錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

66 / 79
予定から大幅に遅れてしまい申し訳ありません。その分12000文字くらいになりました。やりたいことたくさんやりました。見守っていただけると嬉しいです。


救急医学部案件・売血調査.11

(ゲヘナ自治区、ハイウェイ)

 

キヴォトスは闇に包まれ、夜空には星月と魔法陣のような何かが淡く輝いている。魔法陣の中心にある、遥か遠きサンクトゥムタワーから立ち上る光の柱はここゲヘナ自治区からも目にすることができ、暗い車内からそれを眺めながら、ヒナは時々走る痛みに耐えていた。その痛みの原因は先程の骨折で、折れた後にも飛んだり跳ねたりしていたせいで患部が腫れ上がっていたのだ。消毒して、布巾で清潔にしてやり、添木を当てて包帯を巻く。セナほどじゃないが手慣れたものだろう、アリウスではよくあることだったからな。

「終わったぞ、空崎ヒナ」

「……うん、ありがとう」

この夜空から切り取ったかと思うようなコウモリの羽根が震える。手当はしたが今日は飛べないだろう。早く治ることを胸の中で祈りつつ、私は首筋を………先程ついた注射痕の仄かな痒みを撫でた。

「……ああ、ごめんなさい。フラフラしてて、綺麗に刺せなかったもので………」

「いいんだ、火宮チナツ。お前の薬のおかげで楽になったからな」

先程私とセナに注射をした彼女は担架に横たわりながら申し訳なさそうに目を伏せる。そんな彼女の……火宮チナツの不安を取り除こうと努めて笑って見せた。

それは数分前のこと、運転担当の座を巡って揉めていた私達の声と3度の不幸な自損事故の衝撃で目覚めたチナツが、携帯している治療薬を私とセナに打ち込んでくれたのだ。

「戦傷治療……それが最後の2つです……。ごめんなさい、委員長にも使いたかったのですが………」

「私はいいの。負傷も骨折だけで、それ以外は元気だから。頑張ってくれてありがとう」

「だが、セナはともかく私に使ってよかったのか?お前達のどちらかに使った方が……」

「………いいんです。私達は、もう本当に動けませんから」

そう言ってチナツは一緒の担架で眠っているイオリを抱き寄せた。真っ青な唇で、血を失ったせいで凍えているように見えるイオリ。その顔を胸に埋め、自分の少ない体温を分け与えるように、命の炎が消えないように、温めてやっていた。それは救護担当としての質なのか、チナツは今自分にできる方法で必死に救護をしようとしているのだろう。そのおかげか、イオリは目覚めこそしないが寝顔が柔らかくなった気がする。そのまま安静にしていればきっと大丈夫だろう。

「……さっきたくさん血を搾られたのです、無理もありません。あなた達が動くのは私が許しませんよ」

「…………はい……お気遣いありがとうございます、セナ部長」

運転席からセナが淡々と、だが優しい声をかけてくる。チナツの注射を受けた彼女は運転ができるほどに体調を持ち直していた。私もそうだ、薬効で治癒能力が向上し、何とか動けている。これならまだ戦える、ありがたいな。

「いや、少しでも楽になればと思って投与しましたが………2人ともどうしてそんなに動けるんですか……?血を半分も、搾られたのですよ……?」

「ん?まあ、平気ではないがそれどころでもないからな……気合いで頑張っているぞ」

「死体がたくさんあるのに倒れてなんかいられませんからね。まだまだ頑張ります。お任せください」

「………いや、根性でどうにかなってるのおかしいわよ。やっぱり寝かせておいた方がよかったかも………って、チナツ!?何で立ちあがろうとしてるの!?」

「いっ、委員長っ……私も気合いで頑張らないとって……思いまして………!」

「何してるんですかチナツ!安静にしてなさい、部長命令ですよ!」

「そうだぞ!ほら、毛布巻いてやるから!」

「あっちょっ、あぅ………」

「全く……勇猛なのは風紀委員として良いことなのかも知れないが、重症患者なら安静にしておくべきだ。救護担当なら分かっているだろう?……お前の気持ちは理解してるさ、だけど後は私達に任せてくれ。いいな?」

「サオリさんの言う通りです。それにチナツ、あなたは私の可愛い後輩ですから。あまり心配させないでください」

「あ、は、はい……分かり、ました………」

宣言通りチナツとイオリに備え付けの毛布を掛けてやり、ついでに落ち着けるよう頭を撫でてあげた。急に立ちあがろうとしたのは驚いたが落ち着いたようで、毛布とイオリの髪に顔を埋めてチナツは瞳を閉じた。ちょっと不服そうだし諦めてもいなさそうだが、体調は正直なようですぐにうたた寝のような状態になる。よし、いいぞ。そのまま安静にしてるといい………ん?何だ?空崎ヒナが物凄い顔でこちらを見ている。何と言うか、呆れられている?

「………これがアリス達が言ってた『おまいう』………まあ、いいや」

おまいう……?どう言う意味かは分からないがともかくそう呟き、スマホを操作するヒナ。モモトークの通話機能と風紀委員会・万魔殿の通信網を連結させたらしい。スピーカー越しに各地の生徒達の声が聞こえ出した。

「温泉開発部、現着!さあ急ぐぞ、奴はもうすぐ廃墟を通過するらしいからな!メグ!守りは任せた!」

「了解だよ部長!血管だか神様だか知らないけど、開発の邪魔なんてさせないんだから!」

「いいぞ〜その意気だ!全く楽しいなぁ!風紀委員会と万魔殿公認の合法開発は!ハーッハッハッハッ!」

「えへへ、そうだね部長!よーし、みんな行くよー!!」

「「「「「おー!!」」」」」

力強い重機とツルハシの音。

「美食研究会、準備がよろしくって?」

「OKです、燃料もいっぱい入れましたよ〜♧」

「うちのトラックにね!給食部のトラックに!!全く何であんたらは我が物顔で毎度毎度……!」

「ってあれ、ジュリ?ついてきちゃったの!?」

「はい、ジュンコさん!イズミ先輩に頼んで連れて来て貰いました!」

「ひゅひひゃん、ふふふひひっはほひひほひへはへはほははひひはっはんはっへ!はははわはひはふへへひは!(ジュリちゃん、宇宙に行った時に置いてかれたのが寂しかったんだって!だから私が連れて来た!)」

 

(何か粘性のものがのたうち回る音、咀嚼音)

 

「んんーっ!パンちゃんおいしー!!」

「ありがとうございます、イズミ先輩!………普段の誘拐は困っちゃいますけど、フウカ先輩が戦うなら私もお手伝いしたいんです。だから……今日は私も美食研究会です!」

「ジュリ………いや待って、私別に美食研究会になった訳じゃないんだけど?戦うって決めたわけでもないんだけど?ジュリ???」

「フフッ、美しい友情ですね。そう言うことなら乗せないわけにはいきませんわ!さあフウカさん、可愛い後輩にかっこいい所を見せましょう!」

「だああもう!分かったわよ!やりゃあいいんでしょ!?狙撃地点はどこ!?」

「都市部外れの高台ですわ」

「よし!飛ばすわよ!みんなしっかり捕まって!」

凛々しい喧騒と風を切る音。

「あなた達はだんだんシェルターに避難したくなぁ〜る……!そして万魔殿に忠誠を誓いたくなぁ〜る……!」

「さすがですサツキ先輩!催眠術はアレだけど避難順調に進んでますね!」

「ここはあらかた片付いたわね。次はスラム街よ!彼らも立派な有権者、ゲヘナの市民だから助けないと!」

「お〜い!万魔殿のコイン振ってるお姉さ〜ん!」

「あら、確かあなた達はキラキラ部……?何してるのよ、あなた達も早く避難しなさい」

「ううん。先生から連絡があったんだ、手伝ってくれって。だから避難誘導を手伝いに来たよ」

「ヒナっちも頑張ってるって先生言ってたから、私達も少しくらいやってやろうじゃんってね!」

「フフッ、そうだねキララちゃん。そんなに強いわけじゃないけど、これくらいなら」

「心強いですね!ああ、それじゃあ記念に1枚。はい、チーズ!」

楽しそうな避難誘導とシャッター音。

「各地の風紀委員より入電、避難誘導と治安維持は上手くいっているようですね。早く片付けて、委員長をサポートしないと……!」

「イブキいいいいいいいいいいいいい!!!」

「うるさっ!ちょっとマコト議長!通信に割り込まないでって言ってるじゃないですか!」

「黙れ行政官!そんなことよりイブキを探せ!作戦本部の私の所まで来いと言ったのに一向に来ないんだ……!やはり、このマコト様自ら出迎えるべきだったか……!」

「イブキちゃんが……!?さ、探します!!」

「はぁ……その必要はありませんよ。イブキなら私と一緒に虎丸の中です」

「なっ……!?どう言うことだイロハぁ!?イブキを危険な最前線に送り込むつもりか!?」

「ごめんなさいマコト先輩、イブキがお願いしたの。みんな頑張ってるから、イブキもみんなのお手伝いがしたいなって、一緒に戦いたいなって、だからイロハ先輩と一緒にいるね!」

「イブキ……!心配だが……立派になって………!!ギィィ、頑張れ……頑張れイブキいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「うるさっ。……まあそう言うことなら、気をつけてくださいねイロハさん」

「うるさっ。……ええ、イブキは死んでも守ります」

「いってきまーす!戦車隊ぜんしーん!!」

明るく元気な号令とエンジン音。

「………どこもうまくやっているみたいだな」

「うん。そしてもうすぐ………」

私とヒナは同時に窓の外を見た。街を見下ろすハイウェイの車道。その下は廃墟が広がっており、そこに進撃する赤き姫君が見える。もうすぐ都市部に到達する。それだけなら地獄のような光景だが、見えるのはそれだけじゃない。都市部でビルや建物を破壊して開発を進めている温泉開発部の姿も見えているのだ。

……いやどっちにしろ地獄のような光景だな。だがその蛮行が今は頼もしい。

「こちらメグ!こちらメグ!ヒナ委員長、状況は見えてる!?」

「ええ、見えてる。あと少しで赤き姫君が都市部に入るわ」

「こっちも捕捉したよ!だから急ピッチで開発中!それでね、ヒナ委員長は温泉開発部を手伝ってくれるんだよね?」

「ええ、何をしたらいい?手負いだから何でもできるわけじゃないけど、力になるわ」

「うん!そして救急車を乗り回してる!だよね?」

「の、乗り回してはいないけど……ええ、救急車に乗ってる」

「オッケー!じゃあ誘導お願い!進行ルートから少しズレた場所で開発してるからさ、アイツを私達のところまで連れて来て!」

「…………誘導、ね」

不意にヒナが私とセナへ顔を向けた。マシンガンを小脇に抱えた。私達への最終確認だろう、やめるなら今だと訴え掛けてきている。だが散々確認した後だから、どうせ答えは決まってるのだろうと言いたげでもあった。……フフッ、その通りだな。

私は微笑み、アサルトライフルをリロードする。セナは運転席からサムズアップをして見せる。それらを見て、ヒナはスマホに返事をした。

「問題ない、任せて」

「ありがとー!でも無理そうならすぐに逃げてね!気をつけて!」

乱雑に通信が切られる。ヒナはスマホを懐に戻し、席にしがみついた。私は自分と寝ている2人が振り落とされぬよう、担架に抱き付く。

「「セナ!飛ばせ!(して!)」」

「了解」

ハンドルが真横に切られる。直進していた緊急車両11号は廃墟へと顔を向け、コンクリート製の道路横の壁に激突、破壊。そのまま地上2〜30メートルくらいのハイウェイ道から飛び降りた。

「これが1番早いので。対ショック姿勢をお願いします」

「「とっくに対ショック!!!」」

緊急車両11号は程なくして地表……ではなく近くのビルの屋上に着地する。そして間髪入れずに加速し、また別の屋上へ飛び移った。それを数回繰り返して段々と高度を下げ、無事にヒビ割れた車道に着地する。何かが割れる音や溢れる音が響き盛大にぐちゃぐちゃになる車内。だが全員無事だしエンジンはまだ動いてる、私とヒナはすぐに衝撃から立ち直った。その頃には緊急車両11号は奴の眼前へと躍り出ていた。

 

(地響き、巨大な足音)

 

「……………」

こちらに気付き、遥か高みからこちらを見下す赤き姫君。しかし一瞥する程度で、その意識の先は依然として遠くのゲヘナ本校に向いていた。行かせるものか………!私は睨み返し、後部ハッチを解放する。そこからヒナが銃口を外に出して構えた。

「来い!化け物!こっちの血は甘いわよ!!」

 

(銃声、終幕:イシュ・ボシェテ)

 

神秘の弾幕は血管の巨体を貫くことはできず、だが随分痒かったらしい。その注意をこちらに向けることができた。地響き、巨大な足音、血管共が迫り来る音。私達を押し潰そうと向かって来ている!

「釣れたぞ!行け行け行け!!」

「はい!」

急発進に振り落とされぬようにバランスを取りつつ、ヒナは発砲を続けた。電動ノコギリのようなけたたましい発射音が迫り来る血管共を千切り引き裂く。その端から追加される血管、全く衰えない赤き姫君の侵攻速度。だがそれでいい、そのまま突っ込んで来い……!

「………っ、リロード!」

「任せろ!」

弾切れになり、1歩引いたヒナに変わって迎撃する。数秒の間ならアサルトライフルでも問題なく迎撃できる物量で安心した。だが同時にそろそろ懐事情が心配になってくる。

(残りの弾倉は4つ……間に合うといいが)

最悪ハンドガンでもサバイバルナイフでも使うつもりだが、そうならない方が絶対にいい。なるべく早く辿り着いてくれと祈りながら私は撃ちまくった。

そうして交互に迎撃しつつ誘導していると、運転席のセナが声を上げた。

「前方に倒壊したビル!迂回路を探します!」

「セナ、お前はこの辺りの土地勘は?」

「ないです!だから……とりあえず右へ!」

こればっかりは仕方ないが、ヤマ勘でハンドルを切ろうとしたセナ。だがその瞬間、緊急車両11号に取り付けられた無線機から声が飛び出す。

「いいえ左です!そこから迂回できます!」

「っ!分かりました……!」

すぐさまハンドルを左に切り、指示通りの迂回路を通る。横倒しで道を塞いでいたビルの反対側に回り込むことができ、セナは大きく息を吐いた。

「……ありがとうございます、アコ行政官」

「どういたしまして。キラキラ部とオマケの万魔殿のおかげで避難が予定より早く終わりました。ここからは私も手伝います!温泉開発部までの最短ルートを見つけたので、指示に従ってください」

「アコ、助かる!さあ行って!ビルが突破される!」

ヒナが叫ぶや否や倒壊したビルに赤き姫君が突っ込み、破壊し、強引に侵攻してきた。瓦礫や破片が爆発のように飛び散り落下してくる。細かな礫が車体に当たる。その音を聞ききながら私達は誘導を再開した。

アコの指示通りのルートを駆け、迫り来る血管共はヒナが対処する。それを続けてしばらくしていると廃ビルの隙間に都市部の灯りが見えて来た。微かだが重機の音と喧騒が聞こえてくる。順調に誘導できている証だ、私は気合を入れ直してヒナの装填を援護する。あと1マガジン、ギリギリ足りそうだ。

「この先にも倒壊したビルがあります!次の角を右へ曲がってください!その後は3ブロック進んでから左へ!」

「分かりました。温泉開発部までは後どれくらいですか?」

「左に曲がったら真っ直ぐ!それですぐです!」

「聞いたか、空崎ヒナ?もう一踏ん張りだ!」

「分かってる!装填終わった!」

「よし!」

立ち位置をヒナと交代し、今度は私がリロードに入る。最後の弾倉をセットしようと懐から取り出した……瞬間。

 

(破砕音)

 

倒壊したビルを避けるために右に曲がった瞬間、上から瓦礫が降って来た……いや、投げつけられた!血管共で足と身体を紡いだのだから腕だって紡げるのは当然か、女性的な細さとしなやかさを持った巨大な腕を1本生やし、器用に瓦礫を持ち上げて私達に投げつけているのだ。幸いコントロールは良くないので直撃はしてないが、その衝撃はハンドルを乱し車体を揺らしてくる。

「ぐっ……!あっ、しまった!!」

真横に落ちた瓦礫の衝撃に踏ん張っていると、最後の弾倉を車外へ落としてしまった。

「どうしたの!?」

「くっ……!弾切れだ!もうハンドガンしかない!」

「了解!じゃあもう発砲はいい!私の身体を支えてて!」

シートベルトを左手で掴み、右手でマシンガンを抱えて発砲していたヒナ。彼女はそれを両手で構え直した。私はすぐに彼女の腰に右手を回し、左手でシートベルトを掴む。それと同時にヒナのマシンガンの銃口に光が集まり、ヘイローが輝いた。あの超弾幕か?いや、それよりもっと強いエネルギーで……。

「光よ!!」

 

(レーザービームの発射音)

 

び、ビーム!?マシンガンから……ビーム!!??!?紫の光線がすごい勢いで飛び出たかと思ったら、血管の腕を貫いて切り裂いたぞ!?

「そ、空崎ヒナ!?それは一体……!?ゲヘナの秘密兵器か何かか!?」

「私が出したビーム、気にしないで」

あっさりとそう言われたが気にするなと言われても気になるぞ?普通の人間はマシンガンからビームを出さないからな!ミカの隕石やヨシミのミサイルと同じ神秘の類いなのだろうけれども、ついに先生の好きなアニメのようなビームを出す奴が現れるなんてと思い戦慄する。

「か、勝てるわけがなかったんだな……あの時ヒナを任せてすまない、ヒヨリ………」

「曲がりますよ!捕まって!」

ヒヨリの可哀想な顔を思い浮かべていたがセナの声で我に帰り、その瞬間ドリフトしながらの急カーブが実行された。私はすぐに思考を切り替えヒナの腰を抱き締める。遠心力が容赦なく襲い掛かり意識が飛びそうになるが、何とか踏ん張ってヒナを支えて見せた。

 

(地響き、巨大な足音)

 

赤き姫君も私達を追って道を曲がる。血管共を伸ばす。3ブロック進んでから左へ、後は直進。ついにそこまで辿り着いた。後は直進するだけ、最後の攻防だ。

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎………⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!」

赤き姫君もここが山場と知ってか知らずか、これまで以上の量の触手を出した。赤い津波が迫り来て、マシンガンが火を吹くが迎撃が間に合っていない。私もハンドガンを乱射するが焼け石に水だ。どうするかと冷や汗を垂らした瞬間、それが蒸発するほどの熱が視界を照らした。

 

(トラックの駆動音、火炎放射器の発射音)

 

「みんなー!待ちくたびれたから迎えに来たよ!」

「ハーハッハッ!さあ走れ走れ!あと少しだ!」

どこからともなく現れ、並走を始めた温泉開発部のトラック。それを運転するカスミが、荷台で火炎放射器を構えるメグが、私達に発破をかけてくれた。

「っ!前方にスロープ!あれを通ればいいんですか!?」

「そうだ!そして飛べぇぇっ!!」

カスミの叫びと同時にアクセルが踏み抜かれる。トラックと緊急車両11号の速度が増した。残り10メートル、5メートル、3、2………!!

「1!飛びます!!」

タイヤがスロープを掴み、2台の車が飛び上がる。数秒の浮遊感、10メートルくらいを真っ直ぐに飛んで盛大な揺れと衝撃を伴いながら着地し停止した。

「くっ……!皆さん無事ですか!?」

「ええ、イオリとチナツも大丈夫そう。錠前サオリ、あなたは?」

「無事だ!……だがどうして車をジャンプさせなきゃいけなかったんだ?」

そう言えば誰も理由を聞いていない。私達は雰囲気で大ジャンプを決めていた。3人で顔を合わせ、首を傾げていると……、

 

(土砂崩れの音)

 

「よぉし!作戦成功だ!!」

「やったー!サイズもピッタリ!」

赤き姫君が立てていた地響きとは違う轟音が後方から聞こえてくる。3人で車内を出て様子を見ると、そこには巨大な穴にすっぽりと嵌った赤き姫君の姿があった。

「あそこは……私達が飛び越えた道路だった場所ですか?」

「ああそうだセナ部長。奴の動きを止めるために、巨大な落とし穴を掘っておいた。底には温泉開発用の爆薬をしこたま敷き詰めた特製の落とし穴さ」

「あ、ちょっと邪魔だったから真下の水道管とか全部取っ払っちゃった。ごめんねヒナ委員長、修理の依頼だけ出しといてね!」

「カスミ……?」

「ひっ!?ひ、必要経費だ!許してくれ!……それより早速発破するぞ!耳を塞いで口を開けるんだ!!」

その場にいた全員がすぐにそうした瞬間、カスミは懐から取り出した起爆装置のスイッチを押した。

「サプラ〜イズ♪」

 

(大爆発音)

 

「ひゅ~ん、バゴーン!ハッハッハッハ!いい爆発じゃないか!!きっと地の底の温泉まで届いたぞ!!」

カスミの高笑いを上げる中、立ち込める土煙。大爆発が起こしたそれは天まで上り、温泉開発部が掘ったと言う大穴を包み隠していた。そのせいで奴がどうなったかは把握できないが……これほどの規模の爆発なら奴も倒れているに違いない。

「…………いいえ、まだです!煙の中に動いているものを検知しました!」

ああもう……!無線機越しのアコの声で、緩んでいた空気が凍り付く。私達はすぐにそれぞれの得物を構えた………が、あちらの方が早かった。

 

(風を切る音)

 

「ゔっ……!?」

「メグ!!」

土煙の中から血管が飛び出し、メグの首筋を捉える。そして勢いそのままに飛んで行き、メグの身体を近くの建物に叩きつけた。

「ぐっ、こっ……の!!」

 

(火炎放射器の発射音)

 

まだ手放していなかった火炎放射器を血管に浴びせ、焼いて千切る。無事に拘束から解放されたメグは壁を滑り落ち倒れる。首にまだ絡みつく血管を引っこ抜いて投げ捨て、その傷口から血を垂らしながらも立ち上がろうとした。

「メグ!?メグ!無理をするな!大丈夫か!?」

「え……えへへ、ごめん部長。油断しちゃった………」

駆け寄ったカスミがサイズの合っていないコートの袖口でメグの傷口を塞ぐ。白いコートが赤くなるのも顧みず、必死になって何とかしようとしていた。

「すぐに行きます!」

「錠前サオリ!私達は前を!」

「分かってる!」

駆けて行ったセナを守るように2人で立ち塞がる。やがて土煙は風に吹かれ、月明かりが大穴を照らした。そこにいた赤き姫君の生存を高らかに見せつけた。

さすがに無傷ではなく、血管の足と巨体の8割が消し飛んでいた。だが肝心の本体は大火傷を負っている程度で欠損もなく、どうせさっきのように瞬時に回復することだろう。そんな彼女が抱える血管の本に関しては、必死に守ったのか傷1つついていない。

「しぶといな……!どうする!?」

「もう1つの方に頼りましょう!こちらヒナ、ハルナ?聞こえる?」

 

(無線越しの銃声、爆発音)

 

「はい、聞こえておりますが……手は空いておりませんわ」

「どうしたの?狙撃地点には着いたの?」

「顔色の悪い方々に襲われてそれどころじゃないのです……!恐らく報告にあった、バートリー邸の使用人の方々かと」

「あの人達か!?いないと思ったらそっちに……!」

「報告の通り武装も簡素で練度も低い……ですがすでにボロボロで、今にも死にそうだから上手く迎撃ができません。これ以上攻撃してしまったら……くっ、困りましたね……!」

「ハルナ!近くにいつもデリバリーで使ってる路地があるから、そこに突っ込むわよ!」

「っ!さすがですフウカさん!何としても間に合って狙撃を……っ!?危ない!」

「え……?」

フウカの声を最後に通信が切れる。ヒナの表情が歪んだ、私も同じような顔をしているだろう。最悪だ、狙撃が期待できないならこの場の戦力でなんとかするしかない。

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!」

「っ!はあああああああああああああ!!」

 

(銃声、終幕:イシュ・ボシェテ)

 

ヒナの銃弾と血管がぶつかる。しかし追い詰められ、眼前まで迫り来る。何度も迎撃しているのを見ていたから押し返せると思った、だが違った。そう言えばずっと逃げながら、あるいは時間稼ぎに撃ち合っていただけであって、ヒナと赤き姫君の、真正面からの弾幕戦はこれが初めてで、結果ヒナは簡単に押し返されてしまっていた。私もハンドガンを撃ったがやはり何の足しにもならない。そしてついに……、

「っ!!ああっ!?」

「空崎ヒナ!!」

ヒナが血管に捕まり、首を絞められ持ち上げられた。私はすぐに助け出そうと、血管を断ち切ろうとサバイバルナイフを構えた。だが私の方にも容赦なく血管共が降り注ぐ。それから逃げるのに精一杯でそれどころじゃない。こうしている間にもぶら下がったままのヒナの小さな身体からは血が搾られ続けており、その痛みにヒナは悲鳴を上げた。対する赤き姫君は高笑いを上げた。

「ウフフ……アハハハハハハハハハハ!!!」

メグとヒナの血を得た赤き姫君は活力を取り戻したようで、血管の手足を少しずつ再生させ始めていた。忌々しいことに本体の傷もとっくに回復している。下卑た笑みで、私達と違って血色のいい肌でこちらを見下す姿に腹が立つ。だがどうしたら助けられる?このままだと……!

 

(砲撃音、掘削音)

 

瞬間、再生していた血管の手足が爆散した。それと同時に無数の重機の駆動音、私に迫っていた血管共が叩き潰された。それらの衝撃で揺れるヒナの身体、とっさにハンドガンを叩き込んで血管を千切る。力なく落ちて来たヒナの身体をどうにかキャッチし、私は後方に飛び退いた。進撃する戦車隊と温泉開発部達に向かって……!

「万魔殿戦車隊、げんちゃーく!ってあれ!?ヒナ先輩大丈夫!?」

「遅くなりました、攻撃します。戦車隊!隊列は崩して構いません、横並びで砲撃を喰らわせてください!」

「……うちのメグで酒出し風呂をするとは、お前のような化け物には上等過ぎるなぁ!!開発してやれ!不届きな客を温泉の底に沈めろ!!」

「すまないお前達、助かった……!」

ヒナを抱え、イロハとイブキが乗る戦車、激怒しているカスミを通り過ぎる。その先にある緊急車両11号に、そこにいるセナの元へと駆け込んだ。

「急患だ!」

「ヒナ……!?診せてください!」

セナは血相を変えてハッチから飛び出し、私からヒナを受け取る。そして抱き上げながらガーゼで傷口を押さえた。流れる血の勢いはすぐに止まったが、顔色からかなり搾られたことが分かる。これじゃあヒナも動けないはずだ。

……だがヒナは無理に手足を動かし、自分で立ちあがろうとして見せた。

「し……止血だけでいい。すぐにでも、戦わなくちゃ………!」

「何を言っているんですか!?かなり搾られています、安静にしてください!」

「そうだぞ空崎ヒナ!いくら頑丈で強いお前でも、大量出血の身体でまともに動けるわけがないだろ!」

「お、おまいう……じゃなくて、このままだと、私たちの負けよ……!」

「負け……?ですがヒナ、戦車隊と温泉開発部が戦っているんです。このまま圧倒してやれば、いくら赤き姫君とて……」

「圧倒、しているように見える……?」

「…………」

促され、私とセナは振り返る。万魔殿戦車隊の砲撃、温泉開発部の重機、銃器、火炎放射器の猛攻、それらを喰らって赤き姫君は巨体を再生できずにいた。穴から這い出そうと血管を伸ばすが吹き飛ばされ、ショベルカーやダンプカーで押し戻される。だが戦車隊と温泉開発部も全てを捌いているわけではなかった。攻撃を掻い潜った血管が戦車にまとわりついて絞め壊し、誰かの喉笛に噛み付き血を搾る。その度に赤き姫君は活力を取り戻し、吐き出す血管の量を増やしている。それに再生速度も上がっているように見えた。戦い続けていたら消耗する私達に対して、奴は戦いの中で力を取り戻している。万魔殿戦車隊も温泉開発部も頑張ってくれているが、戦況は圧倒?いいや、拮抗だ。拮抗なら再生するアイツの方が有利で、弾薬や兵力を消耗していく私達は不利で、そして長く続けていたら潰される。

「はぁ……はぁ……だから、押し込まないと。拮抗でいられる今のうちに、あとひと押しを……!」

「ぐぅっ……!だ、だがダメだ!今のお前を動かすことはできない!私が行くから安静にしてろ」

「でも、弾切れなんでしょう……?」

「それは……その、そうだが………!」

言い淀み、思わずアサルトライフルに触れる。銃は弾薬があって初めて武器になる。鈍器として使えなくもないが、すぐに曲がってダメになる上、そんな使い方で勝てる相手ではない。あの時落としてしまった自分が恨めしい……だが1つの弾倉で解決する問題でもあるまい。

何か案がないかと縋るように、私はセナに顔を向けた。だがセナの方が先に私の顔を覗き込んでいた。どうにかならないかと祈るように。私はその視線を受け止めることができずに顔を逸らす。どうする……?ここまで来れたのに、たくさんの生徒が今も戦っているのに、このままじゃ………。

 

 

 

 

 

 

「………銃なら、あるよ」

瞬間、緊急車両11号の車内から声が聞こえて来る。か細いが聞き覚えのある声……イオリだ。まだ顔色の悪いチナツに肩を支えられ、イオリが車内から出て来たのだ。

「イオリ……!目を覚ましたのね」

「はい、委員長。すごい荒い運転だったから………じゃなくて、おい、救急医学部の新入り。いや……錠前サオリ。銃があれば戦えるんだな?」

正体がバレていることに驚きの声を出しそうになったが、真っ直ぐにこちらを見つめるイオリの姿を見て飲み込んだ。そして強く頷いた。ヒナほど強くはないし、ずっと万全ではない。だが私ならきっとやれるはずだ。

「どんな状況で、どれだけ追い詰められていても戦えるよう訓練してきた。アサルトライフルの弾薬があれば、血管の本を狙いに行くことだって出来るはずだ」

「はは、そう……じゃあこれ」

そう言ってイオリが差し出したのは、彼女の愛銃のスナイパーライフルとその弾薬。よく手入れされた銃身はどれだけ大切にされているかを示すかのように輝き、それでも着いている細かな傷が長年連れ添った相棒であると証明している逸品だ。

「いいのか……?私なんかが使っても」

「今の私は戦えないから……気分が悪いし、視界もダメダメで………。ああ、でも、色々あったけど、お前を捕まえたい気持ちもあるけど、お前を信じるセナ部長を信じてみることにした。だから………任せた」

「……………ああ、任された」

スナイパーライフルを受け取り、弾薬をポケットに突っ込む。そう言えばずっと着たままだった救急医学部の制服と頭巾を整え、私はスナイパーライフルに弾薬を装填した。

「決まりだ。空崎ヒナ、これでいいな?」

「……うん、あとは任せた」

「ご武運を、錠前サオリさん……ゔっ」

ホッとしたのか、あるいは限界だったのか、ともかくチナツがその場に崩れ、肩を支えてもらっていたイオリも倒れ込む。そんな2人の隣にヒナは座り、抵抗することなくセナの治療を受け入れた。

「ご、ごめんねチナツ……運んでもらっちゃって………」

「いいんですよ、引き継ぎは大事ですから」

「2人とも頑張ってくれてありがとう。私達はここで休みましょう。………でないとセナがまた怒るから」

「ちゃんと治療を受けるのなら怒りません。だから……サオリさん。後ろにいる私達を、どうか守ってください」

「ああ……。セナも患者……いや、死体の治療は任せた」

「「「死体じゃない!!」」」

「お任せください」

顔色を変えずに承諾し、一礼してきたセナに苦笑する。そんな彼女らに踵を返し、赤き姫君へと向き直り、私はスナイパーライフルを構えた。




幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)

12.廃旅館
立ち寄った時のバイト:旅館の仲居
説明: ⬛︎⬛︎自治区の自然豊かな山奥にある旅館……だった場所だ。かつてここで仲居のバイトをしていたが、近くに行く用事があったのでまた行ってみると廃墟になっていた。

コメント:まだ廃業して間もないと言うのもあるが、野生動物や植物すらその中を恐れて侵入していない。おかげでまだ営業していると言われても驚かないくらい綺麗な状態だった。
潜伏先としては申し分ないが、私も怖いのでそこには入らず、様子を伺う程度に留めた。あの屏風絵……蟠桃の天女がどうなったかは知らない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。