現行スレでレビューを書いてくださった方、読ませていただきました。TRICKも岸辺露伴も好きな作品なのでそのエッセンスも出てるのだと思います。似ているのでしたら誇らしいです。あとレビューの結びが「よろしく頼む」なのサオリっぽくて好きです。
この場を借りてお礼します、ありがとうございました!
(ヒノム火山の麓町、繁華街)
雇い主と観光中の錠前サオリだ。本当はこのままヒノム火山に行って終わりのはずなのだが、雇い主の希望で麓町で遊ぶことになったのだ。
足湯や周辺の絶景スポットなどを回り、今私と雇い主は温泉まんじゅうの店に並んでいる。ヒノム火山の温泉の蒸気で作られた絶品まんじゅうだとのこと。歩き回って空っぽになった小腹を満たすには最適だな。
「おまんじゅうは蒸し器で蒸して作るものだけど、普通の温泉の蒸気じゃ熱が足りなくて作れないの。でもヒノム火山の温泉の蒸気は蒸し器にそのまま使えるくらい熱いのよ」
「なるほど、その蒸気で作った温泉まんじゅう……楽しみだな」
雇い主に微笑み返しつつ、私は先ほど雇い主と入った足湯を思い出した。路上に設置されたもので、観光客向けに温度が調節されているそうだがそれでも45℃と中々熱かった。これの本来の温度……蒸し器にそのまま使えるくらい熱い源泉、入ったら火傷するな。
「ウフフ、村の人達がたまに買ってきてくれていたのよ。村から出れない私のためにって。直接買えるなんて夢にも思わなかったわ……!」
「そうか………雇い主は、村の外に出たことがないのか?」
今度はバスの中での会話を思い出した。
『ええ!ありがとうお嬢さん。フフッ、楽しみねぇ、街を見るのは最初で最後だもの♪』
それを踏まえて問いかけてみると、彼女は静かに肯定した。
「そう言うお役目だったの。物心ついた時から分霊のお世話をしていた。みんなが大人になって、結婚したり、お仕事に就いて村を離れても、私だけは分霊のお側にいなきゃいけない。村もお役目も好きだったから悪くはないって思ってたけど、羨ましくはあったのよ」
「そうだったのか……」
そう言うことなら雇い主がはしゃいでいるのも当然か。今まで見たことのないもの、初めてのことをたくさん見れているのだから。
となると、『最後』とはどう言うことだろう?それを雇い主に聞こうとした瞬間、目の前の客が買い物を終えて私達の番になる。仕方ないので話は中断し、私達は前に進んだ。店内には入れず、窓越しに接客を受けるタイプの店(ドライブスルーみたいな感じだ)で、接客する店員の後ろでは調理の店員らが忙しそうに温泉まんじゅうを作っている。その様子も興味深くて眺めていたくなったが、漂うまんじゅうの匂いが食欲を刺激し、目線が作業工程からメニュー表に誘導された。すぐにでも食べたいと本能が訴えているのだろう。
「お嬢さんは何がいいかしら?私が買ってあげるわ」
「いや、そう言うわけには……」
「いいのよ、気にしないで」
「……なら、お肉が入った方で頼む」
「なら私はあんこ味にしましょうか」
ご厚意に甘えて温泉まんじゅうを買ってもらう。張り切って注文してくれている雇い主を見て思わず顔を綻ばせた。
________そして後ろに並ぶ客のロボットにハンドガンの銃口を向けた。
「ヒィッ!?な、何だよ!?」
「こっちのセリフだ。その手は何だ?」
「うぐっ……!」
視線を落とし、ロボットの手を……アタッシュケースに伸びていた手を睨み付ける。雇い主も気づいたようで、「あらあら」と困り顔で言いながらアタッシュケースを抱き抱えた。
「泥棒さん?こんなに近くまで来てたのね」
「くそ、どうして気づいたんだ?」
驚きもしない雇い主に驚きつつ、狼狽えるロボットに溜め息を吐く。犯罪に手慣れていて、腕にも自信があるらしい。実際ほとんど音がしなかった。これだけできるなら、こういう繁華街ではこれ一本で食っていけるだろう。
……だがこの程度じゃあ、ブラックマーケットでは実力不足と言わざるを得ない。上澄みはもっと手際がいいからな。
「……そもそも、スリ風情がわざわざこんな大きな荷物を盗もうとすること自体不自然だ。………誰かに雇われたな?」
「ゔっ……クソ!」
ロボットは悪態を吐いてその場から逃亡した。すぐに追跡しようとしたが、今は雇い主の護衛が優先だ。ハンドガンを仕舞い、彼女の無事を確認する。
「怪我はないようだな。すまない、驚かせてしまった」
「いいえ、お嬢さんのおかげで分霊が盗まれずに済んだわ。あなたを雇ってよかった」
そう言って雇い主は微笑み、アタッシュケースの留め具を閉め直した。ストレートな賞賛に私は思わず顔を逸らした。照れてしまった、だが働きが褒められるのはとても嬉しいものだ………ん?留め具を閉め直した?
「雇い主、留め具……開けたのか?」
「留め具?ああ、分霊ね。さっきの悪い人、怖かったじゃない。だからお嬢さんが怪我するくらいならって思ってね」
もしかして、私の安全のために分霊を差し出そうとしたのか……!?
「……雇い主。気にかけてくれるのはありがたいが、それじゃあ護衛の意味がない。私は大丈夫だ。雇われたからにはしっかり守ってみせよう。だから分霊はしまって置いてくれ」
「あら……それもそうね。ごめんなさい、実力を疑ってるわけじゃないのよ。ただ、お嬢さんとってもいい子だから……」
「私が、いい子?」
意味を測りかねていると、雇い主はバスの時の同じように肉球で私の頬に触れてくる。
「私だって分かっているのよ、いくら護衛だからって観光に付き合う必要なんてないじゃない。だけどお嬢さんは文句も言わずに、こんなおばあちゃんのお遊びに付き合ってくれてる。とってもいい子よ」
そう言って雇い主は私の頬をむにむにと揉んでくる。
……最初は「雇い主のオーダーだから仕方ない」と考えて観光に付き合っていたが、こうやって褒められると悪い気はしないし、やる気も出てくる。何より私も観光を楽しんでしまっていたからな。
「そう言ってもらえると嬉しい、感謝する。さあ、温泉まんじゅうを貰いに行こう」
「ウフフ、おばあちゃんを急かさないでちょうだいな」
ヒノム火山までの護衛。当初と予定は違うがこういうのも悪くはないだろう。私達は温泉まんじゅうを受け取り、食べ歩きながら次の観光スポットに向かった。
________その後も麓町のあちこちを回った。雇い主は老婆とは思えないバイタリティで観光を楽しんで、まるで失った青春を取り戻しているかのようだった。
……いや、本当にその通りなのだろう。
『そう言うお役目だったの。物心ついた時から分霊のお世話をしていた。みんなが大人になって、結婚したり、お仕事に就いて村を離れても、私だけは分霊のお側にいなきゃいけない。村もお役目を好きだったから悪くはないって思ってたけど、羨ましくはあったのよ』
分霊のそばに居続けて、周りから置いてかれる。そんな経験を老婆になるまで続け、今日やっと村の外に出れたのだ。そりゃあ寄り道も捗るな。
私はお供をしつつ周囲を警戒する。あの後も地元のチンピラ達が接触し、アタッシュケースを盗もうとしてきたので撃退した。財布ではなくアタッシュケース一点狙いな辺り、やはり分霊を知る誰かに雇われているのだろう。しっかり守らないとな。でないとまた雇い主が分霊を差し出そうとしてしまう。そんなことされたら護衛の名折れだ。
(それにしても……分霊を差し出すならアタッシュケースごと渡せばいいはずだ。わざわざ取り出すなんてどうして……いやいや!大切なものだから渡されてはいけないんだ!何を考えているんだ私は………)
「お嬢さん、次は温泉イルカショーに行きましょう。……お嬢さん?」
「ん?あ、ああ、了解した」
一瞬怪訝な顔をされたが、大丈夫だと言ってイルカショーの会場に向かう。ヒノム火山の熱で温泉と化した川に棲むイルカ達のショー、楽しみだな。
……そう思っていたのだが、
「雇い主………待ち伏せだ」
客席に入ろうとした瞬間、嫌な視線が何本も私に突き刺さった。周囲を見回す……十数人はいるな。全員ただのチンピラだから対処は容易だが、騒ぎになるのは避けたいな。
「悪いが別の観光スポットに行かないか?」
「あら、残念。そしたら近くに名湯があるのよ、入りに行きましょうか」
「了解した」
イルカショー、私も見たかったのだが仕方ない。すぐに会場を離れ、目的の名湯がある旅館まで歩く。どんな温泉なのか楽しみだな。
大通りを真っ直ぐ行く簡単な道のり。だが人通りが多い。チンピラ達は見えないが、先ほどのこともあるし警戒した方がいいだろう。
「雇い主、路地に入るぞ。その方が安全だろう」
「お嬢さんに任せるわ」
すぐに路地に入り、旅館を目指す。少し大回りになるが人はおらず、路地だが道幅も広くて歩きやすい。離れていても届くほどの大通りの喧騒が鼓膜を小さく揺らす。無音よりも、これくらいの音がある方が余計に神経を尖らせなくて済むし警戒もしやすい。路地に入って正解だな。
問題なく進んでいると、不意に雇い主が口を開いた。
「温泉楽しみねぇ。山に入るんですから、体も清めておかないと」
「温泉が楽しみなのは同意する。だが分霊を帰すだけだろう?清める必要があるのか?」
「ありますとも!ヒノム火山……私達の信仰対象の山なんだから、綺麗な体で入らなきゃいけないのよ。それに贄……お供えも必要なんだから」
「そうか……そう言うものなのか。すまない、無学だった」
プリプリと怒る雇い主に謝罪していると、路地の最後の曲がり角が見えてきた。ここを曲がって真っ直ぐいけば旅館に辿り着く。
それを説明すると雇い主は嬉しそうに歩幅を広げ、私もその速度に付き従った。そして2人同時に曲がり角を曲がった。
(無音)
「ッ!?」
さっきまで聞こえていた大通りの喧騒がピタリと聞こえなくなる……いや、実際には聞こえている。だがそんな風に感じた。空気が変わったのだ、悪い方に。
「あら?あの子誰かしら?」
そう言って雇い主は正面の方、路地の出口を指差す。そこにはフードを被った人影が立っていた。小さなコウモリの片翼にヘイロー、生徒か。そいつはおもむろにフードを外し、こちらを睨みつけてくる。待て、あの顔は……私は知っている!彼女がどうしてここに?いや、と言うことは……!
「やられた……!逃げるぞ!」
すぐに雇い主の手を掴んで路地を逆走する。雇い主は困惑しているがそれどころじゃない。多少の飛躍はあるが私の考えが正しければ……いや、きっと正しい。このタイミングで出てくるなんてそう言うことだとしか思えない。分霊、あいつらも狙っているのか……!
「ど、どうしたのお嬢さん!?あの子は知り合いなの?」
「ああそうだ!雇い主、厄介な奴らに狙われたな!あいつらは……ッ!危ない!」
瞬間、こちらに突っ込んでくる人影を察知して雇い主を路地の端に押し出す。乱暴に押してしまった、こけていないか、怪我していないか、それらを確認したかったがその前に人影は眼前まで辿り着いた。私はアサルトライフルを構える。瞬間、非常に重い衝撃が襲い掛かる。鍔迫り合いの状態となり、なんとか踏ん張ってそいつを……ショットガンを押し付けてくるもう1人の知り合いを睨んだ。
「お、お久しぶりです。サオリさん……!」
「久しぶりだな、伊草ハルカ……!用件はなんだ?」
「分かってるでしょ?錠前サオリ」
後ろからの吐息の様な声……久しぶりに聞く声に元気で良かったと思いつつ予想が当たって顔を顰めた。
「チンピラ達を雇ってたのはお前達か。奴らを使って、有利な地形に誘導したんだな?鬼方カヨコ」
目線だけ後ろに送り、フードの生徒……鬼方カヨコの様子を伺う。銃は構えていないが最大限の警戒をしながら、こちらにゆっくりと歩み寄ってきている。カヨコの視線は……やはりアタッシュケース!
「裏の物好きなVIPからの依頼でね。あなたが護衛だとは思わなかったから慌てて作戦を考え直して、傭兵代わりにチンピラ達を雇ったんだけど……上手くいってよかった」
そう言ってカヨコはむすっとしたまま片方の瞳を閉じる。そしてハンドガンをホルスターから抜き、空に銃口を向けた。
「便利屋68……!!」
「久しぶり、錠前サオリ。アタッシュケースは貰っていくから」
(銃声、パニックブリンガー)
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