「本条約、一部同盟国側からの賠償金、占領地の返還によって今回の戦争行為の制裁とし、終戦とする」という議長の声によって、戦争は終わった。ここは、メルメイユ宮殿。そこで、王国、帝国といった国々の代表者が集まり、議論した。もちろん荒れに荒れた話し合いであった。しかし同盟側が終戦間際、不利であったから、帝国は有利な条約としてまとめ上げられた。
あまりに膨大な賠償金や植民地の奪取をすると、同盟国が暴走することも考え、調整し、生かさず、殺さず程度のものになるよう進言した。内容も修正したことで王国側も納得した。
これからは、戦後処理、復興だ。宮殿にて、お父様にご挨拶した後、荒廃している領地に戻ることになっている。
「今回の功績は、ソフィアがいなければ、なかっただろう。感謝する」と宮殿内の個室にて、お父様が感謝を述べられる。
「私は、これから戦争前に治めていた領地にて復興に尽力しに向かいます。お父様も本日の戦にて、限りなり力を発揮いたしました。帝国から侯爵の位を頂くと聞いております」
「――この戦争を経験してわかったよ。もう貴族制は終わりだ。血が絶えた者達も多い。最早、我々は必要なくなる。侯爵の地位も飾りとして、私が最後の代になるだろう」
「私も今後の身の振り方について考える経験になりました。これからは、戦後復興の目的以外で貴族としての名は使わないようにします」
「それがいい。しかし、残念だったな…」とお父様が言う。何を指しているのかわかっている。
「…帝国の勝利の為、数多くの英雄と同じく命を捧げたのです。帝国を守るという彼の遺志を継ぐため、私はこれから生きていきます」
「ヘルベルト・ラ・ヴァレット侯爵は、今も寝込んでいる。彼の息子たちは安全な後方に駐屯させていたが、最後の猛攻、そしてベルシュバルク決戦にて愛息を亡くした。私との少ない会話以外、ほとんど話さなくなった」
ローランドの父は私の父と一緒に話し合いをすることが多く、戦友のような仲になっていた。今や、同じ息子たちを失った傷をこぼせる唯一の人物となっている。
「ヘルベルト・ラ・ヴァレット侯爵から、ソフィアに伝えるように言われたことがある。ローランドと仲が良かった君が困難に直面したら、私たちヴァレット家ができる限り力になると。今後、復興事業を始めるのなら、頼ってみるといい」と伝えられた。
それから数日後、私は懐かしき故郷に戻ってきた。けれども、今まであった活気はなく、人がいなくなったことで建物が寂れ、廃墟となっている。
残っていた町民に話を聞き、私のことを覚えている町長に会うことができた。寂れた部屋の中で、今の状況について聞き、やるべきことをリストアップする。
改めて、現状を直視すると、やるべきことが山のようにある。しかし、この喪失感を誤魔化そうとただ、愚直に立ち向かう。
半年後、区画整理や農奴たちの嘆願を聞き、少しは活気が戻った。しかし、人が足りない。戦地から戻ってきた兵士たちもいるが、それでも多くの人間を失った。生活基盤を整備するのが精一杯である。
そんな時、ヴァレット家から連絡を受ける。
どうしても私に来てもらいたいということだ。今でも、やるべき仕事は多く、断ろうとも思ったが、エドワードの強い薦めとヴァレット家と共に復興することで、より早くお互いに領地を豊かにできると考え、かの領地に向かった。
ヴァレットの領地は王国と面している。だから、今回の戦争において最も大きな被害を受けた。いまだに、砲撃や焼かれた建造物が残っており、余り、復興は進んでいないことは明確であった。
そして着いた。目的の屋敷に。黒鉄によって造られた屋敷であり、大きな被害にあっていないように見える。屋敷の扉から使用人が出てきて、とある部屋に案内される。その部屋は鉄材と合金によって意匠が施されたレリーフの美しいドアがあった。
その扉が開かれ、中が執務室のような造りであることが分かった。そこに、一人の頭に包帯をしている男性が書類に記載していた。そして、顔を上げる。
「ロ、ローランド様!?」と思わず声を上げてしまった。
「――久しぶり。死人とあったような顔だ——」と彼が言いきる前に、彼に近づき、抱擁する。体が勝手に動いた。そして、今まで耐えていたかのように涙が溢れ出る。
「―—良かったぁ…です。貴方の訃報を聞いていたから、幾度も、後悔していました。あのような作戦を提案するべきではなかったと」
ローランドは、使用人に部屋の外に行くようハンドサインを送ると、私の体を上から優しく抱擁し返した。
「君は悪くない。もし、君が提案してなくとも、私が実行していた。それに、こうして生き延びた。全く自分でも運が良かったと思うよ」と彼の胸ポケットには、薄い赤色のハンカチーフが外に飛び出していた。
「言っただろう。君に届けるって。あの戦争で、傷を負ったとき、血を止めるために使ってしまって白ではなくなってしまったが」
「貴方の命の為に使ってくれたのなら本望です」
「いろいろ、積もる話がある。聞いてくれるか?」
「もちろんですわ」と答えるとローランドは、あの戦場で何が起こったのかを話してくれた。
サビエト王朝の軍隊は、補給線奪取のためベルシュバルクを制圧しようと進軍していた。なんとか動ける部隊率いて防衛戦を指揮していたが、敵軍は数が桁違いであった。
トラップとして地雷原を仕掛けたが、奴らはそんなものお構いなく突っ込んできた。防衛戦は三日間続き、動ける部隊は俺の直属の人間と残った精鋭たち。泥と血、そして火薬の臭いしかなかった。しかしそれは相手も同じだった。
相手は補給もせず突っ込んできたのだろう。動きが目に見えて鈍っていた。そこから、敵軍は都市を包囲し、砲撃によって建物や鉄道もろとも吹っ飛ばそうとしていた。
俺もそこで負傷してしまい、死の際をさまよっていた、だけれども、約束を果たせずに、死ぬわけにはいかない。その一心で命を繋いでいた。後は、君の知って通り、サビエト軍は、兵士たちに食糧を回せなくなり、前線崩壊の危機は去った。
しかし、ベルシュバルクにはまだ、サビエト軍の残党が周辺を荒らしていた。残った帝国軍をまとめ上げ、サビエト軍と戦いながら、故郷に帰るため様々な手を尽くした。北部の港まで、なんとかしてたどり着き、船で帰ってきた。帰郷軍を率いるのは大変だったよ。
「それは、大変な道のりでしたね。しかし、何かしらシグナルを出してもよかったのでは?」と聞いてしまう。
「事情を知らせず、心配させたことを謝る。私が捕虜になったら戦後処理はさらに、複雑になることを考え、敵を欺く必要があった。すまない」
「いえ、責めたもの言いをしてしまい申し訳ございません。でも帰ってきていたのなら、電報で教えてくれてもよかったじゃないですか…」
「本当は真っ先に連絡したかったんだけどな、―イザベラ―俺に仕えていた老女の執事に止められてな。どうやら、そっちに顔馴染みがいるらしく君がここに来て、直接会えるよう手配すると言われてな」
「顔なじみ?そういえば、今回の訪問にエドワード―私の老執事の強い薦めがあったわね」
「多分、彼のことだろう。どうやら、私たちがお見合いをすることを仕組んだのも二人だろうね。でも、すぐに電報にて伝えなくてよかったよ」
とローランドは私の頬に伝っていた水滴を拭って、続けて言った。
「君のこんな顔を見られたんだから」
涙を流したのはいつ以来だろうか。幼い頃から泣かない方であったし、書類仕事に追われて、毎日働き詰めだった時も、自分の命令で、若い兵士が死んでいった時も。
―いや―最近泣いたことがあった。ローランドの出兵が決まり、彼から伝えられた時に自然と涙が溢れていた。
「―最低ですね。ローランド様。子女の涙を見て喜ぶなんて。物語に出てくる悪徳領主みたいじゃないですか」
「―そうだな。こんなにも美しい人を泣かせるなど大罪だ」と言うと私の前に片足を跪いて言葉を紡いだ。
「もう二度と、君を一人置いて、泣かせたりしない。これからは、一緒にいてくれないか」とプロポーズをされた。もちろんその答えは
「―ッはい、喜んで!」
―ここは、帝国領内のとある町、いや最早街といった方がいいだろう。この国は、後の時代に世界大戦と呼ばれる争いにて、大きな被害を被った。ここも、終戦直後は多くの建物や田畑が荒れに荒れ、復興の兆しはないに等しかった。しかし、ここの土地を治めていた領主は、優れた頭脳を持った女性であり、他の帝国内の伝手を使い、早く復興事業に注力をした結果、以前よりも街並みは整然となった。昨日より今日、今日より明日より豊かになっていくこの街は活気に満ち溢れ、戦争の傷跡からいち早く立ち直っていった。
そんな街のある一画。そこは、破損していた教会を新たに立て直し、以前よりも美しくなった新たな教会が建っていた。今日はそこで、とある結婚式が行われている。参列している者たちは皆、帝国内で有名な人物たちであった。あの戦争の最中、智将として、名を刻んだヘルベルト・ラ・ヴァレット伯爵が涙を流しながら、新郎と話しているのが目撃され、新婦は、同じく先の戦にて、伯爵の爵位をうけたジョセフ・ド・ロアン伯爵に連れそられて入場した。
その二人は、この街の復興に最も力を尽くした功労者だ。街中の人間が祝福している。
牧師が誓いの言葉を新郎に尋ねる。
「ローランドさん、あなたはここにいるソフィアさんを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います。私はソフィアを心から愛し、共に歩むことを誓います」
今度は牧師が新婦に誓いを尋ねる。
「ソフィアさん、あなたはここにいるローランドさんを夫とし、健やかなるときも、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、愛し、敬い、慰め合い、ともに助け合い、命ある限り真心に尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います。私はローランドを支え、愛し、これからも共に歩むことを誓います」
新郎と新婦は目を合わせ、真心を込めて誓いを交わした。教会内の空気は感動と祝福で満たされていた。
私が結婚するなんて 俺が結婚するなんて Fin
前に書いた恋愛小説。チャレンジしてみると、意外に恥ずかしかったり。
いい経験になりました。