(結婚式4日前)
「事故なんて起こしちゃダメよ?安全運転!いいわね?」
「ああ、安全運転で行ってくる」
昨日のように上司に見送られて、私は軽トラを走らせた。
カーナビには確かに新郎の実家、授臨神社のルートが設定されている。どれどれ……確かに遠いな。隣町とは言っても端の方にある上に、そもそも今いる都市も隣町も面積が広い。途中でどこかで昼食と休憩を取るとして、その時間と到着後の荷物の詰め込み、そして渋滞に捕まった時のことを想定したら、日が暮れる頃に結婚式場に帰ることになりそうだ。長旅だな。
カーナビの指示に従って軽トラを走らせる。道中にトラブルはなく、しかし案の定渋滞や赤信号に何度も捕まって、座りっぱなしの私は尻の肉が取れそうになった。
そんなこんなで昼頃に隣町の神社周辺の地域に辿り着く。どこにでもあるような普通の街並みだが、小高い丘の上にある授臨神社が、まるで街を治めるかのように鎮座している。さらに街並みをよく見ると、どの家の扉にも大きな鳥の羽が飾られていた。
「ここ独自の文化……信仰だろうか?あの神社はずっとこの街の人々を見守っているんだな……」
見知らぬ街並みに垣間見得た独自の文化に感心していると、また信号に捕まった。信号を待っていた人々が動き出し、私の軽トラの前を通り過ぎる。
「……ん?ここは」
不意にカーナビの文字が目に入る。今私がいるこの十字路に『ヒラサカ十字路』と名前が付いていた。どこかで聞いたことがあるような……、
『ええ、そうですね。でも、ヒラサカ十字路であの人を見た瞬間、絶対に結婚式をしなくちゃって思ったんです。だから義実家の人達とお話しして、すぐにでも結婚することにして……ああ、そう言う意味ではこの結婚式場には本当に感謝しているんですよ。予定が空いていたとは言え、たった1ヶ月で準備を進めてくれて!』
………ああ、そうだ。新婦が言っていた。彼女はここで新郎と出会い、結婚すると決めたらしい。ちょうど赤信号で軽トラは動けない。私は試しに周囲を見回した。もしかしたら新郎と新婦がいるのかも?いや、まさかな。すぐに馬鹿らしくなり顔を正面に戻そうとした瞬間、私はその姿を目に捉えた。
「新郎、本当にいた……!」
自分から探し始めたが見つかるとは一切期待していなかったその姿、歩道の人々の中に新郎の姿を見つけた。電柱の隣に突っ立って、俯いて……花束?花束だ、電柱の真下に置かれている花束をじっと見つめている。何をしているのか不思議だがまあ、見つかって良かった。この結婚式について、助けを求めた理由について聞くことができる。
しかし喜んだのも束の間、信号が青に変わった。ああ、色々聞きたかったのに……!
(まあいい、今から奴の実家に行くんだ。家族に話を聞いたり、奴が帰ってくるのを待つのもいいだろう。今は安全運転だ)
溜め息を1つ車内に投げ捨て、私はアクセルを踏んだ。車はあるが混んではいない十字路、スムーズに進むことができ、ヒラサカ十字路を通過した。瞬間、
「助けてええええええええええ!!嫌だ!!結婚したくなあああああああい!!!!」
「っ!?」
思わずブレーキを踏み、振り返る。約5メートル後方のヒラサカ十字路の歩道、さっきまで新郎がいた場所を睨む。そこから新郎の悲鳴が確かに聞こえた!だが新郎の姿が見当たらない。何なら他の歩行者は何事もなかったかのように通過して行ってる……。
「な、何だったんだ今のは……?」
(クラクションの音)
「っ!ああもう……」
真後ろの車から急かされ、私は困惑する脳を無理矢理切り替えて運転を再開した。今すぐにでも引き返してヒラサカ十字路を見たいが……Uターンは難しそうだ。仕方ない、予定通り神社に行って、帰りにヒラサカ十字路を調べよう。
私は後ろ髪を引かれる思いで、何なら強く視線を感じる気がするほどに惜しみながら軽トラを走らせたのだった。
「________ようやっと着いた……だが駐車場が満員だな。どうしたものか」
あれから20分ほどで授臨神社に到着。隣接している駐車場に入った。しかし満席なようで、どうしようかと考えながら駐車場内をぐるぐる走らせていた。
こんなに客が来る神社なのか……。敷地も広いし、きっと霊験あらたかな場所なんだな。感心しつつも困っていると、神社から獣人(ペンギン)の集団が出てきて駐車場に入ってきた。皆笑顔で和気藹々とした様子で、それぞれの車に乗ってエンジンをかけ始める。ちょうど帰る集団か、これなら軽トラを止められそうだ。
ホッとしていると、1人の男性が軽トラに近づいてきた。笑顔でこちらに手を振り、敵意を感じなかったので窓を開けて応対する。
「悪いねお嬢ちゃん、駐車場いっぱい使っちゃって!俺達もう帰るから、すぐに空くと思うよ!」
「構わない、感謝する。お前達は観光か?」
「観光?いいや、結婚式だよ!ここは結婚の神様じゅのお様が祀られてる神社だからね、この辺りの人間はみんなここで結婚式をするのさ!あ、ほら見て!」
そう言って男性は神社の方に羽根を向けた。そこにはちょうど神社から出てくる2人の獣人。片方は白無垢を着た女性で、もう片方は羽織り袴を着た男性……あの2人が結婚式を挙げた夫婦だな。寄り添って、とても幸せそうにしている。
「おめでとう!お幸せに!」
「お似合いだよ!2人ともずっと仲良しだったから、結婚できてよかったね!」
周囲を取り囲んで祝福の声を上げる参加者達。それを浴びてはにかみながら2人は車に乗り込み、去って行った。他の車達もそれに続く。きっと2次会か何かを別の場所で行うのだろう。しかし、そこにいた全員が大きな鳥の羽を持っているのが印象的だった。やはりあれはこの神社の神由来のアイテムなのか。
「……めでたい席だったんだな」
「きっと孔雀の神……じゅのお様も喜んでるよ!そう言えばお嬢ちゃんは観光かい?」
「いや、仕事だ。この神社の息子の結婚式の件で訪ねて来たんだ」
「あっ、あ〜……なるほど………。じゃ、じゃあね!お仕事頑張って!」
途端に歯切れが悪くなり、男性はペタペタと駆けて自分の車に乗り込み、走り去ってしまった。何か思うところがあったのだろうか?訝しみつつ軽トラを駐車した。
境内に入り様子を伺う。本殿では宮司の服や巫女服を着た獣人(オシドリ)達がせっせと後片付けをしている。ちょうど1人の巫女さんが近くを通りかかったので声をかけ、新郎一家に取り次いで貰った。しばらく待っていると奥の方から初老の宮司がやってくる。そいつは新郎の父親を名乗り、私に恭しく一礼して見せた。
「わざわざ遠いところからようこそおいで下さいました」
「構わない、仕事だからな。それで備品は?」
「社務所に置いてあります。申し訳ありません、車をここまで寄せることができないので往復してもらうことになりますが……」
「問題ない、持って行こう」
「お手伝いいたします」
お言葉に甘えて、新郎の父親と共に備品を運び出した。大量の薪と丸太、そしてガソリンが入ったポリタンク。2人がかりでも何往復もする必要があったが、その間に父親から話を聞くことができそうだ。私はポリタンクを持ちながら父親に問いかけた。
「新郎はいないのか?」
「いえ、もうこの家にはおりませんよ」
ん?ニュアンスが気になるな。「出かけている」とは捉えにくい言い方だ。
「………出かけているのか?」
一応の確認と認識のすり合わせのため、あえてそのように聞いてみた。すると父親は嫌そうに顔を歪めた。
「……何故お聞きになるのですか?」
「ああ、すまない……!気になっただけだ……」
そう言った瞬間、父親の顔に描かれた猜疑心がより濃くなった気がした。何故聞いただけでこんなに怒るんだ?自分の息子だろう……。
とにかく適当に誤魔化そう、でないと話を聞くどころか、追い出されかねない。
「じ、実はヒラサカ十字路で新郎を見たんだ。それで何でそんなところにいるのか気になって、つい聞いてしまった。気を悪くさせたのなら謝る……すまない」
「ああ、そう言うことでしたか」
納得してくれたようで、私への警戒が緩くなった。ホッと胸を撫で下ろしつつ、父親の話の続きに耳を傾ける。
「てっきりあの女がどこかに連れて行ったのかと思っていたが、そうかあのバカ息子は今もあの四辻におるのか。いや……息子と呼ぶのも反吐が出る」
「そ、そんなに仲が悪いのか……」
「仲が悪かった、ですな。あやつはもう死んでおりますから」
「そうか…………ん?」
は?待て?死んだ?新郎が?死んだ?何故?何が?どうなっている?は?はぁ?意味が分からず、思わず立ち止まって父親を見やった。
「え、だが……私は、見たぞ?結婚式場に来てたし、十字路にもいたぞ……!?」
「ええ、ですが死んどります。1ヶ月前に交通事故で。ですが浅ましくも地縛霊となって、あの四辻に居座っておりました。しかしそれを見つけたあの女が、今は首根っこを掴んでおるようで………」
「死んで……地縛霊?四辻?首根っこ…………は?」
一気に情報を処理できない情報を垂れ流されて混乱が加速する。頭の中でクエスチョンマークが踊っている。しかし父親はそれに気がついてないようで、持っていたポリタンクを下ろし、しみじみとした様子で腕を組んだ。
「いやぁ、しかしまあ驚いたものです。あの女、
________自分の旦那を殺した男と結婚しようとしておりますから……」
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