あのお見合いが終わってからも、ローランド様とは文通で、細かくコミュニケーションを取っている。ローランド様は工業についての知識が深く、蒸気機関の仕組みや改良についての造形が深い。
ローランド様のおかげで、闇雲に試行錯誤することがなくなったことで順調に工場が増えている。本日も、管轄している領内は、その製品を売る者、買う者たちの活気に満ち溢れている。
私も、ローランド様のお力添えとして農業についての知識を文面に整理し、伝えている。できる限り、ヴァレット家の状況を調べて、必要な施策を述べたつもりだが、やはり心配であった。しかし後の手紙にて、優れた草案であったとし、ローランド様からプレゼントを頂いた。
それを万年筆というらしい。現在、私は羽ペンで書類に署名をしているが、インクが渇かないようにするのは骨が折れる。しかし、この万年筆は、内部に精密な仕掛けによって書くときにインクが出てくるので、渇く心配がないらしい。
非常に素晴らしいものを頂いた。これほどの品を頂いたお礼と、僭越ながらローランド様へ何かしらのプレゼントをお送りしようと思い、とある地域を統治しているお兄様に連絡をする。それは、西カント諸島で採れた非常に貴重な海島綿で作られたハンカチーフを送るためである。
「かなりの上物を、送ってもらえたわ」と美しく彩られた樫の木で作られた箱に、純白のハンカチーフが入っているのを確認して、言葉が出た。
「それでは、ヴァレット家に手紙も添えて届けましょう」と執事のエドワードが準備をし、プレゼントが送られていった。
数日後、ローランド様より、お礼の返事が届いた。たいそう喜んでくれたそうだ。こちらとしても、喜んで頂けたら幸いだ。また、手紙に続きにはここの所の技術革新と東小国の情勢の悪化について述べられていた。
親愛なるソフィア穣へ
夏の暖かな日差しと共に、この文が貴女に届くように、夏風が吹き抜けるような、爽やかな季節に思いを馳せながら、この言葉を綴ります。
貴方の深い知性によって裏付けられた、施策は私の領民の生活の質を大きく向上させました。また、貴殿からプレゼントをもらい受け、非常にうれしく思っております。
お礼の言葉は、紙というものではなかなか伝えきれないことを歯がゆく思います。
しかし、そうした紙だけの交流も時代の流れによってなくなるのかもしれません。
と続きには、驚く内容が掛かれていた。
我が領民の中に発明の才能がある者達を独自に集めておりまして、その者達が言うには距離が離れていても声を届けることができると言うのです。もし可能であれば、夢のような話です。何せ、これが事実なら戦争というものが大きく変わるでしょうから。
おっと、すみません。少し熱を持ってしましました。
最近は、東小国において、皇太子夫妻が銃殺されるという事件が起き、戦火が広がりつつあるようです。犯人がその国の住民が主に信仰する宗教と異なっていたことで、事態は複雑化し、今や帝国や王国にまで、争いの火種が広がると予想されています。帝国と王国は、近年大きな争いがなく、産業革命後、初の同じ国力をもった国同士の戦いになるでしょう。その被害は予想できない所が多いです。
暗い話が多くなってしまい、申し訳ないですね。また、貴女と会えることを心より楽しみにしております。
ローランド・ラ・ヴァレットより
と締められていた。東小国の戦火についてはこちらも把握していたが、そこまで深くは考えていなかった。今後、戦争になった際に必要となる物資について考え、蓄えなくてはいけないと書類を制作していく。
…
…
…
ローランド様から戦火が広がるという忠告をされた手紙を受け取って、半年といった時期か。彼の予想は正しく、周辺国家が次々に争いに加わり、指数関数的に戦地は広がっていった。ついには王国が帝国に対して宣戦布告をしてきたことで、大国同士の大戦にまで発展した。
今、私は帝国の首都、帝都ガーラルの司令部に来ている。理由は、私のお父様に戦地となる可能性がある場所で統治していた者は、招集されたからだ。それぞれの領地、植民地からは軍需品が運ばれる手筈となっているため、その統治者が最後の確認を行う。
最後は皆を労うため、お父様が激励と褒賞を行う。
「カール、我が息子よ。貴殿からの領地からの軍需品が一番多かったぞ」と長男であるお兄様の名前が呼ばれると、誇らしげに恭しくお辞儀をする。
「他の者も皆、帝国のためよく尽力してくれた。今日はこれからの戦に備えて、今はゆっくり英気を養え」という言葉で一先ず解散する次第となった、お父様から、別に話があると伝えられ、別室にて、対談する。
「どういったご要件でしょうか?お父様」と聞く。大体、理由は分かる。どこか遠くに避難するように言われるのだろう。
「お前ならわかっているだろう。今回の戦は、今までのものとは大きく異なるだろう。被害は想像を絶することになる。そこで、新大陸に避難するよう、薦めようと思っていたのだがな…」
と歯切りが悪くなりつつも、話し続けた。
「――今回、一番支援資材が多かったのはカールではなく、ソフィアだったとはな。皆の手前、士気を下げないため嘘をついた。すまん」
「いえ、娘の私がそのような功績をかすめ取ったとしたら、お兄様たちのメンツも潰れてしまったでしょう。適格な判断であったと思います」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。我が娘よ。それで、どうして大量の軍需品、特に医療品をこさえられたか聞きたい」
「半年ほど前から、大戦になることを見越して、必要となる物資の生産に注力してきました。短い期間でしたが、領民たちの協力もあり、なんとか準備をすることができました」
「その情報をもっと早く他の兄弟たちに共有しなかったのか?」と訝しい表情でお父様が聞いてくる。
「もちろん、情報の共有をしようと努めましたが、如何せん信用してもらうのも難しかったです。そのとき、カールお兄様が私の話を信じてくれまして、そこから次々に広がっていきました」
「そうだったのか。だからカールも多くの物資を持ってこられたのだな」
「優秀な判断力を持った兄です。私の意見も真摯に受け止めてくれました」とお父様に伝えるとお父様は少し悩んだ素振りを見せ、何か決心したかに思える。
「ソフィア、その優秀な頭脳を私に貸してくれ。私も伯爵として、指揮をする。その時に副官として私に意見を言ってくれ」
「私が力になれるのでしたら、その御勤め、完遂させてみせます。…ですが、他の指揮官(プレイヤー)たちは良い顔はしないでしょうね」
「そこのところは、私が手を回す。存分に力を発揮してくれ」というお父様の御命令から私は、帝都の司令室に入ることとなった。
後日、お父様に付いていき、司令室に入る。そこで、何度も文通にて、深い意見を交換し合ったローランド様がいらっしゃった。相手も驚愕といった表情。
「お久しぶりです。ローランド様」
「あぁ、ソフィア穣こそ。して、何故ここに?」と聞くと私の代わりにお父様が
「我が娘には、私の副官として意見を述べてもらう」
「ジョセフ伯爵、敵が帝都まで進軍する可能性は以上に低いですが、何せ予測ができません。万全を期すためには、やはり彼女を新大陸に避難させるのが最善ではないですか?」と言うと間髪入れずに
「君は、娘のことを本当に心配しているのだな」とお父様が含み笑いをしながら言った。
すると、少しだけ顔を赤らめたように見えた。それに、新大陸に避難することが最善になることとは限らない。無礼を承知で口を出す。
「私も帝都まで、敵が進行してくることはないと結論を出しました。それに、新大陸が安全であるとは限りません。各地の植民地において独立の気運が高まっています。革命に巻き込まれたら、生存することは困難になると思います」と答えると、ローランド様は顎あたりに手を当て思案し、答えた。
「…なるほど、ある意味、ここが一番安全か」と呟き私たちの隣に付き
「――ご案内致します。現在、私のお父様ヘルベルト・ラ・ヴァレット侯爵は本戦争において全権の指揮を任されました。ジョセフ・ド・ロアン伯爵には、その叡智でもって我々に協力していただきたい」と言われ、最高指揮官がいる部屋に連れていってもらった。
…
…
…
開戦から一カ月、前線は苛烈を極めた銃撃、爆撃に晒されている。予期していたことだが、死傷者の数が今までの戦争の比ではない。私とローランド様で発案した塹壕防衛陣をお父様とローランド様のお父様、現侯爵を通して、前線にて使うよう指示を出したのにだ。王国もかなりの死者を出しているはずだが、現在は相手も塹壕を使いだし、膠着状態となった。
「ソフィア、今の内に休みなさい」とお父様から言われる。この一カ月、戦闘に次ぐ戦闘により、ほとんど寝ることができなかった。常に、頭を酷使し状況の打破を目指した。それはお父様も同じであり、疲れ切った様子である。
「お気持ちだけいただきます。お父様こそ休んでください。指揮しているものが溌剌としてなければ、全体の士気に繋がります」と答える。
「私はいいんだ。今回の戦の鍵は君とローランド君だ。君たちがいなかったら、帝国兵は今よりも多く命を散らしていただろう。二人が抜けることがあったらそれこそ我々は、窮地に陥ってしまう」と説得され、外に出る。手配された部屋に戻ろうというとき、反対側からローランド様が歩いてきた。
「君も休憩か?」と言葉を投げかけられる。
「はい、3徹連勤で流石に疲れましたから、暇を仰せつかりました」
「そうか…」という彼も疲れているのが分かる。私と同じく働いていたから当たり前だ。
「5時間ほど睡眠を取らせていただきます」
「分かった、その後少し話できないか」と提案され、断る理由がないため承諾する。
「それでは、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」という声が聞こえたあと、部屋のベッドに転がる。本当は身支度してから寝るべきだが、あまりに疲れていたため、すぐに眠ってしまった。
丁度5時間ほど、時間が経った後に目が覚めた。すぐに身支度をする。使用人が温水を持ってこさせ、顔や髪を洗い、梳かす。厚手の布で体をふき、脳がばっちり目覚めてきたのを確認したあと、お召し物を着て、ローランド様へ面会のアポイントメントについて連絡する。
すると、ローランド様が寝泊まりしている部屋に来るように連絡が帰ってきた。
殿方の寝室に向かうのは、初めてだし、これでも令嬢であるがゆえに別の場所を提案しようともしたが、私も彼も時間がない。別にやましいことなどないのだから、正々堂々向かうことにしよう。
部屋の扉を開けると、使用人がおり、案内される。優れた丁度品が多く飾られている、豪華な部屋の中にある椅子に彼、ローランド様が座っていた。
「ご足労をかけてすまない」
「いえ、とんでもないです。しかし、よかったのですか?開いている部屋なら他にあったでしょうに」と返すと、少しバツの悪そうな顔をして謝罪をした。
「――気分を悪くしたなら、謝る」
「いえ、気にしておりませんよ」
「そうか。いまだに君のことをよく思わない将校がいる。そうした者達に手を出されないように、ヴァレット家も尽力している。これもその一環だ。私と懇意であることを示せば、抑止力になるはずだ」
「私の為に、そこまで配慮して頂き、感謝いたします」とお礼を述べる。
「大事なパートナーだからな」と咳払いしながら答えてくれた。
「それで、ご相談の内容とは?」と聞く。
「それがな、電報が入った。中東諸国を管轄している者達からだ。王国側が、独立を認めるという餌を使って、帝国へ攻める兵士を募っているらしい」
「それは、また王国は盛大な嘘を言いますね」
「全くだ。あの地域は人種のるつぼだ。民族、宗教が入り混じっている。大方、現在実質的な支配権を持った現地民の民族に対して不満を持っている少数民族たちを引き抜くつもりだろう」
「王国側の話が本当だとしても、またあの地域は血の海になりますわ」
「その通りだが、それを理解しているものは多くない。最早、この戦争はこの地域で起こった規模ではなく、世界そのものを飲み込もうとしている」
「くすぶっていた戦火が今になって爆発したということでしょうね」
「そこでだ。ソフィアの意見を聞きたい」とこちらを見つめて聞いてきた。
「現在の帝国と王国の兵力自体は互角といった所でしょう。しかし、それは二つの国だけの場合です。相手が他国からなりふり構わずに、兵士を募っていった場合は王国側が圧倒的に有利となります。そこで、帝国は他の大国や、新大陸の新興国、そして東亜の国と連合軍を作ることが最善かと思います」
「間違いなく、王国側もそれを予知し、根回しをしているだろう。ここ近年での外交は、戦力によって相手を脅す砲艦外交が一般的であった。まともな、取引として外交できる人材は期待できない」
「また、私とローランド様で対処することが必要みたいですね」
「あぁ、全く休みたいものだ。…それと、公の場以外で俺に様を付けないでくれ。君に言われるとむず痒くてな」
「――分かりました。ローランド。早速、これまでの外交に記録を洗って、同盟に加入してもらうべき国をリストアップしましょう」
そうして、私たちは夜遅くまで、あれこれと相談しながら、連合軍の計画に必要なものを考えていった。
…
…
…
戦争が始まって、3年と半年が過ぎた。帝国側の連合軍、そして王国側の同盟軍という二つの勢力が、世界各地で争い、あの時、ローランドが言っていたように、世界規模の戦争となった。暗殺事件から始まった戦争は収拾がつかなくなった。これは、最早避けることができなったのかもしれない。
今や、各地で塹壕戦が展開され、数メートルの前進のため、何千もの命が散っていってしまっている。前線の状況は日に日に悪化するばかりだ。徴兵が行われたせいで、農村部は働き手を失い、食料品や衣類品などの物資もギリギリだ。
今日も、作戦会議室にてローランドと話し合い、出た結論をお父様やヘルベルト・ラ・ヴァレット侯爵を通して、前線に指示をする。この生活にも慣れたが、今この判断によって大量の死者が出るかもしれないという重圧を毎日感じ続けると、気がおかしくなりそうだ。
ローランドがいてくれているのでまだ、落ち着いていられるが、一人であったとすると、数カ月で発狂していただろう。それほどまでに過酷であった。だが、これからはもっと辛くなるだろう。
「ソフィア、話がある。明後日、俺の出兵が決まった。現場の指揮官が不足している。咄嗟に指示できるほど、優秀な指揮官がいないのだ。それに、前線の士気がこれまで以上に下がっている。このままでは、脱走兵が増え、前線は崩壊する」
「その為に、あなた自身が行く必要があるのですか!?」と思わず声を荒げてします。
「俺の兄たちも戦地にて指揮をとり、戦死した者も多い。残った中、末弟である俺も帝国に命を捧げなければならない。頼む、わかってくれッ」
「…そんな。どうして?」と言葉が口を出ると、頬に涙が伝わり、落ちるのが分かった。泣くのなんて、何時ぶりだろう。
すると、ローランドは静かに抱擁してくれた。
「君と過ごした時間は、今まで誰よりも、濃密で、楽しく、ありのままの自分でいられたよ。ありがとう」と言って口づけされる。拒む理由などない。
短い、永遠のような時間は終わり、ローランドの顔が見える。少し頬が赤い。私も同じように朱色に染まっているだろう。
「貴方の好意、とても嬉しいです。それにとってもわかりやすかったわ…私でも分かるほどに」
「―ッそれは、あまり言わないでくれ。自分でも自覚していた。けど、ハハッ、気が付くと君のことを考えていた」
「ふふ、さっきより顔が赤くなっています」
「ソフィアもな」と名前を呼んでくれた。
「この後は、お仕事はありますか?」と聞いてみる。
「終わらせてきた。“こうなる”ことにも備えて」と言って、所謂、お姫様抱っこをされた。
「俺を受け入れてくれるか?」
「分かっているでしょうに」と答えると、ベッドルームに私たち二人で入っていった。
この後のことは、明記することでもないでしょう。
ただ、初めて味わう幸せでした。同時に自分の手が届かない場所に一生消えない跡ができたような不安感、高揚感といったものがありました。ローランドは、もし私が身籠ってしまえば、この後、来るであろう、波乱の時代に君もろとも耐えきれないことを悟って実際は最後まではしなかったのですが。
実のところ、ここの所のストレスと過労で生理は来てないことも伝えましたが、彼の意志は固かったのです。
朝、カーテンの隙間から日の光が細く差込み、反射して部屋を照らす。ずいぶんと長く寝ていたようだ。体を伸ばし、自分が絹一つ纏ってないことで昨晩の情事を思い出す。すぐに服を着て、身支度をしているとローランドが、カップを二つ持って部屋の扉から入ってきた。
「起きたみたいだな。紅茶を持ってきた。飲むか?」と誘われ、一緒にたわいのない話をしながら飲んでいると思わず、この時間がもっと続けばいいのにと思ってしまう。しかし現実は非情で、彼はこの後、前線に行く。ゆっくりと彼と話すことはもうないのかもしれない。そう思うと胸が締め付けられる。
「――暗い顔をしないでくれ」と唐突にローランドの口から言葉が出た。表情に出ていたのだろう。
「ごめんなさい。でも、辛く、悲しくって」
「必ず戻ってくる、いやそんな言葉、君の慰めにならないか...。この世界に絶対はない、それは君がよくわかっていると思う。だけど、俺は必ず帰って来て見せる」
そう、言葉を残し、ローランドは仕事に向かった。明日には、夜行列車に乗って各地を寄り、前線後方から指揮を執るのだろう。
…
…
…
あの日から数週間が経った。前線は硬直状態、防衛はできている。だが、歪が出てきている。現地への物資の輸送が追い付かない。それに、同盟軍はキャタピラー式の戦車を導入し、前線で猛威を振るっている。こっちは地雷源や対戦車兵器を使うことで耐えきっている。こちらも新たな兵器の参入させることで、戦闘を有利にしている戦場もある。
「先ほど、電報にて、カイラン前線へ攻めてきた同盟軍の撤退が報告されました。相手に大打撃を与えられましたが、こちらの被害も甚大です」と執事のエドワードが書類を持って報告してくれた。
「軍需品、医療品の支援を回すようこちらで進言しておきます。エドワード」と答える。
「少しはお休みを取ってください。ローランド様がいなくなってから、まとまった休憩を取っておられない様子」
「二人でどうにかしていたことを一人でやっているのだもの。休んでいられないわ」
「お願いします。もう、寝てください。本当に…ひどい顔です。ここで、作戦を考える貴方が倒れてしまったら、前線にいるローランド様にも悪影響です」とエドワードらしくないもの言いであった。そこまで、憔悴していたのか。
「分かったわ。休憩させてもらうわ」と答え、部屋に入る。しかしなかなか寝付けない。何も考えていないとローランドの安否について考えてしまう。だから、仕事に打ち込んでいたのだ。
結局、まともに眠れなかった。でも、目を瞑っているだけでも、頭は少しすっきりした。
「お嬢様、ご休憩中、失礼します。緊急の要件です。北部の前線の一部から、敵軍の猛攻が仕掛けられました。現在情報の収集に全力を尽くしております」とドア越しに伝えられた。
「分かったわ。緊急会議ですわね」と答え、軍服に似た、動きやすさとフォーマルさを兼ね備えた服装に着替えて、部屋を出る。
「これは、マズイことになったわね」と現在の状況を鑑みる。
北部からは列車による物資輸送によって前線を保っている。もし、同盟軍に列車や駅を占領されたら、兵站が壊滅する。
そうなることを見越して、北部の前線の守りは強固なものにしておいた。何重にも、塹壕と鉄条網によって守られ、まともな装備では抜けられず、数多ある地雷原は戦車や敵兵もろとも吹っ飛ばす。谷や山といった自然物を利用した要塞もある。ここを抜けるには、最低でも10万の兵士と最適な装備と兵器が必要だ。そんな余力、前線を広げている同盟軍にはない。
「――ッ電報にて、連絡!!同盟軍に、サビエト王朝が参戦した模様!!」
ここで、絶望的な連絡を受ける。サビエト王朝は、大陸北部の大部分を占める大国だ。しかし、その地理的要因から、厳しい寒さが続く過酷な大地と広い領土、他国との国境を守る必要があり、今回の大戦において沈黙をしてきた。
そして、同盟軍の盟主である王国とは歴史的に険悪であることから、同盟軍への加入はないものだと思っていたが、ここで参戦してきたか。
「続報!!敵軍の総数、20万以上、進軍を続けている模様!!」と入る。かの王朝の戦いは数に任せたものだ。単純であるから、厄介極まりなく、小手先だけではどうにもならない。10万でも抜けられないのであれば、その倍を投入することなど平気でやる。
「―ッ動かせる部隊は直ぐに、新たに設置している北部前線に動かせて下さい。時間が稼げれば、その巨大な数の兵士たちを養える物資もなくなるはずです。私たちが行うべき行動は、鉄道路線の死守!ここを鹵獲されてしまえば、今までの犠牲がすべて無駄になってしまいます!!」と連絡係をすぐに動かす。
「他の前線から、連絡!!、敵軍、一斉に進軍!!救援要請が後を絶ちませんッ」
このタイミングで帝国を完全に仕留める気だ。同盟軍は、自軍の大量の犠牲をもってしてこの戦争を終わらせようとしている。だが、そんなことはさせない。
「一部前線は放棄し、敵を誘い込め!残った地雷を塹壕に仕掛け、敵の余力を削れ!」と指示を出す。今は、動ける兵士を少しでも温存し、有利な要塞や地形で駐屯させておきたい。
だけど、これではジリ貧。せめて、兵站が機能できるよう列車経路を死守できれば、話は別だ。
すると、「入電!!一部部隊が北部の防衛線に向かうことが可能であると。進軍していた同盟軍はすでに、壊滅させたと連絡が」
「どこの部隊ですか!?」
「ローランド大尉が率いている部隊です」
嘘のような報告だった。あれほどの強襲を乗り切って、別の前線に行くことなど、普通の人間にはできない。そう“普通”の人間なら。
「現在は、各前線の兵士たちと協力し、敵の侵攻を遅らせると」
活路が見えた。しかし、この状況だ。ローランド自身が死んでしまう可能性は高い。本作戦を実行すれば、実行部隊のほとんどが犠牲になる。だけれども、私が発案しなくてもローランドが実行するだろう。
ここで、彼の言葉を思い出す。
_俺は帰って来て見せる_
今は彼を信じてみるべきである。
「…救援部隊に連絡。前線の救援後、北部都市、ベルシュバルクに向かうよう進言します。あなた達のご武運をお祈り申し上げします」と決意し、伝える。
数時間後、会議の後、本作戦が採択された。
この作戦が成功するかどうかで、結末がどうであれ、長きに渡った戦争が終わる。
後日、電報にて一つの私宛の連絡が届いた。
「君からもらったハンカチーフ、必ず君に届ける」と
その一週間後、戦争は終わった。