コンビニ店員
何!?時給2万円のコンビニ深夜勤だと!?
早速働き始めた錠前サオリだ。業務は普通のコンビニと変わらんな。だが品物を届けてくれるトラックが深夜ではなく昼間に来てるのは何故だ?まあ楽でいいのだが。
「じゃ!ワンオペで悪いけどよろしくね!あんまり人も来ないだろうし大丈夫大丈夫!」
そう言って獣人(コーギー)の店長は着替えもせずに帰って行った。急ぎの用事でもあるのだろうか。にしても、コンビニ店員のバイトはした事があるが完全に一人なのは初めてだ。不安だが、それ故のこの給料なのかもな。さて、早速仕事をしよう。
なになに、マニュアルによると本当に普通のコンビニの仕事だな……ん?『立ち読みは無視し、絶対に声を掛けない事』だと?普通のコンビニならさっさと追い出せとでもいいそうだが、ここはいいのか。ヒヨリが喜びそうだな……いやそんな事させられないな。来たら追い返そう。
(2時間後)
客は来ないな。まあ町外れのコンビニならこんなものか。ずっと掃除も飽きてくるが。ん?
(自動ドアの開く音、小気味好いチャイム)
「いらっしゃいませー!」
どうやら客が来たようだ。丁度入り口が見えない位置にいたから客の顔は見えなかったが……足音から雑誌コーナーに行ったようだな。一応レジに戻ろう。
…………様子がおかしい。足音もした、ペラペラと紙を捲る音も聞こえる。なのにこう……人の気配を感じない。レジからはうまくあちらの様子は見えないが、窓ガラスに姿が反射してないだろうか?背伸びをしたら見れるかも……、
『立ち読みは無視し、絶対に声を掛けない事』
……いや、やめよう。ああやってわざわざマニュアルに書いていたんだ。きっと何かあるはずだ。あの立ち読み客は無視して、別のことをしていようか。
(1時間後)
(雑誌コーナーから足音)
動いた、出入り口に向かっている。
(自動ドアの開く音、小君良いチャイム)
出て行ったようだ。挨拶は……しない方がいい気がする。
少し間を空けて、外の様子を見てみた。立ち読み客らしき人物はいなかった。いや、姿が見えなくなるにしては早くないか?……何だったんだろう。
この後は何事もなく時間が過ぎ、普通に定時で帰った。
(3日後)
今日もバイトに来た錠前サオリだ。私のシフトまであと10分、ちょっと早く着いたな。
「すまない店長、早く来てしまった。バックヤードで待機していてもいい……ん?店長、どうして監視カメラの電源を切っているんだ?」
「あれ!?新人さん!?ああいや〜ほら、深夜はどうせ客が来ないし、電気代とかもったいないだろう?」
「そうかも知れないが、セキュリティの面で問題にならないか?ましてや深夜は私一人で「いいから!!!」っ!?」
「……深夜は監視カメラはつけない。全部君に任せるよ。……ところで、マニュアル通りにやっているかい?」
「……ああ、問題ない」
「ならいいんだ。じゃあ、今日もよろしくね!ちょっと早いけど僕は上がるから!」
そう言って店長は作業を済ませて、そのまま帰ってしまった。……声を荒げたが、ずっと青ざめていた。何かに怯えるように……。
『……ところで、マニュアル通りにやっているかい?』
マニュアル通り……普通のコンビニの仕事と、立ち読み客は無視するという注意事項。……あの立ち読み客か?店長は一体、何を恐れているんだ?
(2時間後)
さてと、そろそろ立ち読み客が来るな。
このバイトを始めてから、深夜には普通の客は来ていない。だがあの立ち読み客は毎日来ている。私はマニュアル通り無視をしていて、その姿を見た事はない。
……気にならないと言えば嘘になるが、店長の事もあって、触れてはいけないものだと言う確信に近いものがある。それに無視してさえいれば時給2万円だ。真面目に無視してやるとしよう。
(自動ドアの開く音、小気味良いチャイム)
「いらっしゃいませー!」
ん?いつもより早いな。いや、普通の客だ。公共料金の支払いだろうか?商品を何も取らずにレジまで来た。
「おい動くな!!金を出せ!!」
「っ!?」
コンビニ強盗だと!?
「どうした!?早くしろ!これに突っ込め!!」
そう言って雑にバックを投げてよこした強盗。手にはハンドガン、それ以上の武装は無さそうだ。
さてどうするか。本来なら安全のために素直に従いつつ、隙を見てレジの下にある押せばヴァルキューレに通報できるボタンを押すのがマニュアル通りのやり方だ。だが私は指名手配中の身だ。あまり事を大きくしたくない。
仕方がない、自力で制圧するか。適当に気絶させて近くのゴミ捨て場に転がしーーー
(自動ドアの開く音、小君良いチャイム)
「っ!」
「ああっ、客か!?てめーも動く……な……あれ?誰もいない?」
あの立ち読み客が来た。だが相変わらず姿は見えない。いや、強盗に意識を集中させていたから分からなかったが、気のせいでなければ、今誰もいないのに自動ドアが開かなかったか……?
(雑誌コーナーに向かう足音、しばらくして紙を捲る音)
「ああ、何だよやっぱり誰かいるじゃねーか!!」
「あっ、おい!」
まずい、強盗が立ち読み客の方へ向かった。客に万が一の事があっては大変だ。仕方がない、ボタンを押そう。そして早く追いかけなくては。
「待て!」
「おい!お前も金を出せってんだ…………あ」
……何だ、急に動かなくなった。
「おい、大丈夫か?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
急に叫び出した!?
「ごっごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!あなた様がいるとは思わなかったんです知らなかったんです知ってたらこんな事しませんでした許して下さい許して下さい!!!!!ごめんなさいごめんなさい!!!!!!!!!!!!」
今度は土下座して、ひたすら謝罪している。
(紙を捲る音)
「ごめんなさいいいいいいいい!!!!許してえええええええ!!!!!」
(紙を捲る音)
動けない、状況が理解できない。強盗はずっと謝罪し、あれは……立ち読み客はずっと雑誌を読んでいるらしい。
何が……何がどうなっているんだ?そこには何がいる!?
(雑誌コーナーから足音)
「っ!!」
動いた、出入り口に向かっている。咄嗟に後ろを向いた。とうとう泣きじゃくった強盗も放置だ。
『立ち読みは無視し、絶対に声を掛けない事』
マニュアル通りにやれ。振り向くな。絶対にそいつを……今までにない位に感じるそのプレッシャーを無視しろ……!
「……」
(足音)
「………」
(足音)
「…………っ!」
(足音)
(自動ドアの開く音、小君良いチャイム)
「っはあぁっ……」
出て行ったようだ。
……その後、駆け付けたヴァルキューレの生徒によって強盗は確保された。強盗は心神喪失の状態で、ずっと「ごめんなさい」とぶつぶつ呟いていた。私は事情聴取もされたが幸いにも私が指名手配の身だとはバレなかった。
そしてこんな事があったためヴァルキューレは店長に連絡したのだが、朝になるまで電話が繋がる事はなかった。ようやっと駆け付けた店長はヴァルキューレにセキュリティの甘さを、特に監視カメラの電源を切っている事を叱られていた。その顔はずっと真っ青だった。
後日、このコンビニは店長の失踪が理由で営業停止となった。残念だが、給料は入った。切り替えて次のバイトを探そう。
……あの立ち読み客は、今はどこにいるのだろう。他のコンビニにでも行ってるのだろうか?
ここだけサオリが裏バイトで働いていて、ひどい目にあったりあわなかったりする世界
錠前サオリの裏バイト奇譚1
業務内容:コンビニ店員
注意事項: 『立ち読みは無視し、絶対に声を掛けない事』
勤務期間:4日間
給与額:1時間2万円×8時間×4日間=64万円
コメント:無視してさえいれば本当に楽な仕事だった。ただコンビニ自体が私のやりたい事とは違う気がする。