・・・・。もう1ピースくらい買っておけばよかったかと暴食に近い考えを抱きつつ、俺は手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
いやぁ、全部が全部美味しかった。いや、シャンメリーだけは微妙だったかもしれない。それはそれとして大満足である。去年に引き続き、今年も良いクリスマスだな。実際はまだイブだけど。
さて、食器を片付けたらもう一度シャワーを浴びて、それからゆっくりしよう。せっかくのクリスマスだ、少しくらい夜更かししてもバチは当たらない。そういえば、子供の頃はサンタが来るまで絶対に寝ないと頑張っていたな。日付が変わる前にいつも撃沈してた記憶がある。
過去の自分に苦笑を浮かべながら食器を洗い、しっかり水気を拭き取っていく。全てを片付けてから、もう一度シャワーを浴びようと浴室に向かった。そういえば、来年のクリスマスは何を作ろうか。いっそケーキを手作りしてもいいかもしれない。鬼が笑うようなことを考えつつ、俺は服を脱ぎ始めた。あぁ、そうだ。今年も一応言っておこう。
「メリークリスマス、俺」
だからクリスマスイブだって!(二回目)