あとものすごく今更ですがブルーアーカイブの設定に独自解釈があります。
瞬間、視界が血管の赤から弾幕の濃い紫に塗り潰された。轟くマシンガンの銃声、上からだ。見上げると浴室の天井にポッカリと穴が空いており、そこから弾幕は降り注いでいたらしい。そしてその穴から今、夕陽を纏い、1人の生徒が舞い降りた。
コウモリのような形の黒くて大きな羽根、小柄な体躯を包み込むほどの長さがあるモップのような銀髪、抱え込むマシンガンは大きく、頭上に鎮座するヘイローは紫色に輝いている。ああ、私は彼女を知っている。戦った時のことを、本当に強かったことを覚えている……!
「風紀委員長……空崎ヒナ!?」
「あなたがバートリー夫人?聞いてた情報と容姿が違うみたいだけど……」
「容姿ぃぃ????私の……わだぐじのよゔじがなんだっでいゔのでずが!?!!!??ぶざいぐだどでも!??あなだのぼゔがぶざいぐでじょゔ!!!!!!!!!!」
顔を両手で覆い、爪を刺し、肉をこそぎ落とし始めたバートリー夫人。余程今の顔が気に入らないようで血か涙か分からない液体を目元から吹き出させている。そんな彼女の激情が反映されているかのように血管の本は脈動し、無数の血管を吐き出し、ヒナに進撃した。
「はぁ……まあいいわ」
溜め息1つ吐き出して、ヒナは跳躍……いや、飛翔する。広い浴室内を、その小さな身体と大きな翼で縦横無尽に駆け巡り、血管共を翻弄した。バートリー夫人は負けじと血管を召喚し、追跡させているがまるで捉えられていない。最終的に闇雲に血管を振り回して壁や床を破壊し出したが、それさえもヒナは回避し、バートリー夫人の眼前に着地した。
「血管の本。それが危険なものなんだっけ……離して」
鞭のようにしならせた羽根がバートリー夫人の手のひらを弾いた。衝撃と痛みに耐えられずバートリー夫人は悲鳴を上げ、手を離してしまった。そうして血管の本は放り投げられ、血の風呂の中に沈んでいく。
「ごのっ!!ごじゃぐな!!」
怒り任せで振り下ろされるバートリー夫人の腕。風を切る音が暴力的過ぎる、拳圧が血の水面を弾けさせたのを見て息を呑んだ。だが闇雲で乱暴なだけで、今更そんなものに当たるヒナではなく、簡単に回避したかと思うとその腕を掴んで逆上がりをして見せた。そして身体が宙に浮いたと同時にその勢いと腕力と重力を使ってバートリー夫人を投げ飛ばした。とんでもない速度でバートリー夫人は壁に激突し、潰れたカエルのような吐息を吐いて膝をつく。あまりにも異次元なヒナの動きに、私は戦慄すら覚えたのだった。
「さ、さすがだな……」
「ええ、ヒナは強いですから。それに今は怒っているみたいですし」
「怒ってる?」
(飛翔音)
「セナ、錠前サオリ、無事?」
「ッ!?」
瞬く間にこちらまで飛び退いてきたヒナ。その俊敏さにも驚いたがそれ以上に、私の存在がヒナにバレている……!?
「わ、私は救急医学部の新入りで……!」
「分かってるからいいわ、あなたに敵意はない。それより無事?まだ動ける?」
純粋に心配している眼差し。顔色にも確かに敵意はなく……こんな表情を向けられるとは思っても見なかった。
「いいのか?その、私は……」
「何度も言わせないで。分かってるから……いいの」
「……そうか」
力が入らず、何なら痺れを感じ始めた腕を動かし、帽子の鍔を下げて目元を隠した。今日この日まで、私が彼女をどれだけ苦しめたか想像もつかない。エデン条約調印式で重ねた罪……その上私はヒナとセナの目の前で先生を撃ったんだ。本当に危ないところだったと聞いている。なのに再会した2人は引き金を引くどころか、こうして私を気遣ってくれた。
……私はこの2人のことをまだ何も知らない。他人同士、本当に思っていることなんてものは理解することができないかも知れない。もしかしたら本当は私への恨み辛みで心が塗り潰されているのかも知れない。どうなのか、私には推し量ることなんてできない。だがセナが私にくれたウィンウィンゼリーは、ヒナが私にかけた眼差しは、確かに信じられるもののように思えた。そのことが嬉しく、申し訳なく、様々な気持ちが込み上げてきて目頭が熱くなったのだ。
全くこんな逼迫した状況なのに私は何をやっているのだろう?……いや、こんな状況だからかも知れないな。ずっと気を張って、駆け回って、戦っていたんだ。それで優しくされて、こう……安心できたのかも知れない。
「サオリさん」
不意に肩を叩かれる。セナだ。私の顔を覗き込んで微笑んでいる。血色の悪い、ボロボロな顔だ。いや、それは私も同じだろうな。そう思って笑い返す。そしてヒナに向き直った。
「ヒナ、チナツとイオリさん、サオリさん、そして私はバートリー夫人に血を致死量ギリギリまで搾られてしまいました。その上戦闘での損傷と疲労があります。全員死体と言って差し支えありません」
「患者ね?」
「ああそうだ患者だ、差し支えある。……だから空崎ヒナ、悪いが守ってほしい」
「………分かった。私の後ろに隠れてて」
そう言ってヒナは私達を守り包み込むかのように巨大な羽根を広げ、マシンガンを構え、銃口をバートリー夫人へと向けた。対するバートリー夫人はよろよろと立ち上がったかと思うと、唸り声を上げながら自らの顔を掻きむしり始めた。せっかくの美貌が鋭い爪のせいでどんどんダメになっていく。奴が信仰していた赤き姫君そのものだと言っていた癖に、それほどまでに気に入らないのか。こだわりが病的に強いんだな、恐ろしい……。
「ああ……ああ!!いだい!がゆい!!でもぶざいぐになんでなりだぐない!!ぢをぉぉお……!ぢをよごじなざい!!もういぢどぎじぎをおおおおおゔゔゔ!!!!」
激情のままにバートリー夫人は走り出し、爪を振り上げて私達に襲い掛かってくる。狂気に陥った人間の威圧感に私は一瞬怯んだ。しかしヒナは動じることなく相対し、ヘイローを煌々と輝せ、引き金を引いた。
(銃声、終幕:イシュ・ボシェテ)
バートリー夫人は紫の弾幕を正面から浴びることとなる。しかし儀式で手に入れたであろう異常なタフネスで持ち堪えた。腕を十字に組んで弾幕を防ぎながら、1歩ずつ近づいてきた。
「ごのっ!!おろがものが!!ごのわだぐじにざがらゔのでずが!?ごのわだぐじにいいいいいいいいいい!!!」
「この私?……どの私だと言うの?」
(銃声、終幕:イシュ・ボシェテLv2)
「あなたがどれだけ偉くて凄いワタクシ様なのか分からないけど、私にとってあなたはただの規則違反者」
(銃声、終幕:イシュ・ボシェテLv3)
「ゲヘナに混乱をもたらし、たくさんの人を苦しめ……私の仲間を傷つけた」
(銃声、終幕:イシュ・ボシェテLv4)
「だから………私はあなたを止めるわ」
(銃声、終幕:イシュ・ボシェテLvMAX)
ヒナのヘイローが段々と輝きを増し、高速で回転する。同時に弾幕はその密度を増していき、最終的には総弾数や質量を超越した神秘の猛吹雪となってバートリー夫人を押し流した。
「ああああああっっ!!がああああああああああああああああああ!!!!」
その勢いに押され、踏ん張れなくなり、吹き飛ばされ、バートリー夫人は再度壁に叩き付けられる。今度は膝を突くこともなく倒れ伏し、血の風呂の中でぷかぷかと浮いて動かなくなった。
「勝利よ。……さて、2人とも立てる?」
「ああ、どうにかな……ゔっ」
「サオリさん、無理はなさらないでください。……かく言う私も辛いですね」
「分かった、それじゃあ助けを待ちましょう。……ごめん、外にセナの車があるのは分かってるけど、私免許持ってなくて」
「代わりに戦ってくれただけでお釣りが来るくらいさ……。感謝する、空崎ヒナ」
「……間に合ってよかったわ」
そう言ってヒナは私に手を差し出してきた。イオリを背負い直し、その手を受け取る。どうにか立ち上がった横でセナもチナツを背負って立ち上がった。さあ、待つにしてもこんな不衛生な所は早く出よう。全員考えは同じだったようで、互いに支え合いながら脱衣所へ向かおうとしたのだった。
(ちゃぽん)
ええい今度は何だ!?背後からその音が聞こえた瞬間、私達は一斉に振り返り、武器を構えた。すぐにバートリー夫人を見やる、だがおかしい。音はしたはずなのに、バートリー夫人が動いた様子はないのだ。
「……天井の瓦礫が落ちただけでしょうか?」
「いや、違うと思う………ん?ッ!?アレだ!!」
私は目を凝らした果てに見つけたものを指差した。血管の本だ。先ほどヒナにはたき落とされ、血の風呂に沈んでいた血管の本がひとりでに動いていたのだ。表紙から血管を伸ばし、それを昆虫の足のように使って立ち上がっていたのだ。
「な、何だアレは……!?」
「あの本………今度は何をするつもりかしら?」
呆然半分警戒半分で様子を伺っていると、血管の本は細足でアメンボのように血の風呂の上に浮かび、軽やかにバートリー夫人へと近づいた。そして彼女の身体を細足で突いたかと思うと、その足を長く伸ばして巻き付き、締め上げ、持ち上げた。
「ぐゔゔゔゔっ!!?あああああああああああああああ!!!」
酷く痛むようで、せっかく気絶していたバートリー夫人の意識が戻り、そして悲鳴と呻き声を上げ始めた。血管の本はそんなこと気にせずにバートリー夫人の肌へ血管を這わせていく。どうやらその先端はバートリー夫人の口の中を目的地にしているようだ、どんどん這い寄り、悲鳴が上がった。
「あ、ああ!ぞごなわれる!!わだぐじがぞごなわれでっ、いっ、いや……!だ、だずげでぐだざい…………!!」
抵抗する力などすでに残っておらず、バートリー夫人は涙と嗚咽と唾液を撒き散らしながら、震えて力のない腕をこちらへと伸ばしてきた。瞬間、眼前で風が爆発する。ヒナがバートリー夫人に向かって、力一杯飛翔した。ヒナはバートリー夫人を助けようとしているのだ。
「空崎ヒナ!!」
「バートリー夫人!手を!!」
「ゔゔゔっ!!!」
ヒナがバートリー夫人の手に届くまであと少し………瞬間、血管の本から人間の腕ほどの血管が伸び、それが近づいてくるヒナを捉え振り下ろされた。直撃したヒナは吹き飛ばされ、タイル床に叩きつけられ、私達の目の前まで滑ってきた。
「ヒナさん!」
「おい、無事か!?」
「大丈……くっ」
どうやら羽根を痛めたらしく、怪我をした箇所を手のひらで押さえていた。彼女の機動力が損なわれたのは痛いが、命に別状がないなら何よりだ。それにしても、バートリー夫人はどうなった?これからどうなるんだ?恐ろしい疑問を胸に私は改めてバートリー夫人の姿を見やった。
「やめっ、やめでぐだざい……!!あがぎびめぎみッ!わだぐじばあなだになりだぐなんがないでずッッ……ああっ!!!」
遂に血管の先端が口に辿り着いた。口の中に入り込んだ。喉に詰まり、嗚咽に負けず、バートリー夫人の体内を進み、彼女を損なっていく。身体をビクビクと跳ね上げさせるその様は筆舌に尽くし難く、私は何もできずにいた。………すると、
「おやめぐだざっ、いいだぐ、ない……おぼっ、ごっ……ゔぶ、ゔゔ………ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶっっ!!しっ、主(しゅ)よ!!来たれェ!!!」
……その言葉を、バートリー夫人が最後に言った言葉を聞いた私は先生の顔が思い浮かんだ。どうしてだろう?分からないが、ともかくバートリー夫人は雄叫びを吐き散らした後、急に静かになった。血管も拘束を解き、血管の本へと戻っていく。最終的に全ての血管を取り込んだ血管の本はその場に落ちた。解放されたバートリー夫人はふわりと着地し、顔を伏せつつもこちらへと身体を向けた。
…………何か、おかしい。
「……まだ、何かするつもりでしょうか?」
「分からない。だが、様子がおかしすぎる。違和感がすごいと言うか……バートリー夫人、だよな?」
「サオリさん?私にはそう見えますが……?」
言語化できない不安と違和感を口にするが、セナはそう感じなかったようで理解はされなかった。いや、私も自分の感情なのに理解できていないのだが、とにかくアレがバートリー夫人には見えないのだ。姿は変わっていないしさっきまでバートリー夫人と認識できていた。なのにあの叫びを上げた瞬間バートリー夫人がバートリー夫人じゃなくなったように感じたのだ。まるで彼女の全てが損なわれたかのような……。
(金属音)
「あなたは誰!?」
「ヒナ!?どうしたんですか!?」
「あなたはバートリー夫人じゃない!誰!?何をした!?何をするつもり!?」
違和感の答えを探していると、急にヒナが音を立ててマシンガンを構え、バートリー夫人に向かって吼えた。どうやらヒナは私以上に違和感を感じたらしい。それが良くないものだと言う確信もあって、だから先ほど助けようとした人に銃口を向けている。今すぐにでも引き金を引いてやろうと殺気立っている。
「セナ!錠前サオリ!私の後ろに隠れて!……早く!」
何も分からないまま急かされ、だがそうしなければならないことは理解したので私達はすぐに1歩下がった。ヒナはすぐに、私達を庇うように大きな羽根を広げる。
「実力行使で行く。最初から、全力で……!!」
(銃声、終幕:イシュ・ボシェテLvMAX)
反動がヒナの身体を経由して地面を揺らし、銃弾の衝撃波が大気を震わせる。先ほどと同じ超弾幕だ、それを真正面から浴びせる。やがて弾幕が全て吐き出され、静寂が戻る。私達は無言で前方を凝視した。紫の弾光に塗り潰されていた視界が開け、バートリー夫人の姿が顕になる。
「ッ!?嘘……!?」
ヒナの渾身の弾幕を喰らったはずなのに、バートリー夫人は不動を貫いていた。さっきは吹き飛ばされたのに、別に踏ん張っていたわけでもない……何ならダラっとした立ち方のはずなのに、ヒナの弾幕を受け切ってしまったのだ。
「だが傷付いてる、血を流している!それなら倒せるはず……ん?何を?」
不意にバートリー夫人は顔を上げ、頬に付いた擦り傷を指で触れた。そして手のひら覆い隠し、拭った。すると頬の傷が完全に消え去っていた。アレは……再生したのか?続けてバートリー夫人は、埃でも落とすかのように身体についた傷を手のひらで払った。するとそこにあった傷も、ヒナが付けた傷も私が付けた傷も全てなかったかのように消え去った。これまでの戦闘が、全て無駄になってしまった。
「ッッ!!だったらもう1度!!」
ヒナがまた弾幕を張ろうとした瞬間、ようやっとバートリー夫人が目を開いた。宝石、白い宇宙に瞬く2つ星の如き赤色の瞳。それを見て私は確信した。ああ、その輝きの奥に居るのはバートリー夫人じゃない。もっと偉大で、崇高な別の何かだ。バートリー夫人は損なわれてしまったのだ。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎………⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
その言葉は、視線は、神威は、確かな重圧を持って私達に降り注ぐ。私もセナも無意識に頭を垂れていた。跪いていた。恐怖と絶望しか感じなかった。たくさんの者達の血をかき集めた風呂と言う冒涜的な光景の中に畏れるべき姫君が居る。ああそうだ、アレこそが血管の本に描かれた赤き姫君なんだ。私達よりも向こう側の、大いなる崇高……!!
「舐めッ……ないで!!」
絞り出すような、それでいて力強い声。私達の眼前で、頭を下げこそすれ跪かなかったヒナだ。重圧を跳ね除けて立ち直り、銃口を赤き姫君に向けた。
「動かないで!止まって!これ以上、人を傷つけようとしないで!!」
「………………」
必死の咆哮に、赤き姫君は無言で返す。そして拒否、否定、不敬を糾弾する意思を示すかのように1歩、また1歩と歩き始めた。
「来ないで!」
「………………」
ヒナが叫び続けてもその歩みは止まらない。さらにかの者が歩くたびに足元の血が文字通り湧き立ち、彫刻のような足を伝って身体にまとわりつき、彼女の裸体を包み込む赤いスレンダーラインのドレスとなった。さらにその時上昇していく血に乗って血管の本も彼女の身体を伝い、手元へと戻っていった。
「ッ!覚悟して……!」
(銃声)
威嚇か、あるいはうまく引き金を引けなかったか。ヒナは1発だけ発砲した。その弾丸は少しズレて飛び、赤き姫君の頬を撫でて傷をつけた。赤き姫君はすぐに頬を手で撫で、傷を消し去る。その手に僅かな血だけが残る。すると手に付いていた血が動き出し、手を離れ、浮上し、赤き姫君の頭上に集まり出した。血液達は結集し、形を変えて円形になる。それは私達にとって当たり前の存在であるヘイローになった。ただのヘイローじゃない。非常にハッキリとした、まるで王冠のような威厳と存在感を放つヘイローになったのだ。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎………⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
血管の本を捲り、読み上げ始める赤き姫君。瞬間、ヒナが踵を返し、私とセナを抱き寄せた。その顔は血を搾られた私達と同じくらい真っ青になっている。
「ダメ!!一旦引こう!!掴まって!!」
頷き、震える身体をどうにか動かしてヒナに抱き付く。背中のイオリを落とさないようにこちらもしっかりと掴む。セナも同じようにした所で、ヒナは一気に飛翔した。傷ついた羽根をフィジカルで無理矢理動かし、先ほど開けた天井の穴を潜り、夕空へと飛び上がった。
「⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
飛び立つ寸前、私は赤き姫君と目が合った。輝いているがその奥は深い混沌で、心理なんて見通せない悍ましい瞳。それが目の前にいて、見つめられている絶体絶命の状況。なのに私は血を搾られたせいかボーっとしてしまい、ヒナにしがみつきながら先生のことを思い出していた。
『せ、先生。これは……。マズい、逃げないと……!』
『……どうやら、反則みたいだね』
『先生……?』
『出さないで終わらせたかったけど……』
『(大人のカードを取り出す)』
『________主よ、来たれ』
ああ、思い出した。あの時先生も、同じ祝詞を唱えていたな。
幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)
9.井戸の神の神社
立ち寄った時のバイト:デバッガー
説明:住宅地の中にある小さな神社。近所の住民達が共同で管理しているそうだ。
コメント:あれ以来行っていないが、住民達は元気でやっているだろうか。ふと彼女らの温かさを、風の優しさを、井戸水の心地いい冷たさを思い出す時がある。やりたいことを見つけることができたら、また井戸の神に報告をしようと思う。