人生ドロップアウトTS娘は今日も飯を食う 作:てぬてぬ@TSF
三が日も過ぎ、社会が日常に戻り始める時期。俺は年末年始で摂取したカロリーを消費する為、いつもより長めのジョギングに挑んでいた。いや、流石に食べ過ぎた。特に大家さんがお裾分けしてくれたお雑煮が一年振りでも美味しくて・・・・・・。お礼に自分流のお雑煮を渡したけど、大家さんの好みに合っただろうか。
まぁ、そんなこんなで大量の栄養を補給してしまった。お腹周りが多少ぷにつく程度にはだらけていたのである。これは駄目だ、よくない。というわけで習慣のジョギングを再開したのだが・・・・・・。
「ふぅー、体が重い。やっぱ太ってるよな、これ」
辛いという程ではないが、いつもより息が上がりやすい。それに、全身が重くなっているような感覚もする。やっぱりあれだ、毎日何かしら運動した方がいいよな。例えお正月中でも。心にゆとりが出来た弊害か、怠け心が出てきてるみたいだ。
いつもより遠回りの道を走っていく俺。結構な寒さだけど、ジャージの中では汗がダラダラ流れる感覚がする。ちょっと着込み過ぎたかもしれない。これだけ動けば体は暖かくなるし、汗をかき過ぎると逆に冷えてしまう可能性もある。今度走る時は下に着込んでいる服を一枚減らしてみよう。
そんなことを考えつつも足は止めない。リズムを保ったまま走り続け、体力が尽きる前にアパートに到着した。とはいえいつもよりは疲れている。早い所シャワーを浴びて一息つきたい。その一心で部屋の鍵を開け、服を脱ぎ散らかして浴室に飛び込んだ。
「あぁ~・・・・・・」
頭から熱々のシャワーを浴びて思わず声が漏れる。体が冷えるのは苦手だけど、この瞬間はとても気持ちいい。汗と共に寒さが流され、じんわりと体が温まっていった。程良い所で一旦シャワーを止め、スポンジにボディソープを染み込ませ泡立てる。
椅子に腰を下ろし、全身を洗っていく俺。どこもかしこも柔らかかった体は、実際に触れれば分かる程度には筋肉質になっていた。一年以上運動を続けているお陰だ。流石に胸やお尻は柔らかいままだけど、まぁこっちは仕方ない。慣れた手つきで垢や汚れを落とし、シャワーで全部洗い流す。ふぅ、すっきりした。
続いて頭も洗い終わり、ポカポカになった俺は浴室を出て全身を拭く。胸の部分をバスタオルが撫でると柔らかさとむず痒さを感じるけど、もう慣れてしまった。なにせ毎日のことだしな。カウンセラーさんはずっと悩み続ける患者も多いと言っていたけど、俺は案外鈍感なのかもしれない。
部屋着に着替え、シャワー前に電源を入れておいた炬燵に潜り込む。まだ温度は上がってないけど、すぐに暖かくなるだろう。のんびりとだらけながら、俺はスマホを手にしてとあるサイトを開いた。色んな料理レシピが掲載されている、元コックが運営している個人サイトである。
色んな人がレシピを上げられるコミュニティサイトと違い、ここは管理人やその友人であるプロ達がレシピを上げていた。どのレシピも洗練されていて、以前からちょくちょくお世話になっている。まぁ、その分簡単なレシピとかは掲載されてないんだけど。
自炊に慣れた今、色んなレシピを眺めているだけでも楽しい。世の中は広いもので、想像も出来ない調理方法も多かった。うちの台所じゃ到底再現出来ないやつも。ざっとレシピに目を通していくけど、今日の自炊に活かすつもりは無かった。というより、夕飯の用意はもう出来ている。
お昼の内に握っておいたおにぎりと同じく作っておいた味噌汁。三が日は色々暴食してしまったので、今日は簡素な食事にしようと考えた結果だ。傷むような気温でもないから、おにぎりはラップをかけたまま台所の隅に置いてある。
俺は炬燵で暖まりながら、だらだらとスマホの画面に目を走らせた。長めのジョギングで疲労が溜まった下半身を、じっくりと癒していく。と言ってもそこまで辛いわけじゃない。多分筋肉痛にもならないだろう。男だった時から慣れっこな感覚だ。
そうして過ごしていると、気付けば外が暗くなり始めていた。少し早めだけど夕飯にしちゃおうか。流石に味噌汁は冷たいと美味しくないから温め直そう。鍋をコンロにかけながらお玉で混ぜる。具材は豆腐とわかめのスタンダートなやつだ。出汁は手抜きでパックのを使っている。
しっかり温め直してからお椀に注ぎ、おにぎりと一緒にちゃぶ台に持っていった。おにぎりは三つ。三角じゃなくて丸く握ってあり、貼ってある海苔は一枚だけだ。手を合わせた後、その内一つのラップを剥ぐ。
「いただきます」
大口を開けてかぶりつくと、ギリギリ具に辿り着くことが出来た。一つ目の具は昆布の佃煮。白米との相性抜群な甘じょっぱさに、たっぷり入っているごまの風味も素晴らしい。濃い目の味付けなのもあってご飯がどんどん進む。
合間に味噌汁を啜ると、こっちは心が落ち着く味わいだ。特に言う所も無い普通の味噌汁なんだけど、だからこそいい。ぷりっとしたわかめの食感が楽しいな。
あっという間に一つ目のおにぎりを食べ終わり、二つ目を手に取る。具はツナマヨだ。高校時代、部活のメンバーは誰もがツナマヨおにぎりを好きだった。これは俺の自作で、ツナとマヨネーズ以外に少量の麺つゆと粉チーズ、黒胡椒を混ぜてある。
再び大きな口を開けて一口。うん、美味しい。ツナマヨってどうしてこんなに美味しいんだろうな。母におにぎりを作ってもらう時は、いつもツナマヨをせがんでいた程だ。あと今回は作ってないけどチーズおかか。遠足の日とか、道中でもお昼の時間になるのを待ち望んでいた記憶がある。
一つ目よりも早く平らげてしまい、胸が詰まる感じがして味噌汁を飲み込んだ。何やってるんだ全く・・・・・・。久しぶりの懐かしい味に食べるペースを上げすぎてしまった。気を取り直して最後の一つ。これには俺の好物である、実家の梅干しが入っている。
流石にこれは一口じゃあ梅干しまで辿り着かないと思うので、仕方ないけど半分に割った。そのまま丁度いい感じになるよう一口。うん、やっぱり酸っぱいよりもしょっぱいな。当然これもご飯が進む。祖母が定期的に送ってくれるのが本当ありがたいよ。
「ごちそうさまでした」
結局三つ目もすぐに食べ終わってしまい、味噌汁も飲み切った俺は手を合わせた。今度はチーズおかかも作るとしよう。なんか、三が日で色々食べたけどこういう食事でも全然満足しちゃうな。貧乏舌じゃないとは思ってるけど・・・・・・。どうでもいいことを考えながら、俺はお椀と箸を洗う為に立ち上がるのだった。
おにぎりの具は個々人で思い出の味が違う気がします。小学校の頃に母親が握ってくれたおにぎり、どうしてあんなに美味しかったんでしょうね。