「________はぁ……そんなに風紀委員会が怖いなら依頼受けなければよかったんじゃない?」
「そっ、そう言うわけにはいかないわ!ヒナ達が怖くて依頼断りました〜だなんて我が社の名折れよ!」
「クフフ〜。でもさぁ、今日のターゲットは護衛をつけてるらしいよ?荒事は避けられないだろうねぇ、どうしよっか?」
「なるべく手早く片付けるわ、バレないように!……ああいや、別に怖くないけど!余計な争いをしないのもアウトローよ」
「だっ、大丈夫です……!護衛も風紀委員会も、私が全部消しますから……!」
「ええ、いざって時には頼りにして……って待って待って!今日は地雷は無し!ターゲットが壊れちゃったらダメなんだからぁ!」
「………さあ、我が職員達。仕事の時間よ」
「うん」
「は〜い、楽しみ〜♪」
「が、頑張ります!」
「フフッ、それじゃあ出発!いざ、懐かしきゲヘナ自治区へ!」
要人及び荷物の護衛のバイトを始めた錠前サオリだ。ここはゲヘナ自治区の外れにある小さな村……いや、廃村と言っていいだろう。見渡す限りにはかつて畑だった空き地と、かつて人が住んでたと思われる崩れた廃墟しかない。人気のない、風が草木を撫でる音が嫌にうるさく感じる場所だ。そんな廃村の最後の住民である獣人(ヤマネコ)の老婆から依頼を受けた。彼女と彼女の荷物を護衛して欲しいそうだ。
「ヒノム火山の、わけみ……たま?」
「ええ、分霊(わけみたま)。神様の霊を分かち、別の場所でも祀れるようにすること。この鞄の中には、村で祀られていたヒノム火山の分霊が入っているの」
そう言って老婆……いや、雇い主は膝の上のアタッシュケースをポンと叩いた。
「火山の分霊……山岳信仰と言う奴か。この村では、その信仰があったと言うことだな?」
「そうよ。この村からでも見える巨峰、ヒノム火山。そこから降りてくる地下水と火山灰が豊かな土壌を作り、村に豊穣をもたらして下さった。だからかの山から分霊を賜り、村で祀っていた。まあ、過疎で村も信仰も廃れてしまったのだけど……」
雇い主が追想と寂しさが混ざった瞳で縁側を見た。朝の青空と誰もいない村の風景が広がる。そこにかつての賑わいを思い浮かべ、それが絶えた今の時間に私は胸を痛めた。
「……言いにくいことを聞いてしまったな」
「いいのよお嬢さん。でも、だからこそこれを返さなくっちゃいけないのよ」
「必ず山まで返さねばならないのか?」
「私もそう長くありませんから。誰もいなくなって、祀られなくなって、取り残されるのは可哀想でしょう?それに神様は人と同じように、簡単にお引越しができるわけではない。連れて来た私達が、帰しに行かなきゃならないのよ」
「なるほど、そう言うものなのか」
文化が消えるのは残念だが、そのままにせずしっかり後始末をするのは大事だな。しかし、帰すだけなら雇い主1人でも大丈夫じゃないのか?それなのにバイトを……それも戦闘ができる人間を募集していた。どうしてだ?
雇い主にその意図を聞いてみると、三角の耳をぺたりと下ろして答えてくれた。
「こんな小さな村の小さな分霊でも、欲しがる人はいるみたい。マニアやお金持ちの方、オークションなる人達が分霊を買いに来たわ。もちろん、お断りしたけど……」
「………そいつらに襲われる可能性があるんだな?」
「……ええ、乱暴な方々もねえ、いたのよ………」
雇い主は険しい表情でアタッシュケースを抱き締めた。分霊を欲しがる奴らと一悶着があったのだろう、そしてヒノム火山までの道中でも何かあるかも知れない。そんな不安が彼女のヒゲ先の震えから感じ取れた。
「ですので、お願いします。私と分霊を……ヒノム火山まで連れて行って下さい」
「了解した。ヒノム火山までお前達を守り切ろう」
恭しく頭を下げられ、私も背筋を伸ばして頷く。そしてバイトの契約をしたのだった。
給与は50万円、結構な額だ。本当にいいのか確認したが、お金はもう使わないからこの額でいいらしい。気前がいいな、張り切って行こう。
なになに、注意事項として『分霊を目視しないこと』だそうだ。霊験あらたかな物で、見ると大変なことになるらしい。よく分からないが、そう言う信仰の類なのだろう。
アタッシュケースは基本的に雇い主が持つが、トラブルで何らかの拍子に開く可能性もある。その時に目視しないよう気をつけないとな。
(町へ向かうバスの中)
バスを乗り継ぎ、廃村からヒノム火山の麓町まで移動する。あの村はバスも今日で廃線となるらしく、村の終わりを現実的な形で感じてまた胸が痛くなった。私は村の住民でもないのにこんなに物悲しさを覚えるのだから、ずっと住んでいたと言う雇い主は私なんかと比べ物にならないくらいの気持ちだろうか……。
「お外はいろんなものがあって綺麗ねぇ、素敵だわ」
結構元気だった。
「村から出たことがないのか?」
「ええ、ずっと分霊のお世話をしていたから、大きな建物なんて見るのは初めて。バスにも乗ったことがありませんのよ。フフッ、おばあちゃんなのに年甲斐もなくはしゃいじゃって、ごめんなさいねぇ」
「いや、構わない。村のことで元気がないんじゃないかと思っていたから、むしろ楽しいならそれでいいんだ」
「あら、心配して下さってたのね、ありがとうお嬢さん。そうね、確かに廃村になるのは寂しいわ。でも山は変わらないけれど、人の世は変わるもの。廃れていくのも思し召しでしょうよ。それに、若い子達は都会でやりたいことをやっているし、私以外のおじいちゃんとおばあちゃん達はみんな安らかに逝ったわ。だから、もういいのよ」
「……そうか」
雇い主はふんわりとした笑顔を浮かべ、手のひらの肉球で私の頬に触れた。体温が肉球を通して伝わり、私の中の哀愁を和らげてくれる。そうだな、彼女らが納得しているのなら、外野の私が何かを言うのは違うだろう。今は受けた仕事を全うすることを考えればいいんだ。廃れた村と文化への同情より、それがきっと雇い主のためになる。
「ヒノム火山の麓町まではまだかかるわ。それまでおばあちゃんのお話し相手になってくれないかしら?」
「構わない。それも護衛の仕事の内だ」
雇い主からの要望を承諾し、村の昔話を聞いたり都会について知っていることを教えたり、和気あいあいとしたバス旅行となった。そしてそれは2時間程続き、ようやっとヒノム火山の麓町に辿り着いた。活火山が間近に聳えるこの町は登山や温泉などの観光業が盛んだ。
「お嬢さん、次のバス停で降りましょう」
「了解した、次は車でも借りるのか?」
「いえ、歩きで。その……すぐに山に入るのが惜しくて、色々見て回りたいの。大丈夫かしら?」
雇い主は遠慮がちに問いかけてくる。護衛として言わせて貰うと、寄り道せず目的地にすぐ行ったほうがいいに決まっている。観光なんて、山に行った後でもできるからな。
だが雇い主の表情を見ると断ってはいけない気がした。2時間の対話で随分アクティブな人だと分かったから、ずっと村にいた反動で好奇心が抑えきれないのだとすぐに理解する。仕方ない、私が守ればいいんだ。雇い主のオーダーに従おう。
「……一応襲撃があるかも知れないんだ、何かあったら指示に従ってくれ。いいな?」
「ええ!ありがとうお嬢さん。フフッ、楽しみねぇ、街を見るのは最初で最後だもの♪」
「ん?最初で最後?」
(ブレーキ音)
不思議な呟きに聞き返そうとした瞬間、バスが停留所に到着する。すると雇い主はとても老婆とは思えない機敏さでバスを降り、お金を払っていないので運転手に呼び止められた。
「はぁ……まあいいか。すまない!私が払おう!」
その後バスの運転手に謝罪し、ちゃんと料金を払ってバスを降りた。そして私と雇い主はヒノム火山の麓町、その繁華街の入り口に立つ。
「なななな、なっ、何ですってーーーーーー!!!???護衛って錠前サオリのことなごぶうっ!?」
「社長静かに!」
「ん?」
「あら、どうしたのお嬢さん?」
「いや、知り合いの声が聞こえたような……」
突然声がしたと思われる場所に目を向ける。路地裏に何かが隠れたか……?いや、人が多すぎて確証が持てない……。
「気のせいか?……まあいい、警戒しておこう」
「大丈夫?」
「ああ、問題ない。それじゃあ行こうか」
私は周囲に気を配りつつ、雇い主の歩幅に合わせつつ、繁華街に足を踏み入れた。
あにまん掲示板で投稿していたもので、これが最新のシリーズとなります。
ですが今日はここまで、今日もお仕事頑張ります。