錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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あにまん掲示板にて投稿していたものである。


セミナー案件・兎狩り.6

(16階、非常階段)

 

息せき切り、しゃっくりあげながら階段を降りるコユキ。足がまた痛み出し、さっき塗った軟膏の効能でも抑えられなくなっていた。

ちょうど16階の扉の前に辿り着いたところで足を止め、扉にもたれかかって膝をつく。乱雑にハイヒールを脱いで患部を手で擦る。綺麗に巻かれた包帯が歪んでいる。直そうと試みるが余計歪んでしまい、コユキは酷く後悔した。

「ああ……また余計なことしちゃった………」

落ち着いていた涙腺が再び水かさを増し、水滴が落ちた。コユキは感情の起伏が大きく、それ故にすぐ気持ちを切り替えることができる。だが今回は今回は自己嫌悪と情けなさが胸に深く突き刺さり、切り替えなんてできなかった。

不意にずっと握っていた、ヴェールに覆われた額縁が目に入る。思い返せば全ての始まりはこれを……ホープクローバーの押し花を求めたことだった。

(お説教ばっかりだし、嫌な仕事を押し付けてくるし、シンプルに怖いけど大好きな先輩達。お礼にクローバーあげたいなって、それだけだったのに……)

コユキは少し前の日のことを思い出す。ユウカとノアにあげるクローバーを探したが見つからず、仕方なく葉っぱをくっつけたものをプレゼントしようとしたこと。そしたら2人は一緒に探すのを手伝ってくれ、暗くなるまで一緒に公園にいたのだ。

(……結局見つからないし、寮の門限を過ぎちゃって怒られるし、散々だったなぁ……。でもクローバーを探すのも、みんなで怒られるのも楽しかった……)

だからコユキはあの後もクローバー探しをしていた。どうしても贈りたかったのだ。あの時先生がくれたクローバーがとても嬉しくて、問題児故に誰かと関わる経験が乏しいコユキにとって何かを贈り贈られる経験がほとんどなく、だからこそその経験が忘れられない。『クローバーを贈る』と言う行為にこだわりと特別さを感じているのだろう。

「……でも、やっぱりこんなところに来ちゃうのはダメでしたよね。先輩達を心配させちゃうし、サオリ先輩も怪我させちゃって………」

……たまたま聞いたホープクローバーの伝説と、たまたま見かけた闇オークションの情報。舞い上がって、自分は大丈夫だと思い上がって、結果危険な目にあって先輩達に迷惑をかけた。目先の四葉に目を奪われて、足元にあった大切なものを荒らし回った。

「コユキのバカ、悪い子だ……何であの時思い直さなかったの?クローバーを探し続けたらよかったのに、こっちの方が簡単だなんて思っちゃって、こんなことを………」

やってしまったことの後悔と恐怖で膝が震え、それを抑えるように抱き寄せて顔を埋めた。非常階段の上で座り込んだ小さな背中が絞り出した泣き声が、閉鎖された縦長の空間に反響した。

……瞬間、

 

(ノイズ音、その後にチャイムの音)

 

『あ〜、声入ってますかね?兎のお嬢さん、まだホテルの中にいますよねぇ?』

よく通る声、闇オークションの司会者だ。先ほどサオリの背中に2弾倉分のライフル弾を浴びせた奴……コユキは声のする方を見た。館内放送用のスピーカーがそこにあり、それを怯えた様子で見やった。

『我らオークションの目的は、あなたが持って行っちゃったホープクローバーの押し花だけです。他には興味はありません。だから今なら許してあげますから、それを返して下さい。でないと、あなたの先輩さんを殺さなきゃいけなくなります』

喉からヒュッと細い音が出る。人が死ぬ……話がそこまで拗れてしまったのか。いや、さっきも目の前で階段から落ちた人がいたじゃないか、あのご婦人もきっと……!そんな風に最悪を考えだして止まらなくなり、コユキは絶望と自責の念で頭を抱えた。

しかしそんな彼女を慮ることもなく放送は続く。

『そうだ、先輩さんの声も聞きたいですよね!安心して下さいまだ無事ですから。だから早く来て下さいね!ほら、先輩さん。あなたの後輩に言ってやって下さい。早くホープクローバーの押し花を持ってきてって!』

『………コユキ』

絞り出すような声。無事なわけがない。自分が逃げた後に酷い目にあったのだろう。まだ会ったばかりだけど強い人だとは思ってた。そんな人がやられてしまって、その上自分を連れ戻しに来たせいでこんなことになったとコユキは改めて思い知らされた。

「サオリ先輩……!」

思わず届くはずのない呼びかけをしてしまう。何と言って欲しいのかは自分でも分からないが、とにかく安心したくて、コユキはスピーカーをじっと見つめた。

……サオリの返答はすぐに来た。

『……ホープクローバーを持って逃げろ』

「………え?」

思いもよらない言葉にコユキは耳を疑った。それはつまり、サオリを置いて逃げろと言いたいのか?どうして?そんな疑問の回答がコユキには思い浮かばない。

『それに幸運を呼ぶ力があるのかは分からないが、もし本当ならそんなものを悪人が持ってはいけない。だから持ち帰って捨てて欲しい』

『先輩さん?何を言ってるのですか?』

『無理ならいいんだ。お前の安全が最優先だから、そこらに捨てても構わない。だからコユキ、ここには来るな。ミレニアムに帰るんだ……!』

ホープクローバーの押し花についてはコユキも同じ意見だった。しかしそんなことよりもサオリは大丈夫なのか?それしか気にならないし心配でしかない。どうしようかとコユキが考えていると、次の瞬間スピーカーが鋭く大きな音を放った。

 

(銃声)

 

『ダメですよ。持ってきてってちゃんと言って下さい。ほら、もう1回』

『ゔっ……ぺっ。コユキ、お前「何もしない方が先輩達のためになるのかも」って言ってたな。私は……そんなことないと思うぞ』

 

(銃声)

 

『……っ!はぁ、確かにやり方は間違えたな。でも、ユウカとノアにお礼がしたい、幸せになって欲しいと思ったのだろう?それが間違いなわけあるものか。コユキ、お前は問題児かも知れないが、とてもいい子だ……』

 

(銃声)

 

『クソ……!はあ、コユキ、昔やらかして反省部屋にぶち込まれたんだってな。でも先生に色々教えてもらったり、ユウカとノアと一緒に仕事を頑張ってたそうだな。ようやっと、それが楽しいと思えるようになったと言ってたな。偉いじゃないか、ちゃんと更生を……やり直すことができてる。お前はすごいよ』

 

(銃声)

 

『………私は、私もそうなんだ。前に悪いことをして、たくさんの人を傷つけた。到底許されないことをした。でも人生はこれからも続くと、やり直せると先生から教えてもらったんだ。だから今も足掻いている……』

 

(銃声)

 

『立場も境遇も違う、そもそも私は部外者で、お前とは会ったばかりだ。それでも、きっとコユキなら本物のクローバーを見つけられると思う。これからも頑張ればきっと上手くいくさ。だからミレニアムに帰って、ユウカとノアにちゃんと謝るんだ。反省して、もう1度頑張れ。コユキならきっとできるから』

 

(銃声)

 

『はぁ……はぁ……はぁ…………私のことは、いいから……気をつけて帰れよ………』

 

(殴打音)

 

『はあ、何で言った通りに喋ることもできないんですか?どう言う教育を受けたんだか………まあいいです』

司会者の呆れた様子の声が響き、その後ろでサオリの呼吸の音がかすかに聞こえる。コユキが呆然としている中、司会者は次の句を話し始めた。

『今からヴァルキューレやミレニアム本校に連絡しても無駄ですからね。奴らが辿り着く前に先輩さんを殺して撤収することができます。オークションをなめない方がいいです。兎のお嬢さん………私達は屋上にいます。またお会いできるのを、楽しみにして待ってますね♪』

その警告を最後に放送は止まり、非常階段に静寂が舞い戻る。コユキはホープクローバーの押し花を手に取り、視線を向ける。真っ黒なヴェールに、まだ目元に残っていた涙の粒が落ちる。

「に、にっはっはっ………褒められちゃった。私はすごいんだって。ね?コユキ……」

言い聞かせるように囁く。鼻を啜って、もう一度スピーカーを見上げた。

「でも……でもサオリ先輩だってすごいじゃないですか。こんなところまで来て、命懸けで戦ってくれて……ぐずっ、サオリ先輩もやり直してる真っ最中なら、こんなところで終わっちゃダメじゃないですか……!」

手すりを掴み、全身の筋肉に鞭打ってなんとか立ち上がる。靴擦れの痛みを気合いで堪え、腫れぼったい目元を拭い、視界を確保する。ホープクローバーの押し花を握り締める。

そしてコユキは16階の扉を開き、歩き始めた。

「頑張れコユキ、あと少しだけ……!私ならきっとできるって言ってもらえたもんね。だからサオリ先輩を助けるよ、頑張るよ私!」

無人のホテルをゆっくりと、だが歩みを止めずに進む。そんなコユキの目にはまだ後悔も自責も残っていた。しかしそれ以上に、やってやろうと言う強い意志の光が咲き誇っていた。

「一発逆転、見せてやりますよ………!」




感想とか評価とかあると嬉しいです。
リクエストは叶ったらラッキー程度に考えていただければ

追記:掲示板時代に貼ったURLそのままだったので消しておきました。
ブルアカ公式Xの4コマで、ユウカとコユキがクローバー探しをするやつです。
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