錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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感想や評価、お気に入り登録もいつもありがとうございます。嬉しくなっちゃいます。

今回、本来もう少し先まで書くつもりでしたが4000字くらい行ったので刻んで投稿します。


救急医学部案件・売血調査.5

(ゲヘナ自治区、オフィス街の公園)

 

サオリとセナを見送ったのち、イロハは盛大に溜め息を吐いた。

「………何で錠前サオリがここにいるんですかねぇ?」

「あ!やっぱりそうだったよね!前にイブキ達に飛行船をくれたお姉さん!」

「そしてその飛行船を吹っ飛ばしたアリウススクワッドですよ。全く、こんな忙しい時に何をしているんでしょうか?」

「でもセナ先輩のお手伝いしてたし、悪いことをしてるわけじゃないと思う。それにイブキ、錠前サオリさんのこと悪い人には見えなかったよ?」

「私も分かってますよ。ですが、はぁ……まあいいです。手伝ってくれると言うのなら使い潰しましょう。セナ部長のことは彼女に任せるとして、私達は私達の仕事をしましょうか」

 

(モモトークの着信音)

 

「あ、マコト先輩からだよ!もしもし、イブキだよ!」

「イブキぃ〜!そっちは大丈夫か?お手伝いは大変じゃないか?」

「うん、楽しいから大丈夫!」

「そうかそうか、イブキは偉いなぁ〜さすがだぞ!!あ、イロハご苦労。首尾はどうだ?」

「問題なく……と言いたいところですが、先ほど犯行グループの襲撃に遭いました。もう撃退しましたが」

「何!?襲撃だと!?イブキは無事か!?イブキ!!イブキぃぃーーー!!!」

「無事に決まってるじゃないですか、さっき誰と話してたって言うんですか?」

「イブキ無事だよ〜」

「ああよかった、ならいい……。して、犯行グループは撃退したか?」

「撃退しましたって言ったじゃないですか。ああそれと、捕虜を1名捕まえました。尋問も終わっています」

「報告を聞こう」

 

(かくかくしかじか)

 

「……なるほどな、バートリー夫人に血管の本。まだ分からないがオカルトや向こう側にまつわる話の可能性がある、か」

「どうしますか?マコト先輩。セナ部長とええと、救急医学部の新入りに……」

「気を使ってやらんでいい。氷室セナがバイトとして錠前サオリを雇ったことは把握済みだ」

「………セナ部長と錠前サオリに援軍を送りますか?」

「ダメだ。お前達を襲撃した犯行グループを取り逃がした以上、まだ襲撃が来る可能性がある。ゲヘナ全域に派遣した献血隊を本校に呼び戻して、今ある血液を防衛するぞ。道中の警護も考えたら援軍は風紀からも万魔殿(うちら)からも難しいな」

「そんなに警戒するほどの相手でしょうか?私達を襲撃して来た奴らも弱かったですよ?」

「獅子はわざわざネズミを狩るのに全力を出さないとはよく言うが、こと手負いと狂人なら話は別だ。何をしでかすか分からないし、何でもしてくるからな。イロハ、お前の話を聞くに、そいつらは手負いで狂人なのだろう?その上あの空が赤くなった日と同じ化け物共が控えてる可能性があると来た。なら例えネズミであっても全力を出すべきだ、私はそう判断した。異論はあるか?」

「……なら尚更、援軍を出すべきかと。そうですね、風紀委員長はどうですか?」

「温泉開発部と美食研究会、その他のチンピラ共を抑えている。1人でな。気に入らんがこんなことができるのはアイツくらいだ」

「どこもカツカツですね……自治区の広さが憎たらしい」

「ああ、だが急かすか。今ゲヘナで1番フットワークが軽いのはアイツだからな、文字通りひとっ飛びなはずだ」

「ヒナ先輩に頑張ってくれてありがとうって言わないとだね」

「キキッ!イブキは優しくて偉いなぁ!だがそんなことしなくていいぞ!空崎ヒナにはもったいないからな!」

「はぁ……まあ今後の流れは分かりました。言われた通り、私達はこれより帰還します」

「キキッ、また襲われたら最悪血は捨ててもいいからイブキの無事だけは確保するように。オーバー」

「分かってますよ、オーバー」

気だるげに通信を切るイロハ。その視界の端には献血担当の救急医学部員がすでに控えていた。片付けが終わったことを伝えに来たのだ。

イロハは無言で手を振る。救急医学部員は一礼して踵を返し、他の部員達に出発を伝えに行った。それを見送りつつ、イロハは懐から無線機を取り出して戦車隊に指示を飛ばす。マコトはああ言って遠回しに気遣っていたが、ほんの少しでもせっかく集めた血をあんな奴らに渡すわけにはいかない。面倒だがそれなりの意地がイロハにはあって、それが彼女の身体を動かしている。そしてそれは無線を通して伝播したのか、戦車隊の生徒達は普段よりもキビキビと動き、あっという間に大きな戦車で献血カーを守る隊列を組んで見せた。

「目標はゲヘナ学園本校舎!みんな準備はオッケー?」

「……頼みましたよ。セナ部長、錠前サオリ」

「え?イロハ先輩何か言った?」

「いえ、何も。戦車隊前進!血を守りますよ!」

「ぜんし〜ん!」

力強い駆動音がオフィス街に響く。最前列の戦車の上、普段のイロハなら顔を出しているイブキを撫でながら本を読んでいるのだが、今日はイブキも本も車内に仕舞って周囲に目を光らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ゲヘナ自治区、ハイウェイ)

 

オフィス街から高級住宅街へは車で30分の距離、だがサイレンをかき鳴らして緊急車両の特権をフルに活用した結果、僅か10分で辿り着くことができた。私達はそれでも酷く遅く感じていた。

「……ああ、夕陽。もうそんな時間でしたか」

不意に横顔を照らしたオレンジの光にセナは顔を顰めた。あちこち駆け回って時間はすっかり進んでいたらしく、荘厳なゲヘナ式建築様式の街並みには灯りがつき始めていた。もうすぐ夜になる、それまでに終わらせられるだろうか。

「……ここまでずっと後手に回され続けましたね。その結果チナツとイオリさんを死地に飛び込ませてしまった。もっと……もっといい選択はあったのでは?……どうしてもそう考えてしまいます」

「言ったはずだ、たらればは無しだと。ここで挫けていたら本当にどうしようもなくなる」

「……分かっています。言ってみただけです」

表情から読み取りにくいが、セナもだいぶ参っているようだ。昨日の襲撃……いや、1週間前の売血調査から彼女とこの事件の関わりは始まった。それはセナの言った通り後手に回り続ける戦いだった。掴めない足取りに襲撃、便利屋の手術ができなくなるほどの被害が出てしまったことを気にしていたな。今日の今までの調査でかなり進展したが……それでも間に合わずにチナツとイオリをバートリー邸に送り込んでしまったと思っているのだろう。どうしてもそう思ってしまって止まらない……それが今の氷室セナ、と言ったところか。

「……氷室セナ」

「……?どうしました?錠前サオリさん」

「今日の私の仕事はお前の手伝いだ。お前の役に立てるよう、色々準備して来た」

「……ありがとうございます。今日は色々していただけて助かりました」

「礼はまだ早いだろう、まだ終わってないんだからな。それで、この後に役に立ちそうな物……例えばベルトいっぱいの手榴弾がある」

「…………」

「ブービートラップ作り放題だ。あと弾薬も多めに持って来た。これだけあれば大抵の相手には負けないつもりだ。だから、つまりだな……抵抗するようなら痛め付けてやる。念入りに、お前の気が済むくらいに」

「……それ、救急医学部員に言いますか?」

「救急医学部員だから言うんだ。代わりにやってやるとな」

「代わりに、ですか。……いえ、それは自分でもできます」

「本当か?救急医学部員だろう?」

「救急医学部員ですが、ゲヘナの生徒でもありますから」

ハンドルを握る手が引き締まる。上手いこと自己嫌悪が怒りに変わってくれたな。それでいい。下を向かず、前を見れるようになるなら、怒りを原動力にしたっていいと私は思うんだ。それにお前が悪いことなんて何1つないんだ。悪いことをした奴が悪いのだから。

「チナツとイオリさんの安全が優先ですし、錠前サオリさんが病み上がりであることも忘れてはいけません。ですが……そうですね。少しくらい私情を挟んでも許されるでしょう。散々振り回されたのですから……」

「ああ、いいと思うぞ。こう言う時は派手にやろう。きっとそれでいいんだ」

「そうですね………ありがとうございます、錠前サオリさん。少しだけ、気が紛れました」

そう言ってセナはアクセルをぐんと踏み付けた。車速が上がる。法定速度なんてとっくに超えているが、気持ちもっと早くなった気がする。よかった、これでセナは大丈夫だな。あとは風紀委員の2人と合流し、バートリー夫人を捕まえるだけだ。

私はサイレンとエンジンの音を聞き流しながら装備の最終点検を始めた。先ほど言ったベルトいっぱいの手榴弾、鞭のように叩きつけて爆発させることで大きなダメージを与えることができる。前にミカと戦った時は擦り傷をつけることができたから、一般人相手なら威力は十分だろう。その他の武装も異常無し。よほどのことがない限り仕留められるな、よし。

そんなことを考えていると高級住宅街に近づいたようで、緊急車両11号がハイウェイを降りた。下道を通る車達は道を開け、私達はそこを突っ切って行く。ここまでの道中にやはりゲヘナと言うべきか、サイレンを無視する遵法意識のない車もいたが気にせず跳ね飛ばし、私達はバートリー邸に辿り着いた。

高級住宅街なだけあってとても大きなゲヘナ風建築様式の屋敷で、しかし窓は閉め切られ電灯も消えているせいか他の家より薄暗く感じる。……いや、それだけじゃないな。壁や庭の生垣など、十分に手入れされているように見えない。

 

『血管の本……赤き姫君の、物語のような美しさを得るには浴びるほどの血が必要なのだと……売血や、私達の血では足りない。だから襲ったのです。ああ、あと2人、あと2人分の……人間の血、足りないから……』

 

「………自分たちの血を搾るのに忙しくて、本業は疎かにしていたらしい」

「少なくとも1週間の間は売血で血を集めつつ、使用人やCEOからも搾っていたのでしょう。黄疸になるまで集めて、それでも足りないなんて言い出して、今回の襲撃と言ったところでしょうか……」

 

『ぷはっ!!痒い痒い痒い!!ああっ!』

『全身の痒み……黄疸の症状自体は出てるのですね。まあいいでしょう話を聞かせてください』

『血を……血を妻に集めないといけないんだ!!離せ!!離せ!!』

『その理由をお聞かせください。どうしてこのようなことを?』

『血いいいいいいいい!!血いいいいいいいい!!痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒い!!』

『………………』

 

「……急いでいたのでちゃんと診てはいませんが、あれは間違いなく黄疸の症状の1つ。それが出ているのに襲撃をさせていたのですね、バートリー夫人は」

「犯行グループ……いや、この屋敷の使用人達は今も黄疸に苦しんでいるのかも知れない。殴る理由が1つ増えたな」

「ええ」

門をくぐり、庭を抜け、入り口の両開きの扉の前に立つ。荘厳な作りだが埃が目立つ扉の隣にインターフォン。ボタンを押すが反応はなかった。

……周囲は、扉の向こうは、酷く静かだ。

「……氷室セナ、行儀が悪いのは嫌か?」

そう問いかけながら私は1歩下がり、足首を回して柔軟をする。

「……あまり好みませんが、今の私は気が立っています」

そう言ってセナも1歩下がり、つま先で地面を叩いて整えた。

「……そうか」

「………………」

視線を交わし、扉に向き直る。そして同時に足を持ち上げ、木製の扉に激突させる。

 

(力任せな破壊音)

 

吹き飛んだ扉が両方とも室内にかっ飛んで、破片が地面を転がった。静かな屋敷にその音が響いた。広がる視界、しかし薄暗い上に充満している血の匂いが私達を出迎える。だが構うものか。私は大きく息を吸い、アサルトライフルを構えながら屋敷に足を踏み入れた。




幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)

6.ある横断歩道

立ち寄った時のバイト:チラシ配り
説明:繁華街の外れにある横断歩道。楽しんだ帰りの市民達がよく通る。赤い服を着た生徒がチラシを求めてやってくる。

コメント:久々に立ち寄ると、事故で破壊された電柱は綺麗に直され、昼間は人通りもそこそこあった。夜には行くつもりはない、アレに遭いたくないからな。
………放課後スイーツ部がまたあそこの近くのスイーツショップに行きたいと言っていたが、絶対に近寄るなと言い含めておく。まああの子らも痛い目を見たんだ、大丈夫だろう。
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