ゴミ収集のバイトを始めた錠前サオリだ。トリニティ自治区のご家庭から出るゴミを収集車に乗って回収する仕事だ。身近だがあまり馴染みのない仕事だな。
給与は1400円、バイトだとこれくらいの時給となるらしい。朝早くから作業があるから早起きが大変だが、集積場に社員食堂があり、朝ごはんだけ無料で振る舞ってくれるそうだ。気前がいいな、張り切って行こう。
ああそうだ、マミーから注意事項を預かっているんだった。なになに、『晩ご飯はマミーと一緒に食べること』。全くマミーは、未だに子離れができないらしい。仕方がないから、早く帰ってやるか。
(7日目、勤務中)
「よーし、バイトの嬢ちゃん!朝メシしっかり食ったな!行くぞ!」
「ああ、今日もよろしく頼む」
今日の朝ごはんはベーコンエッグとサラダとカレー、美味しくいただいたら業務開始だ。上司のロボットと共にゴミ収集車に乗って、担当地域のゴミを回収していく。
日が登ったばかりのトリニティ自治区は、古き良き建築様式の街並みに陽射しが反射してとても美しい。その景観を守るためにゴミ捨て場も目立たないようになっている。D.U.の野晒しに鳥よけネットを被せただけの簡素なものとは違い、トリニティ風建築様式の小さな小屋の中にゴミ袋をまとめて置かれるのだ。
懐かしいな、アリウスの任務でトリニティ自治区に潜入していた時はこのゴミ捨て小屋で一夜を明かしたこともあった。どこの小屋もゴミ収集の後、私達のようなゴミ収集の作業者達が掃除をしていて、清潔に保っているんだ。おかげで非常に快適に潜伏できた。
過去を懐かしみつつ、5番目の担当ゴミ捨て小屋に到着した。7日も勤めていると作業も慣れたもので、テキパキと作業及び清掃を終わらせた。締めの水洗いのためのホースを準備していると、上司が私に声をかけてきた。
「そう言えばバイトの嬢ちゃん、この前持ってったお人形はちゃんと洗ったか?」
「ああ、ここで拾った奴だな。問題ない、ちゃんと綺麗に洗った」
「それならいいんだ、せっかくなんだし大切にしろよ。後、誰にも言うなよ?一応『捨てられたものを持ち帰らない』のが決まりだからな」
「分かっている、もうしないようにお互い気をつけよう」
何の話かと言うと、3日目の作業の日、このゴミ捨て小屋に人形が捨てられていたのだ。トリニティでは広く普及している幼児向けの人形で、酷く汚れていたが欠損もない状態で捨てられていた。本来ならこの仕事の注意事項、『捨てられたものを持ち帰らない』があるためゴミとして回収しなければならない。だが一目見た瞬間からどうしても欲しくなり、持って帰ってしまったのだ。上司は「この決まりを正直に守ってる奴なんてあんまりいねーよ。内緒にしてやるさ」と言って私の行動を咎めることはなかった。むしろ上司も金品があれば持って行ってるから、多分そう言うものなんだろう。
その後も問題なくゴミ収集を終わらせた。ゴミ捨て小屋の清掃もあるため、いつも集積場に戻る頃には15時くらいになっている。ここで軽いミーティングをして業務終了だ。ちなみに勤務時間は6時から15時まで、1時間休憩ありの計8時間だ。
中々ハードだがこれもまた住民達の生活を支える大切な仕事、やりがいがあるな。
「じゃあお疲れ、嬢ちゃん!気をつけて帰れよ!」
「ああ、今日もありがとう。急いで帰らなくては、マミー……いや母が待っている」
「母……?あれ、嬢ちゃんこの前、家族はいないって言ってなかったか?」
「そうだったか?すまない、母がいるんだ。今一緒に暮らしている」
「そうか、じゃあお袋さん大切にしろよ!」
「ああ、ありがとう!」
快活な笑顔で手を振る上司に見送られ、私は集積場を後にした。
(7日目、帰宅)
住宅地の外れにある小さな家、そこに私達は住んでいる。今日はスイーツショップに寄って薔薇の形をしたケーキを買った。先日、放課後スイーツ部のみんなに教えて貰ったものだ。彼女達の見立てなら外れることはないだろう。
「マミー、ただいま」
「おかえりなさい、サオリ」
マミーはリビングのソファに座り、洗濯物を畳んでいた。私は手早く荷物を片付け、紅茶を入れる。お湯を沸かしている間、私はマミーの姿を眺めていた。赤いエプロンに、優しく柔らかな顔立ち、そして綺麗で長い金髪。不意に開いた窓から風が吹き、ブロンドが日差しに溶けるように舞う。しかし完全に虚空に混ざることはなく、光を乱反射させてその存在を強く際立たせた。私はヤカンが悲鳴を上げるまで、それをぼーっと見ていた。
「サオリ、こっちは片付いたわ。おやつ持ってきて頂戴」
お許しが出たので、紅茶とケーキを持って行く。私はマミーの隣に座って、ローテーブルに薔薇を2輪咲かせると、マミーは花のような笑顔を咲かせた。
「まあ素敵。どこで見つけてきたの?」
「友達に教えて貰ったんだ。おすすめだと言っていた」
「ならきっと美味しいわね。ところでサオリ……さっきマミーのことずっと見てたわね、どうしたの?」
「え?ああ、マミーの髪は綺麗だなと思って。太陽みたいだ」
「ありがとう。サオリの髪も素敵よ、夜空みたいね」
「ああ、ありがとう……私とマミー、あまり似てないな」
「サオリ……」
私は顔を伏せ、自分の髪を束にして手の上で転がす。夜空のようだと褒めてくれたのは嬉しいが、こうも親子で外見が違うと、どこか1つでもいいから似ている特徴が欲しくなる。
そんなことを考えていると、マミーが私の肩を抱き寄せおでこと視線を合わせてきた。
「私はサオリとよく似てると思ってるわよ。例えばそうね……サオリ、マミーの笑顔は素敵だと思う?」
そう言ってまた笑って見せるマミー。意図を掴みきれず、思わず首を傾げる。
「あ、ああ。素敵だと思うぞ、マミー」
「ありがとう。じゃあ今度はサオリが笑ってみて」
「え?」
突然の要求に困惑する。マミーは真剣な目でこちらを見ている。どう言うことだろう、改めて笑えと言われると、私はどうやって笑っていただろうか?おっかなびっくり、笑顔を作ってみる。ぎこちないだろうな、マミーの笑顔と比べたら素敵ではないはずだ。しかしマミーは満面の笑みでそれに応えてくれた。
「とっても素敵よサオリ!きっとその笑顔は私に似たんでしょうね。だからこんなに素敵なのよ、サオリ」
マミーはそう言って、私を抱き寄せてきた。仕事が終わって帰ってきたばかりだ、汗臭いし汚いだろう、そう言って抵抗するが、いいからいいからと言われてしまう。仕方なしにマミーのエプロンに顔を埋める。柔らかで肌触りのいいフェルトの感触と温もりに包み込まれる。
「かわいいかわいい私のサオリ、私の愛娘」
「マミー……」
頭を撫でられ、私は夢のような温かさに身を任せた。
________その後、薔薇のケーキを一緒に食べ、お風呂に入り、夕飯を食べ、そしてマミーと同じベッドに入った。何気ないがかけがえのない1日が終わり、また明日始まる。明日も頑張ろうと意気込んで、マミーに抱きつきながら眠ったのだった。
幕間・サオリのバイト飯
5.ビッグマンモススタミナピザ
食べた時のバイト:ピザ屋の配達
説明:ひき肉が練り込まれたピザ生地にガーリックバターを塗り、牛・豚・鳥・羊・馬の肉をこれでもかとトッピング。仕上げにピザの耳にソーセージを捩じ込んで焼き上げた肉まみれのピザ。見ているだけで胃もたれがする。
コメント:重すぎて一切れでダメだった。工事現場の作業員達は何切れも食べているのには感心した。それくらいのハードワークなのだろう、頭が下がる思いだ。
6.豆腐ハンバーグ健康ピザ
食べた時のバイト:ピザ屋の配達
説明:豆腐ハンバーグや大豆ミート、減塩チーズなどの健康にいい食材で作られたヘルシーピザ。もちろん野菜もたっぷり入っている。
コメント:普通のピザと比べるとボリュームは感じられなかったが、このピザに関しては逆にそれがいいと思う。とても美味しかった。