錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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明日続きを、要人及び荷物の護衛編の決着を投稿します。こっからはあにまん掲示板には投稿していません。続きをどうぞお楽しみに。


要人及び荷物の護衛.4

(ヒノム火山の麓町、商業ビル)

 

件のビルは複数のレストランが入った商業ビルで、爆発で割れたガラスが辺りに飛び散り、ビルから避難する人達がそれを踏みつけながら走り去って行った。

私は人の雪崩が通り過ぎた後にビルに入り、階段で屋上まで向かう。すると屋上前の踊り場に便利屋の3人を見つけた。

……3人とも服が所々焦げ、体に火傷を負っていた。

「大丈夫か!?」

駆け寄って容態を確認する。致命的なものではないが焼かれた範囲が広くて痛々しい。コートを破り、1番手前にいたムツキから応急手当を始める。消毒液も氷もないが、何もしないよりはずっとマシだ。

「っつ……クフフ、手酷くやられちゃった……」

「誰か上にいるのか?アルはどうした?」

「誰かって言えば誰かなのかな?……アルちゃんにやられたんだよ」

「……何だと?」

驚いていると、壁にしなだれかかっていたカヨコがこちらに近寄り、しかし痛みに耐えられずしゃがみ込んだ。

「よく、分からないけど、アルが炎を纏っていて……それとアルの視界に入った場所が沸騰したみたいに熱くなった。それで近づけなくて、この有様」

そう言ってカヨコは、喋ったせいで頬の火傷が痛みを発したようで顔を歪めた。炎を纏って、見られると熱くなる?一体どう言うことだか想像がつかない。だが3人の火傷を見るに真実なのだろう。理解はできないが納得はしておく。

ムツキの応急手当が終わったので、次はカヨコの手当をしようとしたら断られた。代わりにハルカを手当してくれと顎でジェスチャーをされ、カヨコも心配だがそれに従う。ムツキとカヨコを跨いで、寝転がっているハルカの傷を見た。炎を防ごうとしたのか、尊敬するアルに向かって手を伸ばし続けたのか、両腕が広範囲で火傷していた。それを抱き締めながらハルカは泣いていた。

「ハルカ、見せてくれ」

「アル様……アル様が!助けに行かないと……!ううっ……」

「その前に手当だ。ほら」

「………ごめんなさい、私なんかのために」

起き上がり、両腕を差し出したハルカ。その後彼女とカヨコの手当を済ませた。多少痛みも和らいだようで、3人はすぐに立ち上がった。まだ安静にしていろと言ったが、じっとしてなんかいられないようで私の忠告は断られる。無理もないか、便利屋68は結束の強い集団だ。……だからこそ、彼女らの社長であるアルが社員らにこんな怪我を負わせるとは思えない。一体アルに何があったのだろうか……?

「それにしても、不思議な力を持った生徒ってのも結構いるけど……そんな感じじゃあなかったよね〜。何かが取り憑いてる……そんな風だった。カヨコちゃんとハルカちゃんはどう?」

「私もそう思う。常識じゃあり得ない現象だし」

「それに、あの、私の勘違いかも知れませんが……今のアル様、さっき私達が目を瞑った時に感じたあの、恐ろしい感じ……分霊、何でしょうか?私はそんな感じがしました……!」

「アルとは思えない感覚……分霊……か」

私が復唱すると、3人は力強く頷いた。確かに今思えば……雇い主が分霊を取り出した後にアルが悲鳴を上げて、このビルの屋上で爆発が発生した。取り出された分霊から発せられた嫌な気配……アレがアルに取り憑いているのだとしたら納得がいく。

「どうにかして分霊を追い出して、アルを正気に戻さないとな……様子を見てもいいか?どうするか考えるために、私もこの目で見ておきたい」

「危険だと思うけど、サオリちゃん大丈夫?」

「大丈夫だ、見られなければいいんだろう?」

私はスマホを取り出し、階段を上がる。屋上に続く階段に辿り着き、心配そうにこちらを見る3人に一度目配せし、扉を少し開けた。

「っ!何だこの暑さは……?」

開いた隙間から熱風が入り込む。物を燃やせるほどではないが浴び続けると危険に違いない。私は隙間から顔を覗こうとはせず、スマホのカメラ機能を起動して扉の隙間に差し込んだ。そして画面を遠目から見つめる。側から見ると愉快な体制になったが細心の注意を払って屋上の様子、アルの様子を確認した。

アルはこちらに背を向け、ヒノム火山を眺めていた。事前の目撃証言の通り炎を纏っており、半径1メートルほどの範囲が燃え盛っている。にも関わらずアルは暑がる様子を見せておらず、服も一切燃えていなかった。

不意に太陽のプロミネンス、あるいは天女の羽衣のような炎の帯がアルの四肢にまとわりつき、まさに炎の神とも言うべき造形になる。その姿に神秘性、そして芸術性すら感じて私は思わず見入ってしまった。瞬間、アルの顔がこちらに向いた。白目……いや目が発光している。炎の涙を滴らせながら光り輝いている。

 

(爆発音と電気が迸る音)

 

「うっ……!」

手に持っていた、アルの姿を表示し続けていたスマホが急激に熱され、ショートして小さな爆発を起こした。私はすぐにスマホを下げて、ドアノブに手をかける。鉄製の扉はたまごでも焼けるんじゃないかと思うくらいに熱されており、それをどうにか閉じて鍵をかけた。……数秒待ったがそれ以上にアルが何かアクションを起こしてくる様子はない。私は安堵の溜め息を吐いた後、便利屋の3人がいる踊り場へと戻った。

「錠前サオリ……スマホ、大丈夫?」

「ううっ……だがまあいい、大体把握した。確かにアルとは思えないな」

「アル様……どうすればいいんでしょう?どうしたら、助けられるのでしょうか?」

手当した後の腕を握り締めるハルカ。そんなことをしたら火傷が酷くなるだろうに、本人も分かっているが、それでもやらずにいられないのだろう。不安で、心配で、そして手が届かなかった自分を不甲斐なく感じているのだろう。ムツキとカヨコも手当の跡に触れて俯いた。アルに付けられた傷、それでもアルを思って心を痛める彼女ら見るとその絆の強さを羨ましく思えた。しかしどうにかしようにも、何も手立てが思いつかなかった。せめてもう少し、アルに取り憑く分霊について分かれば……。

「……そうだ、雇い主。分霊について1番知っているのは雇い主だ。彼女に聞けば、アルが助かる方法が分かるかも知れない」

「ほ、本当ですかサオリさん!?」

「それで、雇い主さん……あのおばあちゃんはどこにいるの?」

「………あ、しまった!置いて来たんだ……!」

「何やってんのサオリちゃん!?仮にも護衛してたんでしょ?私達みたいなのが襲って来たらどうすんのさ!?」

「すまない……!お前達が心配でつい……」

「怒りにくいなぁもう!」

「そ、それならしょうがないと思います!私もアル様の身に何かあったら雇い主とかどうでもいいですし、と、当然の反応です……」

「そ、そうなのか……?」

「はあ……とりあえず、あのおばあちゃんに話を聞かなきゃいけないね」

「そ、そうだな……!」

カヨコに同意した瞬間、下の階から階段を登る足音が聞こえてくる。客かビルの従業員かと思いつつ下を見ると、私の雇い主が息を上げながら登って来た。

「はぁ……ひぃ……お嬢さん〜、勝手に行っちゃダメじゃない……!」

高齢だから階段を登るのも一苦労だったのだろう。ああ、私は何てことを……!雇い主を護衛するどころか、こんなに疲れさせてしまうなんて。

不意にオペラハウスの時に受けた護衛依頼のことを思い出した。あの時の私は『効率がいいから』と言う理由で護衛対象を殴って気絶させて袋に詰めて運んでしまった。今でもその方が効率がいいとは思っているが、護衛対象を自分で傷つけてたら話にならないし裏切られたと勘違いされてもおかしくない……そう学んだじゃないかあの時に……!

「雇い主、本当に申し訳ない……!だが緊急事態なんだ。今屋上でアルが大変なことになっていて……恐らくさっき分霊を見たんだと思う」

「ああ、さっき通話してた……私達を襲った悪い子達の親玉ね」

そう言って雇い主は私の後方を、ムツキとカヨコとハルカを見た。目が合った3人ははバツが悪く感じて目を逸らした。

「そう。その子は見ちゃったのね」

「ああ。あの時通話は繋いでいたが、私の声がうまく聞こえなくて見てしまったのだろう。先ほど確認したら炎を纏っていて……とにかく大変なことになっていた。助け出す方法はないだろうか?」

「……お嬢さんはその子を助けたいの?」

雇い主が問いかけてくる。私は強く頷く。

「お願いします!」

振り返ると便利屋の3人がこちらに駆け寄り、雇い主に向かって頭を下げてきた。

「アルちゃんを助ける方法、あるなら教えて!」

「ごめんなさいごめんなさい……!お仕事ですけど、あなたのことを襲ってごめんなさい……!!」

「虫がいい話なのは分かってる。だけど……アルを助けて………!」

口々に懇願する3人を一瞥し、雇い主は真顔を笑顔に変える。そして顔を上げるよう3人に言った。

「あなた達はアルちゃんが大好きなのね、とてもいい子ね」

そう言って雇い主はアタッシュケースを胸元に引き寄せ、留め具を外した。少し開け、腕を突っ込み、分霊を取り出そうとした。私はすぐにそれを止めた。

「雇い主!やめろ!それを見たからアルはあんな風になったんじゃないのか!?」

「あら、お嬢さんはアレを見たのね。なら尚更離してちょうだい。その3人も悪い子なんだから」

「……どうして分霊を見せようとするんだ?それに何の意味がある?」

「欲しがっているのだから見せてあげるだけよ。でも見た者は分霊に乗っ取られる。いくらキヴォトスの民でも、人の身に神は重すぎる。1時間くらいで燃え尽きるわ」

「何だと……!?」

血の気が引いていくのを感じる。燃え尽きると言うことは……死ぬと言うことだろう。絶望的な予想を肯定するように雇い主は続けた。

「分霊を欲して私の元に来た悪い人達、襲いに来た……オークション?の人達。みんなに見せたわ。そして焼き殺した。守るためにね」

「もう、何人も分霊を見せているのか……」

「都会だと罪のない人も見ちゃうかも知れない、だから分霊を無闇に見せられないと思った。だからお嬢さんを雇ったのよ?だけど……残念ね。敵を庇うなんて」

確かにその通りで、護衛としては落第だろう。否定できず、私は口を噤んだ。

「そこの悪い子達、あなた達にも大切なもの、誇り、人生があるのでしょう。でもね、私から分霊を奪いに来た時点で、あなた達は私の敵になったの。分霊を守るためなら、私は敵にも大切なもの、誇り、人生があると慮らない。殺すし、助ける気なんてないわ………そう言うお仕事なんでしょう?」

今もなお頭を下げている3人の体が震えた。便利屋は……アウトローとは確かに誰かを傷つけ、恨みを買うような事態になることもあるだろう。それが今やって来て、許されないと言われても仕方のないことかも知れない。それで彼女らは何も言えず、歯を食い縛っている。

痛ましく思いながら3人を見ていると、雇い主によって袖を引っ張られた。

「行きましょ、お嬢さん。本当は最後に温泉入りたかったけど、もういいわ。山に入って、分霊をお返ししなくっちゃ」

「…………」

「……お嬢さん?」

「……私からも頼む。アルを助けてくれ」

今度は私も頭を下げた。雇い主は驚いたようで、私の名前を呼んで何故だと尋ねてくる。

「お嬢さん、そんなに仲がいいお友達なの?」

「いや、一度敵対して、共闘して、帰りに天ぷらうどんを食べた程度の仲だ」

「なら尚更、どうして?」

「その程度の仲でも、幸せになって欲しいとは思うんだ、例えまた敵対しても。それに……それに私も人を傷つけて、殺そうとしたことがある。大切なものを守るために道を踏み外そうとした。それでもあと少しのところで止めてもらえた……だから雇い主も止めなければならないと思ったんだ」

「言ったでしょう?もう何人も焼き殺してる。分霊を買い叩きに来たオークション、盗みに来たギャング、村の決まりに従わなかった新入りの夫婦、口減し対象になったおじいちゃん、お父さんとお母さん………皆分霊の贄にしたわ。もう何度もやった。だから今から4人焼いても変わらないし、今から止めても意味がないと思うの」

「……っ、それでも、助けて欲しい。たくさん焼いたとしても、その……旅行の間、雇い主はとても優しかった。私に温泉まんじゅうを買ってくれた。その時の優しい雇い主を信じさせて欲しい。そして彼女らは私と同じ生徒で、数少ない知り合いだ。今は敵でも、焼かれて欲しくない。彼女達を慮ることができないのなら、私の気持ちを慮って欲しい……ズルくてすまないが」

「………そうねぇ、本当にズルいわね」

そう言って雇い主は大きく息を吐き、顰めっ面で天を仰いだ。ブツブツと何かを呟きながら考え込み、私と便利屋達の顔を交互に見比べて、そして猫耳を垂れ下げてまた大きく息を吐いた。

「うう〜ん……そこの子達は悪い子だけど、お嬢さんはいい子だったわね。私の旅行にも付き合ってくれたし……何より最後だものね。ええそう、最後だし………いいか。ええ、分かったわ、分かった。助けましょう。はぁ………その子の目の前に私を連れて行きなさい。そのままの意味よ、かの方の炎を掻い潜って、目と鼻の先に私を連れて行ってちょうだい。そしたら助けてあげるわ。できる?」

「あ、ああ……!便利屋!!」

「できる!任せて!」

「アル様のためなら!炎でも何でも飛び込みます!」

「うん。そのためにも、作戦考えないとね」

「そこはカヨコ、任せていいか?」

「いいよ、作戦って言うか役割分担だけど。それと錠前サオリ、その……」

「何でも言え、手伝ってやる」

「そっか、じゃあ、何でも言うけどさ………ありがと」

「それはアルが助かってからだ、取っておけ。それに、先に言うべき人がいるだろう?」

私は体を脇に寄せ、そうするよう首を動かしてジェスチャーをする。ちゃんと伝わったようで、便利屋の3人は再度雇い主に頭を下げた。

「「「ありがとうございます!」」」

「はあ……悪い子だけどいい子ね。気が変わらない内に作戦とやらを教えてちょうだい」

「カヨコ、何をしたらいい?」

「多分これが最善だし手っ取り早い。錠前サオリ、おばあさん。

 

 

 

________支援するから突っ込んで」




25.ナッツ詰め合わせとドリンク

食べた時のバイト:セミナー案件・兎狩り
説明:闇オークションで出されているおつまみとドリンク。色々な種類のナッツが物凄く高そうなお皿に乗せて出された。ドリンクは柑橘系のブレンドフルーツジュース。

コメント:会場の雰囲気もあってか、ナッツがただのナッツとは思えず何だかいつもより美味しい気がした。
ソフトドリンクのフルーツジュースも多分普通よりいいものなのだろう、よく分からないがとても美味しかったと思う。
……食べる場所や、その時見てるもの、聞いている音でスイーツはもっと美味しくなる。ナツ、これもまたロマンと言う奴だな。
………………ん?ナツ?ナツと、ナッツ……ナッツを食べるナツ……ぷっ、くくっ……。

追記:ロマンを理解してくれるのは嬉しいけど、人をダジャレのダシにしないでよね。ヨシミとカズサが死ぬほどイジってくるんだから。
ー柚鳥ナツ
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