元スレ
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誰か、親切な方。現行スレの方にここのURLと私が掲示板で書き込めなくなり、ハーメルンに移動した旨を伝えて頂けますでしょうか?何卒よろしくお願いします。
現行スレ
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(8日目)
まだ朝も早いうちにスマホがけたたましく鳴り出す。アラームではない、電話だ。私はそれに叩き起こされた。
一体誰だと思いながら画面を見るとゲーム開発会社で、電話に出るとリーダーの大声が響き渡った。
「すぐに来て欲しいっす!俺達のゲームが……幻想神社の怪が!!」
最低限の身支度だけ済ませて、私はすぐに出勤した。オフィスでは社員達が青ざめた顔で、泣きそうになりながらパソコンと向き合っている。同じように瞳を潤ませたリーダーが私に気づいて駆け寄ってきた。
「大変っす!昨日販売し始めた幻想神社の怪が一切起動しないとクレームが入ってて、返金騒動にまで発展してるっす!ユーザーが購入したもの全てが起動しないっす!バグは全部直したはずなのに!」
「そんな……!」
「プログラムは全部正常なはずなのにゲームが起動しなくて、もう何が何だか……!」
私は頭を抱えた。もしかして、私が見逃したバグがあったのだろうか?いや、リーダーの最終確認もあったから見逃すはずは……。
「くっ……やはり井戸の神は許してくれないか……!」
「え、井戸の神?どう言うことっすかバイトさん?」
「え?ああ、昨日神社に行って、井戸から藁人形を回収するのを手伝ったんだ。まあ、それだけだ。今の状況とは関係ないな、忘れてくれ」
「それだぁ!!」
急に叫び出したリーダーに目を丸くしてると、リーダーは私に詰め寄ってきた。
「きっとそれのせいっす!バイトさんが変なちょっかいかけたから神が怒ってバグまみれにしたっす!」
「落ち着け!荒唐無稽が過ぎるぞ!今は冷静になって、バグの原因を探すべきだ!」
「うるさい!部外者のくせに指図するなっす!!」
憤怒の表情でリーダーは、そして他の社員達と私に詰め寄って来る。焦りで我を忘れているのか?仕方ない、全員適当に気絶させてオフィスの隅に転がしておこう。起きる頃には落ち着いているだろう。
そう思い、アサルトライフルを構えた瞬間、
(水音)
誰かのパソコンから、やけに大きな音が聞こえて来る。全員が音のする方………真後ろにあったパソコンの画面を見ると、幻想神社の怪が起動されていた。主人公が井戸の前に立ち、こちらを凝視していた。
「え……さっきまで起動しなかったのにどうしてっすか……うわっ!!」
「なっ!?リーダー!!」
呆然としていると、突如画面から白く大きな手が飛び出し、リーダーの体を握り締めた。助けようと手を伸ばしたが遅く、リーダーを画面に引き摺り込んで行く。何故かリーダーは画面の中に入ってしまい、そのまま白い手ごと井戸の中に入って消えた。
(水音)
「きゃあああああああああああ!!」
社員の1人が悲鳴を上げる。すると別の画面から白い大きな腕が飛び出し、悲鳴を止めるかのようにその社員を握り締めた。そしてそのまま社員ごと画面の中に消えていく。
(水音)
「たっ、助けてくれえええええ!!!」
(水音)
「嫌だ!嫌だああああああ!!」
(水音)
「待って!やめて!嫌!!」
(水音)
「うっ、うわあああああああああああ!!」
________あっという間に、全ての社員が画面の中の井戸に引き摺り込まれて行った。そこに残ったのは私だけ、オフィスの隅で壁を背にし、震えながらアサルトライフルを構える私だけだった。
社員達を助けられなかった、だがきっと私も助からない。恐らく、あれは井戸の神なのだろう。気配が……いや存在自体が一線を超えていた。ヒエロニムスやバルバラよりももっと上の……今まで見たことがない高位の存在で、見ただけで畏怖を感じさせる。私の戦意をかき消した。敵わないと本能が告げていた。
いつの間にか私はその場に膝を突き、アサルトライフルを捨てて祈りを捧げていた。きっとあれこそがマダムが追い求めていた崇高なのだろう。マダムもバカだな、あんなものになれるわけがないのに、おこがましいことなのに、目の前にそれが現れたら、もう祈るしかないのに。
(水音)
画面から白い手が伸びて来る。私の方に向かって来る。畏怖のあまり涙が出てきた。なす術がない、あの手に委ねるしかない。スクワッドのみんなは元気だろうか、先生は今日も忙しいだろうか、知り合い達は……。
「…………ん?え?」
そんなことを考えていると、こちらに伸びてきた白い大きな手は人差し指で私の頭を撫でてきた。
「なっ、何を………」
困惑するが、撫でられるのはとても心地いい。冷たいが柔らかい肌の感触、段々と眠くなってくる。
「まずい……逃げ……ないと、ううっ」
抗おうとしたが敵わず、私は目を完全に閉じてしまう。包み込まれるような感覚、あの手が優しく包み込んでくれている……?何も分からぬまま、私は意識を手放した。
(8日目)
鳥の囀りが耳に入り、私は拠点の廃墟で目が覚めた。よく眠った時の爽快感と倦怠感、そして空腹を感じながらスマホをいじる。
「13時、13時かぁ……。………………13時!?」
まずい遅刻だ!!私は最低限の身支度だけ済ませて廃墟を飛び出した。
全力で駆け抜けてオフィスに到着、飛び込むようにドアを開ける。
「すまない遅刻した!!…………あれ?」
オフィスの中には誰もいなかった。それどころか、家具やパソコンも消えて、中心に机が一つ置かれているだけになっていた。
「り、リーダー?みんなどこに……うん?」
何もないはずなのに、つい周囲を見回してリーダー達を探してしまう。そして残った机に近づいてみると、私の名前が書かれた封筒が置かれていた。中身は私のバイト代だった。
「持って行けと言うことか?だがみんなどこに……?」
誘拐を考えたが、こんなに綺麗に荷物も無くなってるのなら、リーダー達が意図的にここから消えてしまったのだろう。夜逃げとか失踪とかだろうか。どうしてそんなことをしたのか分からないが、バイト代を払ってくれたのなら追う理由もない。私は封筒を受け取り、オフィスを後にした。
一度廃墟に戻り、荷物をまとめる。バイト先がなくなったのなら、ここにいる理由はもうない。すぐに廃墟からも出て、昼下がりの住宅地を歩き出した。日差しは柔らかく、風も気持ちいい。住むにはいい場所かも知れないな、私は指名手配犯だが。
そんなことを考えていると、一陣の風が頬を撫でた。
「ここは……」
住宅地にある小高い丘、その上にある神社へ続く石階段。私はいつの間にかそこに足を進めていたらしい。
最後にご婦人に挨拶でもするか、そう思い階段を登った。ご婦人が居るかどうかは分からないが、外から来た私はここ以外の場所を知らない。
果たして神社に到着すると、ご婦人はそこにいた。今日は彼女1人だけだった。
「あらお嬢さん!昨日は本当にありがとうね。よく眠れたかしら?」
「ああ、今起きたくらいだ」
「それはよかったわ。ところで仕事は?今日は休みなの?」
私はご婦人に、オフィスがもぬけの殻になっていたこと、バイト代だけが残されていたことを伝えた。
「あら、どこに行ったのかしらね……」
「分からない。結局また謝りに来させることはできなかったな、すまない」
「いいのよ、お嬢さんは何も悪くないんだから」
優しい笑顔にいくらか気持ちが救われる。彼女に改めて感謝を伝えた。
「それで、お嬢さんはこれからどうするの?」
「この自治区を出て、また新しいバイトを探す。……実は、私は自分がやりたいことや、夢や目標というものがないんだ。だから色んなことをしたり、色んなところに行って、それを探している」
「そう、見つかるといいわね………そうだ!」
ご婦人は手をポンと叩くと、井戸に駆けて行き、さっと蓋を開けた。
「こういう時こそ神様にお話ししましょ!ほらお嬢さんおいで!」
「だが、前は私の声は反響しなかっただろう?」
「きっと大丈夫よ!ね?」
「……分かった」
ゆっくりと井戸に近づき、顔を入れる。中は暗く冷たく、微かに水の音がする。前に覗いた時、中に入った時と変わらない井戸。私は意を決して声を出した。
「井戸の神よ!錠前サオリだ!仕事が終わったから私はこの自治区を離れる。今日まで見守ってくれてありがとう!………私は私の夢や目標を探すために、自分探しの旅をしている!私にはまだ何もないけど、だからこそ何でもできるし、何にだってなれるはずだ!そう思ってる!この先どうなるか分からないが、見守っていてくれ!」
「________嫌だ嫌だ助けて!!冷たいよぉおおおおお!!溺れる!!苦しい!!許して下さい許して下さいごめんなさいもうしませんからああああああああああああああ助けてええええええええええええええ!!!!!!」
「________あっ、反響した!反響したぞ!私の声!」
「聞こえたわよ、お嬢さん。よかったわね、神様も見守ってくれるわ」
「ああ、ありがとう。そして………またいつか」
ご婦人に見送られ、私は神社から出る。さて、この後は何のバイトをしようか?一度シャーレに寄るのもいいかも知れないな。
どうしようかと考えていると、冷たい風が私の背中を押し、手を引っ張るかのように駆け抜けて行った。そうだな、明日は明日の風が吹くという言葉もある。きっと何とかなるだろう。
私は風に重心を預け、引き寄せられるままに自治区を後にした。
ここだけサオリが裏バイトで働いていて、ひどい目にあったりあわなかったりする世界
錠前サオリの裏バイト奇譚7
業務内容:デバッガー
注意事項: 『発売前のゲームのため、情報を外部に漏らさないこと』
勤務期間:8日間
給与額:1時間1500円×勤務時間108時間=162000円
コメント:シャーレに寄った際に、ミレニアムのゲーム開発部に所属する生徒がいたので今回のことを話してみた。
「あぁ、小さなゲーム開発会社が夜逃げなんてよくあることですよ。お姉さんはお給料もらえただけマシだと思います」
「ねぇねぇそれよりゲームしよ!お姉さん暇でしょ?私もミドリも強いよ!」
「ちょっとお姉ちゃん!」
「フフ、構わないさ。ただ私はよく分かってないから教えてくれ。あと私は錠前サオリだ」
「よろしくねサオリさん!」
「もう。でも、やるからには負けません、サオリさん!」
モモイとミドリからゲームについて色々教わり、今度彼女らが作った『テイルズ・サガ・クロニクル』なるゲームを一緒に遊ぶ約束もした。楽しみだな。