異世界から帰ってきた勇者、監獄にぶち込まれる   作:生しょうゆ

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第3話 鎧を脱げ

 

 

 

 俺は勇者だったから異世界でも様々な武具を手にしてきたが、一つ剣、鎧と言っても様々な特性がある。

 

 それは防御力という単純な指標だけでは測れない。龍の鎧は龍の威光を発して魔物を怯えさせることが出来るし、風神の篭手は風のように軽く、素早く動くことが出来る。

 

 翻って、メルニウスの鎧はまさしく王の鎧である。赤金に飾られた豪奢な金属は滑らかに身体を覆い尽くし、そこに佇むだけで威風が感じられる。傅くに足ると思わせる鎧。それがこの鎧の特性か。

 

「で、脱がねえの? それ」

「貴様、不敬にも程があるのでは……?」

「……メルニウスさんに呆れられるとか、逆に凄いですね?」

 

 ここにぶち込まれて三日目、とうとう俺はずっと気になっていたことを聞いた。

 

 時刻はおやつを食べた後の午後四時。カナナナくんは自室で昼寝しているし、ヨビソン爺さんは何やら熱心に手紙を書いている。なにか悪いことでも企んでいるのか知らんが、書きながらゲヒゲヒ笑うのだけは止めて欲しい。気持ちが悪いわ。

 

「それで実際、窮屈じゃねえの? 全身鎧は重いだろ。重量無視の効果も付いてねえし。一番要になってるのは……なに、浸食結界? ああ、フィールドに効果を与えるタイプ?」

「ふん、見ただけで分かるか。皇帝を見透かすなどとは不敬であるが、その鑑識眼は賞賛に値する」

 

 褒められたが特に嬉しくはない。何せ、かなり厄介なタイプの効果だ。これ一つで国が手に入る。金銭的な意味ではなく、自分の領土に出来るという意味だ。

 

「それ、何で使わねえの? 皇帝なのに」

「大義のない侵略を我がすると? 今、この地の臣民は平穏を望んでいる。であれば我一人のため平穏を脅かすは、皇帝ならぬ魔王なるぞ」

「かっけー」

「……馬鹿にしてます?」

「してないしてない。本気で尊敬。本気と書いてマジ」

 

 実際、そういう王様ばかりだったら良かったのにね。王様も魔王も法王も皇帝も皆クソだったのが異世界だった。まあ一人残らず首飛ばしたので未練はねえけどな。

 

 しかし、となると話は最初の方に戻ってくる。

 

「で、脱がねえの?」

「そろそろ罰を与えねばならんか? この鎧は冠に並び皇帝の象徴である。皇帝がそれを外すのは、自らの部屋と風呂に入る時のみよ」

「……もしかして、脱がせたいだけですか? 最低ですね……」

「いやいや、違うっての。だってずっとガチャガチャ鳴っていてうるせんだもの」

 

 あと存在圧が高すぎて気が休まらねえんだよ。そういうの感じてると勝手にぶっ殺したくなってくるのは職業病みたいなものである。

 

 しかし、軽口にも似た俺の言葉に、メルニウスは「ふむ」と真面目な顔をして眉を顰めた。顎先に指を添えるのが様になっている。

 

「うるさい、か……。確かに、ここは物音少ない静謐な場所だ。皇帝の威光も輝きすぎるか」

「凄えな。話が分かる皇帝とか本気の本気で尊敬するね。もう剣を預けても良いくらい」

「貴様は臣下と呼ぶには少々無礼が過ぎるな。もう少しばかり客将の身分でいろ」

「勇者なんて客将みてえなもんだったから慣れっこだぜ!」

 

「……どっちもズレてますよ」とオワリちゃんが呟き、カボチャのケーキを小さく口に含んだ。三時のおやつをまだ食べ終わっていない。食の進みが遅すぎるなこの子。欲しそうに見つめていたカナナナくんに半分あげてこれだからな。

 

 しかし、「だが!」と不意にメルニウスが椅子から立ち上がり叫んだ。うわビックリした急に叫ぶな。

 

「臣下の忠言に耳を傾けるのも皇帝の役目だが、皇帝がおいそれと前言を撤回しては国が傾くのも事実。なればこそ、我の鎧を置かせたいのであれば、命を賭してみよ!」

「えぇ……やだよ」

「安心しろ。命までは取らぬ」

「どっちだよ」

 

 言っている内に、オワリちゃんが「……ああ」と何か納得したように頷いて、車椅子を動かして本棚の方をごそごそと探し、持ってきた。

 

 それは古めかしい鞄であった。鍵を外せば、非常に見慣れた、しかし懐かしいものがある。麻雀であった。

 

「遊戯にて決着を付けてやろう。ヨビソン、オワリ、卓に着けぇ!」

「ひょっとして、ここって麻雀でもめ事を解決してんの? 俺が入れられたの雀鬼養成の為の地下訓練所だったりする?」

「……ふふ。私、強いですよ。飛ばしてあげます」

「ふふ、この子のキャラが分からなくなってきたぜ」

 

 それで「脱衣麻雀か!?」と嬉しそうな声を上げて参戦してきたヨビソン爺さんと卓を囲み、半荘でのプレイ開始。俺が異世界で鍛えた雀力、見せる時が来ましたかっと……。

 

 結果は思いっ切りドベでした。

 

「弱っ。よっわ。何じゃお前、逆サマでもしておるのか?」

「……三位のヨビソンさんが言えたことではないですが。ですが、本当に弱いですね」

「我が天に愛されし皇帝とは言え、貴様に向かう運を吸い尽くすほどではなかったはずだがな」

 

 口々に散々なことを言ってきやがるが、しょうがねえだろ。根本的に俺の運は悪いんだよ。じゃなきゃ異世界召喚なんかされてねえよ。それに運も徳もとっくに使い果たしたんだよ。クソ女神をぶっ殺したときにな。

 

「じゃあ仕方がねえ。これも敗者の定め。まずは靴下から順番に脱がせて貰おうか」

「要らん。貴様の勇は既に果たされた。故に脱ぐのは我である」

「じゃあ儂も。……この流れ、分かっておろうな?」

「……ふふ、ごめんなさい。私、貴方達に呆れているんです」

 

 そう言ってオワリちゃんは「ごちそうさまです」と皿を持って廊下に出た。半荘打っている間に食べ終わっていたらしい。「つまんねー」と呟くヨビソン爺さんに軽く引いた。

 

「え、何? お爺ちゃんってばロリコンだった? オワリちゃんどう見ても高校生くらいでしょ。キッショ」

「儂の性癖は40以上よ。と言うよりも、あれを子供と呼べるお前が異常よ。儂の言いたいこと、分かるじゃろう?」

「それはそれで趣味が悪いけどな」

「なに、儂は魔王じゃ」

 

 ヨビソン爺さんはわざわざ下劣な笑みを浮かべ、そう嘯いた。

 

 あの包帯が、何かを癒やすためのものではなく、何かを封印するものでもなく、取り返しの付かない何かを覆い隠すためのものであるということは、彼も重々承知しているだろうに。

 

 言ってしまえば、あの包帯の下にあるものは人の肉ではない。神の肉。概念的な情報に変質した異形の肉である。晒しただけで常人の目を焼くだろう。まあ見なければ良いだけのことなんだが。

 

「ありゃ治せねえのかい。こっちの魔法はどうか知らんが、作れたのなら戻せるってのが道理だろ」

「無理も無理。偶然も偶然に生まれた奴じゃ。それこそ神の奇跡じゃぞ。奇跡は人の領域ではない。いくら尊神の家とは言えのう」

 

「というよりも、お前はどうなのだ」とヨビソン爺さんが言う。

 

「あの剣、遥か遠くとしか感じられんかったが、間違いなくその領域じゃろう? お前なら治せるんじゃないのかね、勇者様?」

「元勇者な。生憎、俺は回復魔法を覚えてなくてね。殺して壊すことだけが俺の役割だった。だが……」

 

 残してきた仲間、魔法使いの彼女なら、もしかすればって話だが、それこそ無意味な仮定だろう。今は自由によろしくやっているに違いない。

 

 あいつには随分迷惑を掛けた。願うのならば、何者にも束縛されず、そのまま魔法の研究に勤しんで貰いたいものだが。

 

「だが、メルニウスの鎧は? その領域に閉じ込めりゃ多少の無理は効くだろう」

「当人が望まぬ事を無理にするのは暴君である。我は慈悲に溢れた皇帝であり、虐殺者ではない。加えてオワリは臣民であり、討伐すべき怪物ではないのだ」

 

 ふん、とメルニウスはそのまま鎧を脱ぐ。カチャカチャと外された鎧は生きているように動き出し、収縮し、一つの形を象る。

 

 腕輪である。彼女が戴く王冠に同じく、しかし赤色が入った煌びやかなそれを身に付け、「うむ、随分軽くなった」とメルニウスは金髪を靡かせた。

 

「しかし、望む望まぬは、カナナナのような瞳を持たぬ我らに分かることではない。我がこの軽さに、もっと早くから脱いでおけば良かったと思っているように、オワリにも声を掛けるべき時があるだろうな」

「思ったのかよ。笑っちゃった」

「全然笑ってねえじゃねえかよ、元勇者様。気持ち悪っ」

 

 そりゃ笑わねえさ。下らねえ下らねえくっだらねえと、口にしそうになったのを飲み込んだ。まだ猶予はあるし、何より俺が踏み込むべき域ではない。

 

 お姫様のように、どうしようもなく壊れちまった人間ならともかくな。

 

 あと、気持ち悪いとか言うな。

 

 

 

 ちなみに、一番麻雀が強いのはカナナナくんらしい。というか全部分かるので絶対に勝てない上に、面子を全部口に出してしまうため、そもそも麻雀にならないらしい。クソ強っ。

 

 

 

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