錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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あにまん掲示板で投稿したものです。こちらにも掲載しておきます。

元スレ
https://bbs.animanch.com/board/3531669/


デバッガー.2

(3日目、出勤)

 

「リーダー、話が……どうした?そんなに慌てて?」

出勤した私の目に飛び込んできたのは、昨日よりさらに慌しいオフィスの光景だった。皆血走った目でモニターを睨み、バチバチと音が鳴るほどキーボードを叩いている。たまに悲鳴や怒号が聞こえ、まさに修羅場と言える現場だった。

「ああバイトさん!さっき急にとんでもない量のバグが発生したんすよ!悪いけどうちら社員はそれの調整で忙しいから、残りのデバッグ全部バイトさんに任せていいっすか!?」

「何!?全部か!?まあいい了解した。だがその前に話を……」

「後にして!ああもう、このままじゃリリースに間に合わねぇっすよ!!」

結局話を聞いてもらえず、私は強引にデスクに座らせられた。仕方ない、仕事が終われば話も聞いてくれるだろう。先にデバッグ作業を終わらせることにして、ゲームを起動した。

その先は地獄……アリウス時代の厳しい訓練を思い出すほどの地獄だった。私も社員もこのオフィスに缶詰となり、朝も夜も眠らずにパソコンと睨めっこ。1週間は眠らなくていい訓練をしていた私ですらエナジードリンクの過剰摂取と画面の見過ぎのせいで鼻血が出た程だ。

リーダー含めた社員達も阿鼻叫喚で、たまに叫んだりそこら辺でゴロゴロ転がったりしてとても怖かった。だが何より怖かったのは尋常じゃないバグの量……。

「リーダー!新たなバグを見つけた!本殿の畳の上を歩く時のSEが水の音になってる!ずっとジャブジャブ言ってるぞ!」

「そんな!ちゃんと畳を歩くSE用意したのに!」

「リーダー!!井戸から出てくるお化けと大切な御神体がモザイクで見えづらいんだが!これは仕様か!?」

「仕様じゃねーっすよこんなの!!バグっすバグ!!」

「リーダー!!!主人公が何をしても街に入れない!!マップを開くたびに『出て行け』と誰かの声が入ってる!!この恐怖演出は不便なだけで良くないと思うぞ!!」

「そんな演出入れてないっす!!あと何度と言うようだけどボイスは入れた覚えも収録した覚えもないっすから!もう誰っすかこの声!!?」

「あ、リーダー。直してくれてありがとう。街に入れたぞ。それにしてもすごいな、ストーリー終盤に街に入ると、住民全員が主人公を睨みつけて目で追ってくる。これは中々恐怖を感じるな」

「だ!か!らッッ!!そんな演出入れてないっ………すけど、ほ〜ん……なるほど?これも多分バグっすけどいいっすね、採用」

「厄介なバグがゲームの一部になるとは、ゲーム開発とは奥が深いんだな」

「そうっすよバイトさん!ゲーム開発はこれが面白いんすよ!あはははははははははは!」

「フフ、あはははははははははははははは!」

「あははははははははははははははははは!」

「あはははははは!はは……ん?リーダー?」

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」

「……リーダーが、リーダーが壊れた………!」

 

 

________そんなこんなで3日後の16時、合計100時間の勤務の末に全ての作業が終わり、ついにホラーゲーム『幻想神社の怪』は完成したのだった。

 

(7日目)

 

「改めまして、幻想神社の怪、完成おめでとー!!」

リーダーの一言に続くように社員達が歓声を上げる。私もオレンジジュースが入ったグラスを上げ、一緒にゲーム完成を喜んだ。

あの後、全員フラフラの状態で帰路に着き、私も廃墟に帰ってすぐに眠りについた。

翌日、私が出勤すると社員達は朝から完成記念パーティーをしていたそうで、まだ疲れが取れない私に比べてみんなタフだなと感心する。

「いや〜すんませんね〜バイトさん!バイトさんのことすっかり忘れて、先に始めちゃいました!」

「構わない、嬉しい気持ちは分かるからな。それよりも完成おめでとう、私も力になれただろうか?」

「もちろんっすよ!もうデバッグほぼ全部やってくれてありがとうございます!!ささ、飲んで食べて!!」

ピザとケーキをすすめられ美味しく頂く。リーダーを含め社員達は大盛り上がりでゲーム開発の話をしていた。私にはよく分からない用語や業界あるあるが多くて全く話について行けず、疎外感からつい無言になったり食べ物を食べたりしてしまう。

「あ、すんません。バイトさんには分からない話っすよね〜」

「いや、こちらこそ無学ですまない。リーダー達が楽しんでいるのならそれで……いや待て、そう言えば話したいことがあったんだ」

すっかり忘れていた、神社の話をしなくては。私はすっかり浮かれているリーダー達に、あのご婦人から話を聞いたこと、そしてもう一度、今度は真面目に謝りに行くべきだと話した。それに対してリーダー達は……、

「________あははは!あのおばさんまだ気にしてたんすか!?もう終わった話じゃないっすか」

「わ、笑うことはないだろう!?ご婦人は真剣に神社のことを大切に思っていたんだぞ!」

「え〜、だったらこっちだって真剣にゲーム開発に取り組んでたっすよ。そのために必要なだけだったんすから。それに、このゲームがヒットしたらモチーフになったあの神社にもたくさんファンが来るっすよ!聖地巡礼って奴!宣伝にもなるしお賽銭も増えて万々歳じゃないっすか!それで神様も許してくれますって」

「そんなことはないと思うが」

「ハイハイその話は終わりっす!それよかせっかく出来上がったんですし、もうリリース日とか待たずに今から販売開始しないっすか?みんなもいいっすよね!」

私の話は強引に終わらせられ、代わりに社員達がゲーム販売開始に盛り上がる。そして本当に、ゲームはその場のノリで販売開始された。社員達は口々にユーザーからの期待や人気になったらインタビューを受けたりお金を稼ぎたいなどと展望を語っていたが、私はそんな彼らについて行けず、居心地が悪くなる。

「リーダー、すまないが先に帰らせてもらう」

「え?まだパーティー終わってないっすよ?」

「いや、そう言う気分じゃなくなったんだ。帰って休むことにする」

「ほ〜ん、ノリ悪いっすね〜。まあいいや、お疲れっす!」

笑顔を返すことができず、私はオフィスを出る。後ろでは「この後はカラオケっす!仲間達で盛り上がって親睦を深めるっすよ!」と言うリーダーの陽気な声が響いてくる。聞こえないふりをして、足早にそこから離れた。

 

(7日目、退勤後)

 

やはりバイトの私の意見を聞くことはなかったな……。もう少し上手くやれたら変わっただろうか、今からでももう一度説得しようか?……いや、舞い上がってる彼らに声が届きそうにないな。一緒にゲームを作ったが、私は所詮部外者だったのだろう。

柄にもなく落ち込み、考え込んでいると、一陣の風が頬を撫でた。

「ここは……」

住宅地にある小高い丘、その上にある神社へ続く石階段。私はいつの間にかそこに足を進めていたらしい。

ご婦人に謝らないと、そう思い階段を登った。ご婦人が居るかどうかは分からないが、外から来た私はここ以外の場所を知らない。

果たして神社に到着すると、ご婦人はそこにいた。そして彼女以外に何人かの人だかりもあった。

「あら、あの時のお嬢さん!元気だった?」

「ああ、どうにかな。それよりすまない、リーダー……ゲーム開発会社の人を説得してみたが、上手くいかなかった……」

「そうなの、残念だわ……。でも、わざわざ動いてくれてありがとうお嬢さん」

ご婦人は私にぱっと笑顔を咲かせ、そしてすぐに眉間に皺を寄せた。周りの人達も表情が険しい。怒っているわけではないが、何か悩みがあるようだ。

「失礼でなければ、何があったのか教えて欲しい。どうしたんだ?」

「ああ、それがねお嬢さん。前にこの井戸に藁人形を投げ込まれたって話をしたでしょう?それがまだ沈んだままだから、どうしようかって近所の人達と相談してたの」

「うん?いつも井戸にものが落ちた時はどうしていたんだ?」

「ああそれがねぇ、この井戸は元々、子供とかが落ちないよう、常に蓋をされ続けていたのよ。でもまさかその蓋を壊してまで中に物を投げ入れる人がいるなんて思いもしなかったから、こんな時どうするか私達考えてなかったのよ〜……」

「なるほど……」

……やはりリーダー達を引きずってでもここに連れてくるべきだったな。終わった話だと言っていたが、そんなことはない。まだこんなに困っている人達がいるんだ。何がなんでも謝らせるべきだった。

自分の不甲斐なさを痛感していると、階段の方から獣人(土佐犬)が息せき切って駆け寄ってきた。

「おーい!ロープ持ってきたぞ!これで何とかならねぇかな!?」

「バカ!ロープだけあってどうすんだよ!俺達のまんまるボディじゃ、つっかえるだけだぞ!」

確かに、この場にいる獣人達はふくよかな体型をしている。これでは井戸に入れないだろう………待てよ、私はどうだ?井戸の口径は決して広くないが、私の体ならつっかえることなく入ることができそうだ。

「私がやろう、ロープを結んでくれ」

「お、お嬢さん!?危ないわよ!」

「何もできなかった分、力になりたいんだ。それにバイトとは言え私もゲーム開発会社の人間だ。私だけでも謝罪の気持ちを示さなければならない」

そう言ってご婦人にコートと帽子、そして装備を預ける。それでもとこちらを心配してくれるご婦人に笑顔を見せて頷いた。

「問題ない、厳しい訓練を受けていたからな」

 

 

________そうして私達の藁人形回収作戦が始まった。私はロープをタスキのように体に結び、その橋を手水舎の柱にくくりつけた。近所の住民達もロープを持っていてくれるそうだ、これで万一のことがあっても引っ張り出してくれるだろう。

「気をつけてね!お嬢さん!」

「ああ、行ってくる」

そう言って井戸の中に入り、壁を伝って降りて行く。所々湿って苔が生えているが、凹凸がしっかりしているため滑りにくい。アリウスの登攀訓練の時と比べたら楽勝もいいところの壁だ、私はするすると水面近くまで降りて行った。

「暗いから底が見えないな……、だが井戸だから、そこまで深いことはないだろう」

私は足先を水につけ、水底を探った。……おかしい、足が底につかない。思っていたより深いのか?

そう思って、もう少しだけ壁を降りようとした瞬間、

「っ!しまった!」

私は壁を掴み損ねてしまい、大きくバランスを崩し、水の中に落ちてしまった。

(この井戸、思っていたよりも深い!)

頭の先まで水に沈んでもなお底に足がつかないことに驚く。しかし好都合だ、このまま潜って藁人形を取ってしまおう。

私は体を半回転させ、底を目指して一気に潜った。バタ足を4回ほどで底に辿り着き、藁人形を発見。しっかりと掴むとまた体を半回転させ、空気を求めて水面に向かう。

「お嬢さん!お嬢さん!大丈夫!?」

「ぷはっ……無事だ!藁人形を見つけたぞ!」

私がそう叫ぶと、上の方でワッと歓声が上がる。そしてロープが引っ張られ始めた。

「風邪引いちゃうわ!すぐに登っておいで!」

「分かった!」

私は藁人形を体に巻いたロープに括りつけ、井戸を登り始めた。冷たい水のせいで指先が震えている。これは時間がかかりそうだと思っていると、不意にご婦人が井戸に顔を突っ込んできた。

「井戸の神様!お嬢さんをどうか守ってちょうだい!」

するとその声は水面にぶつかり、大きく反響した。

「さあお嬢さん、これで大丈夫よ!安心して戻ってきなさい!

「感謝する!それにしても、本当に反響するんだな……」

前に私がやった時は反響しなかったから、初めて目の当たりにしたそれに神秘性を感じずにはいられない。

その後は順調に登攀し、もうすぐ地上に着くところまで辿り着いた。全身が濡れて凹凸を掴むのも苦労したが、先ほどのように掴み損ねることもなかった。

全く、ずぶ濡れになることは想定してなかったのだが……結構深かったな。……あれ、そう言えばこんな横幅の狭い井戸の中で、どうして私は体を半回転させることができたのだろう?水の中は広かったのだろうか……?

「お嬢さん、手を!」

「ん?あ、ああ」

ご婦人から伸ばされた手を取り、私は井戸から出る。すると近所の住民達の拍手で出迎えられた。

「よくやった!ありがとな嬢ちゃん!」

「かっこよかったぞ嬢ちゃん!」

「……ああ、役に立ててよかった」

照れ臭くなり、私は帽子の鍔を深く下ろ……ああそうだ、預けてたんだった。無意識な行動のせいで虚空を掴む羽目になった震える指先。とりあえず頭でも掻いているとご婦人がタオルを用意してくれ、私はそれで体を拭いた。そしてコートと帽子を返してもらって暖を取った。

「ああそうだ、藁人形はどうする?」

「私の方で預かるわ、ちょうど明日は燃えるゴミの日なの」

「了解した」

藁人形をご婦人に手渡す。するとご婦人は私の手を取り、すりすりと擦り出した。

「ああ、こんなに冷たくなっちゃって。でもこの手で頑張ってくれたのよね。本当にありがとうお嬢さん」

「……これで井戸の神も許してくれるといいが」

その後近所の住民達によってささやかな食事会が催され、私はそこに招待された。住民達の手料理は美味しく、彼らと話をするのは楽しく、とても居心地がよかった。久々に感じる満腹感と幸福感に包まれて、私は1日を終えたのだった。




幕間・サオリのバイト飯

3.トロピカル丸ごとパイナップルピザ

食べた時のバイト:ピザ屋の配達
説明: 皮をむいただけのパイナップルを丸々乗せ、そこにチーズをぶっかけて焼いた、この世の終わりみたいなピザ。他のピザと比べても圧倒的な全長をしているため、専用のオーブンが用意されていた。
賄いとして食べさせてもらった。

コメント:ピザにパイナップルを入れることを容認する派閥とそうでない派閥で戦争になっていると聞く。私は普通に美味しいと思ったが、そんなことで争えるのは贅沢だなと感じた。ただこれはやり過ぎだと思う。


4. フレッシュカリフォルニア寿司ピザロール(10センチ)

食べた時のバイト:ピザ屋の配達
説明:寿司ネタの一つ、カリフォルニアロールをピザにした非常に挑戦的な逸品。Sサイズよりも一回り小さな生地にカニカマ、アボカド、キュウリ、白ゴマと大量のチーズをトッピングして焼き上げ、チーズが溶けている間に巻き寿司のように巻いて完成となる。溶けたチーズが接着剤になってくれているおかげで中身がこぼれ落ちないのはこの商品の戦術的優位性だろう。

コメント:どう見てもゲテモノだがとても美味しかった。配達しながら食べれるので、ほぼ毎日これを食べていたと思う。
酢飯のような味のするピザ生地をどうやって作っているかは企業秘密らしい。
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