錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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うわぁあん!本当は昨日投稿する予定でしたが死ぬほど時間がかかってしまいました!遅れてごめんなさい!責任取ってヒヨリが腹を出します!
要人及び荷物の護衛編はこれにて終了、次回は少し日にちを開けて新シリーズになります。ここから先はあにまん掲示板には投稿していない完全新作です。お付き合いのほどよろしくお願いします。

PS.現行スレ、相変わらず書き込まないのですがチェックしております。テーマソングとして『はいよろこんで/こっちのけんと』をイメージして下さってる方がいて驚きました。言われてみれば頑張っているサオリっぽい曲かもしれませんね、とてもいいと思います。
個人的にですが今回のアル(分霊)との戦いを書いてた時ずっと『Iron Lotus/Mili』を聞いてました。



要人及び荷物の護衛.5

(ヒノム火山の麓町、商業ビル屋上)

 

用意ができた頃には騒ぎが大きくなっており、ビルの周りに野次馬が集まって喧しく声を上げていた。微かだがサイレンの音が聞こえる。火事だと思って誰かが通報したらしい。消防隊が来る前に終わらせなければ面倒なことになるな。

「お前達、準備はいいな?」

熱いドアノブにタオルをかけ、その上から掴む。振り返って便利屋の3人……ムツキ、ハルカ、カヨコに問いかけると皆無言で、しかし力強く頷いた。

「雇い主」

「いいわ、早く始めましょう」

雇い主はこんな時でも余裕を崩さず、気怠げに濡れた猫ヒゲを揺らしている。真剣じゃないわけではなく、余裕の表れなのだろう。そう思うことにしておき、私は屋上の扉を開けた。

 

(風の音)

 

一気に流れ込む熱風。肌の汗と先ほど頭から被った大量の水が一気に蒸発した。吸い込んだ蒸気を肺に流し、熱された酸素を全身に巡らせる。

クリアになった視界の先に屋上の景色が映る。ヒノム火山を望む美しき空は夕暮れに差し掛かり、その陽光に負けないくらいのオレンジの炎が屋上の平たい敷地に大きく花を咲かせていた。その中心に佇む陸八魔アルを飾り立てるドレス、あるいは彼女だけの聖域であるかのようで私は息を飲んだ。

 

『………ヒノム火山にはアビスの他にも、不思議なモノや場所がいっぱいあるの。これもそれの1つに過ぎないわ』

 

ああ、それら超常たる存在らが巣食う山、廃村に永らく豊穣をもたらしていた山、かの山の神威とは分霊であっても、こんなにも荒々しく美しいのか。ヒノム火山の全てに畏れ、敬わずにはいられない。

(だがそんな感傷には浸っていられない。挑むんだ、今から私達は……!)

意を決してマスクを着ける。それと同時にアルがこちらに振り向いた。発光する瞳がこちらに向けられようとする。だがその前に私の前にハルカが、彼女が持つ防火扉が立ち塞がった。

________カヨコが立案した作戦……いや、役割分担はこうだ。

まずは私、錠前サオリ。私は運搬役で、雇い主を背負ってアルに突っ込む。その道中で炎やアルの熱視線(文字通り)などの脅威に晒されることとなるが、それを便利屋68の3人が三様の手段で守ってくれる手筈だ。

便利屋68、伊草ハルカは先ほど破壊して壁からひっぺがした防火扉を使って私達を守ってくれる。普段からタンク役をやっている彼女が、アルの前に立ち塞がって私と共に突撃する。

「防火扉、腕に縛り付けておきました!これで落としたりしません!」

「ハルカ、火傷跡が酷くならないか?」

「私なんかの腕なんて、アル様のためならどうなったって構いません!」

「……気持ちは分かるが、アルがそんなことを望むとは思えないぞ」

「分かってます!!……分かってます。優しいアル様なら、きっと私なんかのことも心配して下さります。でも、それでもなんです。それでもアル様のためにしたいんです……」

「ハルカ………」

「……サオリさん、アル様のことをお願いします。前は私が守りますから」

________その覚悟の通り、前からの熱をハルカは防ぎ切ってくれた。押し返される力は強く何度も体勢を崩しそうになるが、持ち前のタフネスと意地で立ち続ける。アルがどれだけ熱波を、熱視線を叩き込んでもそれでも……それでも前に進んでくれた。おかげで私も前に進むことができた。

 

(爆発音)

 

前方から冷気を感じた。それは神炎の勢いを確かに和らげ、しかし無尽蔵に湧く熱に押し潰される。

私は振り向いた。そこに冷気を生み出した彼女が……ムツキがいる。焼石に水のような状況でも彼女はめげることなく、私に気がついてピースサインをして見せた。

________便利屋68、浅黄ムツキ。彼女は持参した水色の手榴弾、アブゼロ爆弾を使って私達を守ってくれる。爆弾収集が好きな彼女は変わった爆弾をよく購入しているそうで、このアブゼロ爆弾もそのコレクションの1つだそうだ。

「ちなみにこれ、1つ2000円くらいするんだよ!すごいでしょ?」

「自販機やコンビニの手榴弾が大体300円だから、中々高いな……」

「だよね、でも今回は100個くらい用意してまーす♪」

「20万円分!?」

「もちろん私のお小遣いで買ったものだよ!うちの会社はあんまりお金ないから、経費なんて出せないからね」

「そうか……だが尚更大丈夫か?お前の小遣いがなくなってしまうんじゃ……」

「心配してくれるの?ありがとうサオリちゃん!……でもいいの。どれだけお金があっても、アルちゃんがいなきゃ意味ないんだもん。……ずうっとアルちゃんと一緒にいたからさ〜ムツキちゃんは、だからアルちゃんがいないと何にも楽しめなくなっちゃったよ。だから取り返さないとね」

________アルとムツキは幼馴染らしい。それ故の絆が彼女に力を与えているのだろう。私とスクワッドの皆のようで親近感と頼もしさを感じた。

ああ、また涼しくなった。在庫はまだまだある、ムツキも熱波に晒されながらもまだ闘志は消えていない。私達の後ろでアブゼロ爆弾を投げ、おかげでペースを上げることができた。

 

(銃声、パニックブリンガー)

 

それが聞こえた瞬間、前方から迫っていた熱波とは違う圧……神のプレッシャーが確かにかき消えた。代わりにアルの悲鳴と呻き声が聞こえる。驚いたな、神たる存在にも通用するのか。

振り返ると発砲した彼女、カヨコと目が合った。カヨコはこちらを流し目で見返し、しかしすぐに目を逸らしてハンドガンの銃身を額に当てた。するとカヨコのヘイローが輝きながら回転し、かつてマダムや木の人形が言っていた『神秘』と呼ばれるものが込められていく。またすぐに撃てるようになるだろう。

「でもやりすぎちゃダメよ?怖い顔のお嬢さん」

打ち合わせの最中、不意に雇い主がカヨコに向かってよく分からない忠告をした。カヨコは一瞬ムッとしたがすぐに困ったような顔になって溜め息を吐いた。

「別に怒ってるわけじゃ………いや、何でもない。それでおばあちゃん、どう言うこと?」

「フフフ、ごめんなさいね。文字通り老婆心から言わせてもらうと、あなた生徒さんらのその力は元を辿ればかの者と……向こう側の方々と同じもの。あなた達が生徒さんでありたいのなら、ひっくり返りたくないのなら、乱用はするべきじゃないわ」

そう言って雇い主は瞳を細めた。私は思わず後退った。雇い主の笑顔は、確かに彼女の言った通り心配が篭っていたが、それ以上に嘲笑?軽蔑?いや何だろう……畏怖?とにかくそのようなものが篭っていて恐ろしく感じたのだ。しかし、カヨコは私と違い後退ることもなく雇い主を睨みつける。そして天井を見上げ、何かを思い出すかのようにその視線を遥か空の彼方に伸ばしたのだった。

「……心当たりはあるよ。アビドスの子、空が赤くなったあの日に現れて、一応私も本船にいたから、見ていたから知っている。………それが何?アルを取り戻せるのなら、私はどうなっても構わないから」

「……そう、それならいいわ」

________意味深な発言だったが、その内容には何となく心当たりがある。マダムや木の人形が使っていたもの達、エデン条約調印式や空が赤くなったあの日に起きたこと。この世界には常識ではあり得ないことが、向こう側の何かが確かに存在しているのだろう。そしてそれは私達の中にも……。

 

(銃声、パニックブリンガー)

 

また撃って、悲鳴が聞こえた。カヨコ曰く「いつも以上に本気で撃つ、効果も強く出る」とのこと。頼もしいが、あんな話をした後だとなるべく撃って欲しくない。早めに決着をつけよう。だが何にせよ、おかげで後1メートルの距離まで辿り着いた。

「もう一踏ん張りだよ!ハルカちゃんサオリちゃん!頑張って!」

「ゼェ……ゼェ……私達はまだやれるから……、行って……!」

「はい!死んでも前に進みます!サオリさん!おばあちゃん!着いて来て下さい!」

「頼むぞ!便利屋!」

「頑張ってね〜」

雇い主以外の皆で必死になって受け答えしつつ、じりじりとアルに近寄って行く。ハルカの防火扉で前は見えないがアルはカヨコの弾丸に怯え苦しんでいるらしく、暴れる手足が度々私にも見えていた。前が見えないから目印になってありがたい。

アルがああなってから30分程が経過した。このペースなら間に合うはずだ。私は勝ちを確信し……いや、まだ何かあるかも知れない。警戒しつつ歩みを進める。すると予想通りと言うか案の定と言うか、アルの動きに変化が現れた。

「……悲鳴が、止んだ?」

「ムツキ室長と、カヨコ課長の妨害が効いたんでしょうか?」

「…………」

確かに効いてはいるだろう。現に今もムツキはアブゼロ爆弾を投げ、カヨコは神秘の弾丸を撃ち上げている。だがそれでも急に押し黙り、動かなくなることがあるだろうか?

そんな疑問を感じたのは私だけではないようで、ムツキが手を止めて声を上げた。

「ねえ!アルちゃん動かなくなっちゃったけど、これ大丈夫なの!?もしかして燃え尽きそうだったり!?」

「ムツキ……!滅多なこと言わないで………!でも、様子がおかしい」

言い返しつつも同感だったようで、カヨコも発砲を止めて顔を顰めた。

「アル様、どうなっているんですか!?」

「直立不動〜、でも腕と首をダラ〜ンってさせてる!」

「それでそのまま動かなくて、目を閉じてる……」

「……雇い主、どう思う?」

「ん〜、燃え尽きてないならまだ中にいるはずよ」

「そうか……ハルカ、慎重に行こう。急ぎたいのは山々だがな……」

「は、はい……!」

様子がおかしくても熱と炎は発し続けており、それに耐えつつハルカに耳打ちする。ハルカは頷き、防火扉を持ち上げるのを止めて地面に下ろす。そして構えながら、扉を押し出すようなあるいは押し付けるような形で前に進み始めた。瞬間、

「……っ!来る!」

「ハルカちゃん!」

酷く慌てた様子の2人の声にハルカは腰を落として衝撃に備えた。私もその後ろに隠れてこの後来る脅威に身構える。そしてすぐにそれはやって来た。

 

(銃声、ハードボイルドショット)

 

「ッ!アル様の……!」

「アレか……!と言うことは……」

 

(大爆発音)

 

「ああっ!?」

「くっ……!ハルカ!」

アルが愛用している、爆発する弾丸。オペラハウスで喰らったがかなり痛かったのを覚えている。しかし今発生した爆発はかつてのそれとは比べ物にならないほどの威力で、直撃した防火扉をハルカごと吹き飛ばした。防火扉は私の頭上スレスレを飛びビルの外へと落下し、ハルカは勢いを殺しきれなかったようでその場に倒れ込んで呻いている。

まずい、ハルカがやられた、熱波が直撃する……!焦った瞬間その通りと言わんばかりに熱波が前方から襲いかかり、アルから炎が撒き散らされる様を目の当たりにした。

太陽のプロミネンス、あるいは天女の羽衣のような炎の帯がアルの四肢にまとわりつき、まさに炎の神とも言うべき造形になっている彼女は先程のムツキとカヨコの言った通り頭と腕をダラリと下ろして、しかしスナイパーライフルを持つ右腕だけをこちらに向けてしっかりと構えていた。オペラハウスで戦った時、「片手でも撃てるのよ」と自慢げに、しかし正確な射撃を披露して見せたアルの姿を思い出す。その銃口が今、私に向けられている……!!

「アル……!止まって!」

そう言ってカヨコはまた弾丸を撃ち上げてようとする。しかしアルはそれよりも早く発砲。爆発する弾丸はカヨコの腕に直撃した。

「カヨコちゃん!?ああもう!いい加減にして!!アルちゃんを返せ!!」

大きなバッグの中からアブゼロ爆弾を引っ掴み、ムツキは全力で投球する。爆弾はアルへ真っ直ぐ飛んだ。しかしそれが着弾する前にアルがまた前も見ずに発砲。アブゼロ爆弾とアルの弾丸が同時に爆発する。ああ、だがアルの爆発の方が強い……!アブゼロ爆弾の冷気はあっさりかき消され、爆炎がムツキを包み込んだ。

「便利屋!クソッ……!」

たった数秒でこちらの優勢が傾いた。3人とも倒れ、撒き散らされる炎が服や髪を舐めるがままにされている。息はある。だがこのままじゃ長くは持たない。

どうするかと思いつつアルを睨みつけていると、垂れ下げていた肩を、首をようやっと持ち上げ、開眼し、アルはこちらを睨みつけた。その中に分霊がまだ居座っていることを証明するようにその瞳は発光しており、しかし嫌な位に今の感情が分かってしまう……そんな不思議な瞳だった。

(完全に怒っている……!クソッ、見られているから熱が……!)

私は少しでも見られる面積を小さくしようと思い、その場に屈もうとした。しかしすぐに自分が雇い主をおんぶしていることを思い出して止める。だがどうする?このままだとアルを救えない上に全員焼死だ……!

「お嬢さん、やっぱりダメだったみたいだし諦めるのはどう?今から私達だけで山に入って、分霊を返せば終わりよ?」

不意に雇い主は耳元でそう囁く。喉をゴロゴロと鳴らしながら私の頭を撫でた。

「もう暑くて耐えられないし、このままだと私も死んじゃうわ。それだとお嬢さんの任務も失敗でしょう?」

「それは……そうだが」

雇い主の優しい声、だが若干の苛立たしさの針が隠されていた。命の危険もあるがそれ以上に所詮他人事だから、彼女はどうして自分がこんなに酷い目に遭わなければならないのかと怒っているのだろう。私への義理で付き合ってもらっているが、限界だろうか……?

「……いや、まだ……まだ諦めたくない……!後少しなんだ。後少しで、アルに届く……!後、少しで……!」

「……現実を見て、お嬢さん」

私の頭の両側が雇い主の肉球で挟まれ、無理矢理顔を前に向けられた。瞬間、アルと目が合い直視する。目の中が焼けるように熱くなり、すぐに瞼を閉じたが今度は面の皮がどんどん熱せられた。そしてダメ押しと言わんばかりに銃口をこちらに向けてくる。引き金には指をかけ、いつでも撃てる状態で固まっている。警告されているのだろうか?後一歩踏み出せば、私は撃たれて焼け死ぬ。

「今回は残念だったけど、1人じゃ無理でしょう?……私はあなたにこれ以上傷ついて欲しくないわ。とっても優しい子。最後の旅行を楽しんでくれた子。見届けて欲しいから、無事にあなたとヒノム火山に行きたいの。そろそろ仕事に戻りましょう?」

「いや……………それでも……」

「前」

「っ!」

 

(銃声、ハードボイルドショット)

 

答えに窮していると、それを待たずにアルが発砲。咄嗟に飛び退いて避けることができたが弾丸は頬を掠めて皮膚を切り裂き、熱で傷口が沸騰した。思わず膝を着き、頬に手のひらを当てる。肉の焼ける匂いがする。その発生源が自分であることが恐ろしくなる。すると私の手のひらに雇い主が肉球を重ねた。気遣う優しい手付き、だがまた顔の角度を変えられる。アルを見上げるよう視線を動かされ、私は瞳を焼かれた。

「些細な間柄でも、幸せになって欲しいと思うことは立派なこと。お嬢さんはとてもいい子。でも1人で何ができるの?」

「っ………」

………正直、勝てる気がしない。手が塞がっている状態で雇い主を安全にアルの目の前に届けるなんて……いや、手が塞がってなくても無理だ。こんな奴に、こんな……こんなことになるなんて………。

「…………」

挫けてしまい、1歩下がる。雇い主は満足した様子で、あるいはホッとした様子で喉をゴロゴロと鳴らした。アルは……彼女の中の分霊はスナイパーライフルをこちらに向けているが撃つ様子はない。近づかなければ大丈夫らしい。それなら今のうちに……いやしかし便利屋達が………いや、無理だ。

私はもう1歩後退りした。

 

 

 

「________まだです」

「っ!ハルカ!?」

アルが警戒を強めてハルカへと銃口を向けた。しかしそんなことに構うことなく、ハルカはショットガンを杖にしてふらつきながらも立ち上がる。長袖だった制服は燃え尽きてノースリーブのようになっており、包帯が剥がれて露出した両腕の火傷がハッキリと晒されている。先程の防火扉ごと吹き飛ばされた衝撃で頭などに大きな傷ができていた。そこから流れる血は熱で乾き皮膚に張り付いていた。ハルカはそれを拭って視界を確保すると、ショットガンを構えて銃口をアルに向けた。

「アル様……ごめんなさい!サオリさん、私はまだやれます!」

「待てハルカ!」

「やあっ!!」

 

(銃声、乱れ撃ち)

 

(銃声、ハードボイルドショット)

 

距離を詰めながらショットガンを乱射するハルカ。その弾丸は熱波を貫いたが酷く減速と発熱をし、最終的には解けてアルの顔に飛び散った。煩わしそうにそれを払い除けたアルは無言で発砲。3発の弾丸がハルカの腹部と右肩と顔に命中し大爆発を起こす。しかしハルカは止まらない。

「ぐっ……たああああああああああ!!」

歯を食い縛って耐え抜き、突撃し、遂にアルの眼前に躍り出た。ショットガンを振り下ろし、それをスナイパーライフルで防いだアルと鍔迫り合いの形になる。……待て、そしたらアルの視線が全てカヨコに行くことになる!

「ああああっ!!ううっ……熱い……!でも、こっちを見てください!!これでサオリさんも、こっちに、来易くなるはず……!!」

「ハルカ、お前は……!

予想通り悲鳴を上げたハルカ。しかし自分から視界を塞ぐようにアルの視線を潰した。

「クッ………フフフ。カヨコちゃ〜ん…………立てる?」

「……動いて、右腕………!」

ハルカの戦いを呆然と眺めていると、後ろの2人も動き出したようで衣擦れの音と声が聞こえて来た。振り返るとどちらも立ち上がっており、ムツキは爆弾が入ったバッグの肩紐を握り締め、カヨコ弾丸が直撃した右腕を押さえながらもハンドガンを構え、必死に指を動かそうと試みていた。

「お前達……重症じゃないか!さっきあれが直撃してただろう!?」

「勘違いだよ♪まだ戦える……ね?カヨコちゃん?」

「はぁ……今だけ保てばいいから、今だけ………動け!」

 

(銃声、パニックブリンガー)

 

意地と気合いで指を動かし、カヨコは発砲した。神秘が込められた弾丸は今度は天に向かってではなくアルに直接撃ち込まれる。先程のショットガンの球とは違いこちらは溶けることなく命中。アルはハルカと鍔迫り合いをしていたのにも関わらず発狂し、頭を抱えて後退りし出した。その隙を逃さずハルカはアルの腰に飛び付き、身動きを封じる。

「ムツキ室長!」

「OK!さぁ、いっくよ〜!」

小さな体で大きなバッグを引き摺り、フルスイングで投げる。バッグはチャックが空いており、中にあったアブゼロ爆弾がアルの頭上で散乱した。よく見ると、全てピンが抜かれている。

 

(爆発音、灼熱のセレナーデ)

 

視界が一瞬で白い冷気で覆い尽くされ、それに炎とアルの姿が飲み込まれた。

「あわわ……!危なかった……!」

不意に冷気の中からハルカがひょっこりと抜け出して来た。優秀なタンクだ、あの中を退散したのか。

 

(氷が張る音)

 

100個近いアブゼロ爆弾の冷気は周囲を凍らせるほどで、アルは真っ白な霜で覆われていた。足は完全に凍りついて動かない。しかし上半身は多少動かせるようで私を睨みつけ、スナイパーライフルを構えてくる。撃たれると思った瞬間、アルは唐突にスナイパーライフルを落とした。

「………!?」

何故かアルは自分がスナイパーライフルを落としたことに驚いている様子だ。慌ててうまく動かない体を無理矢理動かして拾おうとする。しかしその瞬間、アルの右手が自身の目を覆った。

「…………っ!?」

「急にどうしたんだ……!?アルの奴、右手で目を塞いで左手でそれを引き剥がそうとしている……!?」

「あら、凄いわねぇ。あのアルって子は、ずっと中で戦っていたのね」

雇い主の言うことがよく分からなかったが、何にせよこれで安全だ。視界を覆っていたオレンジの炎と真っ白な冷気は対消滅しており、私の目の前がクリアになった。これなら雇い主を運べる……!

「……雇い主、どうやら私は1人じゃなかったし彼女らも諦めていなかった。だから問題はないな?」

「……はぁ、まあいいわ。連れて行きなさい」

雇い主は私の背の上で残念そうな素振りでため息を吐いたが、その声色は心底安心したような、とても嬉しそうなものだった。

私は雇い主を背負い直し、最後の1メートルをしっかりと踏み締め、もがくアルの目の前に辿り着いた。

「ここでいいわ、ありがとうお嬢さん」

そう言って私の背から降りた雇い主はアルの頬を肉球で包み込み、額を合わせて何かを呟き始めた。いつの間にか私の隣に集まってきた便利屋達の面々と一緒にそれを見守る。

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

「……え?何?アルちゃんとおばあちゃん、何の話をしているの?」

「……分からん」

だが意味を知ろうとしたらダメな気がする。それは3人も感じたようで、それ以上追求することはなかった。

そうして2分ほどの会話が終わるとアルの中からずっと感じていたプレッシャーがかき消えた。それと同時にアルが瞳を閉じ、力が抜けて倒れる。雇い主はそれを受け止め抱き寄せた。

「アルちゃん!」

「アル様!」

「アル!」

「大丈夫よ、ほら、もう目覚めるから」

顔を真っ青にして駆け寄った3人を宥めつつ、雇い主はアルを地べたに寝かせ膝枕をしてやる。するとアルが目を覚ました。その瞳は先程のように発光していない、私が久しぶりに、3人はいつも見ているアルの瞳だ。

「………あれ?ムツキ?ハルカ、カヨコ……え!?何よその大けが……ゲホッゲホッ!!」

飛び起きたアルは3人の怪我の具合に驚いて声を上げるが、途中で酷く咳き込み、そして腹と喉を押さえだした。

「な、何なのよぉ……お腹は痛いし喉が焼けてるみたいな感じだし。ああ、いや、それよりも!3人とも大丈夫!?どうしたのその怪我!?」

「………クフフ、も〜う!アルちゃんのせいだよ!」

「ええ!?私!?」

「アル様ああああああああああ!!アル様アル様アル様アル様アル様アル様アル様アル様アル様アル様!!!無事でよかったです!!!!」

「ちょっ、やめ、ハルカ……!お腹痛いのグフゥッ!」

「はぁ……、アル……社長ったら。何も覚えてないの?」

「何もって……ああ、そう言えば任務中だったわね。急におばあちゃんがターゲットのアタッシュケースから氷みたいなものを取り出して……それを見たら自分が自分じゃなくなって……ゔっ!頭が……痛くなって………」

急に頭を抱えて呻き出したアル。すると雇い主が優しくアルの頭を撫で始めた。

「見たものは忘れなさい。もう大丈夫だから、思い出さなくていいのよ」

「あなたは、ターゲットの持ち主のおばあちゃん!?ってことは……」

首を左右に振り、私を見つけるとアルは目を丸くした。

「じょ、錠前サオリ!?」

「久しぶりだな、アル。分霊を見たお前を助けるために色々あったんだ。だから3人を労ってやってくれ」

私がそう言うとアルは神妙な顔になり、そして便利屋の3人に頭を下げて見せた。

「もしかしてその火傷は私がやったのかしら?……ごめんなさい、従業員に手を上げるなんて社長失格だわ」

「そそそそそんな!アル様のせいでは……!!」

「いいえ私のせいよ。さっき私はスナイパーとして、社長として、常にターゲットから目を離さないようスコープを覗いていた。分霊を見ないでと忠告はスマホから聞こえていたわ、でも見続けることを優先してしまった。でもそれがあなた達を傷つけることになってしまった……謝っても謝りきれないわ」

言い切った後土下座までしようとするアル。するとカヨコがそんなアルを後ろから抱き締めた。それに続いてムツキがアルの肩に抱き着き、最後にハルカがアルの胸に顔を埋めた。

「辞めるなんて言わないでよ、社長」

「そうだよアルちゃん、そんなこと私達が許さないんだから!」

「わ、私はアル様に地獄の果てまでお供します!だから置いてかないでください!」

「あなた達……わっ、分かってるわよ!辞めるもんですか!………ありがとう、ムツキ、カヨコ、ハルカ」

そう言ってアルは3人に抱き着かれたまま、愛おしそうに彼女達を眺めていた。その表情を見て私も、脅威は去ったと実感が湧いて来たのだった……。

 

 

 

「________おい、いたぞ!便利屋が言っていたターゲットだ!」

ホッとしていると、屋上の扉が開いてチンピラ達がゾロゾロと飛び出て来た。全員武装もしており、アタッシュケースを指差してあちらに寄越すよう恐喝してくる。何なら便利屋達にさえ銃口を向けてきた。

「何だあいつら……便利屋が雇ったんじゃないのか?」

「そのはずよ!あなた達一体何のつもり?」

アルが問いかけると、チンピラ達は下品な笑い声を上げながら思惑を答えてきた。

「あんたらに言われた通りアタッシュケースを奪うのを手伝うんすよ!」

「でもそれ裏のVIPが欲しがってるブツなんだよなぁ?だったら俺達が届ければ報酬総取りじゃね?」

「名案だよな!だから寄越せ!アタッシュケース!!」

「はぁ……だから雇うなら傭兵がいいんだ……」

カヨコが今日1番の溜め息と共にそう吐き捨てる。私はアサルトライフルを構えた。数は50人くらいか……正面からは無理だが逃げながらなら……。そう思っていると、アルが立ち上がって私の前に出た。

「行きなさい、錠前サオリ。そのおばあちゃんを送り届けるのが仕事なんでしょう?」

「だが、お前達怪我が」

「平気よこれくらい。それに、敵なのに助けて貰って、何も返さずに終わりなんてアウトローの名折れだわ!」

 

(銃声、ハードボイルドショット)

 

「ぎゃああああああ!!?」

「何だアレ!?爆発したぞ!?」

迫り来るチンピラ達にアルは容赦なく発砲、分霊が乗り移っていた時より小規模だが十分な威力の爆発が10人程のチンピラを薙ぎ倒した。

「ムツキ、カヨコ、ハルカ。あなた達も先に拠点に戻りなさい。その傷じゃまともに動けないでしょ……って、ちょっと!」

「平気だよこれくらい、アルちゃんは心配性だなぁ」

「はぁ……、適当に相手して逃げようか」

「私頑張ります!裏切り者のチンピラなんて全員吹っ飛ばします!アル様!」

さっきまで死にそうなほどボロボロだった3人も立ち上がって前に出た。便利屋68、4人で寄り添って、支え合って、立ち向かおうとしている。きっと彼女らなら大丈夫、そんな頼もしさすら感じることができる背中に私は顔を綻ばせた。

「……さすがキヴォトス最高峰のアウトロー集団だ。任せた」

「……フフッ、当然よ!任せなさい!…………さあ、我が職員達。仕事の時間よ」

「うん」

「は〜い、楽しみ〜♪」

「が、頑張ります!」

私は雇い主を背負い直し、踵を返してビルの屋上から飛び降りた。ちょうど隣の建物が着地しても問題ない高さだったのだ。そこを伝って地上におり、ビルからできるだけ離れた。後方からは銃声と消防車のサイレン音が聞こえ、救急医学部の車両も繁華街の車道を走り抜けて行く。でも便利屋68なら大丈夫。彼女らを信じて、振り返ることなく目的地に向かった。

 

 

 

________その後、私達はヒノム火山の登山道に辿り着くことができた。道中でチンピラ達の襲撃はなく、また街の喧騒も落ち着いた様子で、彼女らがしっかり仕事をしてくれたのだと理解した。

「はぁ、いい子なんだか悪い子なんだか分からない子達だったわねぇ。ああ、でもあの子達のせいで温泉に入りそびれたしイルカショーも見れなかったわ!やっぱり、悪い子ねあの子達は」

登山道を歩いていると、隣に並んで歩く雇い主がぷんぷんと怒り出した。何とか宥めていると、全身の火傷が痛んで顔を顰める。

「ほら、お嬢さんも火傷する羽目になったわ!」

「わ、私はいいんだ……。それより、温泉とイルカショーなら、明日にでも行かないか?分霊を返した後でも遅くはないだろう?」

「………いいえ、遅いの。これが最後」

「最後?」

 

『ええ!ありがとうお嬢さん。フフッ、楽しみねぇ、街を見るのは最初で最後だもの♪』

『私の旅行にも付き合ってくれたし……何より最後だものね。ええそう、最後だし………いいか。ええ、分かったわ、分かった。助けましょう』

 

度々雇い主の口から出ていた『最後』と言う言葉を思い出す。ずっとその意味を測りかねていた。聞くなら今だ、そう思い私は問いかけた。すると雇い主は「そう言えば言ってなかった」と驚き、そして答えてくれた。

「分霊と一緒にヒノム火山に残るのよ。もう2度と降りない。それが私の最後のお役目なのよ……」

「最後とは……そう言うことだったのか!?そんな……!」

「フフッ、大丈夫よお嬢さん。私はとっくの昔に覚悟してるから。それに………そうね、いっぱい人を焼いたもの。温泉もイルカショーも、取り上げられるくらいがちょうどいいのよ。きっとね」

「雇い主……」

「あら、着いたわね」

雇い主が立ち止まる。そこは登山道の脇に伸びた細い獣道で、人の手が入っていないようで約5メートル先は鬱蒼とした茂みに覆い隠されていた。

「この先に分霊を返すのか?」

問いかけると雇い主は微笑み、アタッシュケースの留め具を外した。すぐに止めようとしたがそれを手で制され、そして雇い主は中から分霊を……手榴弾くらいの大きさの氷の塊を取り出した。そしてそれを丸呑みした。

「や、雇い主……?何が何だか……」

「ヒノム火山に入れたからもういいのよ。それでね、これで村も信仰も全部おしまい。私が最後の贄になるの。だから、もういいのよ」

喉をゴロゴロと鳴らして雇い主は私に歩み寄り、私の頬を肉球で触れた。観光している時の優しい雇い主の顔だ。そしてあの時のアルの中に感じたような超然とした、何か大いなるものが宿っているような笑顔だった。

「色々あったけど、ここまで連れてきてくれてありがとうお嬢さん。おかげで楽しかったわ」

「……こちらこそ観光させてくれて、便利屋を助けてくれて………私を雇ってくれてありがとう。あなたのことは忘れない」

そう言って私は後ろに下がり、帽子を外して深くお辞儀をした。雇い主は微笑みを絶やさぬままそれを受け取ってくれた。

「自分探し、うまく行くといいわね」

「ああ………待て、私はその話をお前にした覚えはないぞ?」

「今見たのよ。きっと大丈夫、お嬢さんなら何でもできるし、何にでもなれるわ」

雇い主は手をヒラヒラと振りながら獣道に入り、歩き去って行った。何の舗装もされていない道だがご老体とは思えない軽やかさで進み、最後は茂みと夕暮れの暗がりに隠れて見えなくなった。

 

 

 

________ヒノム火山の登山道を降りて麓町に戻る。時刻はすっかり夜で、歩道を歩きながら騒がしい街並みを見ていると今日のことが随分と昔のことのように感じる。雇い主と分霊を届ける不思議な仕事。便利屋68による妨害があったがそれでも無事に届けることができた。慌しかったが、それでも何とかなったことにホッとしている。

「ゔっ……!火傷の治療をしないとな……」

肌を露出していたところは、分霊の熱波で大体火傷になっている。早く軟膏でも塗らなければ大変なことになりそうだ。……ああそう言えば、便利屋68の面々も無事だろうか?彼女らはもっと酷い火傷なはずだ。アルも外傷はなかったが、分霊が入った分内臓に何かあるかも知れない。実際にアルはお腹や喉の痛みを訴えていた。早く病院に行って、適切な治療を受けるべきだ。

「はぁ……それは私もか。確かこの辺りにドラッグストアが……」

私は地図を見ようとスマホを取り出し……いや、壊れていたんだ。仕方ない自力で探そう。あちこちを歩き回り、それらしい建物がないかを見て回る。レストランに温泉にレストランレストラン……せめてコンビニでもないものか。どこもかしこも観光の施設で……もうこの際どこでもいいか?

「はぁ……はぁ……うっ、ん………」

体力も尽きていたようだ、私は人気の無い道端に倒れ動けなくなる。冷たいアスファルトが火傷痕から熱を奪う。それが心地よくて瞼が溶けてしまう。ダメだと分かっている、休むならせめて路地裏に入りたいと思っている。でも抗いきれない。結局私はそこで楽な体勢を取り、意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(サイレン音とエンジン音)

 

 

 

 

(ブレーキ音)

 

「……死体ですか」

 

(足音)

 

「全身に火傷……今日で5人目ですね。早く積載しなくては」

 

(車のドアを開ける音)

 

「おや、帽子が……ん?彼女は………」

 

 

 

「錠前サオリ?」

 

 

 

ここだけサオリが裏バイトで働いていて、ひどい目にあったりあわなかったりする世界




錠前サオリの裏バイト奇譚16

業務内容:要人及び荷物の護衛
注意事項: 『分霊を目視しないこと』
勤務期間:1日
給与額:500000円

コメント:未記入。
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