錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

65 / 79
すっかり週1ペースになってしまい大変申し訳ない……。気長に付き合っていただけたら嬉しいです。

なんだかんだでパート10まで続きました。これまでのバイトの中で、現時点でもぶっちぎりで長いバイトとなっております。文字数インフレ極まっているなと戦慄しております。もうすぐ終わる予定なので何卒よろしくお願いします。


救急医学部案件・売血調査.10

「________委員長?ヒナ委員長!応答願います!大丈夫ですか!?」

心配そうな声が金切り声に変わった。それが頭に刺さってすごく痛い。ああ……ええと、貧血で動けない錠前サオリだ。一応生きている……が、他の皆は?チナツとイオリは私の胸の中で苦しそうに眠っている。セナは……落下の衝撃で緊急車両11号のエンジンが停止し、駆動音も消えた。おかげで微かな呼吸音を運転席から聞き取ることができた。容体が気になるが、今は生きてるならそれでいい。

そしてヒナだが……私の目の前でへたり込み、震えながら頭を擦っていた。さっき赤き姫君に撫でられた箇所、こびりついた不快感を必死に拭い取ろうとしていた。同時に懸命に呼吸を整えようとして、だがえずいてしまいやり直し、それを繰り返している。さっきも、浴室でも、1番前に立って赤き姫君を目の当たりにしていた。その神威を1番浴びているのはヒナだ。それで精神的に削れ切っているのだろう、無理もないと思う。

………そんな風に思って心配になって、ともすれば同情なんかがこもった眼差しを向けていたのだが、私はすぐにそれを後悔することとなった。

 

(ビンタの音)

 

「ッ!ふーっ、ふーっ……!ふぅ………よし」

急に掻き毟るのをやめたかと思うと、両の手で頬を思い切り叩き、無理矢理震えを止めて深呼吸。そうしてヒナはすぐさま調子を切り替えて見せたのだ。

「だ、大丈夫なのか……?」

「はぁ、はぁ………ああ、錠前サオリ。起きていたんだ。よかった」

あまり大丈夫には見えない、辛そうな顔でこちらを振り返るヒナ。自分のことはそっちのけで私を気にかけ、歩み寄って来た。

「チナツとイオリ……ずっと守ってくれてありがとう。あなたとセナのおかげで助かった」

「いや、いいんだ……だが、お前は………?」

「折れてるとこはまだ痛いけど、慣れてきた。他に怪我したところはない、だから平気」

そう言ってヒナは、まだ意識のないチナツとイオリを順番に担架に乗せ、2人の頭を優しく撫でた。覆い被さっていた重量が無くなって楽になり、私は半身を起こす。ヒナはその手伝いもしてくれた。

「……それに、幸いにも私はまだ生きている。アレは解き放たれたけど、まだみんな死んだわけじゃない。まだ本当の最悪には行ってないわ。だったら………やるだけやってやるわ」

「………空崎ヒナ、お前は強いな」

あの神に凄まれ、撫でられ……後ろにいた私達ですら直視するのも憚れるほどの恐ろしさだった。最前線のヒナは相当怖かっただろう。挫けてもおかしくないし誰も責めない、そう思っていたのだが……彼女はそうならなかった。何とかしようと言う意思を持ち続けていた。そんな驚き、感心を自然と吐露する。するとヒナはバツが悪そうに顔を背けた。

「そんなに言われるようなことじゃない、そう言う立場と仕事なだけ。それに……」

「それに……?」

「………先生ならそう言うでしょ?」

確かに……先生なら言うだろう。そう言って諦めずに前に進むはずだ。先生はそんな人だから。……ああ、そうか、空崎ヒナ。お前も先生の生徒だものな。

「サオリさんも言ってましたよ……。同じことを……ずっと………」

不意に後ろから語りかけられ、私達は振り向いた。そこには運転席から顔を出すセナの姿があった。びっくりした、意識はないものかと……!ああだが、顔色は依然として悪い上に、先程ハンドルに突っ伏した衝撃で鼻を折ったようだ。貴重な血が鼻から爛れて痛々しい。

「セナ……!って、どう言うこと?」

「………まだ終わってないのなら、歩みを止めるな。恥ずかしながら折れそうになっていた時に、サオリさんがそう言って励ましてくれたのです。……改めて感謝します、サオリさん」

真っ直ぐに見つめられてそう言われ、今度は私が顔を背けることとなった。帽子の鍔を下ろして視線を切る。それでもセナの視線はブレなかった。

 

『……だが、それなら尚更たらればを考えるな。私達はまだ動けるんだ、終わっていない。本当の最悪に行き着く前に、少しでも状況が好転するよう、どうするかだけを考えるべきだ。歩みを止めないべきだ。そうだろう?』

 

……彼女に投げた自分の言葉を思い出す。アズサを想像して言ったのだが、なるほど確かに先生も言いそうだ。あの2人なら……。

「………錠前サオリ。あなたもすっかり、先生の生徒になったのね」

「……そうだな。そうだと思う………」

ふわりと微笑み、そんな言葉を投げかけて来たヒナ。アリウスにいた頃には思ってもみなかった変化、私もあの2人のようになれているのなら誇らしいな。誇らしいことだし……もっと近づけるよう歩き続けなければ。私はヒナに微笑み返し、帽子を被り直した。

「……私はまだ動けるぞ。セナ、お前はどうだ?」

「サオリさん、注意事項は忘れていませんか?」

「『病み上がりであることを忘れないこと』だろ、ちゃんと覚えているさ。だが……無茶をするなら今だろう?」

「感心しませんね。ですが……それなら私も動けます」

鼻血を拭いながらセナは言い切る。そして共にヒナへ力強く頷いた。

「……いいけど、無理はしないで。ダメだと思ったらすぐに逃げること。いい?」

否定も肯定もせずにいるとヒナは呆れた様子で大きく溜め息を吐き、物申したそうに睨んでくる。それでも視線を逸らさずにいると、目の色が呆れに変わった。だが何かを言うことはなかった。

「ヒナ委員長!お願いです、返事をしてください!委員長!!」

実はさっきから叫んでいたヒナの無線機。声の主の悲壮さと必死さがどんどん増している。ヒナはそれを手に取り、スイッチを入れた。

「アコ、ごめん。取り込み中だった」

「っ!!ヒナ委員長!よかった、ご無事でしたか……!」

「ううん、やられた。羽根の骨も折れちゃった」

「羽根の骨が折れたぁっ!?」

「バートリー夫人……いいえ、赤き姫君と交戦していた。さっきの巨大怪獣の報告がそれよ。巨大怪獣は実在するわ」

「巨大怪獣は実在するぅっ!?」

「ゲヘナまちなかカメラを見て、多分映ってるから」

クロノススクールが各所に設置しているライブカメラ、それを見るように指示されたアコは無言になった。そしてしばらくして、震える声で報告を上げた。

「……っ!?確認しました!高級住宅街を通過して現在は廃墟群に到達、そのまま都市部に向けて進んでいます!これが赤き姫君………!!」

「マズいな、もうそこまで……」

「あれ?委員長、誰かと一緒にいるんですか?」

「セナと錠前サオリ。2人と合流していたの。はぁ……2人も無事よ」

こちらを一瞥し、私達の全身を確認し、物凄く嫌そうな顔をしてヒナは嘘の報告をしてくれた。戦力に加えてもらえて安心したが、無理を言ってしまったな。後悔はしないが反省して肩をすくめた。

「錠前サオリぃっ!?………は、報告が上がってましたね。セナ部長に雇われたそうで」

「空崎ヒナァ!!貴様何をやっている!?」

「うわっ!?」

ああもう周知の事実なんだな。バレぬよう努めていたが……さすがゲヘナ風紀委員会と言ったところか。感心し恐れていると、無線機に一瞬ノイズが走ったと思いきや、非常にやかましい声が割り込んでくる。聞き覚えがある……ああ、思い出した。万魔殿の羽沼マコトだ。

「ちょっ、マコト議長!無線に割り込まないでください!!」

「うるさい!私が最優先だ!それよりヒナ、こちらでも巨大怪獣を確認したぞ。あれが赤き姫君で間違いないな?」

「ええ、そうよ」

「アレが出て来たと言うことは、貴様負けたのか?…………貴様が何で負けてるんだ!?」

「マコト議長!何ですかその言い方!?」

「いいのアコ、事実だから。マコト、ごめんなさい。………でもまだ私達は戦える。まだゲヘナは滅んでいない。終わりではないでしょう?」

「ギィイッ………はぁ、まあいい。それもそうだな。………さて、報告を聞こう。どうしてこうなって、これからどうするか考えるぞ」

「了解。セナ、錠前サオリ。あなた達の話も聞かせて」

要請に応じ、私達はこれまでの出来事を話した。1週間前からのスラム街での売血行為、救急医学部襲撃事件、それの首謀者たるバートリー夫人の調査とその顛末を。

「________バートリー夫人を捜査線上に引きずり出せたが銀鏡イオリと火宮チナツが戦闘不能。錠前サオリと氷室セナが眼前まで辿り着けたが痛めつけられ儀式は完遂。ヒナが殴り込んでどうにか倒せたが血管の本が暴走………いや、赤き姫君が向こう側から干渉して顕現。撤退できたはいいが羽根を骨折した上に、挙句赤き姫君は巨大な怪物となってゲヘナを蹂躙しようとしている……と。キキッ、散々だな」

「不甲斐ないが、その通りだ……」

後手に回され続け、届いたと思った手は叩き落とされ、マコトの言う通り散々な調査だったと思う。まだ終わっていない、最悪ではない。そう言ったはいいが最早最悪の一歩前だ、もう後がないところまで追い詰められたんだと、改めて状況を理解して息を飲んだ。

「……ともかく、大体状況は把握できた。風紀委員会の体たらくは後で糾弾してやるとして、アレをどうするか考えるぞ。あの巨体に、無数の動く血管、そして超再生能力。どれも厄介な特性だ。対策を考えなければ」

「巨体、ですがペロロジラほどじゃない……精々ヒエロニムス程度。無数の血管を操るけど、歩兵の火器で迎撃が可能で、超再生能力は確かに厄介だけど…………」

「アコ、どう?」

「…………そう、ですね。手元にある情報のみでの分析ですが、我が校が備蓄している爆薬を使用すれば、超再生能力を無視して跡形も無く消し飛ばせると思います」

ゴリ押しが過ぎないか?だが流石ゲヘナ学園、そんなにたくさんの爆薬を備蓄しているとは……!

「待て、行政官。今のゲヘナに爆薬なんてないぞ」

「え……?は!?どう言うことですか議長!?」

無線機からアコの顔が飛び出したように見えた、それくらいの絶叫に私達は顔を顰めた。隣で寝ているチナツとイオリも眉を吊り上げ、セナが慌てて様子を確認する。

「納得のいく説明をしてください!何がどうなってあんな量の爆薬が無くなるんですか!?あり得ないですよね!?また嫌がらせですかマコト議長!?」

「ええい今回ばかりは違うわ!!アビドスで使って、今は平時の3割しか残っておらん!」

「ああ……そうだったね。アコ、ごめん。遺産の処理」

「あっ、くっ………なるほど……」

無線電波に乗って噛み付かんばかりの剣幕だったアコが一瞬で鎮火した。その上ヒナとセナの纏う雰囲気も張り詰めたものになる。まるで今の状況よりも警戒し、恐れているかのような………。アビドス?遺産?彼女らは一体何をしたんだ……?

「なぁ、セナ……」

「サオリさん、申し訳ありませんが機密事項です。今は関係のないことですから」

「………了解した」

考えなしに触れようとしたことを後悔する。それほどに鋭く言い切られた。まぁ、確かに、その通りだ。今は赤き姫君に集中しなくては。何かいい案がないか自分でも考えてみる。

「爆破は難しい……なら弱点になりそうなものを狙うのはどうだ?」

「弱点?錠前サオリ、何か心当たりがあるのか?」

「ああ。赤き姫君は血管の本が傷つくのを嫌がっていた。バートリー夫人が赤き姫君になったのも、そもそも血を集めるに至ったのも原因はあの本だ。そして奴は本を守るような挙動もしていた………」

セナがメスを投げた時、私が発砲した時、奴は本を守って怒り狂った。その恐ろしい様を思い出しつつ推測を話した。そう、つまり………、

「あの本を破壊したら、どうにかなってくれる……と言うことでしょうか?」

同じことを思い出していたのだろうセナに頷く。あの時の私達は惜しかったのかも知れないな。

「何かしら赤き姫君にとって嫌なこと、こちらにとって都合のいいことが起きるかも知れない。……狙撃手が必要だ。ゲヘナにいないか?」

「イオリができます。ですが、動けないんですよね……?」

アコが指名したイオリは、確かにスナイパーライフルを得物としている生徒だ。動けているなら任せたかったところだが……。

「……いるわ。他にも狙撃手が」

「え?ヒナ委員長……?」

不意にヒナがそう告げる。その発言に1番驚いたのはアコだった。

「委員長、どう言うことですか?風紀委員会には狙撃手も狙撃部隊もないじゃないですか」

「言っておくが万魔殿にも狙撃部隊はないぞ。ヒナ、当てでもあるのか?」

「ええ………何なら、奴を吹き飛ばすこともできるかも知れない」

全員が驚愕し、ヒナを見る。それに見守られながらヒナは懐からスマホを取り出し、モモトークを起動した。当てとやらに連絡をするのだろうか、しかし……誰だ?エデン条約の時にゲヘナの戦力を調べて頭に入れているのだが、思い当たる生徒はいない。一体誰に……?

「空崎ヒナ貴様ァ!!そんなコネを……!この羽沼マコトに黙って戦力を隠し持っていたのか!?」

「私のコネじゃない、先生からもらったもの。先生が用意してくれた切り札」

「切り札……?」

 

『そこは心配ないよ。集結しようとしているのは私達だけじゃない……遥か遠方のレッドウィンターから移動中の先生が切り札を用意してくれたから』

 

『銃器や爆弾なんかじゃない。先生が用意してくれた、先生の持つとびきりの切り札。それは……』

 

……バートリー邸で話していた奴か!そして銃器や爆弾なんかじゃないと言うことは………。

「切り札とは、生徒か?」

「うん。私達と違って撃たれたら死んでしまう先生が、それでも立ち向かえるのは私達生徒と共に戦っているから……あなたや私、生徒達みんなとの絆が切り札だって、先生は言ってたわ」

「何だか本当に先生らしいですね……。それで委員長、先生が今回用意してくれた切り札……いえ、増援の生徒とは誰なんですか?」

「それはね、アコ……私がバートリー邸に行く前はどんな任務をしていたっけ?」

「え?確かマコト議長からの無茶振りで、単独で温泉開発部と美食研究会などを抑えろと……え?まさか!?」

ニヤリと笑って、スマホの画面を私とセナに見せるヒナ。モモトークによるビデオ通話が行われていて、画面には相手の顔と名前がハッキリと映されていた。

「ハーッハッハッハッ!まさかヒナ委員長と先生から直々に開発依頼が入るとは!さあ、準備はできているぞ!」

「普段からお世話になっているヒナさんと先生のため、そしてゲヘナの美食を守るため。微力ながらお手伝いいたしますわ」

き、鬼怒川カスミと黒舘ハルナ……!温泉開発部と美食研究会の首魁達だと!?

「その声……!いっ、いいい委員長!?そいつらが増援なんですか!?」

「私が彼女達と戦っている途中、カスミとハルナの方に先生が連絡を入れたらしいの。先生の代わりに風紀委員会を手伝ってくれって」

「その通りです、アコさん。ですから私達美食研究会と温泉開発部は、売血事件解決までの間、風紀委員会の隷下に入ることにしました」

「隷下ぁ!?」

「装備や重機を整えて、これから本校に集結する予定だったが……あのデカブツの方に集まればいいのかな?ヒナ委員長」

「待って、まだ作戦とかちゃんと決まってないから」

「ハーッハッハッハッ!何を言う!善は急げだヒナ委員長!あんな奴、すぐに行って開発してやろうじゃないか!よぉし、総員突げ……」

「カスミ?」

「ひええっ!!待ちます!!」

ぎゃいのぎゃいのと騒ぎ出すアコとカスミとハルナの通信。ヒナは困った顔で……しかし愛おしそうに画面を眺め見守っていた。そんな様子を目にした私は思わず目を丸くし、セナに顔を向ける。セナも同じように目を丸くして私を見て、そして少し笑って見せた。

「これなら大丈夫そうですね」

「ああ、そうだな」

微笑み返し、改めてヒナと無線機、モモトークの通話に向き直る。集まってくれたはいいが、どう運用するかも考えなければならないからな。

「それで、空崎ヒナ。温泉開発部と美食研究会には何をさせるんだ?」

「ハルナが狙撃手で、カスミ達温泉開発者は独自の備蓄爆薬がある。だからそれぞれにそれぞれの方法で赤き姫君に対処してもらうの」

「みっ、認めんぞ空崎ヒナァ!!貴様ら風紀委員会がこの羽沼マコトを差し置いて指揮しようなど!!」

「はぁ………分かってる。だからマコト、あなたに指揮権を譲渡するわ。これは先生から許可も貰ってるから」

「何ィ!?と、と言うことは……キキッ、キヒャヒャヒャヒャ!そうか分かったぞ先生!これもまた万魔殿とシャーレが手を組みキヴォトスを掌握するための計画の1つなのだな!!!」

「違うけど……はぁ、まあいいや。真面目にやってくれるならどうでも………」

「よし!温泉開発部は赤き姫君爆破の準備をしろ!万魔殿戦車隊でこれを援護する!美食研究会は適切な狙撃ポイントを探し出して備えておけ!風紀委員会!本校の防衛と自治区の治安維持に加え、都市部の避難を開始しろ!今から行っても間に合わないからな、都市部で迎え撃ち、ケリをつける!キキッ、いいな!」

「温泉開発部、了解だ!ハーッハッハッハッ!」

「美食研究会、了解です。さあ皆さん、参りますわよ……!」

「風紀委員会、了解。アコ、色々と任せていい?」

「分かりました、委員長!」

アコの返事を聞き終えて、ヒナは全ての通話を切った。途端に静まり返る車内。しかし通話前とは違って、重苦しい空気は取り払われていた。

「さあ、私達も行こう。温泉開発部の援護くらいならできると思うから」

そう言ってマシンガンを握り締めたヒナに、私達は力強く頷いた。

「お任せください、ヒナ」

「やるだけやってやろう、任せてくれ」

決意を新たにそう返す。そして私達は緊急車両11号を駆り、赤き姫君の下へ……温泉開発部との合流を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(衝突音)

 

「セナ!?」

「グフッ……め、目眩がして………」

「いっつつ………はぁ、まだ運転ができるほど回復していないようだな。代われ、セナ。私が運転しよう」

「申し訳ありません……サオリさん、ヒナ………」

「いいから休め。……よし、改めて出発するぞ!」

 

(衝突音)

 

「錠前サオリ!?」

「痛っ、……サオリさん、あなたも体力が残っていないようですね」

「ハァ、ハァ……気合いでどうにかできるレベルじゃないらしい………」

「……こうなったら、私が運転する!」

「ヒナ……ですがあなた、免許を持っていないじゃないですか」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。誰か隣に乗って!教わりながら運転するから!」

「……仕方ない、私が教えよう。空崎ヒナ、運転は任せたぞ」

「任せて、何とかするから。………ええと、確かこれがブレーキで……」

「あ、違うぞ空崎ヒナ。それはアクセ……」

 

(急発進音、悲鳴、衝突音)

 

「ご、ごめんなさい2人とも!大丈夫!?」

「あっぐぅっ……!!か、確認するのは、いいですけどっ、どうして思い切り踏み込んだんですか………!?」

「ぐっ、ゲホッゲホッ!………いや、サイドブレーキをかけ忘れた……私も悪い。すまなかったな………」

こ、こんな調子で果たして辿り着けるだろうか……?どうせ死た……重症人だしみんなに任せてここで休んでも………いや、私とセナはともかくヒナは羽根を負傷しただけで、まだ戦力になるはずだ。だから送り届けたいのだが、どうしたら……!

「やはり私が運転しましょう。お2人は休んでいてください……!」

「いや、私が運転しよう。意地でもお前達を、送り届けてやる……!」

「だ、大丈夫!今度こそちゃんと運転するから!大丈夫だから2人ともじっとしてて!頭から血が出てるのよ!?私のせいだけど!」

 

(ぷすっ)

 

「「「えっ?」」」

瞬間、突然現れた人影がセナの首筋に注射器を突き立てた。慌てていた私達は察知することができず、ようやっとその人影に気がついて視線を向けた。……そして全員が声を上げた。その人影の、彼女の名前を呼んだのだった。




幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)

11.ゴミ捨て小屋

立ち寄った時のバイト:ゴミ収集
説明:トリニティ自治区の一般的なゴミ捨て小屋。景観を守るために綺麗な外観をしていて、ここに付近の一般家庭からゴミが集積される。掃除のための水道も備わっている。

コメント:一泊したことのある経験から言わせてもらうと、使用後にしっかり掃除がされる上に近所の人も定期的に清掃するため臭いは全くない。人が寄りつく場所でもなく、雨風を凌げる屋根と壁があるから、短期間の潜伏ならここ以上に最適な場所はないと思う。それがトリニティ自治区のあちこちにあるんだから、エデン条約の時は本当に楽だった。
今は見回りも強化されてるらしいから、ここに潜伏するなら気をつけるべきだろう。だがそれを差し引いても未だに優位性は大きいな。トリニティ自治区、いいところだ……。

追記:この文脈でいいところだなんて言われても嬉しくないって。あと汚いからそんなところに隠れない!めっ!
ー聖園ミカ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。