(同時刻、セミナーの執務室)
キヴォトス三大校が一つ、ミレニアムサイエンススクール。その予算や会計を担う生真面目な彼女、早瀬ユウカは頭を抱えていた。
「AI技術研究部から、横領の疑いねぇ……」
今朝、AI技術研究部の部員達から届いたその報告に、激務で耳がイカれたかと思ったほどだ。自分達が横領をしているんじゃないかと言う報告書を自分たちで書いて、予算の元締めであるセミナー会計のユウカに提出する。中々おかしな話だが、当のAI技術研究部も困惑しているらしい。
そんなAI技術研究部の報告によると、2ヶ月前にとある研究を取りやめたため、その分の予算を他の研究に回していた。だが今月の予算申請にはその研究が再開されたことにされていて、その分増額した申請がセミナーに出されていたそうだ。
「AI技術研究部の部長さん、もう一度確認するけど、その中止された研究とやらは本当に再開されてないのよね?」
「はい、再開されてません!なのにお金が増えて、それが使われた形跡があって、びっくりしたから報告に来たんです!部員達も心当たりがないそうで、ユウカさんが間違えるとも思えないし……」
こんな時だが、会計として信頼されてることにユウカは心の中で喜び、そして部長の誠実さに安堵した。
ここ、ミレニアムサイエンススクールの部活は常にお金に困っていると言っても過言ではない。より良い技術や作品を作るにはどうしてもお金がかかるから、ユウカには毎日のように予算増額の嘆願がやってくるし、何なら最初から馬鹿みたいな量の予算を申請してくる。しかしそんな彼女達でも、横領などの犯罪に手を染めることは基本的にない。しっかりと結果を出して追加予算を勝ち取ったり、作ったものを売ったり、バイトをしてお金を稼いでいる。みんな悪いことをしたら研究ができないと分かっているのだろう。ゲーム開発部とか言うギリギリを攻める連中や、盛大にやらかしたビッグシスターなどもいるがまぁ、それは置いといて、生徒達のそこら辺の誠実さをユウカは信頼しているのだ。
「となると……本当に横領?一体誰が?」
ユウカがそう呟いた瞬間、執務室にセミナー書記の生塩ノアが入ってくる。表情はユウカと部長ほどではないが険しい。
「AI技術研究部の部員さん達への聞き取りが終わりました」
「ノア!何か分かった?」
「いえ、部員さん達も心当たりが無さそうで、嘘をついているようにも見えませんでした。……ああ、部長さん申し訳ありません。セミナーの方でも聞き取りをする必要があったので、私の方でも部員の皆さんとお話をさせて頂きました」
「大丈夫、分かってますよノアさん。でも、やっぱり横領をしたのはうちの部員じゃないって考えていいですよね……?」
ノアは「まだ分からない」と言いつつ、首を縦に振った。ユウカも部員達を信じて頷く。それを見て部長はホッとしたように笑い、その後眉を吊り上げた。
「だとしたら、AI技術研究部の部長として許せません……!我が部員の、あの子の研究をダシにお金を掠めている奴がいるなんて……!」
「AIで天国を作る研究……だっけ?中止されて、もう2ヶ月も経つのね……」
その研究は色々あってセミナーも把握していた。たった1人で研究をしていた彼女のことも。それを思うと、ユウカとノアも部長の怒りには納得できた。なんなら自分達も怒りを覚えた。
「残念な結果になったけど、彼女は最後まで頑張っていた。そして彼女は今もミレニアムの生徒よ!いいように利用されて、黙ってられないわ!」
「それじゃあユウカちゃん、横領の捜査をするんですね?」
「ええ。ノアも手伝ってくれる?」
「もちろん、放っておけませんからね……!」
「ユウカさん、ノアさん……!ありがとうございます!」
部長は満面の笑みで感謝し、頭を下げた。ユウカとノアはそれに頷き、そして思考を切り替える。怒りのままに動くのではなく、冷静に問題に対処するために。一度深呼吸して、部長に問いかけた。
「改めてだけど部長さん、お金が使われた形跡があるって言ってたけど、何に使われたか分かるかしら?」
「はい、こちらに……」
そう言って部長はタブレット端末を見せてくる。画面にはとあるビルの一室の維持費として、とても考えられないような額が支払われたことを証明する電子明細が表示されていた。
「横領したお金はこの部屋に使われたことになっていたんですね。……この部屋って確か」
「はい、ノアさん。私達AI技術研究部が借りている部屋です。2ヶ月前まで、彼女が研究のために使っていました。今はもう誰も使っていなくて、維持費だけを支払い続けていたんです」
「そこを狙われたって訳ね。お金の行き先を調べてみるわ!」
「この部屋に直接行ってみるのも良さそうですね。ユウカちゃんが調べてくれる間に、私と部長さんで1度行ってみましょうか」
「はい!ご案内します!」
「2人とも気をつけてね!犯人がいるかも知れないから!」
「そん時は差し違えてでもぶちのめしますよ!!そのための重火器ですから!!」
(ミニガンの駆動音)
「部長さん、落ち着いて下さい!ね?」
「ノア……よろしくね?」
………約1名血気盛んな生徒もいるが、そうしてそれぞれの調査が始まったのだった。
(1時間後、ビルの一室)
順調に作業を続けている錠前サオリだ。このためにブラインドタッチを習得していてよかった。データ入力も、インタビューの書類をそのまま打ち込むだけなので簡単だ。
「本当はスキャナーとかあれば、書類をそのままデータにできたんだけどね〜」
そうぼやいた雇い主だが、私を雇うよりスキャナーとやらを買う方が安上がりではないか?聞いてみると、困ったように笑いながら答える。
「ああ、その……設置が面倒だし〜……コンセント!そう、コンセントがもう空いてないんだよ!AIの研究には色々機材を使うからさ〜」
「コンセント?私のスマホを充電してるところじゃダメなのか?」
そう言って私は提供された寝床にあるコンセントを指差す。言った通り私のスマホの充電器が刺さっているが、もう1箇所空きがある。あれを使えば大丈夫だと思うが……。
「ダメダメ!機材は専用のコンセントを使うの!スキャナーもそうなの!ハイ!この話終わり!ほらデータ入力して!」
「あ、ああ……了解した」
あからさまに慌てた様子で強引に話を中断された。雇い主は何かを隠しているのだろうか?何にせよ取り繕うのが下手だな……。まあいい、仕事を続けよう。
(銃声)
「ん?外か?」
微かだが戦闘音が聞こえた。席を立ち、窓へと近づく。
「っ!近いな」
ビルの防音性のおかげで音が抑えられていたらしい。音源は遠いと思ったがビルの目の前だった。銀髪の生徒とミニガンを持った生徒が、ビルの目の前でドローンの群れと戦っていた。
「喧嘩か?」
「ああ…………産業スパイだよ」
いつの間にか隣に立っていた雇い主が答える。この雇い主、全く気配を追えない。手練れ……と言うより影が薄いのか、存在感が希薄な気がする。不思議な人だ。
「産業スパイ?」
「私のAI研究の成果を奪って自分達のものにしようとしてる悪い奴ら!だから私の方でドローンを使って迎撃しているの」
「なるほどな」
研究を狙ってる輩もいるのか。……彼女の、AIを使って天国を作る研究。成功すれば救われる人もいるはずだ。それを狙ってくるなんて……。
「雇い主、私はデータ入力より戦闘の方が得意だが、手伝おうか?」
「え?本当?ああでもダメ!バイトちゃんは引き続きデータ入力をお願い!バイトちゃんにしかできない仕事だからさ!」
「私にしかできない?そんなことはないだろう、雇い主が代わりにデータ入力をして、私が奴らを追い返す。適材適所じゃないか?」
「とーにーかーくーだーめーなーのー!!ほら、作業に戻って!!」
「あ、ああ……」
簡単な作業だが、私にしかできない?これに関しては、嘘を言っているようには見えなかった。釈然としないが作業に戻る。
その後戦闘は10分ほど続き、無事に追い返したようで辺りは静かになった。私も作業に没頭し、書類の量を目に見えて減らすことができた。1週間以内には終わるだろう。
その日は雇い主が用意した備蓄の缶詰とミネラルウォーターで夕食を済ませ、1日を終えた。明日も頑張ろう。
幕間・サオリのバイト飯
21.屋台の食べ物
食べた時のバイト:ビーチ前屋台警備
説明:屋台で売られているたこ焼き、焼きそば、焼きとうもろこし、チョコバナナなど。
コメント:屋台が多すぎて全制覇は叶わなかったが、食べたものはどれも美味しかった。個人的にはトロピカルジュースが1番だ。氷じゃなくて冷凍フルーツがたくさん入っている、夏にぴったりの甘酸っぱいジュース。また飲みたいな。