錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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遅くなりまくってしまい申し訳ない。新人歓迎の飲み会とか色々楽しかったです。
あと地味に迷走しておりました。ここからも難産になりそうで怖いんじゃ。


救急医学部案件・売血調査.4

(ゲヘナ自治区、オフィス街)

 

ゲヘナ自治区のオフィス街にやってきた錠前サオリだ。オフィス街と言ったが、D.U.やミレニアムのように高層ビルが立ち並んでいるのではなく、ゲヘナ風建築様式の6〜7階程度の建物が並んでいる場所だ。ビル街とは違った趣があってとても綺麗な場所だと思う。

そんな今だが株式会社バートリーのオフィスがある建物に到着し、これからバートリーCEOに会おうとしているところだ。ちなみに着替える暇がなかったので救急医学部の制服のままここに来ていた。着慣れていないロングスカートの裾が足元で揺れている。普段感じない……こう……スースーする感じに戸惑っていると、隣で受付嬢と話していたセナが眉を吊り上げた。

「……CEOはいらっしゃらないのですか?」

「はい、今日はまだ出勤されておりません。お休みの予定はなかったのですが……」

困り顔の受付嬢に礼を言って、私達はバートリー社から出た。後方で自動ドアが閉じた瞬間、2人同時に溜め息が漏れ出す。

「当てが外れましたね……」

「だな……だがここにいないと言うことは、バートリー邸に居るんだろう。チナツとイオリに鉢合うはずだ」

先ほどあった風紀委員の生徒達……火宮チナツと銀鏡イオリを思い出す。2手に別れてバートリー夫妻について調べると決めた際、おそらく1番危険なバートリー邸に志願して訪問しに行った。彼女らは無事に情報を掴めただろうか?

「……チナツ達は大丈夫でしょうか?」

そう言ってセナはスマホを取り出し操作を始めた。可愛い後輩が気になるのだろう。………そういえば私も新しいスマホを買わなくてはいけない。今のセナを見ていると無性にスクワッドのみんなのことが気になり始めた。と言うか、バイト中にスマホ壊れるのはこれで3度目か?高い買い物だと言うのに……。

勝手に憂鬱になりながらスマホの画面を覗くと、ちょうどチナツからモモトークの返信が届いて来た。

『チナツ、そちらは大丈夫ですか?』

『たった今バートリー邸に到着しました。何かあったら連絡します』

『分かりました、気をつけてください。』

『ありがとうございます、そちらもご武運を 〜チナツ〜』

丁寧な文体で、メッセージの後に名前を入れているのが彼女の根っこの真面目さを表しているようで可愛らしい。あっちは順調に進むといいのだが……。

「私達もバートリー邸に行ってみるか……と思ったが、今更か?」

ここにバートリーCEOがいないなら私達もいる意味はない。いっそ合流するかと提案してみる。今から行っても間に合いはしないが、お迎えくらいならできるだろう。一瞬考えた後に、セナもそれに同意してくれた。

「……他にやることは思いつきませんからね。では我々も……待ってください」

瞬間、セナのスマホがモモトークの通知音を鳴らした。すぐに確認する。……彼女の無表情が険しい雰囲気を出し始めた。

「何かあったか?」

「はい。このオフィス街にある公園で献血が行われているのですが……襲撃を受けたそうです」

「何!?」

「ご安心を。護衛の万魔殿戦車隊にはさすがに勝てず、撤退したようです」

「そ、そうか……」

ついに恐れていた事態が起きたか……!

私達が調査している、救急医学部の部室を襲撃して輸血を盗んだ犯人とスラム街で売血をしている犯人は株式会社バートリーのCEOの車を犯行に使用していたと言う共通点があった。だから私とセナはバートリーCEOに会いに本社へ、チナツとイオリはバートリー夫人に会いに邸宅へそれぞれ訪問しているのだ。だが犯行グループの動機と足取りは未だ謎のままで、このままだとまた襲撃が起きるのではないかと懸念し、捜査を急いでいたのだ。

「羽沼マコトには感謝しないとな。戦車隊がいなかったら、せっかく集められた血液も盗まれるところだった」

「そうですね、よく頑張ってくれました。早速ですが様子を見に行きませんか?どうやら捕虜を1人捕まえたそうです。思わぬ形ですが、いい情報源になるかも知れません」

捕虜がいるのか……!バートリーCEOに会えなかったのは残念だが、こんな形で情報にありつけるなんてツイている。私は頷き、早速公園へと向かった。

オフィス街の中にあるそこは遊具などはなく、大きな広場にいくつものベンチ、そしてウォーキングに最適な遊歩道が設置されている。完全に社会人向けで、普段ならオフィス街で働く人達が昼ごはんを食べたりする憩いの場となっている場所だ。植えられた木々も周囲の風景に合うような見た目に手入れされている。

そんな公園に救急医学部達は献血会場を設置したようだ。各企業も要請を受けて、社会奉仕と言うことで献血をしに来てくれている。そんな人達の喧騒と万魔殿の戦車の駆動音で、公園は少し騒がしくなっていた。

「……いや、騒がし過ぎるな。本当にさっきまで戦闘が行われていたのだろう」

「火薬の臭いもします。相当暴れ回ったのですね……」

あちこちに飛び散った灰や薬莢、弾痕を踏み締めて公園の中心、献血会場へ足を踏み入れる。……酷い有様だった。献血カーは爆弾が直撃したようで外装がひしゃげている。こんな有様だから献血は中止になっており、血を分けに来てくれた人達はみんな逃げ帰ってしまったようだ。もう再開はできないだろう。

そして何人かの怪我人も出たようで救急医学部員が手当に追われていた。怪我人は全員、最前線で戦ったと思われる万魔殿の生徒達だ。遠目ではよく分からないが、重症の人間はいなさそうで安心する……ん?他の生徒よりも一回り小さな万魔殿生徒が手当を手伝っている?

「はい、イブキのばんそーこー貼ってあげる!お気に入りなんだよ」

「ありがとうイブキちゃん!ねえ救急医学部さん。この絆創膏永久保存ってできないの!?」

「いや無理ですよ……治ったら普通に剥がしてください」

「そんな!」

「えへへ、お大事にだからね!……あ!セナ先輩だ!」

小さな万魔殿生徒……丹花イブキはこちらに気づいたようで駆け寄って来た。確か彼女はまだ11歳でありながら飛び級でゲヘナに入学した秀才だと聞いている。万魔殿にプレゼントした飛行船にも乗っていたような……。

「あれ?お姉さんは救急医学部さん?どこかで見たことあるような〜……」

「ッ!あ、ああ、新人だ!よろしく頼む……!」

「…………そっかぁ〜!初めまして、私イブキ!セナ先輩は久しぶり!」

「お久しぶりです、イブキさん。お手伝いありがとうございます」

「どういたしまして!あ、イロハ先輩呼んでくるね、今ここを指揮してるのはイロハ先輩だから」

トテトテと小さな足で走り去ったイブキを見送りつつ私は警戒心を跳ね上げた。今から連れて来ると言っていたイロハ先輩とやら……棗イロハは万魔殿議長羽沼マコトの側近で戦車隊の戦車長だ。あと私が飛行船に乗せて吹き飛ばした1人でもある。罪悪感はあるがここでバレたらもっと大変なことになる……!

「……顔色が悪いですよ。腹部でも損傷しましたか?」

「ん、ああ……腹でも痛いのかって意味か?その、胃が……」

「胃ですか。無理をなさらないように、後ほど胃薬を処方しますから」

「連れて来たよ〜!」

思い切り顔を顰めているとイブキが見覚えのある、赤いモップのような髪の万魔殿の生徒を連れて来てくれた。この世の全てをかったるいと思っているようなその表情……間違いない、棗イロハだ。私はセナの後ろに下がり、ただの付き添いの救急医学部員ですよといいたげに気配を殺した。大体どうして戦車長が現場に出ているんだ?それくらい熱心に手伝いをしてくれているのか?ありがたいななぁ全く。

「お久しぶりです、イロハさん。護衛をしていただきありがとうございます」

「まあ、これも仕事ですから。あら、その後ろの方は?」

「つ、付き添いの新入りだ……!よろしく頼む!」

「…………そうですか。まあ面倒だからどうでもいいんですけど」

顔をじっと2、3秒見つめられたがどうにかバレずに済んでホッとする。これなら滞りなく捜査ができるはずだ。気持ちを切り替え、イロハとイブキに向き直った。

「報告は上げたばかりなのにもう来るなんて、何かあったのですか?セナ部長」

「ちょうど近くに今回の事件の重要参考人がいるかと思い来ていたんです。当ては外れましたが」

「そうでしたか、ですがボウズにならなくて済みそうですね。………捕虜に会いますか?」

「是非」

「こちらです」

案内されたのは献血カーの隣に設営されたテントで、端の方に簡単な仕切りを立てて小部屋のようにしていた。その中に入ると、スーツを着た中年の獣人(チスイコウモリ)がパイプ椅子に座らされており、ベルトや手錠で体を拘束されていた。……ん?こいつは?

「バートリーCEO!?」

「おや、知り合いでしたか?」

「先ほど言った重要参考人です。どうしてここに……」

「んん!んーんー!んーんーんんん!!」

さるぐつわを喰い縛り、よだれを垂らし、目を限界まで広げてもがくCEO。尋常じゃないその姿に私達は思わず気圧され、イブキが小さく悲鳴を上げた。

「イブキ、あなたは引き続き救急医学部の手伝いをして来てください。構いませんよね、セナ部長」

「もちろんです。イブキさん、よろしくお願いします」

「……ううん、イブキもここに居てもいい?」

「どうしてですか?ここには面白いものは何もありませんよ?」

「うん。だけど、なんだかそのおじさんかわいそう。さっきいっぱい暴れていたけど、だけどずっと苦しそうな感じだったの……」

イロハの背に隠れ、しかしCEOから目を離さずにイブキはそう言った。言われて見れば確かに彼は体調が悪そうに見える。頬はこけ、スーツが心なしかサイズが大きく見える……いや、痩せ過ぎているんだ。栄養失調か?それに目元が黄色くなって……黄色?

「失礼します」

不意にセナがCEOに歩み寄り、彼女の頭を掴んで動きを止めた。そして目の下に指を置き、そこをあっかんべーとするように捲った。

「黄疸……いや、これは………」

「氷室セナ、どうした?」

「……黄色い血、過剰に血液を抜いている可能性があります」

「何だと!?」

「黄色い血?何ですかそれ?」

首を傾げるイロハとイブキに、私は前にセナから教えてもらった事を思い出しながら答えた。ついでにこれまでの調査結果……この事件の裏にいるバートリー夫妻についても伝えておく。

 

『定期的に献血に来てくださるのはとてもありがたいことです。しかし………錠前サオリさん、献血にはインターバルがあるのはご存知ですか?』

『献血をしたことがないから分からないが、何となく理解はできる。短期間に何度もしたら血が足りなくなってしまうから、それを防ぐためだな?』

『はい。献血者の健康被害もありますし、度が過ぎると赤血球の回復が追い付かず、血は黄色い血しょうが目立つものになってしまいます。この黄色い血は輸血しても効果が少ない上、肝炎などの副作用が出てしまうリスクがある危険なものです。それを患者に使うわけにはいきませんから……』

 

「……つまりその人は、インターバルを無視して体から血を抜きまくって、黄色い血になっている可能性があると?まさかそんな……本当にそうでしょうか?わざわざ自分の血を搾るだなんて。他の病気の可能性はないんですか?」

「残念だが、私も氷室セナの考えに同意する」

私もCEOに近づいて、その腕を掴み、袖を捲る。……普通の人間ならさっき会ったばかりの人の腕を掴んで勝手に袖を捲るなんてことしないはずだ。だからこれは……これはよく知っているが故の勘だったのかもしれない。

「……見てみろ」

手錠を外し、CEOの腕を、私が見つけたものが全員に見えやすいようにしてやる。それは注射痕で、腕の肘窩(ちゅうか。肘の反対側の浅いくぼみ部分)に、乱雑に刺し込んだ痕が無数に残っていたのだ。

「……雑な打ち方ですね、これを何度もですか」

「イロハせんぱ〜い!見えない〜!」

「見てはいけませんよ、イブキには刺激が強過ぎます」

イブキの目を手のひらで塞ぎつつ、イロハは傷口を見て顔を顰める。セナにも注射痕を確認してもらい、その後私の方で簡単な処置を施した。

「これでよし……だがまさか自分達の血も搾って集めているとは思わなかった。一体こいつらは何を考えているんだ?」

「それを今から聞きたいのですが……イロハさん、イブキさん、お2人にも問診を行いたいです」

「襲撃のことを話せってことですかね?私達もあまりよく分かっていませんが……」

「えっとね、急にそのおじさんと、メイドさんと執事さんが攻めて来たんだよ!」

……2人曰く、平和に献血をしていたら突然黒塗りの高級車が数台やって来て、バートリーCEOが率いる武装したメイドと使用人が襲い掛かったのだそうだ。世紀末過ぎる。

「ですが武装と言ってもハンドガンにナイフ、煮えたぎった油などの貧相なもので、対するこちらは戦車もありましたから。歩兵の被害も不意打ち喰らった時だけのもので、後は圧倒して追い返しましたよ」

「イブキ達の虎丸すごいでしょ?ドーンってみんなやっつけたんだよ!」

こっちもこっちで世紀末過ぎるが、まあ正当防衛だろう。それはさておき。

「黒塗りの高級車……間違いないな」

「ですね、恐らくこれまでの襲撃も売血もバートリー邸の使用人。CEOが自ら前に出て来た理由は全く分かりませんが……そこのところどうなのですか?問診をさせてください」

そう言ってセナはCEOの口からさるぐつわを外した。

「ぷはっ!!痒い痒い痒い!!ああっ!」

「全身の痒み……黄疸の症状自体は出てるのですね。まあいいでしょう話を聞かせてください」

「血を……血を妻に集めないといけないんだ!!離せ!!離せ!!」

「その理由をお聞かせください。どうしてこのようなことを?」

「血いいいいいいいい!!血いいいいいいいい!!痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い!!」

「………………」

 

(ぷすっ)

 

「あへっ」

「氷室セナ!?」

懐から注射器を取り出して首に突き刺しただと!?

「安心してください、鎮静剤と痒み止めです。こんなこともあろうかと用意しておきました」

「都合がいいな!いや、だが今出しちゃいけない声出してなかったか!?」

「問題ありません。ほら、彼も大丈夫そうです」

「あへぇ……ふにゅぅ……」

「とろけてるじゃないか!?」

「問題ありません。人間とはしぶといものですよ」

恐怖しか感じないが本当に大丈夫だったようで、薬が効いたCEOは段々と落ち着きを取り戻していった。だがだからと言って協力的ではなく、こちらに対しては敵対心を、そして彼の妻に対しては強い忠誠心……いや恐怖や洗脳の類か?それを剥き出しにしたままだ。

「妻に……血を集めないと。あともう少しなんです……」

「………いくつか聞かせてくれ。お前はバートリーCEOで、妻とはバートリー夫人で間違いないか?」

「そう……です。妻が、妻が血を欲しがっている。集めなきゃ、集めなきゃ、集めて……」

「マダムはどうして血をご所望なのですか?」

「妻は……狂っている。いや!違います!妻は正しくて……彼女はこの世で1番美しい女性だ。その美しさを維持するために、血を使わねばならない……!」

「美しさを維持するために血を使う?意味が分かりませんね。血を化粧水代わりにでもしているんですか?フッ、バートリー夫人とやらは本当に狂ってるらしいですね」

「黙れ!!彼女は狂ってなどいない!!だって、狂ってたのなら……ああ恐ろしい、私達は狂人の片棒を?いいや違う!妻は正しくて……そう!あの血管の本にも書かれていたと言っていた!!だから血が必要で……集めなきゃ、集めなきゃ、集めなきゃ集めなきゃ集めなきゃ集めなきゃ……」

ブツブツと「集めなきゃ」を連呼し始めたCEO。だがかなり有益なことが聞けただろう。主犯はバートリー夫人で、動機は美しさを維持するため。そして血管の本……。

「分霊に引き続いて向こう側……オカルト関連ということか?」

「オカルトだなんてと一笑に付せないのが腹立つところですね。我々はそれらとの交戦経験がありますから……」

イロハの悪態に同意する。互いに共通の思い出があるから簡単に共感できる。そういえばあの時の空は血のような赤だったか?全く笑えない。

何にせよ錯乱もし始めた様子だし、これ以上は話を聞けないか……?

 

(ぷすっ)

 

「ひぇぇん……」

「氷室セナ!?」

おかわりだと!?

「セナ部長、それオーバードーズって言いませんか?」

「問題ありません。用法用量は守っていますから」

「ならいいです」

「いいのか!?なぁ本当にいいのか!?」

「次はイブキがお話してもいい?」

「どうぞ、イブキさん」

「こらイブキ、あんまり近づいてはいけませんよ。噛み付かれるかも知れません」

「お前、中々失礼だな……」

「いいですから、錠ま……新入りさんもイブキを守ってください」

私の困惑はあっさりと流された。仕方がないのでズンズンとCEOに歩み寄るイブキを、イロハと共に守るように寄り添い立つ。何かがあった時のために構えておいた。

「ありがとうイロハ先輩!救急医学部のお姉さん!……ええとね、おじさん。どうしてそんなにいっぱい血が必要なの?綺麗になるためって言っても、そんなに使う必要はないんじゃないの?今みんなで頑張って集めてるから、分けっこするんじゃダメ?」

「分けっこ……それじゃ、足りない……。昨日、妻は言っていたんだ。美しくなるためにはもっと使わなきゃ……いけないと……。だから襲撃をしておりました、ごめんなさい………でも足りないんです」

「……その急にもっと使わなきゃいけなくなった理由を知りたいんだが?」

「血管の本……赤き姫君の、物語のような美しさを得るには浴びるほどの血が必要なのだと……売血や、私達の血では足りない。だから襲ったのです。ああ、あと2人、あと2人分の……人間の血、足りないから……」

段々と呂律が回らなくなり、最終的にCEOは意識を失った。鎮静剤が効いたのだろう、涎を盛大に垂らしているがその寝顔はとても安らかだ。苦しそうだったさっきよりかはずっといい。

「……セナ部長、気付け薬はお持ちですか?」

「確かここに……」

「もういいもういい!鬼か!?……十分知りたいことは分かっただろう、寝かせてやってくれ」

「おじさん眠っちゃった?おやすみなさ〜い……」

イブキはそっと自分のコートを脱ぎ、CEOに毛布のように被せてやった。全く優しいのはこの子だけだな、イロハは物凄いジド目でメイドを見下ろしてるしセナは気付け薬の注射を残念そうに懐に戻している。過激が過ぎる。

「まあ、新入りさんの言う通りですね。動機は聞けました。バートリー夫人の個人的なわがままでこんな面倒なことを起こしている、と。本当に迷惑ですね……」

「バートリーCEOも血を提供していたと言っていましたね。これまでずっと、奥様のために血を絞りながらお仕事をこなしていたのでしょうか。そこまでするなんて……」

「そしてこいつらはあと人間2人分の血を欲している。それを手に入れるまで他の場所での襲撃が懸念されるな。……ちなみにだが人間2人分の血って何リットルだ?」

「イブキ知ってるよ!前に保健の授業で習ったの!ええとね、体重の13分の1くらいで、大人の人だったら大体4〜5リットルだよ」

「そうか、教えてくれてありがとう」

「えへへ、どういたしまして!」

太陽のような笑顔のイブキの頭を撫でてやる。要するにあと8〜10リットル欲しいのか。中々の量にゾッとする。

「チナツとイオリさんに連絡を入れておきましょう。無事だといいのですが……」

「え?風紀委員の人達、今どこにいるんですか?」

「バートリー邸に行ってもらっています」

「……まずくないですかそれ?」

「………………確かに」

よく分かっていないイブキ以外の全員が顔を曇らせた。ああクソ、ちょうど2人だ……!チナツもイオリも実力ある風紀委員だし相手はこのバートリーCEOみたいに病み上がりみたいな連中だから大丈夫かも知れない。だがオカルト、向こう側の何かが関わってるとなると話は別だ。2人が危ない!

「氷室セナ!バートリー邸の場所は分かってるか!?」

「もちろんです……!イロハさん、イブキさん、色々ありがとうございました」

「仕事ですから、こっちは任せてください」

「先輩達帰っちゃうの?気をつけてね!」

無邪気に手を振るイブキに手を振り返してやれないのは心苦しいが、そんなこと言っている暇はない。私達は足早に献血会場を後にし、そこらに路駐していた緊急車両11号に飛び乗った。




幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)

3.かの娘の公園

立ち寄った時のバイト:公園の清掃
説明:⬛︎⬛︎自治区にあるごく普通の公園。ここの清掃バイトをやっていた。

コメント:雇い主失踪後は行政が管理を行っているらしい。たくさんの人が訪れている人気の公園だが、野生動物を食い荒らす謎の存在の問題は依然として解決していない。


4.ピッツァQED

立ち寄った時のバイト:ピザ屋の配達
説明:ミレニアムに本店を構えているチェーン店のピザ屋。そこのとある支店で配達員として働いていた。

コメント:革新的なものから定番なもの、この世の終わりみたいなものなど様々なピザが販売されている。私もミレニアムに厄介になっていた時はコユキ達とよく食べた。私はフレッシュカリフォルニア寿司ピザロールが好きなのだが、理解してくれる知り合いが今のところムツキしかいない。


5.3丁目のアパート

立ち寄った時のバイト:ピザ屋の配達
説明:3丁目にある廃アパート。火災で大部分が焼け落ちており、危険だが未だに解体されていない。

コメント:スケバンすら寄り付かない静かな場所だ。解体されるにしろされないにしろ、彼らが静かに眠れるのならそれでいいと思う。
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