「ローランド様、本日はお忙しい中お時間を使っていただきありがとうございます」と目の前の月光りのような美しい灰色の髪をもった女性、伯爵家のソフィア・ド・ロアンが恭しく挨拶をする。そのため、こちらも挨拶をする。
「本日は、ヴァレット家とロアン家の関係がより深くなるよう、このような場を設けていただき感謝致します」と笑顔を向けて、会釈する。
ロアン家のソフィアは貴族の子息の間で、有名人だ。ロアン家が経済的に成功している貴族で、その子女ということではない。彼女は女性ながら男顔負けの統治をする優秀なリーダー、そして…
彼女の方の豪奢なテーブルの下の椅子を引いた。
「どうぞおかけください」と言う。我ながら優雅さと手慣れた所作であった。
しかし、彼女はその紳士然とした態度に特に反応することなく。
「ありがとうございます」と答え、席に着いた。
彼女は何者にも靡かないという高潔な様とその美しい長髪から醸し出される妖艶な雰囲気で、人気というわけだ。
私も反対側の席に着き、対面する形でお話をする。ここで、何か相手の機嫌を損なうわけにはいかない。この日の為に彼女について下調べしている。まだ、経験が浅いだろうに適格な指示を出し、優れた統治体勢を整えている。本日は彼女とは友好的な関係になることが目的だ。
「さて、軽く自己紹介を。と言っても、すでに名前は互いに知っているがな。改めて、侯爵家ヴァレット家の末弟、ローランドだ。貴女の噂は聞いている。女性ながら、その優れた手腕を振るい、地方自治を行っているそうではないか」と
「お褒め頂き恐縮です、ローランド様。貴方のような帝国を支え、誉れある貴殿から、そのようなお言葉を頂けるのでしたら、天上に上るような思いです」と彼女は答える。
(誉れか…今の貴族に不足しているものだ)と考える。
没落した者も多く、生き残っている貴族たちも誉れあるとは言えないのが現状だ。
しかし、思考を切り替え、彼女の功績について話す。
「何、貴殿の優れた手腕は聞き及んでいる。農業地を一括にまとめ上げ、共有地と荒れ地を大規模な農場として運用することで効率的な運用をするという大事業は、非常に難しい仕事だったろう」と言うと、彼女は少しだけ以外そうな顔した。刹那、本当に一瞬のことであったがこの話題は出して正解だったようだ。
「えぇ、主にそこの地主からの反発が大きかったですが、根気強く説得することで少しずつ受け入れてもらいました」
ここで、すかさず
「そうしたアイデアがあったとしても、いきなり変えてしまえば、農奴や地主から大きな反発が生まれてしまう。その気骨があってこそ、貴女のお父様、ジョセフ氏が貴方を重宝する理由でしょう」と褒める。すると
「お父様には、男だったらどれほどよかったかと何度も小言を言われましたわ」と彼女自身ことを話してくれた。そして彼女は続けて
「それよりも、私も貴方様について詳しく聞きたいです。貴方の領地において、工場内の作業を分業化。それも既存のものと異なる、作業内容を厳格にすることで、製品の質を高い水準で一定のものを作り出していると聞いております」と返してきた。
(いい所に気付いてくれるな。そこは私が事務を任されていた頃から構想していた改善案の一つだ)と心の中で彼女の評価をもう一段上げる。これならば…
「なかなか、良い所を指摘されますね。指導者としてはそうした所に気付いて頂けると非常に嬉しいです」と、心根から素直な言葉が出た。そして
「勘違いをしてもらえないと嬉しいのですが、今回のお見合い、実際は余り気が乗らなかったのですよ。しかし、貴女との会話は他の令嬢たちとは異なり、心が躍るような感覚がする」と本心を吐露する。
「喜んでいただければ幸いです。そのような言葉を貴方ような勇ましい方から言われて、私も非常に嬉しいです」と彼女はその口から淡々と言葉を紡ぐ。
(少し、キザっぽい言い方だったか)と後悔をし、話題を変える。
「そうだ、是非聞きたいことがあるのだが、いいか?」と質問をする。
「もちろんです。私がお力になれるのであれば、是非お話して下さい」と彼女は快諾する。
「領地内の工場で働く労働者の食事事情についてなんだが…」と続けると
「はい、その問題については私の管轄する領地でも危惧されていましたから、次の様な…」と彼女の考えを聞き、そこからの派生について聞いてみる。
「なるほど、そういった視点から考えることもできるか。ならこういった…」と提案すると彼女は。
「素晴らしい考えですね。私からも質問をしてもよろしいでしょうか?」と逆に質問し
「もちろんだ、私たち二人ならば、より良い解決策を得られるだろう」と快く了承した。
「実は紡績工場において、機材にこういった不具合が…」と聞くので、原因を考える。
「そういったことは、動力の出力にムラがあることで、機材の素材に耐えらずに負担がかかっていることで…」と返すと
「では、さらに強度の高いものにするということに」と提案するが、他の解決案を提示する。
「それだけでなく、水力を動力にすることで…」と話し合いをしていると徐々にヒートアップしていった。気が付いたころには、西日が部屋を照らし、時間の経過を伝えてくれた。そのため、別れの挨拶をする。
「おや、もうここまで時間が経っておりましたか。今日の貴方の意見、非常に興味深いものでした。また、このような機会がありましたら是非お会いしましょう」と部屋の外の召使いに指示を出す。
「私も非常に貴重な時間を過ごせましたわ。お見合いがここまで、深い意見交換になるとは思いませんでした」とソフィアが言うので、リップサービスをする。
「ふふ、確かにこのようなお見合いになるのは私たちぐらいだろう。感謝する。麗しき月光のような深い灰色の髪をもつ貴方に出会えたことを」と今までこのようなことは自身の口からすらすら出てきたことなどないのだが、いとも簡単に言葉が紡がれた。
「私も、勇ましき黄金の髪の深き洞察力をもった貴方に合えたことに、心から感謝いたします」と私の言葉に合わせて答える。
少し寂しい気がするが、静かに去る。貴族とはそういうものだ。
「なかなか、芯の通った女性だ」と独り言を帰路の道中につぶやいた。