遅くなってしまい申し訳ありません、お待たせしました。資格試験いい感じでした、結果が楽しみです。ぴーすぴーす。
「________墜落する!衝撃に備えて!」
そう言ってヒナは身体を反転させ、彼女の羽根が先に地面に落ちるようにした。ハッと我に帰りヒナを見た。顔は歪み、額には汗。羽根の負傷は私が想像していたよりも辛いものらしい。それを無理矢理動かしていて、しかし今更労わる必要なんてないと思ったのだろうか。ヒナは羽根を完全に犠牲にして不時着することにしたようだ。セナが不服そうな顔をしているがそれどころじゃない、もうすぐ地上に到達する。私は頭を守るためになるべく引っ込め、イオリが吹っ飛んでいかないよう腕をしっかりと掴んだ。
(地面に激突し滑走する音、骨が折れる音)
「がっ!ゔゔっ……!」
バートリー邸の正門前、荒れた庭園に墜落した私達。瞬間、私達の下敷きになったヒナが目を見開き、唸り声を噛み潰す。私達はすぐにヒナの上からどいて、容態を確認する。血管に弾き飛ばされた時に押さえていた箇所の骨が折れていた。痛めていた所に無理矢理の飛翔と落下の衝撃が入り、限界に達したのだろう。
「羽根用の添え木が車にあります、急ぎましょう」
「ああ。空崎ヒナ、立てるか?支えてやる」
「ありがとう……でも急いで逃げなきゃ、最悪私を置いてってくれて……構わないから」
私に肩を支えられて立ち上がりつつ、そんなこと口走ったヒナ。それ聞いたセナは眉をさらに吊り上げる。そして反対側の肩を支え……いや、掴んだ。そして思いっきり持ち上げた。
「あっっ!?ったぁぁ………!セナ!?いつもより雑じゃないの!?」
いつもこうなのか?
「助けてくれてありがとうございます、ヒナ。ですが少しは自分の身を慮ってください」
説得力……いや、まあいい。余計なことは喋らないでおこう。とにかく、どうにか浴室から逃げ切れた私達は、屋敷の外に停めた緊急車両11号に向かい始める。全員ズタボロで足取りは遅いが、奴が……赤き姫君が仮に私達を追って来るとしても、浴室から屋敷の外に出てくる前には間に合うだろう。
「それでどうする?空崎ヒナ……お前でも無理なのか?」
「ええ。悪いけど、私1人だと対処できない。見た目はただの人間だけど、あれはたくさんの生徒が束にならないと勝てない相手。あの威圧感……そんな気がする」
「……総力戦、ですか」
空が赤くなったあの日や、たまにシャーレから召集される時のことを思い出す。キヴォトスの各地で出現する、デカグラマトンや木の人形が産み出した作品達、水着の七囚人、ファウストとアズサが好いている白いカバの親玉みたいな奴、その他の巨大なあれやこれ……。それらを討伐するために、各校の垣根を越えて部隊が組まれて出撃することがある。それが総力戦だ。クソ、そうしないといけないレベルの相手ということか……!
「実は今、風紀委員会も万魔殿の戦車隊も献血を中止してゲヘナ本校に移動しているところよ。オフィス街での襲撃を受けて、マコトが全軍を集結させようとしている。そんなに時間はかからないと思う」
「丁度いい。集結したら全軍で殴り込んで、今度こそ……!」
「赤き姫君を治療します、このゲヘナの患部を……!!」
せっかくここまで辿り着き、ヒナまでやって来てくれたのに逃げ帰るのは口惜しいが、犯人は特定できたしチナツとイオリを助け出すこともできた。当初の目的はほぼ達成だ。今更焦ることもあるまい。無様に逃げ帰る悔しさをそんな思いで宥めつつひた走る。着地点が敷地の真反対だったから結構移動する羽目になったが、それを言うのは贅沢か。ともかく、屋敷の正門が見えて来た。あと少し、ここを真っ直ぐ行けば緊急車両11号に到着だ。
「……ところでヒナ。チナツとイオリさんが動けない上にあなたも万全ではありませんが、それでも風紀委員会と万魔殿が束になれば勝てるものでしょうか?」
不意にセナは問いかける。確かに、空崎ヒナは風紀委員会の戦力の半分を担っていると噂されている実力者だ。そんな彼女が負傷している上に、残り半分の風紀委員会戦力の上積みで、しっかり実力のある生徒のチナツとイオリが戦闘不能。大丈夫なのだろうか?
「そこは心配ないよ。集結しようとしているのは私達だけじゃない……遥か遠方のレッドウィンターから移動中の先生が切り札を用意してくれたから」
「「切り札?」」
足を進めながら私はセナと顔を見合わせる。切り札……シャーレから新型の銃器や爆弾でも支給されたのだろうか?いや、シャーレの施設にそんなものはなかったはずだ。一体何を……?
私達の顔にありありと浮かんでいるであろう疑問符にヒナは面白そうに笑い、そして遠くの空を見上げた。バートリー邸に入る頃に見えた夕陽はそのほとんどが夜闇に塗り潰されており、1番星が煌々と輝いている。その光を一瞥し、ヒナは答えた。
「銃器や爆弾なんかじゃない。先生が用意してくれた、先生の持つとびきりの切り札。それは……」
(破砕音)
瞬間、振り返ると屋敷の天井が吹き飛んで宙を舞い、私達の眼前に飛来してきた。あと少しで直撃だったと思うとゾッとする……だがそれ以上に恐ろしいものが屋敷から姿を見せてくれた。
血管の束だ。縄のように編み込まれた、電車くらいの太さ長さを持つ血管の束が数本、天を貫くように伸びてきたのだ。呆然と眺めていると、血管の束は空から大地へと先端を向け直し、一気に首を垂れて庭園や、屋敷や、地面に突き刺さった。何をしているんだと思ったが、どうやら血管の束は足だったらしい。血管を収縮させ、脈動させ、地を抉りながら根元を持ち上げる。すると今度は毛玉……ならぬ血管の塊が屋敷から出てきた。屋敷と同じくらいの巨体で、これの出現のせいで屋根が完全に破壊される。被った瓦礫や土煙に構わず血管の塊は3メートルくらいの高さまで持ち上げられると、大きな鼓動を1つ打ち鳴らし、構成する血管をウネウネと動かす。蛆が蠢くかのような光景に鳥肌が立った。
「う、上……!アレがいる………!」
ヒナが指差した方に目をやると、確かに血管の塊の上に赤き姫君が鎮座しているのを確認できた。……鎮座と言うのか?腹が妊婦さんのように膨れ上がり、ドレスの下半分がこちらからでも分かるくらいに張っている。私はその様を見てキノコとその苗床をイメージした。赤き姫君と言うキノコが血管の塊と言う苗床に生えている様な……いや、逆だ。血管の塊、束、大質量の全てが赤き姫君から生えているんだ。産まれ墜ちて、踏み荒らして、糧となる他者の血を搾り尽くさんとして……ああそうか。産んでいるのか。アイツが血管を…………。
「走って!!」
冒涜的な巨神の姿を目の当たりにした衝撃からいち早く立ち直ったのはセナだった。咄嗟に叫び、隣にいたヒナの手を引いて走る。私もその声が気付けになって身体の硬直が解けた。すぐに飛び退き、迫って来ていた血管を回避する。
(銃声)
瓦礫を飛び越えつつ、アサルトライフルを片手打ち。やはり精度が悪いな、だが的が大きいおかげで命中し、血管は弾けて千切れて退却してくれて……ああダメだ、すぐに新しいものがくる!何なら順番待ちしている!!
私は殿(しんがり)をこなしつつ、必死になってセナ達を追った。彼女らはいち早く駆け出せたお陰で先に辿り着いている。私も早く到達しなくては……!イオリを背負った状況で、血が足りない状態で、いつまでも回避できるわけじゃない!
「クソッ……!寄って来るな!!」
最前列の血管共に弾丸をばら撒いた。蹴散らすことはできたが、何発かが外れて通り過ぎ、赤き姫君が持つ血管の本へと飛んでいく。しめた、気を取られて時間を稼げれば……!そう思った瞬間、赤き姫君が目の色を変えて弾丸を払い除けた。その圧に私はまた動けなくなってしまった。故意ではなくても血管の本が損なわれそうになった。そのことに赤き姫君が怒っている。怒りが私に向けられる……!
『貴女達の……貴女達のような不細工が傷付けていいものではないのですよ!?この本は貴女達なんかよりもずっと価値のある本なのです!!』
セナに血管の本を攻撃されて激昂していたバートリー夫人を思い出す。睨みつけられ、足が止まる。逆鱗に触れてしまったと嫌でも理解できた。
(無音、空気の振動)
瞬間、赤き姫君が天に向かって大きく口を開けた。何も聞こえないが、彼女の喉と空気が振動している。これは……超音波?元がコウモリの獣人だから?一体何をして……?
(瓦礫が崩れる音、窓が割れる音、何かが這い出る音)
「ゔゔゔゔっっ!!があああああああああ!!!!」
泣き面に蜂と言う奴か、ここに来て新手が現れたことに頭が痛くなった。崩壊した屋敷から這い出たのは使用人達で、皆応接室で見た顔だ。それが理性を失った様子で、人が出せるとは思えない呻き声を上げながら殺到してくる。おかしい、彼らも彼らで重症なはずだろう!?
「無理矢理動かすための超音波と言うことか……!?ああもう笑えない!!」
アサルトライフルを仕舞い、全速力で駆け出す。迎撃は割りに合わなくなった、少しでも足が遅くなって、止まってしまって、組み付かれたら終わりだ。必死に奴らと距離を取った。だが血管共も絶えず迫って来る!全部は回避できない……!
(爆発音、銃声)
「サオリさん!こっちです!」
「早く来て!錠前サオリ!」
追っ手の刺すような殺気が爆発の熱に変わった。真横を弾丸が通り抜けた。真正面、先に緊急車両11号に辿り着いたセナとヒナが援護射撃をしてくれたのだ。ありがたい……!この隙になるべく距離を離す。
そして私がある程度近づいたタイミングでセナは後部ハッチを開け、マシンガンを撃ちまくるヒナの肩に手を置いた。ああ、撤退の合図か。スクワッドでもやってたな……だなんて、緊迫した状況なのに呑気な考えを頭によぎらせていると、はたと違和感。あれ?何で手を置き続けているんだ?何故力を入れた?え、持ち上げ……え?
「セナ!いいから先に乗って!私は錠前サオリの援護を……え?セナ?あっまさか!?」
「ふんっ!!」
(どんがらかっしゃーん!!)
ヒナをぶん投げただと!?おい悲鳴が聞こえて来たぞ!?患部ぶつけたんじゃないか!?
「たあっ!!」
(どんがらかっしゃーん!!)
今度はチナツを背負い投げだと!?ああ、また悲鳴が!かっ、患者をそんな、ええ……?
「サオリさん!手を!!」
「っ!?いや!いい!自分で乗る!」
「分かりました、ハッチはしっかり閉めるようお願いします!」
手を差し出されたが嫌な予感がしたので丁重に断る。案外簡単に引き下がったセナはすぐに運転席に乗ってエンジンをかけ始め、ようやっと辿り着いた私は色々な意味でホッとしつつ緊急車両11号に飛び込んだ。酷く痛そうな、だがそれ以上に不服そうな顔でひっくり返って腕を組んでいるヒナと目が合ったがすぐに逸らし、後部ハッチを閉める。
「いいぞ!出せ!」
返答は急発進、シートベルトなんてつけていないから思い切り体勢を崩した。だがこれで血管共や使用人達、赤き姫君から逃げ仰ることができ……、
(地響き、巨大な足音)
「動き出した、追って来てる!」
「ああそうだよな!!追いかけて来るよな!!」
窓越しに巨体が揺れた。太い血管の足を動かし、蜘蛛のように歩みを進める。こちらに真っ直ぐ、向かって来ている……!
「しつこいなぁ全く!!セナ!」
「分かってます!!」
赤き姫君が迫る焦りから、私は運転しているセナに声を張り上げた。すぐにセナはアクセルを思い切り踏み、車体が加速する。だが……、
「あっ、あれ……?」
「っ!?」
(激しい振動音とスリップ音)
「ど、どうしたのセナ?車ッ……!すごい揺れてるけど!?」
「力が……入らず、あ、ああ……」
発進したは良いが左右に大きく揺れる車体。すぐに運転席を……運転手のセナを見た。極限まで色が抜けた顔、見開かれているが今にも閉じそうな目、全身がピクピクと痙攣し、腕に力が入っていなくてハンドルが暴れている。ああ……そうだったな。さっき血を半分も搾られたばかりでとても動ける状態じゃなかったんだ。ここに来て、限界が来てしまったんだ……!!
「申しわっ……りま、せん」
瞬間、セナは倒れ込んでハンドルに頭突き。大きくクラクションが鳴る。前方に迫る電柱がそれで避けてくれるはずもなく、車体は真っ直ぐそれに突進してしまう。激突する!
「頭を下げろ!」
私は先ほどのヒナと同じように、自分の身体がクッションになるようにチナツとイオリ、そしてヒナを強引に抱き寄せて3人の顔を胸に押し込んだ。
その直後に衝撃が身体を襲った。3人分の体重が襲いかかり、首が揺れて頭を打ち、口から肺の中の空気が全て抜ける。声も出せずに呻き、呼吸もできなくなり、危うく意識を失いそうになった。
「ああ、……でも、もうダメだ。私も………!」
クソ、手足の感覚がない。呼吸しているはずなのに酸素が行き渡らない気がする。ああ、そもそも血が足りないから酸素が行き渡ってくれないんだな。後頭部もぶつけてしまって、視界も思考も霧がかかっているように感じる。でも3人が無事でよかった。セナは無事だろうか?チナツとイオリはまだ目を覚まさないが呼吸をしている。ヒナは私の胸から飛び起きて私に声をかけている。大丈夫かと言ってくれている……ありがたいが、その声が遠くの方から聞こえてくるように感じた。聴覚もイカれているらしい……まいったなぁ………完全にまいった…………。
(地響き、巨大な足音)
「ッ!来てる……!」
ヒナが後方を睨んだ。赤き姫君が、使用人達が追跡して来たらしい。すぐにマシンガンを抱え、迎撃の体勢を整える。だがその瞬間、また車体が揺れた。今度は左右じゃなく、上下に。
眼球だけを動かして左右の窓を見る。赤黒い粘性の管の集合体が車体を取り囲んでいるのが見えた。何て言うんだっけ?ああそうだ血管だ。赤き姫君が出す血管。それが緊急車両11号に巻き付き、持ち上げているんだ。赤き姫君はもう追いついて来て、私達を捕まえてしまったんだ。
(金属を叩く音、歪む音、破砕音)
後部ハッチが破られ、投げ捨てられる。車体が6〜70度傾き、医療器具や薬品が落ちていった。私とチナツとイオリは幸運にも固定された椅子や担架に引っかかって無事だ。セナは運転席にいるから多分大丈夫。そしてヒナはずり落ちないようにシートベルトを掴んで耐えた。問題なさそうだ。でも、後部ハッチの向こう側が大問題だ。
「赤き、姫君……!」
マシンガンをもう片方の手で構えたヒナ。その視線と銃口の先は真っ赤だった。蠢く血管の巨体と、その主たる赤き女神の髪と瞳。まるで万華鏡を覗いて遊ぶかのように緊急車両11号を天に掲げて、私達を面白そうに覗いているのだ。ヒナのマシンガンには一切怯まず、超越者然とした、無邪気で、慈悲深くもありながら慈悲がない微笑を浮かべていた。
「こ、来ないで!離して!!」
上擦った叫びと共に発砲。赤き姫君は血管の本を抱えて守り、しかし笑みを崩さずに受け入れる。リロードをしていなかった為10数発しか出ず、皮膚は裂け肉は抉れたが瞬きした瞬間に外傷は消えてなくなった。その姿にヒナは呆然として、歯を噛み合わせ、弾も出ないのに引き金を引き続け、2つの方法でカチカチと音を鳴らしていた。
「クスクス……ウフフ………」
ああ、笑い声……それは言葉じゃないから認識できるんだな。向こう側とこちら側、笑顔……喜怒哀楽なら理解ができるんだ。新発見だな。ああでも、そんなことより赤き姫君が両手を広げ、車体をゆっくりと下ろし始めている。恐怖で動けなくなったヒナを抱き寄せ……笑顔の中垣間見える犬歯で血を搾ろうとしている。何をしている、ヒナ……逃げろ………逃げろ!クソ、声が出ない、動けない…………もう、終わった。
(無線のノイズ)
「こちらアコ。ヒナ委員長、応答してください」
「?」
赤き姫君が首を傾げた。ヒナの無線から甲高い声……風紀委員会行政官の天雨アコだな。そのよく通る声の後ろはとても騒がしい。内勤の生徒達の大忙しな様が容易に想像できた。
「ゲヘナ本校に救急医学部献血隊と万魔殿戦車隊が到着しました。これよりゲヘナ本校並びに献血の防衛に入るそうです」
「あ、アコ……」
「各地の風紀委員は引き続き自治区の治安維持活動をしてもらって………って、何ですかこの報告!?高級住宅街に巨大怪獣出現!?そんなもう、先生の大好きな特撮じゃあないんですよ!全くふざけてないでちゃんと仕事してください!はぁ……ヒナ委員長。一応確認ですが、今は高級住宅街に移動されてるんですよね?何か変なものは見えますか?最寄りの風紀委員から変な報告があったのですが………」
一通り聞き終わっても、ヒナは赤き姫君から目を離すことができず、結局返事をすることはできなかった。対する赤き姫君は興味深そうに無線機を眺め、そして目を逸らして遠くの方を見つめ出した。ずっと理解できないが、急におかしな行動を始めて困惑する。一体何を考えているんだ?奴は何を見ている?その方向に何が………あっ。
『実は今、風紀委員会も万魔殿の戦車隊も献血を中止してゲヘナ本校に移動しているところよ。オフィス街での襲撃を受けて、マコトが全軍を集結させようとしている。そんなに時間はかからないと思う』
『ゲヘナ本校に救急医学部献血隊と万魔殿戦車隊が到着しました。これよりゲヘナ本校並びに献血の防衛に入るそうです』
「……ウフフ、フフ……………イイコ、イイコ」
カタコトな口調でそう言って、赤き姫君はヒナの頭を撫でる。そして私達を見回し、笑い出した。
「……っ!まさか、ゲヘナ本校を狙おうとしてッ!?」
「フフッ、アハハ……………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
赤き姫君の思惑を察してヒナは我に返った。だが遅すぎた。
「そんなことさせなッ……!!」
瞬間、緊急車両11号を持ち上げていた血管の腕が離され、私達はその足元に落下する。何度かの強い衝撃、瞳の中で花火が弾けるような感覚がして気持ち悪くなる。ヒナも倒れて悲鳴を上げた。結局まだ添え木をしていない羽根がダメな方向に折れ曲がっている。
(地響き、巨大な足音)
そうして私は、段々と遠くなるその音を見送ることしかできなかった。静かになった緊急車両11号の中で、無線越しのアコの声だけが響いていた。
幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)
10.マミーと暮らした廃墟
立ち寄った時のバイト:ゴミ収集
説明:トリニティ自治区の潜伏先の1つで、ゴミ収集のアルバイトをしていた時に利用していた。そしてマミー人形に操られていた時、家族として暮らしていた場所だ。
コメント:元々は他の家族が住んでいたらしく、その生活の跡が今も残っている。前の住民はどこに行ったのか、それは分からないが……私とマミーの家と認識していたせいでそれらが自分のものだと思ってしまう。例えばそこの壁に貼られたクレヨンの絵。あれは私が書いたものでマミーと私が手を繋いでる姿を…………いや、違う。忘れてくれ。