……でもアレが手に入ったらきっと………!
……ちょっとくらいなら、バレずに行って帰って来れれば、大丈夫ですよね?うん、大丈夫!
よーし!早速準備しますよ!にっはっはっは!!
兎狩りのバイトを始めた錠前サオリだ。ここはミレニアム自治区にある高級ホテル。近未来的な街並みのミレニアムらしい高層ビルのような外観をしているが、その内装は高級レストランや贅を尽くした宿泊施設など、まさにホテルと言った施設が詰め込まれている場所だ。路上生活を送る私には無縁の場所としか思えないが、今回は仕事でこのホテルに潜入することになった。なんとこの自治区を治めるミレニアムサイエンススクールの生徒会『セミナー』からの案件だ。
「________ミレニアムサイエンススクール1年生、黒崎コユキ。コードネーム『白兎』。サオリさんにはこの子の捕獲をお願いしたいのです。本来このような任務はC&Cに任せていますが、5人とも別任務で遠方に行っており、今すぐには動かせないので……」
そう言ってノアはタブレット端末を差し出した。その生徒の情報が表示されているのだろう。受け取って、中身を読もうとした瞬間、隣にいたユウカが絶叫した。
「はあ!?また問題を起こしたの!!?」
「また?やんちゃな子なのか?」
「お恥ずかしながら……。でも、先生と仲良くなってからは問題行動も落ち着いていたんですよ。先生がよく言って聞かせてくれましたから」
「復帰してからはそんな大規模なことは起こさなくなったわ。問題行動はあったけど、ゲーム開発部やエンジニア部やヴェリタスくらいの頻度と規模に落ち着いてたから、まあいいかなって思ってたんだけど……」
困っている様子のノアと頭を抱えるユウカ。両名を一瞥し、改めてタブレット端末の内容を読んだ。
黒崎コユキ。セミナー所属だがミレニアムきっての問題児でもあり、債券の無断発行などの大事件を引き起こして反省部屋にぶち込まれていた。だが先日の、空が赤くなったあの事件で活躍してからは業務に復帰。シャーレの先生のケアも受けて更生してきているらしい。
……やらかして、今は少しずつ更生してきている生徒。なんだか経歴に親近感が湧くな。
「それで?今回は何をやらかしたんだ?」
「ミレニアム自治区にある高級ホテルで、今夜闇オークションが開かれます。前々から定期的に開催されているもので、一斉検挙のために泳がせている状態のものです。ですがどうやらそのオークションに参加するために、ホテルに潜入したみたいなんです」
「嘘でしょ……?まだ確実な証拠を掴めていないのに」
「現状に痺れを切らして、セミナーとしての正義感で……と言うわけでもなさそうだな。お前達の反応を見る限りだと」
「はい、あの子は遊ぶこと……特にギャンブルが大好きで、無断債券発行もギャンブルに注ぎ込んでいました。今回の闇オークションも、その延長でしょうか……?」
「どこかで闇オークションの話を知って、欲しいものでも見つけて突っ込んで行ったのかしら?また債券発行なんてしてたら、タダじゃおかないんだから!!」
ユウカの顔が般若のようになっている、人間とはここまで表情を歪められるのだな。対するノアは笑顔だが、私の本能があれは不味いと警鐘を打ち鳴らしている。何ならユウカよりも怖いかも知れない。まあ2人が怒るのも無理はない……だが私はどうにも引っかかった。
「……確かに状況を見れば限りなく黒だが、更生はしていたのだろう?先生のケアもあった。なら信じてやらないか?あくまで私の勘だが……大丈夫だと思うんだ。すまない、ふわっとしているが、そう思う」
「サオリさん……確かに、そうかも知れないわね。ごめんなさい、少しナーバスになってたわ。過去のことで、決めつけてしまった……」
「いや、私も何も知らないくせに偉そうに言ってしまったな」
「とんでもありません、サオリさん。大切なのは今のコユキちゃんですもの。信じてみようと思います、気づかせてくれてありがとうございます。………それはそれとして、闇オークションに行ったことはお説教しますけどね♪」
「ええ、戻ってきたらたっぷり説教よ!」
「フフッ、それはもう、盛大にやるといい」
________と言うわけで、このホテルの闇オークションに忍び込んだ黒崎コユキを連れ戻すのが今回の仕事だ。給与は30万円で、使用した武器弾薬その他の経費は全部セミナー持ちだ。気前がいいな、張り切って行こう。
なになに、注意事項として『潜入任務だからスマートに行くこと。間違っても建物の破壊や大暴れなんてしないこと』だそうだ。荒事は想定しているが建物を吹き飛ばすまではしないと言ったのだが、「C&Cはやりやがる」と羅刹みたいな顔でユウカが吐き捨てていた。苦労しているんだな……。
(潜入開始、ホテル前)
ユウカとノアから貰ったホテルの見取り図を確認する。ホテルにどうやって侵入しようか算段を立てなくては。
地下から潜入はできるだろうか?ダストシュートを登って上の階に行けたりは……いや、このホテルのダストシュートは焼却炉と直接繋がっているのか。なら無理だな、丸焼きになってしまう。なら裏口はどうだろう……なるほど、電子ロックがかかっていて普段は入れないか。
だがターゲットの白兎……コユキは電子ロックを簡単に解除してしまう特異な才能を持っているらしい。技術ではなく、感覚的に分かってしまうそうだ。だからもしかしたら……、
「……予想通りだな」
裏口は解錠されたままで、ドアノブを捻って簡単に入ることができた。ちゃんと施錠し直さないと潜入がバレるだろうに……だが今はその軽率さがありがたい。
その後は客にも従業員にも見つからないよう、慎重にホテルを進む。豪華だが過度に煌びやかではなく、落ち着いた雰囲気の内装。その中を歩く客も従業員もドレスコードで、いつもの服を着ている私は考えなしに飛び込んだら悪目立ちするだろう。陰に潜み、息を殺し、少しでも目立たないよう心がけて移動する。
(アレを持ってきてよかった。着替えられる場所を探さないとな……)
いくつかの施設を周り、最終的に手頃な空き客室を確保。そこを拠点として闇オークションへの潜入の準備を始めた。私は持ってきたケースから、この任務の秘密兵器を取り出す。
「……前の任務ぶりだな。うん、やはり綺麗だ」
少し前の護衛任務で使った純白のドレス。その任務はダメになったが、ドレスはまだ使えると思い保管していたのだ。……綺麗で気に入ってるから手放せなかったのも理由の1つだったりする。
すぐに着替え、メイクも整え、アクセサリーを装着する。……おっと、キヴォトス人の1番のアクセサリーを忘れてた。
「……弾倉、チャンバー、よし。投擲物とナイフも……よし、ちゃんと隠せてるな」
これで準備完了だ。私はいくつかの荷物を隠し、部屋を後にする。廊下を堂々と進むが、すれ違う人々には不審がられている様子もない。心の中でホッと一安心しながら、闇オークション会場へ向かうのだった。
(ホテル内、闇オークション会場前)
前もって聞かされた情報によると、この闇オークションは裏社会のVIP達による会員制らしい。そしたら私は会場に入れないんじゃないか、潜入してもすぐにバレて摘み出されてしまうんじゃないかと思ったが、そこはセミナーがすでに手を回していた。
「________私達セミナーは闇オークション会員のパスを2個確保しているわ。来たる大捕物の日に使う予定で保管していたんだけど……コユキったら、1個持ってってるみたいなの。だからもう1個をサオリさんに渡します。これで潜入して、コユキを捕まえてちょうだい!」
「感謝する、大切に使わせてもらおう。ついでに闇オークションの情報も、できるだけ持ち帰るようにする」
「ありがとうございます。ですが無理は禁物ですよ?コユキちゃんとサオリさんの安全が第一ですから」
「………安全第一、か。フフッ」
「……サオリさん?」
「どうしたの?」
「ああ、すまない。その……元の飼い主が本当に悪い大人でな。人を殺せ、命を捨てろ……だなんて平気で言ってくる奴だった。だから、自由になってからは先生やお前達に、無理をするなだとか、安全第一だと言われるのがまだ慣れなくてな。慣れなくて……そして嬉しいんだ」
「サオリさん……なら、何度だって言ってあげるわ!安全第一!コユキも一緒に元気に帰ってくること!」
「私とユウカちゃんで帰りを待っています。気をつけて行ってくださいね♪」
「ああ、行ってくる………ありがとう」
________私は懐からパスを取り出し、会場前の受付に見せた。
「……確認しました、ようこそお客様。本日のオークションもお楽しみくださいませ」
「ああ、失礼する」
無事に通過できたことに安堵しつつ。いい仕事をしたセミナーへ拍手喝采を心の中で送っておく。それらを顔には出さず、受付で数字が書かれた札を受け取って、私は会場に入った。
そこはホテル内の劇場で、普段はオペラやオーケストラの演奏が行われている場所だ。小規模とは言えそのような空間が高層ビルの中にあることに驚きを隠せない。
客席はすでにVIP達が着席し、雑談を楽しみながら開催を待っていた。私は指定された席に向かいつつ会場を見回し、ターゲットの姿を探す。桃色の髪、ツインテールの生徒。目立つ容姿だからすぐに見つかると考えていたが、思っていた数倍早く見つけることができた。
「アレか……いや何でバニー服なんだ?」
私の席から少し離れた、ちょうど客席の真ん中に位置する席。そこにコユキはちょこんと座っていた。足をパタパタと動かしながらドリンクを飲んでいる。早く闇オークションが始まって欲しいのだろう、楽しみでソワソワしているようだ。
……いや何でバニー服なんだ?ドレスコードじゃなくて?いや似合っているし可愛らしいが……何故?
(………いや、格好なんてどうでもいい。アイツを連れ戻すことを考えないとな)
頭を振り、無理矢理思考を切り替える。さてどうするか。今すぐ行って確保もいいが、裏社会のVIP達がいるこの場所で騒ぎは起こしたくない。混乱に乗じて逃げられる可能性もある。もっと確実なチャンスを狙うために、ここは様子見だな。
監視に止めることを決め、私は自分の席に着いた。
「あら、ご機嫌ようお嬢さん。見ない顔ねぇ」
「ああ、どうもご婦人。色々あって、参加する機会をいただけたんだ」
隣の席の獣人(オカメインコ)のご婦人に声をかけられる。私は恭しく礼をし、嘘でも本当でもない返事を返した。……ちなみにこのご婦人も裏社会では有名な悪女だ。こんなところで顔を見るとはな。
「とは言ってもオークションや美術品はよく分かっていないんだ。だから今日は見物だけ楽しんで帰るつもりだ」
「まあ!なんて勿体無い!オークションは楽しいのよ、気に入ったのがあったらあなたも入札してみるといいわ」
「フフッ、そうだな。その時は頑張ってみよう」
「ええ、結果がどうなろうと、とても楽しめると思うわ。それに今日はアレが出品されるのだから……」
「アレ、とは……?」
「あら、それも知らないの?……いや、ライバルは少ない方がいいかしら………」
ブツブツと呟きながら、ご婦人は考え込む。それを見守っていると、会場が暗くなり出した。闇オークションが始まる時間になったようだ。
「まあ、見たら分かるわよきっと。お互いに楽しみましょうね、お嬢さん♪」
「……ああ、そうだな」
……結局アレとは何だったのだろう?何かすごいものが出品されているのか。分からないが、私の目的は出品物ではないからな。適当に見物しながら、コユキを捕まえるチャンスを伺おう。
(オークション開始)
ロボットの司会者によりオークションは進行される。様々な芸術品、骨董品が舞台に上げられた。恐らく全部悪い方法で手に入れたものだろう。それらをVIP達が値段を付け、悪い方法で稼いだお金を積んで競り合った。
「500万!」
「700!!」
「うむむ……!なら1500だ!!」
えげつないな……、最低でも200万から始まり、最終的には4桁を平気で超えてくる。眩暈がしそうな大金が動いているのに、VIP達は心底楽しそうに、何なら和気藹々としていた。ある意味恐ろしいな、VIPとはこう言う生き物なのか……。
(コユキは……まだ競らないか)
監視し続けていたが、コユキは今の所1度も競りに参加していない。たまに目を輝かせ、欲しそうにしていたが、すぐに首を振って数字の札を仕舞い込んでいた。我慢している?何か欲しいものがあるのだろうか?
(何を買いたいのかは分からないが、警戒は続けよう……)
ドリンクを飲み、おつまみのナッツを2つ口に放り込む。私はもうしばらく見物に徹することにした。
……そして30分後。私は限定生産クリスタルペロロ像とやらが5000万で落札されたことに困惑していた。落札者は確か裏社会でも有名なギャングのボスじゃないか?ファウストと言い、あの変な顔をしたカバはアウトローを魅了する力でもあるのだろうか?
そんなことを考えつつ周囲の喧騒を聞き流していると、司会者がよく通る声をマイクに入れた。
「さあ、どんどん行きましょう!続いての品は………皆様お待たせしました!ホープクローバーの押し花です!!」
(無音)
「ッッ!!!?」
楽しそうな声がピタリと止み、会場の空気が一気に重くなった。裏社会のVIP達が殺気……いや、獲物を見据える獣の威圧を舞台に向けている。自分に向けられたものでもないのに、悪い大人達が放つそれに私は心臓を掴まれるような痛みと不快感を覚えた。
対する司会者は意にも介さず、舞台に上げられたその品物をたった1人、拍手で出迎えた。それはA4用紙くらいの大きさで、どうやら額縁のようなものに入れられているらしい。だが分厚いヴェールがかかっており、全貌を把握することができない。そして司会者は、なぜかそのヴェールを剥がそうとしない。
「この場にいる皆々様ならご存知でしょう、裏に伝わる血塗られた御伽噺(フェアリーテイル)。見た者に死を!持つ者に幸運をもたらす不思議な不思議なホープクローバー!!……それを押し花にしたものです。元はブラックマーケットの大富豪ヘンリー氏が所有していましたが、彼の死後発生した遺族達の壮絶なお家騒動で一家は全滅。莫大な財貨を我らオークションがお話し合いの末に回収することになりました。これもその1つです」
そう言って司会者はヴェールの先を摘み、覗いたふりをして見せる。実際には中身を覗かず、わざとらしく顔を歪ませてヴェールを元に戻した。
「その性質上見せることはできませんが、権能は実証済み、我らがオークションが保証いたします」
恭しく礼をし、大きく深呼吸。
……瞬間、司会者は叫んだ。
「紳士淑女……いえ!悪党の皆様!!我らオークションは美術品や金銭……幸運などに興味はないッ!!闘争!!血生臭い金で殴り合い競り合う姿こそが無上の喜びでございます!!!戦え!!叫べ!!金を積んで押し潰せ!!……幸運とは、勝者のみを愛するものです」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
爆発のように会場が湧き立ち、VIP達が絶叫する。その圧に気圧され、私は耳を塞いで縮こまった。
不意にコユキの方を見ると、彼女も同じように縮こまって体を震わせている。……しかし意を決したような顔をして、数字の札を天に掲げた。
「う、うおおおおお!頑張れコユキ!やっ、やりますよ!絶対落札するからねっ!!」
コユキもアレを狙っていたのか!?だが、まだ勝負は始まっていないが、コユキが勝てるとは到底思えない。必死に強がって声を上げているが、まるで凶暴な獣の檻の中に入れられた兎だ。今にも押し潰されて貪り食われそうだ。
(……逆にチャンスか?この騒ぎに乗じてコユキを捕まえれば……いや、水を差したら爆発しそうだ。だがコユキに競り合いをさせるのは……)
悩ましいが、結局私は最後まで見守ることにした。どう爆発するか分からない今に怖気付いたのだ。
どうにか落ち着こうと深く息を吸う。……さあ、チャンスは今じゃない。待とう、コユキを見守ろう。そして、このオークションの顛末を……。行動方針を決めた私はドリンクを飲み干したのだった。
「それでは始めましょう。まずは手始めに……、
________1億から♪」
あにまん掲示板で連載投稿していたものです