異世界から帰ってきた勇者、監獄にぶち込まれる   作:生しょうゆ

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第27話 旅行

 

 

 

「さあさあ時は待ってくれやせんぜ荷を纏めてさっさと飛び出しやしょう旦那!」

「上手く行ったんかい」

 

 翌日の早朝、目覚まし代わりに部屋に飛び込んできたのはアラタメであった。しかしその様相は普段とは異なっている。

 

 重苦しい黒フードを脱ぎ捨てて、黒シャツの上からミリタリージャケットを羽織り、黒のハーフパンツとスニーカーと、普段とは違って随分めかし込んでいる。黒無地のキャップから肩口までに伸びる髪色が、白やら赤やら黒やらの斑模様に染められているのと、両耳にピアスをバチバチに決めているのが印象最悪だが。

 

 しかし、これでも普段の暗殺家業丸出しのファッションに比べれば、快活なパンク女と見えなくも……ミリタリージャケットに刃物を大量に隠しているから、職質されたら一発アウトだな。

 

 どうせ大量のピアスも暗器か何かだろう。そういう用途に使えそうな、鋭く研がれた物ばかりである。

 

「っひひひ見惚れやしたかい旦那。普段の俺からすりゃ考えられねえ程に気ぃ遣っているでしょう。ファッション誌に載っていたモンを丸パクリしたんでさあ」

「現代版のアサシンって感じですげー似合ってるよ。てか本当にマムロ先生許可出したの?」

「へへへありがとうごぜえやす。この間飲み干しやがった酒を盾にすりゃあ一発でしたぜ。まあ名目上は俺の監視下での解放治療って話になったみてえですが」

 

 と、アラタメの後ろから気まずそうに、と言うか後ろめたそうにマムロ先生がぬるぬる現れた。「いや違うんですよ」と開口一番に言い訳が飛び出してきたが、十二個の瞳は全て明後日の方向に逸らされている。増えてるぞ。

 

「私としてもね、カワセミさんの病状は思ったよりも軽微だと思いましてね。いや、決してカワセミさんに贈られた物を飲み干してしまった不備だとか賠償だとかではないのですよ。はい」

「上司に許可は取ったんです? 行って捕まりましたじゃお笑いにもなりませんが」

「あ、そこは大丈夫です。他の皆さんはともかく、カワセミさんならば良いだろうと。というよりも『なんでまだ入ってるの?』と言われましたよ。病人である事は確かだというのに」

「上司さんに常識が通じるのが一番安心したかもしれんな」

 

 しかし、そういう話ならば喜んで外出しようではないか。勇んでそのまま外に出ようとし、「いや着替えて下せえよ病院着で街をうろつくつもりですかい」とアラタメに冷静に言われた。

 

「ああそういやすっかり忘れていた。着るものねえんだった。どうしよ」

「私の服を貸してあげましょうか?」

「触手の……服を? 興味あるなあ……ちょっと見せて欲しいです」

「んな胡乱なモン着せられるわけねえでしょう変な病気が移っちまったらどうするんです。ちゃんと旦那の服も持ってきやしたんでそれに着替えて下せえひひひ俺色に染まり上がる旦那ですぜ旦那ぁ!」

「医者が病気を持っているわけがないでしょう!」

 

 確かに医者の不養生とは無縁そうなマムロ先生ではあるが、人類にとって未知のウイルスは保菌してそうなので止めておくことにする。

 

 アラタメはにんまりと笑って服を差し出した。本人的にはファッションのことなど全く分からぬのか、これも雑誌からそのまま取り出したような黒無地のジャケットに白シャツ、ジャケットと同色のスラックスに黒の革靴である。全体的に黒いのだが趣味なのだろうか。

 

「服はともかくベルトがちゃっちいんだが。これだけ安物だろ」

「見えねえんだから安物でも良いじゃないですか。思ったよりも金かかって俺ぁビックリしたんですぜ」

「不意に覗いたときにクソ安いベルト使ってると分かったらダサいじゃん。まあ用意してくれただけありがたいけど。すっかり忘れてたわ。すまんな」

 

「じゃあ買いに行きやしょうぜ俺が選んであげますよ旦那ぁ」とルートが一つ決まったところで、しかしどうやって行くのだろう。船でも出るのだろうか。

 

 病院着を脱いでアラタメファッションに着替えてから部屋を出る。外に出る前に毎日病院着野郎共に見せ付けてやろうとラウンジに行けば、そこでは何時もの通り病院そのものの光景があった。

 

 不味そうにコーヒーを飲んでいたヨビソン爺さんが意外そうに目を向ける。カナナナくんとメルニウスもパーティーゲームの手を止めて振り返り、オワリちゃんが眉を寄せた。

 

「なんじゃ、出所かお前。達者でな。もう二度と帰ってくるんじゃないぞ」

「生憎、これから東京でデートだ。今日の夜には再収監されるだろうよ」

「……あ、出られるんですか? へえ、上手く行ったんですねアラタメさん。へえ」

「お土産お願いね! ぼくケーキが良いな! タルトね! 苺が沢山乗った奴が東京駅で売ってるから買ってね!」

「であれば我の為にも用意しろ。甘味が良い。カナナナの物とは別にな。この別にとは、勿論我の分のケーキも用意した上でだぞ?」

 

 注文の多い奴等である。「じゃあ儂は手土産としてこれを預けておくのじゃ」と爺さんは固く密封された小箱を手渡してきた。なにこれ。

 

「新宿は魔都の北門に鳥居があるのじゃが、入口から見て右側の柱に小さな窪みがある。そこにちょっと置いてくるだけで良いのじゃ。頼むぞ」

「そんな怪しい事を頼む奴があるか馬鹿」

「別に違法な物は何一つとして入っておらんのじゃが。まあ儂の制作物が違法かと言えば違法なんじゃがな。カカカカッ!」

「んな糞荷物海に投げ捨ててやりやしょうぜ旦那」

 

 アラタメはそう言うが、しかし観光ついでに目的を作ると考えれば悪くはない。気になりゃ中身を見れば良いだけのことである。「ついでに歌舞伎揚買ってこい。高い奴」とも言われたので脳内リストに加えておこう。

 

「オワリちゃんは?」

「……悩みますね。カワセミさんが私のために選んでくれるプレゼント、ですか」

「あっその言い方気に入らねえ別に俺がお嬢さんのためを思って選んでやっても良いんですぜ仲が良いしねえお嬢さん?」

「……では、アラタメさんは詩集を適当に二十冊ほど買ってきて下さい。カワセミさんは、何か身に付けるような小物を一つ、お願いします」

「どっちにしろ俺が出す金なんですがね旦那はヒモ野郎でさぁ」

 

 アラタメは「ういうい」とからかうように俺の脇腹を小突いた。その通りである。皆が勝手に言ってきたので受ける感じになっているが、そもそも俺は文無しの無職であり、土産を買う金などないのだった。

 

「まあ別に良いですがね。折角外に出るってのに土産の一つも買わなきゃ味気ねえや。いやあ俺がいい女で助かりやしたね旦那。男を立てるいい女だぁ」

「凄まじく情けない話なので肯定しておこう。お前は素直にいい女だ」

「えへへ金出してるから普段より態度が柔らかいですぜ癖になりそうだ金で優しく接して貰うの。旦那、俺に買われねえですか? 俺ぁ優しく旦那を飼ってあげやすぜ」

「勇者に出ていた国家予算が確か年間で……」

「あっやっぱなし国家予算出してくるのはズルでしょう高ぇ男だなこいつ」

 

 けーっと冗談の割には悔しそうにしているアラタメと共に皆に手を振って外に出る。見れば船着き場には一隻の船がある。流線型の滑らかなシルエットは、葛城に二つに折られたチンピラ共のそれを彷彿とさせるが、こちらは傷一つなく新品そのままであった。

 

 アラタメは慣れた様子で乗り込むと、よく分からぬ機械を動かして密閉された船内にモニターを点けた。SFな感じである。そして「動かしやすぜ旦那ぁ!」とテンションが高い。

 

「というか船も動かせるとか凄いな。素直に感心だ」

「えへへそうですかい? いやあ照れちゃうなあへへへへへ!」

 

 カチカチと計器が一定の速度で音を立てながら、次第にエンジン音が大きくなっていく。アラタメはにやけたままハンドルを握り、切った。

 

 船はぐおんと轟音を上げて島を出た。海を駆ける荒々しい音が外から聞こえている。モニターに広がるのは青い空と青い海ばかりである。東京湾に存在する割には陸も何も見えてこないのだが。ひょっとして嘘つかれた?

 

 と、思った途端にモニターに描画される景色が陽炎のように揺れた。そうして切り替わった後には、壮大な大建築が海の向こうに見えていた。

 

「……なにあれ?」

「ああ旦那は知らなかったんですかい? あの島の周りにゃよく知らねえんですが結界が張られていやしてね、見えねえし入れねえし出られねえってもっぱらの評判でさあ。だから専用の船を借りたんですがね」

「いや、それもだけど、なんで死ぬほど物々しい砲門がこっちを向いてるのかって話だが」

 

 切り替わった光景に飛び込んできたのは、東京湾に対して威圧的に聳える城塞のような建築と、そこに設置された夥しい数の砲門である。

 

 いや何か鉄製っぽい長いものだから砲門と思ったが、その割には細く複雑な構造をしている。「ありゃ霊子波動砲ですぜ。何でもかんでも消し飛ばすおっかねえ奴ですよ」アラタメが得意げに言った。

 

「そのおっかねえ奴が何でこっち向いてるわけ?」

「そりゃあの爺さんの為に作られた奴だからですよ旦那。俺も普段は気にしねえんですが伝説はまだまだ風化しねえんだなあ」

「こっち向いて動いているんだが大丈夫なの?」

「へへへ旦那は心配性ですねえちゃんとマムロ先生に許可取ってんだ撃ってくるはずが何で光ってやがんだおかしいなあっぶううううう!!!」

 

 アラタメの急旋回によって船内はぐるりと揺れたが問題はそんな事ではない。撃ってきやがった。砲門から黄金の光線が発射されて海を焼いたのである。船はギリギリで光線を避けたが砲門はまだ光っている!

 

「おい何がどうなってんだ!? 連絡が伝わってなかったのか!? あのクソ触手野郎マジで勝手に島を占拠してるだけとかじゃねえだろうな!」

「あり得ますぜ俺もおかしいと思ってたんでさあ触手の化け物が医者ごっこをしているなんてよくよく考えてみりゃ狂人の夢でしかねえ畜生!」

『いや好き放題言ってくれますね。何をしているんですかアラタメさん』

 

 船内に悍ましい音が響いたかと思えばマムロ先生の声である。「何してるってそりゃこっちの話だろうがボケ触手俺と旦那のデートを邪魔しやがって!」とアラタメは辛辣に返すがマムロ先生は大仰に溜息を吐いた。肩をすくめているような触手の蠢きが目に見えるようである。

 

『いや最初に言いましたよね? ルートから外れると警告として撃ち出すので自動運転を解除しないで下さいって。なんで自分で運転しているんですか』

「お前のせいかよ」

「……そんな事を言っていたような言っていないような」

『言いました! 全くもう。急に連絡が入ってきて差し止めるのは大変だったんですよ?』

 

 見れば砲塔は輝きを失い、その位置も規定された場所へ戻ろうとしているようである。アラタメが慌てて機械を操作し、ハンドルから手を離してからだった。

 

「いやすいやせん本当に……調子乗っちゃいましてねへへへ……」

『お土産として私に子羊の肉塊を。みそぎさんには、そうですね。宝石でも買ってきて下さい』

「た、高ぇ……。それに肉塊なんてどうやって探しゃいいんですかい困るなあ」

「アメ横とかならあるかな……? まだアメ横があるかどうかも知らねえけど」

「旦那は頼りになるなあ!」

 

 代わって静かに船は行く。心臓に悪い旅行の始まりだった。

 

 

 




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