錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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あにまん掲示板で投稿したものです。こちらにも掲載しておきます。

元スレ
https://bbs.animanch.com/board/3531669/


デバッガー.1

ゲームのデバッグのバイトを始めた錠前サオリだ。ゲームは先生とミレニアムの生徒がたまにシャーレでやっているのを見るくらいで、正直よく分かっていない。だが知識がなくてもできる作業らしく、自分探しになるかと思って応募してみたのだ。

今回の勤務時間は12時から16時までの4時間、時給は1500円だ。今までやけに高い給与のバイトをし続けていたため感覚がおかしくなっているが、これでもいい額だと思う。張り切っていこう。

なになに、注意事項として『発売前のゲームのため、情報を外部に漏らさないこと』らしい。要するに守秘義務か。当然の内容だな、気をつけよう。

 

(1日目)

 

「それじゃあバイトさん、こっちのデスクで作業をしてもらいますんで!」

「了解した、失礼する」

指定されたデスクに着席する。椅子がふかふかで座り心地がいい。パソコンは7色に輝いていて、よく分からないがとても高性能な気がした。

ここは雇い主のゲーム制作会社のオフィス。広い部屋に10個のデスク、給湯室、トイレが設置されている。私以外の従業員は6人で、これが全社員らしい。

「じゃあゲームを起動しましょうか、この『幻想神社の怪』というアプリをクリックして下さい」

リーダーを名乗る社員の獣人(ボーダーコリー)の指示に従い、ゲームを起動する。すると画面いっぱいに綺麗な桜並木と中心に大きな神社、そこに立つ可愛らしい少女のイラストが出て来た。

「おお、綺麗だな」

「ありがとうございます!グラフィック担当も喜びます!じゃ、やって欲しい作業の説明をしますね」

そう言ってリーダーは私に代わってゲームを操作し、キャラクターを神社の前まで動かした。

「ここはストーリーの中で重要になるフィールド、幻想神社っす。バイトさんにはここのデバッグをやって貰います」

そうして具体的に仕事の説明をされたのだが……驚いたな。ゲームにバグがないか確認するために特定の行動を何千回もやるそうで、その行動も「壁にぶつかる」、「階段を上り下りする』、『NPCに話しかけ続ける』など、この幻想神社の中でもかなりの量があった。これは根気のいる作業になりそうだ。

「ゲームの方はほぼ完成してて、あとはこのデバッグだけなんすよね〜。社員みんなでやるにしても莫大な量だからモチベ下がっちゃって」

「だから私を雇ったわけだな」

「そうっす。まあ何かあったら言って下さい、俺達もそっちでデバッグやってるんで」

「了解した」

そう言ってリーダーは自分のデスクに戻っていく。よく見るとシャツはよれよれで、顔には疲れが見えていた。そして他の社員も疲れている様子だ。ゲーム制作とは大変なんだな。彼らを少しでも楽にするために頑張ろう。気を引き締めてキャラクターを操作した。

まずはお参りの作業だ。幻想神社の本殿にキャラを動かすとお参りをすることができる。これを1000回。

ボタンを押すとキャラクターが小銭を投げ入れ、祈りを捧げた。つられて私も、このゲームが無事に完成するようにと祈った。

"今日もいいことありますように"

祈り終わるとそんなセリフが表示され、これでお参りは終了だ。見たところバグらしいものはないが、あと999回やれば何かが起きるかも知れない。集中して、一挙手一投足に目を光らせる。

そうして4時間の業務を頑張り、お参りと他のいくつかの作業を終わらせることができた。

「すごいっすよバイトさん!中々早いじゃないっすか!」

「そうか?役立ってるのなら何よりだ」

リーダーからも褒められ、初日は好調のまま業務を終了した。

 

(2日目、出勤前)

 

拠点の廃墟で朝を迎える。私の出勤はお昼の12時からで、まだ時間がある。私は付近の散策をして時間を潰すことにした。

街並みはD.U.あるいは先生が暮らしていた日本という場所のそれに近い。何か面白いものはないかと探していると、拠点の近くの住宅街に神社を見つけた。住宅街を見下ろす小高い丘に建てられており、境内には青々とした木々が植えられている。

「よく見ると、幻想神社に似ているな。あれも小高い丘の上に建てられていたはずだ」

昨日のデバッグ作業を思い出し、頭の中でこの神社と幻想神社を見比べてみる。どちらも綺麗な神社だ。こちらの神社の豊かな木々も、幻想神社の桜並木も、どちらも味があると思う。

「ん?あの井戸……」

手水舎のすぐ側に井戸があった。そういえば幻想神社にもあった気がする。もしかしたら幻想神社はここをモチーフにしてるのかも知れない、そんなことを考えながら井戸に近づいた。真新しい蓋がされていて中は覗けないが、よく手入れされている。隣には説明のパネルが置いてあった。なになに、この神社には井戸の神が祀られていて、その神がこの地で最初に掘った井戸がこれらしい。

「ここから湧き出る水が住民の生活を支えた……か。この地の大切な神様なんだな」

この手水舎の水も井戸から引いた水だろうか、私は綺麗な水で手を洗い、本殿に近づいた。そして財布から小銭を取り出して投げ入れる。

(祈りたいことならたくさんあるな、バイトもそうだが、姫達のことも。だがここに来るのは今日が初めてだし、まずは挨拶からだろうか?)

「バイトでこの自治区に来た錠前サオリだ、よろしく頼む。ここで頑張って働くので、見守って欲しい……今日もいいことありますように」

2礼2拍手1礼……よし。お参りを済ませ、私は拠点に戻ったのだった。

 

(2日目、出勤)

 

昨日で本殿での作業が終わったので、今日は井戸のデバッグを行う。どうやらストーリー中でも井戸が重要になるらしい。やはり幻想神社のモチーフはあの神社なのかも知れないな。

「最初は……井戸の中にアイテムを入れるイベントが正常に行われるかの確認だな。やってみよう」

一連のイベントを何度も繰り返し、予定外の動作をしないか確認する。夜の神社、井戸に近づき、蓋を開けて、中にアイテム……藁人形を入れる。

 

(水音)

 

藁人形が水の中に落ちる音が響く。その音がやけにリアルで背筋がゾワっとした。

これを繰り返して約200回、藁人形を入れた後に予定外のセリフが出て来た。

"ゆるさない"

「ん?バグか?リーダー、来てくれ」

バグの発生を報告すると、リーダーは私の代わりにパソコンを操作し、プログラミング言語の羅列を確認し始めた。

「……おかしいな、見たところ正常なはずなのに。何でここでセリフが出るんだ?」

ゲームの画面に戻し、もう一度井戸に藁人形を投げ込む。するとまたセリフが出て来た。さらに……、

 

「お前達は許さない」

 

「え!?何だ今の音声!?」

「リーダー、これもバグか?どこかで使う音声が間違って流れて来たのか?」

「いや、このゲームにボイスなんて入れた覚えは……おかしいっすねぇ」

「……私にできることはあるか?」

「ああ、ごめんっすバイトさん。後はこっちでやっとくんで、他のデバッグ作業をお願いするっす」

リーダーは私のパソコンを元の画面に戻して、自分の席に戻った。恐らく先ほどのバグと格闘してるのだろう、ああでもないこうでもないと唸っている。

「予想以上にバグが多い……どうなってるんだ?」

見渡してみると、他の社員もバグで苦しんでいるようだ。心配だが、知識のない私にできるのは与えられた仕事をこなすことだけだ。私は他のデバッグ作業を開始した。

 

 

 

(3日目、出勤前)

 

昨日に引き続き、出勤前に神社にやって来た錠前サオリだ。先生の住んでた日本には御百度参りという文化もあるらしい。私の祈りがどこまで届くか分からないが、毎日通っていたらいいことの一つはあるだろう。

境内に入ると、獣人(柴犬)のご婦人が落ち葉の掃き掃除をしていた。昨日はいなかったが、この神社の管理人だろうか?

「あら、どうも。見ない顔だけどお外から来た方かしら?」

「ああ、仕事でここに滞在している者だ。出勤前にお参りにと思ってな。ここの神職の人か?」

「いいえ、私はただの近所のおばちゃんよ。でも、この神社は神主さんとかいないから、近所の人達で管理してるの。私もその1人よ」

確かに敷地も狭く、建物も本殿と小さな物置小屋しかないから、ずっと誰かがいる場所ではないのだろうな。

「そうだお嬢さん、せっかくなら井戸に声をかけてみない?」

「井戸に?」

私が首を傾げると、ご婦人は井戸の蓋の鍵を開け、パカリと持ち上げた。

「そこのパネルにも書いてるんだけど、この井戸は神様が掘ったもの。だから神様のところに繋がっているのよ。この井戸の中にお願いごとを言うと、神様が直接聞いてくれるのよ」

「なるほど、そんな逸話が……」

試しに井戸を覗いてみる。深さは10メートルくらいで、底には水が溜まっているのが見える。

「井戸の底から声が反響してきたら、神様が願いを聞き入れたって合図なの。ほら、よかったらやってみて」

「願いか……分かった、やってみよう」

帽子が落ちないように手で押さえ、私は井戸の底に向かって叫んだ。

「井戸の神よ!私は錠前サオリだ!ここの近くのゲーム開発会社でバイトをさせて貰っている!後もう少しで完成だが、デバッグ作業というのが大変らしい!私も力になれるよう努力するから、見守っていてくれ!」

叫んだ後、井戸の中に顔を突っ込んで耳を澄ませる。……反響しないな。残念だが、願いは届かなかったらしい。まぁそう上手い話もないかと思い直し、私は井戸から顔を出した。

「願掛けくらいならできただろう。ありがとうご婦人……ご婦人?」

ご婦人の方を見ると、半歩下がって私を警戒するような目で見ていた。

「あ、あなたあのゲーム開発会社の人なの?」

「あ、ああ。バイトで雇われてる。……何かあったのか?」

「あなたは知らないのね、実は……」

ご婦人は嫌なものを思い出してるかのように、この神社で起こったことを話してくれた。

3ヶ月前に取材をしに、ゲーム開発会社の者達がこの神社にやって来たそうだ。その際に「いいゲームを作るため」と勝手に本殿に入って御神体を撮影したり、「リアリティのある音声を撮るため」と井戸に藁人形を投げ込んだそうだ。

「そんなことが……。彼らは謝罪したのか?」

「一応謝罪して、お供物とかも持って来たけど、ヘラヘラしてたと言うか、騒ぎにならないようにとりあえずやっておくかって感じで、あんまり謝られた気持ちにはならなかったわね……」

「そうか……、すまなかった」

私はその場で頭を下げた。私がバイトをしに来る前の出来事とはいえ、今はあの会社の一員だ。だから謝らなきゃならないと思ったのだ。

ご婦人は慌てた様子で私に頭を上げるように言ってくる。「あなたはまだ来てなかったのなら、あなたのせいではないわよ」と、こちらを気遣う言葉もかけてくれた。今すぐ出て行けと言ってもおかしくないのに、とても優しい人だな。

「私の方で、もう一度謝りに行くよう説得しよう。バイトの身でどこまで聞き入れてくれるか分からないが」

「そこまでしていただけるなんて、ありがとうねお嬢さん。お仕事、上手くいくことを願ってるわ」

「ああ、では失礼する」

ご婦人と井戸に一礼して、私は神社を後にした。リーダー達に色々言ってやらんとな、フンと一つ大きく鼻息を上げ、オフィスへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神社を去るサオリの背中を見送り、ご婦人は井戸に声をかけた。

「問題を解決してくれ……じゃなくて、問題を解決できるよう努力するから見守ってくれ……ですって。今時そんな願い方をする若い娘がいるのね。とても謙虚で、とても純粋な子。素敵ね、神様」

ご婦人は笑いながら、井戸の蓋を閉めた。




幕間・サオリのバイト飯

1.もやし弁当

食べた時のバイト:コンビニ店員
説明:胡椒の効いたもやし炒めと少しの漬物、そして白米が入った弁当。コンビニ弁当の中で1番安い。
実は他の弁当に使う牛肉と一緒に格安で仕入れた牛脂でもやしを炒めており、肉の香りとコクが染み込んでいる。企業努力と工夫が感じられる逸品。

コメント:お金がないけど肉が食べたくなった時によく食べている。肉の残り香を感じられ……いややっぱり普通に焼肉弁当が食べたい。


2.ひまわりの種

食べた時のバイト:公園の清掃
説明:鳩の餌として買ったひまわりの種。栄養たっぷりでまんまると肥えている。いっぱい食べると鳩も私もまんまるになるだろう。
本当は鳩の餌として全部ばら撒くつもりだったが、先生に止められてしまったため、先生と一緒に消費することになった。

コメント:栄養価が高いしかさばらない、携行食として最適かも知れないな。味は……可もなく不可もなく。
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