錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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感想等で構っていただけると喜びます。あと評価のバーが綺麗なトマト色になりました。皆様応援ありがとうございます。

今回の救急医学部案件・売血調査編ですが「元傭兵の職業浮浪者探索者とやり手の職業医者探索者のバディセッション」みたいで書いててとても楽しいです。


救急医学部案件・売血調査.2

(ゲヘナ自治区、スラム街)

 

自治区郊外に広がる廃墟と荒屋の群れ。風紀委員会の監視と慈善団体の支援があるためブラックマーケット程治安は悪くないが、それでも一般人には近寄り難い場所だ。そんなスラム街に到着し、安全に駐車できる場所を探しながら、セナは悔しそうに眉を釣り上げていた。

「……甘く見ていた、それに尽きます。スラム街で静かに活動している小規模なグループだと思って、それなら既存のグループに食い潰されることもありますから……予想できなかった私の監視の目が甘かったのでしょう」

「……この1週間の間にお前は調査をしていたのだろう?何か手掛かりは掴めたのか?」

「恥ずかしながら何も。毎日ここに来て、住民から血を買い取って帰る人達がいると言う噂話程度です。これからと言う段階でこうなってしまい……」

「そうか……だが、調査を始めて1週間しか経っていなかったのだろう?それにお前には本業もある。無理もないと思うぞ」

「ですが、このスラム街には救急医学部も支援を行っていました。何か掴めていれば、もしかしたら……」

そんなことをしていたのか、それなら彼女の罪悪感も頷ける。手の届く場所で起きた事件に、IFを考えずにはいられないんだな。とても責任感が強くて誇りある人だ。

「……だが、それなら尚更たらればを考えるな。私達はまだ動けるんだ、終わっていない。本当の最悪に行き着く前に、少しでも状況が好転するよう、どうするかだけを考えるべきだ。歩みを止めないべきだ。そうだろう?」

きっとアズサならそうする。そう心で付け加えつつ言い切ると、セナも理解してくれたようで眉を緩めた。

「……そうですね。すみません、私としたことが……まだ始まったばかりだと言うのに」

「いいんだ、最後まで手を貸してやるさ。あ、おい、あそこなら停められないか?」

「どこですか?……ああ、良さそうですね」

駐車場所が決まり、セナがハンドルを回した瞬間……。

 

(ブレーキ音)

 

ッ!?飛び出しだと!?何だこの高級車!?

「逃げましたね」

「あんな雑な運転をしたら、せっかくの黒塗りに傷がつくだろうに……それにしても、こんなスラム街に高級車なんて来るものなのか?」

「来ません。少し不自然ですね……一応この車両にはドライブレコーダーがあります。落ち着いたら危険運転として風紀委員会の交通課に提出しましょう」

「よろしく頼む。さあ、スラム街に入ろうか」

気を取り直して駐車し、私達はスラム街での売血調査を開始した。

廃墟も含めるとかなり広いスラム街を歩き回って1時間。安全のために単独行動は控え、2人一緒に聞き込みを行った。その結果……。

「きゅ、救急医学部!?」

「話すことなんかねぇ!どっか行ってくれ!」

「セナちゃん!わ、悪ぃ……!」

……とまあ、話しかけると住民達はすぐに逃げてしまい、何の成果も得られなかった。

「……取り付く島もないな」

「……彼らは皆顔見知りです。スラム街衛生支援の際に、私達に良くしてくださった方々です」

「そうか。だが、そう言うことなんだろうな……」

「…………」

沈黙に悲壮を感じる。言ってしまえば、売血は手軽なんだ。血を抜くだけで簡単にお金が手に入る。生活に困っている彼らに手を出さない理由はない。セナも分かってはいるが、思うところはあるのだろう。

「……一応聞くが、どうする?犯行グループが逮捕されたら、彼らがお金を稼ぐ手段の1つが潰れてしまうぞ」

「止めます。それが彼らを犯罪に巻き込んでいい理由にはなりません」

「そうだな……すまなかった」

「いえ、お気遣いありがとうございます。しかし……」

口元を手で押さえ、考え込むセナを見守る。次の手段を考えているのだろう。だがこの調子だと、彼女が救急医学部である限り情報は手に入りそうにない。

「あと1人、顔見知りの方がいます。ですが……彼も話を聞いてくれないのかも知れません」

「………氷室セナ。1度私に任せてくれないか?」

「錠前サオリさん?何か考えがあるのですか?」

「要は救急医学部じゃなければいいんだ。ちょうど私は部外者で……それに宿無しの身だ」

そう言って私は懐から小型無線機を2つ取り出し、片方をセナに投げ渡した。

 

(数分後、スラム街の片隅)

 

「そこのお前、ちょっと時間をいただきたい」

「ん?何だお前?生徒か?」

「……『元』生徒だ。今はただの浮浪者さ」

セナの顔見知りの最後の1人、怪訝な表情の獣人(マイクロブタ)の中年男性に私はそう返した。……先生が聞いたら「今でも私の生徒だ」と言って怒りそうだな。

「ハッ、退学生か。一体何をやらかしたか知らないが、俺に何の用だい?」

「先立つものがないから稼ぎ場所を探していてな。それでここの噂を聞いて来た。何でも、売血をしているそうじゃないか」

「………どこでそれを聞いた?」

男のつぶらな瞳が鋭くなる。やはり売血をした奴らは口止めをされているらしい。セナを避けたのは負い目もあるがこれも原因だろう。私はニヤリと笑い、帽子の鍔を下ろして目元を隠した。今から言う嘘を、私の瞳から見抜かれないために。

「……名前は聞きそびれたんだが、随分口の軽いお友達がいるんだな。コッソリやりたいならあいつの口は縫い合わせておくといい」

「……あのバカ牛がぁ!本当に口が軽くて困るぜ!」

上手くいったようでホッとし、だがその安堵を顔に出さないよう知らんぷりをして見せた。

スラム街の住民には独自のコミュニティがあり、多様な人間がいるものだ。広いゲヘナ自治区の広いスラム街なら尚更。だからさっきのような口から出まかせを言っても意外と該当する人間はいるもので、相手が勝手に勘違いをして話を進めてくれるのだ。フフッ、これもアリウスにいた頃の厳しい諜報活動訓練の賜物だな。嫌な過去だが、それでも役立ってくれた……!

後に別件で同じようにしてみたがあっさりバレてひどい目にあったりあわなかったりするのだがまあそんなことは置いといて、目の前の男は落ち着きを取り戻し、1つ咳払いをした後に話し始めた。

「……とは言っても、風紀委員会とかに聞かれたらまずいってだけで、タキシードの男は客が増えること自体は歓迎していた。だからまあ、大丈夫か……」

「タキシードの男?」

コートの襟を直すふりをして、そこに取り付けた小型無線機の位置を整える。無線機の向こう側には緊急車両11号で待機中のセナがいる。部外者である私なら話を聞けるんじゃないかと言う目論見で、一旦戻ってもらったのだ。

「タキシードの男……そいつが血を買い取っているのか?」

「ああそうだ。毎日黒塗りの高級車に乗ってスラム街に来てよぉ、献血してお金配って、とっとと帰っちまう。よく分かんねえ奴だよ。金払いはいいけどな」

「黒塗りの、高級車……!」

まさかと思い車種を聞いてみる。男が快く答えたその車種は……。

「ドライブレコーダーを確認しました。間違いありません、先程私達が遭遇した高級車です」

耳につけた無線機のスピーカーからセナの声が聞こえ、私は顔を顰めた。

「入れ違いか……!1時間前に走り去って行くのを見たぞ」

「ああ、きっとそれだな。そうなんだよ、さっき来たから今日はもうやらないぜ。明日まで待つんだな」

そう言うことなら仕方ない、だが大きな進展だ。他にも聞き出せる情報はあるだろうか?私は続けて質問を投げかけた。

「タキシードに黒塗りの高級車。とてもまともな人間とは思えないが、素性は分からないのか?」

「余計な詮索なんてしたことねえよ。後が怖いからな。ああ、でも、昨日あいつマダムのための血だって言ってたな」

「…………マダム?」

「ああ、この世で最も美しい人だそうだ。それ以上は分からねーけど……何だよその顔?」

「………いや、マダムと言う名に縁があると思っただけだ」

私の知るマダムかは分からないが、それでも顔を歪めずにはいられない。全く、マダムと呼ばれる奴にはロクな奴がいないのか……。

「何にせよ……色々聞かせてくれてありがとう。明日また来させてもらう」

ここが潮時と判断して私は男に頭を下げた。男は適当に手を振って挨拶をし返してくれる。ぶっきらぼうだがとてもいい人だ。

「おう、また来いよ。そうだ、モモトークやってるか?交換しとこうぜ」

「なっ!?……失礼だが、スマホ使えるのか?」

「逆に今時ねぇと色々大変だぜ?だから携帯代だけはみんな死ぬ気で稼いでんだよ。便利だぞ、炊き出しの情報とか集められるしな」

「炊き出しか……そう言えばここには定期的に支援が行われているそうだな。例えば、救急医学部などから」

「……ああ、まあな」

「売血とは犯罪だろ?そこはどう思っているんだ?」

鼻を鳴らしながらニコニコと話していた男だが、私がそう聞いてみるとバツが悪そうに顔を背ける。揺れる大きな耳もパタンと閉じてしまい、聞きたくなさそうにして見せた。

「……仕方ねぇだろうがよ。確かに、セナちゃんとかに良くして貰ったけどよぉ、生活のためには金が必要なんだ。お前だって分かってるだろ?」

「………失礼する」

肯定も否定もせず、私はその場を後にした。悪いことだが、彼らの気持ちも分かるからいたたまれなくなる。何にせよ喋り過ぎたな、反省していると無線から通信が入った。

「聞き取りをしていただきありがとうございます。こちらはドライブレコーダーの映像からあの高級車のナンバーを特定できました。風紀委員会の交通課に行って、住所と所有者を突き止めましょう」

「了解した、すぐ戻る」

「お願いします………錠前サオリさん」

「どうした?」

無線越しの声色が変わった。何か決意したような、気合を入れ直した様子。その勘は当たっていたようで、セナは静かに、しかし力強く話を続けた。

「早急に犯行グループを捕獲しましょう。そしてそれが終わったら、私はまた彼らの支援を行わなければなりません。このゲヘナの損傷の1つ、修復……いえ、治療が私の仕事ですから」

「……応援している。きっとお前ならできるさ、氷室セナ。オーバー」

無線を切り、足早に緊急車両11号へと向かった。最初は便利屋68のためだけだったが、頑張る理由が増えてしまったな。その重さと心地よさを肌で感じていると、スラム街の風が私を急かすように吹き抜けて行ったのだった。




幕間・サオリのバイト飯

26.ヒノム火山の温泉まんじゅう

食べた時のバイト:要人及び荷物の護衛
説明:非常に熱いヒノム火山の温泉の蒸気で蒸された温泉まんじゅう。肉まんと餡まんがある。

コメント:前に食べた小籠包と違いスープは入っていないが、その分少し辛い味付けのお肉がぎっしり詰まっていて食べ応えがあった。独特の風味は温泉の蒸気によるものだろうか?分からないが、次はあんこが入っている方も食べたいな。
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