キヴォトスの生徒にはヘイローがある。意識がある間は頭上に存在し続け、それが消えるのは意識を失った時。あるいは、死んだ時。
だから目の前の存在……ヘイローがないのに普通に行動している生徒には違和感しかない。それなのにその姿や声、仕草は私の友人の伊原木ヨシミそのものであり、私の困惑は増していった。
「………お前は誰だ?」
「私?私はトリニティ総合学園の伊原木ヨシミよ!それよりお姉さん、ココナッツジュースが気になるんでしょ?売ってる場所を教えてあげるわ!」
「………私の知っているヨシミじゃないな?」
「え?ごめんなさい、よく分かんないわ。それよりココナッツジュース!売ってる場所に案内してあげる!」
「教えてくれ、本物のヨシミはどこに行った?」
「ヨシミ?……ごめんなさい、よく分かんないわ。でもココナッツジュースのことは分かるわ!教えてあげる!」
「…………ッ!!」
私は目の前のヨシミもどきを殴り飛ばしたくなる衝動を必死に抑えた。何も考えずに行動してはいけない、もっと情報を引き出さなくては……!
『……実は、ココナッツジュースを持ってる観光客はみんな、このビーチで行方不明になった人達なんです』
『いつからかは分からないんですが、このビーチでは行方不明者がココナッツジュースを持って徘徊するようになって、興味を持って話しかけた他の観光客と一緒に消え去るようになったんです……』
『消え去った観光客は、しばらくするとココナッツジュースを持ってどこからともなく現れるでしょう。あいつらと同じになってるんです。ココナッツジュースをオススメする人形に。だからバイトさんが見た人も、そうなると思います』
組合職員の言葉を思い出す。アレが正しいのなら、目の前のコイツはココナッツジュースをおすすめする人形になったヨシミだろう。だが生徒の象徴たるヘイローがないのが気になる。コイツは本当にヨシミなのか?薄い希望に縋ってるだけかも知れない、ヨシミが無事だと信じたいだけかも知れない。だがどうしてもコイツは偽物で、ヨシミは別の場所にいると思わずにはいられない。
(………いや、信じよう。ヨシミはきっと無事だ。だから一刻も早く助け出す、そう考えて行動する。待ってろ……!)
歯を食いしばり、絶望を噛み潰す。体と心をスクワッドを指揮していた時と同じ臨戦体勢と緊張感に切り替える。絶対に助け出す……状況開始だ。
「お姉さん?何ぼーっとしてるの?それより早く行くわよ!ココナッツジュース!」
「…………」
……さてどうするか、コイツからこれ以上何かを聞き出すのは無理そうだ。ならそのココナッツジュースがある場所とやらに連れて行って貰おうか?だが何の考えもなしに敵陣に飛び込むのは危険だ。誰か応援を……組合は放っておけと言って手伝わなさそうだな。なら先生を……。
「……もう!ココナッツジュースいらないの!?なら私行くからね!」
「っ!待ってくれ!」
くそっ、間に合わなさそうだな!それならすぐに連れていって貰おう。道中でスマホをこっそり触って、先生に連絡すればいい。
「ココナッツジュースに興味がある。案内してくれ」
「分かったわ!はい、手を握って」
何の怪しげもなく差し出された手。コイツはヨシミの顔でニカっと笑い、白い歯を見せている。私はその手を凝視し、一呼吸した後に握った。酷く冷たい手にゾッとする。
ヨシミもどきは私の手を引いて屋台エリアの人混みの中を歩き出した。どこに向かうかは定まっていない足取りで、目的地の把握が難しい。だがしばらく歩いてもこちらを振り返る様子はない。よし、今のうちに……!
(先生にモモトークだ。『ヨシミが大変なことに巻き込まれたかも知れない、今すぐ⬛︎⬛︎自治区のビーチに来てくれ』……っと)
スマホを取り出し、見えないように操作する。前方を警戒しながら、スマホを腰の方に隠してチラチラ画面を見ながらの操作だったが、しっかり入力できていてよかった。よし、送信しよう。
『送信できませんでした』
は……?もう一回。
『送信できませんでした』
日光の熱でイカれたか?事故物件ロンダリングのバイトの時に買い替えたばかりだぞ?もう一回。
『送信できませんでした』
「何故だ!?」
思わず声を上げ、スマホの画面を眼前まで持ってくる。すると異常にすぐ気がついた。
「圏外……?どうして?」
本当にスマホがイカれたのかと思い、ブンブン振ってみたり、天高く掲げたりしてみる。しかし一向に電波は繋がらない。だがそうしていると周囲の異常にも気がついた。
(波の音)
屋台エリアで聞くことのなかった音が聞こえる。目と鼻の先は海だが、毎日観光客でごった返し、笑い声と客引きの声が絶えないこの場所では波の音なんて聞こえないはずなのに。
周囲を見回す。……人がいない。練り歩く観光客達はもちろん、屋台の中で働く店員すらいない。今この場にはヨシミもどきと私だけしかいなかったのだ。
さらに言うと、屋台の中には売り物が一つもなかった。くじ引き屋の景品も、たこ焼き屋のたこ焼きも、武器屋の弾薬や手榴弾も消えている。屋台のテントとテーブルや棚だけが、そこに取り残されていたのだ。
「いつの間に……!?どう言うことだ!?」
「お姉さん?どうしたの?いいから早くココナッツジュースのところに行くわよ!」
「ッッ!離せ!!」
立て続けに起こる異常事態とそれによるストレスで、遂に私の衝動が抑えきれなくなった。感情のままに手を振り解き、アサルトライフルを取り出し構える。奴の手に握られて冷えた指が熱された引き金に触れた。そのまま撃とうとしたがどうにか抑え、奴に問いかける。
「フーっ……ここはどこだ?観光客や店員達はどうした?お前はヨシミに何をした!?答えろ!!」
「………ごめんなさい、よく分からないわ。それよりココナッツジュースがある場所までもうすぐよ!ほら、早く行きましょ!」
「黙れ!ヨシミを返せ!私の友達の顔と声で話しかけるな!」
サイトを覗き、照準をヨシミもどきの頭に合わせる。困ったような顔が、怒った顔に変わった。小動物のような愛らしさのあるあの子の怒り顔が酷く悍ましく見える。
「ココナッツジュースいらないの?は?ダメに決まってるでしょ?ここまで来たんだから。ほら、行くよ」
冷たい声で突き刺すように吐き捨てて、ヨシミもどきはこちらへと歩み寄って来た。私は2、3歩下がる。
「っ!動くな!撃つぞ!」
奴は歩みを止めない。
「警告したからな……!」
(銃声)
「うっ」
頭部狙いだったが、ヨシミの顔に当てるのを躊躇って咄嗟に照準をずらした。結果、弾丸は奴の腹部に命中し、呻き声と共に動きが止まった。
「ココナッツジュース、飲みなさいよ……」
うずくまり、腹部を押さえ、それでもこちらをみる奴の眼差し。
「連れてってあげるから、ココナッツジュースを飲まないと……!」
ブツブツと呟き続け、こちらへと這いずって来る。私も後退り、悲鳴を上げた。
「早く……ココナッツジュース!」
「うわあああああああああああ!」
踵を返し、弾かれたようにその場から走り去る。特に目的地は決まっておらず、とにかくその場から離れたくて真っ直ぐ屋台エリアを走り抜けた。
もう少しでビーチが見える所まで来た瞬間、目についたのは海原ではなく人影。
「ヒッ……!」
「こんにちは!美味しいココナッツジュースを飲みに行きませんか?」
紫アロハの観光客と、
「あのココナッツジュース、とっても美味しかったわね!お姉さんもいかが?」
「一緒に飲みに行こうよ!案内してあげる!」
獣人の親子、
「しょうがないから案内してあげるわ!ほら、早く行きましょ!」
そしてヨシミだった。
「は!?何で!?さっき私が……!!」
何度も見直すが確かにヨシミだ。ヘイローのないもどきだ。紫アロハの観光客と獣人の親子……行方不明者達が私の前に立ち塞がったのだ。とにかく……とにかく逃げないと!
(爆発音)
私は咄嗟に手榴弾を真横の屋台に投げ、吹き飛ばす。テントが弾け飛び、向こう側の通路に繋がる道ができる。そこに飛び込んで、今度はビーチとは逆の方向に走った。
「何故だ……!どうしてヨシミが2人いるんだ!……うわっ!?」
瞬間、両脇のテントから人が飛び出して来て、私を捕まえようとしてくる。どうにかそれを避けて敵を確認する。2人ともヨシミだった。
「増えたぁ!?」
素っ頓狂な叫びをあげ、もう訳がわからなくなっていると2人のヨシミが襲いかかってくる。これまでの訓練のおかげですぐに対応し、咄嗟にアサルトライフルを構えた。
「っ!!」
(銃声)
弾丸が効くのは有難い。先生のように1発で死に至る訳じゃないが、動きは止まってくれる。だが一瞬だけで、すぐに立ち上がって襲いかかって来る。厄介な……!
「クソっ……!」
その場から離脱し、今度は駐車場エリアを目指す。ビーチを出れば、何かが変わるかも知れないと思ったのだ。
道中でも紫アロハの観光客や、獣人の親子や、ヨシミや、それ以外の見知らぬ人間達から襲われる。見知らぬ人間達も行方不明者なのだろう、皆ココナッツジュースと連呼していた。
それをどうにか対応し、時には発砲し、必死に逃げ続けた。私はこれくらい走っても問題ないように訓練されている。だが悍ましい存在とは言え人型で、しかも友人と同じ姿をしている存在に発砲する嫌悪感が、そしてこの状況が頭を混乱させて吐きそうになっていた。
しばらくしてようやく屋台エリアを抜けて駐車場エリアに入る。早速このビーチの外に出ようとしたが、また不可思議なものに遭遇した。
「霧?どうなっているんだ?」
ビーチの外に、やけに真っ白な霧が立ち込めていた。それはビーチの敷地を取り囲むように広がっており、まるで世界から切り離されているかのようにその先の景色が見えない。
どうしてこんな場所に霧が?どうしよう、あんなものに突っ込んでいいのだろうか?無理矢理入っても、外に出られるのだろうか?助けに来たつもりだったが、私は助かるのだろうか……?
(足音)
途方に暮れていると、霧の方から複数の人影がこちらに近づいているのが見えた。銃口を向け、待ち構える。銃口と指先が震えている。今度は誰だ?恐れながら待っていると、ようやっと姿が見えた。
「近くに美味しいココナッツジュースがあるんだ。興味はあるか?」
私だ。私の姿をした、しかしヘイローのない存在が7人、こちらに近づいて来た。
「ここもダメか……!」
私もどき達が来る前に退散しよう。そう思って振り返った瞬間、屋台エリアの方からこちらに向かって来る大量の人影が見えた。
(たくさんの足音)
挟まれた……!最悪だ、軽装だから弾薬もいつもより携行していない。手榴弾も残り少ない。どうにかして……どうにかして逃げ切らなければ……!
そうやって焦っている間にも奴らは距離を詰めて来る。どう考えても今の私では対応できない。このまま死ぬんじゃないかと諦めた瞬間、
「________サオリさん!!」
「ッ!!その声は!」
物陰からの声に顔を向けると、そこにはヨシミの姿があった。だがさっきから私が見ていたもどきじゃない。ボロボロで汚れていて、私の名前をちゃんと呼んで、そして頭上にはヘイローがある!
「ヨシミ!無事だったか!」
「いいから!こっちに来て!逃げるわよ!」
そう言ってヨシミは手を差し伸べてくる。私はすぐに走り出し、その手を握った。温かな体温を感じて目頭が熱くなる。昨日会ったのに長年会ってない気分になる。積もる話が山ほどある。だが今はここから逃げ出さなくては。
「こっちよ!あそこの建物はアイツら寄ってこないの!」
そう言って手を引く頼もしい背中を追いかけ、私は逃走に成功した。
ヨシミに手を引かれ、連れて来られたのは組合本部の建物だった。コンクリート製の平屋で、職員達はここで業務を行っている。私も業務開始時と終了時に来てミーティングに参加するが、休憩は屋台で済ませていたからほとんど寄り付かない場所だった。
「ほら見て、アイツらはこの建物には寄り付かないで、どっか行っちゃうの」
出入り口の扉に手をかけながら、ヨシミは奴らに指を刺す。奴らはこの建物から10メートルほど離れた場所でこちらを凝視し、しばらくしたらどこかへと駆けて行った。無人になった周囲に小さく波の音が響いた。
「ほら、サオリさんも入って。エアコンがつかないから暑いけど、日陰があるからマシよ」
「ああ、ありがとう。それと無事で何よりだ」
「えへへ、そう簡単に捕まる私じゃないんだから!」
室内は確かに日陰でマシになっているが、快適と言える温度ではない。窓は全て開け放たれており、時折海風が生暖かい空気を生暖かい空気に取り替えてくれる。要するに何も変わらない。私は帽子を外して自分の顔をパタパタと仰ぎながら、持っていたスポーツドリンクに口をつけた。
「…………」
「………ん?どうした?ヨシミ」
ふとヨシミを見ると、こちらを……いや、スポーツドリンクを凝視していた。その目はぼーっとしているように見えた。
「え!?いや、何でもないわよ!」
「いや、何でもないことはないだろう?顔色が悪い……。脱水症状か?もしかして、水を持ってなかったのか!?」
そう言えば外の屋台エリアには食べ物も飲み物もなかった。ヨシミがいつからここにいるのか分からないが、こんな炎天下で飲まず食わずは命に関わる。
思わずヨシミの両肩を掴んだ。しかしヨシミは「ああもう!違うって言ってるでしょ!」と叫んで振りほどいた。
「はぁ……はぁ……ふぅ。スイーツとドリンクはいっぱい持ってたの。だけど、朝までには全部食べちゃって……。それでちょっと喉が渇いて、本当にそれだけなの!じっと見ちゃって悪かったわね!」
顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。怒っていると言うより、恥ずかしそうにしている。自分がスポーツドリンクを凝視していたことが、意地汚いと思われたんじゃないかと考えているのだろうか?
「……気にするな。それより、ほら」
そう言って残り半分になったスポーツドリンクのボトルを差し出す。
「……何よ」
「少ないが飲んでいいぞ」
「べっ、別にいいわよ!サオリさんのでしょ!?」
「あ、すまない」
他人が口をつけたものに口をつけるのは嫌だろう、気づかなくて申し訳ない。私はペットボトルの蓋を開け、ハンカチで口を拭いて再度差し出した。
「ほら、これで大丈夫だ」
「そう言うことじゃないわよ!私が今それを飲んだらサオリさんの飲み物無くなっちゃうでしょ!?だからいらないってこと!!」
「ああ、すまない!そう言うことだったか!………なら心配はいらない。ここに来る前にトロピカルジュースを飲んでいたんだ、フルーツが入っている奴だ。だから腹も膨れてるし喉もそんなに渇いていない」
「で、でも……」
「大丈夫だ。それに私は1週間は飲まず食わずでも戦えるよう訓練を受けている。少しくらいなら問題ない」
「何よそれ!特殊部隊じゃん!」
「間違ってはいないな」
その後幾らか押し問答をしたが、ヨシミの体力が尽きていたようで勢いがなくなっていき、私は強引にペットボトルを持たせてヨシミに飲ませた。少し抵抗したが、口をつけたら我慢できず、一気に飲み干してくれた。
「ぷはっ!……はぁ、何だかいつもよりスポーツドリンクが美味しかった………」
「脱水の証拠だな。スポーツドリンクや経口補水液がやけに美味しく感じるんだ。少し座ろう、水が巡って楽になるはずだ」
少しでも快適になるように、日光が入らず風が入る窓の近くに椅子を2席運び、ヨシミの肩を支えて座らせてやる。隣に私も座り、様子を伺った。少し楽になったようで顔色も良くなっている。一安心して彼女の頭を撫でた。
「………昨日ね、せっかく来たから色んな屋台を回って、満喫してから帰ろうって思ったの。だから屋台のスイーツ制覇して、夕方には緑閃光も見て、綺麗だったから写真も撮って、それで帰ろうとしたの」
「………そうか」
「うん……。そしたらね、ココナッツジュースを持ってる人を見つけて、ああ、サオリさんはないって言ってたけどやっぱりあるじゃないって思って、その人に話しかけたの。ココナッツジュースどこで売ってるんですかって。そしたら案内してくれるって言ってくれて……それでついて行っちゃった……」
……やはり、私と同じ方法でこちらに来たのか。あのココナッツジュースを持っている行方不明者達。まさか昨日、他にも出現していたなんて。見逃してしまったばっかりに、ヨシミが……!
「ついて行ったら、観光客とか、屋台の人とかがみんないなくなっていて……、もしかしてサオリさんと初めて会った時の、あの変な奴と同じものに巻き込まれたんじゃないかと思って、すぐに逃げたの。そしたらおんなじ顔の奴とか、私と同じ顔の奴とかに追いかけられて、ビーチの外は霧みたいになっていて、出れない、どうしようって思ってたらここに逃げ込めて……」
「それで、ここに一晩いたんだな。本当に、本当に無事でよかった。お前達が危険な目に遭わないようにするのが私の仕事なのに、本当にすまない……」
「ううん、サオリさんは悪くないわよ。私は無事だし。……でも暑いし、1人だし、グズっ……それで夜とかに、どうなっちゃうんだろうって思って……このまま帰れないんじゃないかって……うわあああああああん!!」
堰を切ったように泣き出したヨシミを抱き寄せ、背中を優しく叩く。訳の分からない状況で、幸運がなければもしかしたら死んでいたかも知れなくて、その中で1人で耐え続けていたんだな。気が強く、いざと言う時は頼りになる彼女が小さく見えた。それくらい本当は恐ろしかったのだろう。
「大丈夫。大丈夫だ、私が助け出してやる……」
「ゔゔっ、ザオリざああああん!!」
正直に言うと、宥めるのは得意ではない。私が今までスクワッドの皆にこうしてやることはなかった。姫がよくやっていて、たまに私も無理矢理抱き寄せられていた。だから姫の見よう見まねだが、それでもヨシミは安心したようで、しばらくすると泣き止んでくれた。もう大丈夫だと安心してくれた。何よりだ。
「……ごめんなさい、サオリさん。……あ!みっ、みんなには言わないでよね!私が泣いてたなんて知ったら、アイツら絶対からかって来るから!」
「そんなことはないと思うぞ。きっとみんな心配している。早く元気な姿を見せてやらないとな」
「わ、分かってるわよ!そんなこと!」
気の強さも戻ってきたようだ。安心して微笑んでいると、ヨシミはまた顔を真っ赤にして怒ってきた。うん、これなら問題ない。
そう思っていると、ヨシミは急に起こるのをやめ、私を見てクスリと笑った。
「………ねえ、サオリさん」
「どうした?」
「今ね、何となくだけど、サオリさんって先生に似てるなって思ったの」
「先生に……?私が?」
「先生はサオリさんと違ってすぐに変なこと言ってくるし、ふざけてくるけど、……でも頼りになるし、とってもカッコいいのよ!」
誇らしげにそう語るヨシミ。しかしすぐにハッとして赤面し、「たまに!たまにそうってだけだから!」と叫んだ。万華鏡のように表情が変わる様は見ていてとても面白い。しかし、私が先生に似ている……か。
「フフッ」
「もう!何がおかしいのよ!!」
「いや、すまない。……前に先生に言われたんだ。私は先生と言う仕事に向いているのかも知れないと」
「……え?そんなこと言われたの?」
「ああ。でもそれが私のやりたいこと、なりたいものかはまだ分からないから保留中だ」
「そっか……フフッ、いいんじゃない?錠前サオリ先生ってかっこいいと思うし、先生以外になったとしても、サオリさんはきっと素敵な大人になれると思うわ!」
「……ありがとう、ヨシミ。ヨシミもきっと素敵な大人になれるさ」
「私は今関係ないでしょ!」
……あのチラシ配りのバイトの時に偶然出会い、関係が続いている放課後スイーツ部の子達は……アイリ、ナツ、カズサ、そしてヨシミは、本当にいい子達なんだ。私には勿体無いくらい、奇跡のような巡り合わせだと思っている。思えば先生に助けてもらって、先生に向いているかもと言われたあの日から奇跡は続いているのだろう。それを絶やさぬためにも、ここから脱出しなければ。何としてもヨシミを助け出し、私も生還するんだ。
窓の外、無限に広がる青い空に視線を移す。太陽はまだ天高く輝いている。夕方まで時間がかかりそうだ。
「ところでヨシミ、昨日は緑閃光を見たんだったな?」
「え?見たけど……そんなことよりここから脱出する方法考えないと!」
「問題ない、アテがあるんだ」
「アテって何?教えなさいよ!」
私はヨシミに顔を向け、肩をすくめる。
「……真偽の程は分からない。正直に言って賭けだ。乗ってくれるか?」
「……でも、思いつくのはそれしかないんでしょ?じゃあいいわよ!やってやるわ!」
「感謝する。なら私の知っていることを教えておこう。実は緑閃光はな……」
そう言って私は緑閃光……このビーチの名物に隠された言い伝えを教えてやった。
幕間・サオリのバイト飯
19.モドシユリ
食べた時のバイト:シャーレ案件・植物採集
説明:⬛︎⬛︎自治区特有のユリ科の植物。山菜のウルイによく似た見た目をしているが毒を持っており、食べると強烈な吐き気に襲われて、その名の通り胃の中のものを戻してしまう。
コメント:素手で触るとヒリヒリとした痒みと腫れが発生した。味は本当に不味く、人が食べていいものではない。これが山菜とよく似ているのは嫌がらせとしか思えない。山菜採りをする時は気をつけよう。
20.ヒダルソウ
食べた時のバイト:
説明:
コメント:
追記:根絶作戦実行中。
ー連邦捜査部シャーレ