東方返對録   作:らじかる

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第1話

 惰性で毎日を過ごしつつ、与えられた最低限の課題はこなす。彼女はいないし友達も少なかったけど、それでもある程度は満足した人生を過ごしてきた。

 とはいえ、あくまでも「ある程度」であり、高校時代の転校生とフラグを発生させて夏休みに童貞卒業をすることはありえないし、部活のマネージャーと甘くて秘密の恋愛をすることもありえない。

 

 なんなら、初恋の女の子とは絶対に結ばれないし、幼馴染と結婚することもありえないと言っていいだろう。

 

 ⋯⋯まあ、総括するに俺の人生は限りなく平凡だった。容姿も学業も運動神経も全てが普通。シックスナインという言葉なんか小四で習得済みという、エロいことに関しては人一倍詳しいなんとも悲劇的なスケベモンスターだったけど、これは男として生まれてきた者の定めだと思う。

 

 ──けれども、やはり人生とは刺激的なものだと再認識したのは、あの時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街中のカップルどもがイチャイチャし始める冬の季節。時刻は部活終わりの夜7時。俺は自転車のペダルを電動ノコギリの如く回転させながら帰宅していた。

 家への距離が縮まる度に、寒さが制服の厚さを通り越して肌に刺さる。いつしか見たライトノベルでは、この感覚が頭をクリアにするとかって書かれていたけど、そいつはただのドMだと思う。

 

 風景が秒刻みに変化していき、その度にクリスマスの装飾が施された店や看板が目に入る。

 

「あぁ〜ん、こんなところでだめぇ!」

「別にいいだろ?刺激的じゃねえか」

「たしかに〜!アタシをメチャクチャにして〜!」

 

 死ねよリア充ども。

 公共の場であるというのに、けしからんことをしているカップルの真横を通り過ぎた時に、聞こえてきた会話がそれ。

 

 曲がり角を勢いよく曲がり、横断歩道を走り抜け、歩道を爆走して行く。歩行者が迷惑そうな顔をしていたが、そんなことを気にする小心者ではない。

 うん、今日くらいは許してくれ。何だって俺はカップルのイチャイチャを見せつけられねばならないんだ。

 どうせあれだろ?事後⋯⋯というか新年になったら『恋愛の熱、冷めちゃった。別れよっか』ってなるんだろ。男女の恋愛において、熱しやすく冷めやすいとはよく言われるものだが、男からしたら『(股間が)熱しやすく、ハメやすい』だけだろう。

 

 俺も女の子の生パンツとか見ていちゃいちゃしてぇよ⋯⋯なんて思っていた時、唐突に横から来た軽トラに跳ねられた。

 

 いや、俺が一番驚いたよ。

 だってカーブミラーには何も映ってなかったと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ」

 

 目を覚ましたら白い空間に寝転がっていた。

 あらあ。実はここは自分の意識の中で、神様からの謝罪とお告げを受ける空間とかそういうのですか?某転生系を思い出してしまう。俺もイケメンに生まれ変わってハーレムしたい。

 

「待て。とりあえず状況判断だ。機に臨んで変に応じろ」

 

 カッコつけて考える人のポーズを取ってみる。

 俺は自転車を爆走してカーブミラーを確認して曲がったら、軽トラに跳ねられた。ここまではヨシ。

 そしたらこの空間にいたんだ。うん、状況の判断材料が乏しすぎる。

 

 どうしよう。何もしないでいるのもあれだし、天日干しされた鯵のモノマネをしながらビタンビタン跳ねてみようか。いつでも臨機応変に、柔軟に適応していくのが俺のスタイルなのだ。

 その為には常にリラックスしておかねばならない。その点において、俺の行動は悪くないものと言えるだろう。

 

「うおー!楽しいー!」

 

 びたんびたんびたーん。

 身体の関節を外してぐにょぐにょ曲がってみた。あれ、意外と楽しいじゃないか。

 こんなことを生きている時にやっていたら、『とりあえず怪しいので〜』だの『女性を不快な気分にさせたので〜』だの変な理由で逮捕されてしまうので、羽目を外す行為も新鮮だ。少年法は高校生を守ってくれない。

 

 とはいえ、そろそろ状況が進展しないのだろうか。

 さすがに何分間も自分の気持ちを誤魔化すのはキツイ。さっきのキチガイじみた行動なんて楽しいわけが無いだろ。いい加減にしろ。

 

「チャッチャチャーン!おめでとうございます。あなたは公平な抽選の末に転生者の対象として選ばれました」

 

 後ろからこの場に似つかわしくない女の子の声が聞こえたので、振り向くと白髪美少女ロリが拍手をしながら立っていた。

 何がおめでとう、だよ。俺死んだんだけど。最期に聞いた言葉が「アタシをメチャクチャにして〜!」とか酷すぎないか。こんなんじゃあ、俺がエロゲをしている途中に心不全か何かで死んでしまったと勘違いされてしまう。

 

「貴女は誰ですか?後、転生ってなんですか?」

 

 とりあえずツッコミどころ満載の言葉の中から、比較的重要だと思った言葉について質問してみる。

 

「私は人間界の輪廻転生を担当している天使です。精神を消耗しながら日々を生きている人間を可哀想に思った大天使様が、新入りの魂限定のキャンペーンを実施しまして。それを呼称したものが転生です」

「具体的には?」

「先約がある場合は無理ですが、アニメやゲームの世界に転生することができて且つ記憶は保持したまま。チート能力付与可能、ハーレム可能、ある程度の命の保証、身体能力の底上げエトセトラ、エトセトラ」

 

 へー、転生ってスゲー!

 サラッと流したけど、ハーレム可能とも言っていた気がする。いいですね。美少女とキャッキャウフフができるってことですか。これは夢が広ガリングだ。

 

「じゃあ、エロゲとかの世界にも転生できるってことですか」

「勿論です。その場合はゲームの主人公として設定されている人物に憑依する、という形になりますが」

 

 なるほどなるほど。

 んじゃあ早速俺の知っているエロゲ世界でムフフフさせてもらおう。

 

「じゃあ、君が望む永遠というゲームに転生させてください」

「先約がいるので無理ですね」

 

 あらま。少しだけマニアックなものにしたつもりだったけど、かなり有名なのだろうか。まあまあ、それなら切り替えていこう。

 

「スクールデイズは?」

「そちらも⋯⋯アニメで興味を持った方が転生いたしました」

 

 あうち。二連続失敗はいただけない。

 それにしても、皆さん性欲旺盛なことで。死んでまでも自分の欲求を追求するって、性の亡者は怖いなあ。←

 

「じゃあ趣向を変えてFate」

 

 エロゲから一転。際どい所を狙っていくのです。性癖モリモリなヒロインは俺が全て食いつくそう。⋯⋯まあFateは原作がエロゲらしいけど。

 

「無理です」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯原神」

 

 過負荷反応で敵を薙ぎ倒してやる。

 あとロリキャラ。

 

「残念ですが⋯⋯」

 

 いや、は?ちょっと待てと。ふざけんなと。

 なんでこう、俺と他人の行きたいところがこんなに被っちゃうかな。狙ってんの?これ系で思いつくのはもう東方か艦これくらいしか無いんだが。

 

「じゃあもう東方でいいよ!」

「了解しました。東方ですね」

 

 えっ、東方が空いてるんだ。口に出しておきながらだけど、意外だな。

 たしか、東方ってあれでしょ?美少女がたくさん出てくる最高のゲーム。

 うん。悪くない。美少女の黒パンツをオカズにしながら白米を食べるとしよう。我ながら素晴らしい色のコントラストだと思うのです。

 

「それでは、次に能力についてです。これには様々な制約がありますが⋯⋯」

 

 さて、どの娘と付き合おうか?王道を征くのなら博麗霊夢なのだろうが、変化球ならばえーりんだろう。ロリロリしてるチルノでも良いし、あたしでシコシコして〜ん♡な東風谷早苗でも良い。申し訳ないが東風谷早苗の清楚説はNGでお願いします。

 

「従って、貴方に課されるデメリットは〜⋯⋯」

 

 次はシチュエーションだ。これは十人十色、様々な場面を想像するだろうが俺の場合は『純愛と信頼の下で行われる行為』。これに尽きる。生前に見た公衆の前でイチャつくアレは論外だ。論外。

 ラノベでよく見る、男主人公がメインヒロインを敵から救い出した夜にて⋯⋯のシーンを一回は体験してみたい。

 

「まとめると、貴方の能力は自分で決めれるものの〜⋯⋯」

 

 あー!早く転生したいなぁ!この長ったらしい説明とかもう分かんねぇなコレ。一刻も早く俺の聖剣エクスカリバーを解き放ちたい。東方に転生するからにはそのくらいの意気込みを背負うべきだ。

 

「⋯⋯⋯チッ、この淫らなエロガキが」

「ピピー!日本語警察だ!名詞に重複した修飾はアウト!」

 

 ビキィ、と天使の額に血管が浮かび上がった。それも爽やかな笑顔を添えて。ふむ。まずはワンアウトと言ったところか。

 だが、さすがにおちょくり過ぎちゃったみたい。さらに不機嫌にさせて、こんな千載一遇どころの話じゃないチャンスを逃がしてはたまらないので、そろそろ真面目にいこう。

 

「ごめんごめん。冗談です。それで、俺の能力って何でしょう?」

「私の話を聞いてませんでしたか?」

 

 ビキビキィ、と。天使の色白で華奢な首にも血管が浮かび上がる。もちろん、爽やかな笑顔は変わらない。ツーアウト。

 

「いや本当にすみません。話を聞かないのは僕の悪い癖なんですけど、どうにもつまらなゲフンゲフン。退屈⋯⋯いや、これも違うか。冗長な話は苦手なもので」

「冗、長⋯⋯?」

 

 ビキビキビキィ!!ともはや顔全体の筋肉が引きつっている天使さん。

 よし、スリーアウト。チェンジ。対戦ありがとうございました。俺の負けです。

 

「お前なんか!猫のうんこ踏めー!!」

 

 バチィ!と天使が俺の頬に平手打ちをかまし、途端に視界が暗転する。これで会話は終わりみたい。

 あーあ、本当にロクでもない人生だったね⋯

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