データ入力のバイトを始めた錠前サオリだ。場所はミレニアムサイエンススクールの校舎からモノレール3駅分離れた場所にあるビルの一室で、ここでAIに覚えさせるデータをひたすらパソコンに打ち込む業務となっている。
この部屋はミレニアムのAI技術研究部と言う部活の所有物で、雇い主もその部員の1人。何でも、とある研究を1人で続けていたらしい。しかしさすがに人手が足りなくなってバイトを応募したそうだ。報酬は20万円。私が採用された瞬間ブラックマーケットの私の銀行口座に振り込まれた。口座を教えた瞬間振り込んできたのには驚いたが、さすがミレニアムの技術力と言ったところか。よく分からないが、電子決済?みたいなことをしたのだろう。……当たり前だがアリウスにはITのアの字もなかったから知識が全くない。この仕事を通して勉強しよう。
そしてビルから出られないので3食おやつ付き、風呂もベッドも使い放題だ。気前がいいな、張り切って行こう。
なになに、注意事項として『機密保持の為バイト中はビルから出てはならない。生活必需品は定期的に配送されるため、心配せずに作業を続けること』……だそうだ。仕事が終わらない限りはずっと引き篭もることになるのか。大変だな。
(1日目)
「……その、凄まじい量だな」
「いや〜ごめんね〜バイトちゃん?」
呆然としていると、横で雇い主のAI技術研究部員が申し訳なさそうに頭を掻いた。今、私達の目の前にはデータを入力される書類があるのだが、それが机の上に山のように置かれている。シャーレで先生が捌いている量の半分くらいだろうか?なんて量だ……!
「いや、シャーレがおかしいだけか……。それにしても、これがAI技術研究に必要なのか?」
「必要も必要。これがAIの礎になるんだよ。……AIってのは、すごいざっくり言うと、高性能なコンピュータに人間と同じような知的行動をできるようにしたものなんだけど、そのためにはたくさんのデータを覚えさせなきゃいけないの」
「なるほど……喋るために言葉を覚えさせる、みたいなことか?」
「うん、そんな感じの認識でいいかな。だからバイトさんにはいっぱいデータを入力して、AIを育てて欲しいんだよ」
そう言って雇い主はパソコンを撫でる。製作者の彼女にとっては自分の子供みたいなものなのだろう。その視線はとても愛おしそうだ。まだやりたいこと、なりたいものが分からない私にはその姿がとても輝いて見えた。このAIを完成させることが、彼女の大切なことなのだろう。
「……任せてくれ。研究が上手くいくようにサポートをしよう」
「うん!ありがとね、バイトちゃん!じゃあ早速よろしく!」
そう言って雇い主はサムズアップをして見せる。早速私は席につき、1番上の書類を手に取った。その内容はインタビュー記事だった。
『AI技術研究部 プロジェクトNo.1059
インタビューへの回答記録
対象者:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(71)
出身:百鬼夜行
対象者説明:百鬼夜行の老人ホームに住んでいる老婆
「もうすぐお迎えが来るとは思うけど、そうねぇ……。ずっとお家で花屋さんをしていたから、お花がいっぱいある場所に行ければいいわねぇ」
対象者:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(16)
出身:ゲヘナ
対象者説明:末期癌患者の少女
「何よ!?当てつけ!?それともさっさと死ねとでも言いたいの!?出てってよ!好きでこんな目に遭った訳じゃないんだから!本当に……好きでこんな……!ゔゔっ、もっと……もっと学校に行きたかった……。友達と青春したかった………!誰か助けてよぅ………死にたくないよぅ………」
対象者:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(32)
出身:D.U.
対象者説明:建築会社勤務の男性
「まあ、危ない現場もあるから保険にも入ってるし、考えたことない訳じゃないな。そうだなぁ……いやカミさんと息子がいるしなぁ。どこに行きたいってよりは、2人を見守れたらいいなぁ」
……何のインタビューだ?一体何を作ろうとして……。
「知りたい?」
「っ!?」
振り向くと、雇い主が私の顔を覗き込んで笑っていた。びっくりした。
余程困惑が顔に出ていたらしい。だが教えてくれるのならありがたく聞いておこう。
「そう言えば聞いてなかった。何の研究をしているんだ?AIにこれを覚えさせて、何をしようと……?」
「……私ね、とある人のために作りたいものがあるの」
「作りたいもの……?」
雇い主の笑顔に影が刺す。何か辛いことを思い出したかのように視線を下げる。数秒黙り込み、そして口を開いた。
「うん。
…………天国」
データ入力編、多分1番長いので刻んで投稿します。