次シリーズ投稿に少しお時間をいただきます。気長にお待ちください。また、その際に各話人気投票の結果発表も致します。改めてURLを貼りますのでそちらも付き合っていただけると嬉しいです。
https://tasuketsu.com/result/WHB9fPcie5IOhkWP4k40
イロハの命令を受けた万魔殿戦車隊の生徒達がバートリー夫人の身柄を押さえ、抱えて連れて行った。それを見送った直後に私はその場に崩れる。諸々が終わった安堵で全身の力が抜けたのだ。それは隣にいたセナも同じで、私達は互いの肩に寄りかかりながら座り込んだ。
「フッ……片付いたな。見事だったぞ、救急医学部の狙撃手!」
「ああ……こちらこそありがとう、温泉開発部と万魔殿戦車隊達。お前達が前で戦ってくれたから、私は狙撃に集中できた。……まあ、かなりしんどいがな」
「……ええ、同意します。サオリさんも、私も、さすがに動き過ぎました」
セナの呟きに苦笑する。身体の血を半分も搾られた後に連戦なんて、何度も言ってるし言われてるが正気の沙汰じゃないんだ。それどころじゃないから必死になっていたけど、もう精魂尽き果てた。今すぐに……ああ今すぐにでも病院のベッドで横になりたい気分だ。
顔を傾け、乱れ埃まみれの銀髪と私の頬を重ねる。そうしながらセナもそうだろうと、死にかけてもう動けないがもう終わった、頑張ったなと労った。
「……ですが、まだ終わっていません」
「………は?何を言ってるんだ、セナ?」
「サオリさん……むしろこれから始まりなんです。私の………医療の戦いは」
(人が倒れる音)
「っ!?メグ……?メグ!」
メグが突然その場に倒れた。血相を変えて駆け寄るカスミ。何事かと思い様子を見ていると、彼女の首に巻かれた包帯が真っ赤になっていた。傷が開いて出血しているのか……!
「あははっ、ごめんねぇ部長……。私、もう限界かも………」
「喋るな!ああ……クソ!セナ部長!助けてくれ!メグが、メグが……!」
これから始まり……医療の戦い。ああそうか、そう言うことか。セナの言葉の意味を理解し、私は歯軋りをした。
「すみませんが戦車隊でも怪我人が出てます。派手に戦車をひっくり返されましたからね……、救急医学部の到着はいつ頃になりますか?」
「何ィ!?イブキが怪我をしただと!?」
「一言も言ってませんよそんなこと。はぁ、イブキは無事ですから安心してください」
「イロハ先輩、イブキ絆創膏いっぱい持ってるよ。お手伝いする?」
「ありがとうございます、イブキ。ですが仕舞っておいてください。あれは絆創膏でどうにかなる負傷じゃありませんから……」
(無線のノイズ音)
「こちら万魔殿チアキ!避難でメンタルやられちゃった人が何人か出ちゃいました。前の空が赤くなった時みたいに、救急医学部の子にメンタルケアを要請してもいいですか?」
「簡単なら怪我なら私とエリカちゃんで何とかできるけど、さすがにこれはちゃんと知識のある人に診てもらった方がいいよね……」
「くっ……!私のNKウルトラ計画が完成していれば……!」
「残念だけど仕方ないよ議員さん。今日は私とキララちゃんと一緒に、手当の手伝いをしよっか」
(何か粘性のものがのたうち回る音、咀嚼音)
「う〜ん、これは……ダメそうですね♣︎パンちゃんを食べた使用人さん達、みんなエキセントリックな顔色をしてます。人間って虹色の泡を吐けるんですね〜」
「ほら見たことか!ほら見たことか!!」
「す、すみません!私また失敗しちゃって……!!」
「失敗なの?こんなに美味しいのに?」
「うぐぐ……、で、でもジュリのおかげで私達は全員無事だし今回は……!そ、それよりこの人達を早く病院に連れてかなきゃ!トラックに乗せれるだけ乗せて……ええとっ」
「落ち着いてください、フウカさん。こう言う時はプロに任せましょう。こちら美食研究会ハルナ、救急医学部の方を派遣していただけませんか?大至急お願いします」
(無線越しの悲鳴)
「アコちゃん、委員長が……!ぐっ、うぅ……」
「骨折と外傷による発熱、ですね……。イオリ、おそらく私もあなたも同じ感じだと思います……」
「……でも、まだ耐えられる。私はいいから……他にも負傷者はいるでしょう?私は後回しにして、先にイオリとチナツを……みんなの治療をしてあげて」
「そんなこと言わないでください委員長!こちら風紀委員会アコ!救急医学部に出動を要請します!早く委員長達を、みんなを助けて!!」
……方々から飛び交う無線と叫び、救急医学部に助けを求める声。総力戦だった。相手は強大な存在だった。倒すことはできたが、私達だってただで済むわけはなくて。だからこれが、ここからがセナの本当の戦いなんだ。今日はたまたま前線で戦っていたけど、本来なら救急医学部として、負傷者の治療に当たらなければならない。だからセナはまだ終わっていないと言ったんだ……。例え自分も負傷者で、指を動かす力すら残っていなくても。
「……救急医学部、セナ。要請を受諾しました。救急医学部各員はすぐに出動し、死体の収容を始めてください。私も、動きますから………」
無線にそう言い残し、1人で立ち上がろうとするセナ。そんな彼女の肩を掴んで止める。
「おいセナ、……私に課した注意事項を忘れていないか?」
「………っ、『病み上がりであることを忘れないこと』です。ちゃんと覚えています。ですが……無茶をするなら今でしょう?」
「感心しないな。でも……それなら私も動ける」
掴んだ手を離し、私は言い切る。そして視線を交わし、力強く頷き合った。今の私は救急医学部に変装しているんだ。手伝ってやらないとな。
腕を絡ませ、互いに引っ張り合いながら無理矢理立ち上がる。そして1番近い負傷者のメグを見据え、一緒に1歩を踏み出した………が、2人とも足が空回って思い切り転けた。
「ゔっ……つぅ、……ああ、動けません。死体です………私が」
「ハハっ、だよな……。参ったなぁ、さすがに参った………」
とっくに限界を超えていて、気力だけで立ち続けていたんだ。さすがにもうダメらしい。……別に私とセナが全てをやらないといけないわけじゃない。ここにも派遣されているであろう救急医学部を待てばいいんだ。でも、目の前に負傷者がいるんだから何とかしたいじゃないか。だから動こうとしたが結局何もできず、メグに縋り付くカスミをボーッと眺めながら、私達は意識を朦朧とさせていた。
「はっ!こちら風紀委員会交通課!チナツ殿、イオリ殿、セナ部長……そして新入り殿!聞こえておりますか!」
完全に意識を手放そうとした瞬間、無線から溌剌とした声が聞こえて目が覚めた。風紀委員会の交通課の生徒だ。昼間に会ったのにもう何週間も前のことのように思えてくる。でも、急にどうしたのだろう?
「っ!こちら風紀委員会チナツ……!交通課さん、お任せしたお仕事は……!」
「はい、チナツ殿!バッチリです!ゲヘナの来客をそちらにお連れします!」
風紀委員会本部で別れた時、交通課はチナツから仕事を任されていた。それが来客対応だったんだな、そしてその来客をここに連れてくる……誰を?
(多数のエンジン音)
見当がつかないでいると、遠くから赤と白のカラーリングの車列がこちらに向かって来ているのが見えた。ゲヘナのものかと思ったが違う校章を掲げている。歯車の中に睨みを効かせた熊、私でも知っているあの学校の校章で、その隣には十字のマークが描かれていた。そしてその車列の最前列にはゲヘナ風紀委員会の屋根無しジープが走っており、運転する交通課と、助手席に大人が乗っている。瞬間、車列が走行している道路の信号機が全て青に変わった。
「ライトアーップ!どうですか、シャーレの先生!これが交通課に与えられた公権力です!」
「すごいね、こんなにあっさり信号を変えることができるなんて!……あ、おーいみんな!お待たせ!!レッドウィンターから医療部を連れて来たよ!!」
いつも私達を助けてくれる頼れる大人……連邦捜査部シャーレの先生が、私達に向かって大きく手を振っている。その姿を見て、私を含め生徒達が顔を上げた。気持ちが上向きになった。ああ、助かったんだと確信が持てたのだ。
「なっ、何ィ!?レッドウィンターだと!?」
「そうだマコト議長!久しぶりだな!」
「お前は、チェリノ書記長!………ん?待て!いるのか!?来てるのか!?ゲヘナに!?」
「うむ!カムラッドと一緒にな!」
「フフッ、こちらレッドウィンター事務局トモエ。シャーレの先生の要請を受け、ゲヘナ学園に我が校の医療部を連れて来ました。そして支援物資として輸血パックを5000人分、こちらを寄付いたします」
「前の交流会では議長がこちらに来てたからな、今度はおいら達が来る番だ。さあマリナ!早速始めろ!レッドウィンター大作戦を!」
「はい!チェリノ会長!よぉし、医療部総員突撃!この闘争にこれ以上犠牲者を出してはならない!」
マリナと呼ばれた生徒の号令を受け、車列が散らばって各地に派遣されていく。救急医学部と一緒に、怪我をした人達を助けるために。その光景を見て私は顔を伏せ、地べたに全身を預けた。
「……ハハっ、セナ………見えたか?先生がやってくれたよ……」
「ええ……これなら、大丈夫ですね………。あとは、任せても………」
「そうだな……うん………大丈夫」
冷たいアスファルトが体温を奪っていく感覚が心地いい。地面が揺れ始める。先生達が近づいて来ている。その安心感に身を委ねて、私達は今度こそ意識を手放したのだった。
________その後、救急医学部とレッドウィンター医療部が負傷者を搬送し、売血事件は幕を閉じた。私達が意識を失ったあと先生主導で後処理が行われ、都市部……いや、ゲヘナ自治区はあっという間に復旧したそうだ。
「みんなが手伝ってくれたおかげだよ。風紀委員会、万魔殿、救急医学部、温泉開発部、美食研究会、給食部、キラキラ部、そして手伝いに来てくれたレッドウィンターの子達。みんながゲヘナのためにって頑張ってくれたんだ。もちろんサオリとセナもそうだよね。……私がいない間、戦ってくれてありがとう。私は……みんなが大変な時、私はすぐに駆け付けることができなかった。みんなに任せきりになって、一緒に戦えなかった。本当にごめんね………」
「先生、そんなことはありません。ヒナから美食研究会、温泉開発部、キラキラ部に声をかけてくれたと聞いています。それに、こんなにたくさんの物資と人員をレッドウィンターから持って来てくれたじゃないですか」
「……先生、きっとそれが今回の事件の中での、先生の戦いだったんだと思う。先生は先生の戦いを頑張ってくれた、私達も私達の戦いを頑張った。そうしてみんなで掴んだ勝利なんだ。私はそう思う」
「サオリ、セナ……。うん、そうだね。みんなで勝ったんだ。みんな、頑張ったね!」
まさか私が先生を励ます側になるとは思わなかったが、上手く言葉が紡げてよかった。眉間のシワが無くなって、いつもの優しい笑顔が先生に戻ったことに私はホッとしたのだった。
そんな先生と一緒に後処理をしてくれた万魔殿とレッドウィンター事務局は、今回の事件でより一層強い結び付きを得たと公式発表があった。
「マコト議長、輸血パックはこれくらいで足りましたか?」
「ああ、お釣りが出るくらいだ、トモエ秘書室長。この借りは必ず返す。………こんな形で借りを作ってしまうとは。……まさかあのチビ、これをダシにしてゲヘナに侵攻するつもりか!?」
「はぁ、マコト先輩……。シャーレの先生が関わってるんですから、そんなことになるわけないじゃないですか」
「さすがに気にしすぎよ、マコトちゃん。だってほら見て、レッドウィンターのおチビちゃん、イブキちゃんとすっかり仲良しなんだから」
「おいこら!マコト議長とサツキ議員!偉大なる書記長をチビ呼ばわりとは何だ!」
「まあ良い、マリナ。それくらいなら寛大な心で許してやる。イブキちゃ……イブキ議員からおやつのプリンを分けてもらったことに免じてな!」
「えへへ、これでイブキとチェリノちゃんはお友達だね!」
「うはー!イブキちゃんもチェリノちゃんも可愛さ1000万ボルト!迸ってるね!あ、号外の表紙にしたいから2人ともこっち向いて!はい、チーズ!」
……プリンを手に笑うイブキとチェリノの写真が表紙となった週刊万魔殿は飛ぶように売れたそうだ。
そして大穴に溜まった赤黒い液体のプールは、1滴残らずかき集められ処分された。大穴も後に温泉開発部がちゃんと塞いだらしい。カスミが盛大にゴネたそうだが、ヒナが黙らせたとのこと。
「ううむ……せっかくついでだからと気になっていたポイントを掘ったと言うのに……」
「いい加減諦めなさい。……でも、本当に助かった。ありがとうカスミ。水道管まで潰したって聞いた時はふざけるなって思ったけど、それのおかげで水道や地下水にあの液体が混ざることもなかった。ファインプレーだったわ」
「えへへ、ヒナ委員長に褒められる日が来るなんて思わなかったよね部長!……あっ、いてて………」
「メグさん、あまり激しい動きはしないでください。重症なんですから……また傷が開いちゃいますよ?」
「そう言うチナツも重症じゃないか……って、私もか。ああそうだ、セナ部長と錠ま……新入りが持って来たメロン食べようよ。温泉開発部、お前達も食べる?」
後日、美味しそうにメロンを食べる写真がセナのモモトークに届き、それを見せてもらった。メグ、ヒナ、チナツ、イオリを同じ病室にしたと聞いた時は喧嘩になるんじゃないかとひやひやしたが、仲良くしていて何よりだ。
ちなみに幹部の3人、特にヒナが入院することになってからゲヘナは荒れに荒れたそうだ。だがアコと有志の生徒達の活躍で、治安は何とか維持できたらしい。
「……いや、キラキラ部が手伝いに来てくれるのはまだ分かりますけど、美食研究会!?何であなた達が!?」
「ケジメと言う奴ですわ、アコさん。大役を仰せつかったのに遂行することができず、あの狙撃手さんに任せきりになってしまった。それが小骨が喉に刺さったかのように気になるのです……」
「ねえハルナぁ、パトロールの途中で食べに行こうって言ってたクレープ屋さんのクーポン無くしちゃったぁ〜!せっかく楽しみに取っておいたのに……って、待って、行政官さん。嘘だから、真面目に仕事するから。そんな怖い顔しないで、こっちにゆっくり近寄って来ないで!ごめんなさいってばー!!」
「そう言えば指揮取ってもらうのって宇宙に行った時以来だよね。あ、今日はジュリちゃんも一緒だね!」
「はい、イズミ先輩!まだまだ美食研究会のジュリとフウカ先輩です!」
「だから私美食になったわけじゃないから!ってかいつまでトラック運転しなきゃいけないわけ!?」
「じゃあ運転変わりますよ、フウカさん♣︎その代わりお昼ご飯を作ってもらえませんか?私、レッドウィンターのボルシチが食べたいです♪」
「はっ!ではパトロールは美食研究会と給食部の皆様にお任せします!キラキラ部のお2人は本官と交通整理を致しましょうか!」
「任せて!ヒナっちが入院しちゃった分、みんなで頑張らないとね♪」
「うん、終わったらみんなでお見舞いに行こうか」
その日の夜、本当にこのメンバーでヒナにお見舞いに来て、私とセナも強引に連れ込まれて面会時間ギリギリまで話に花を咲かせた。キラキラ部とやらの2人はすごいな、いつの間にかモモトークの連絡先を交換していたよ。給食部が作ったレッドウィンター風病院食も美味しかった。美食研究会は………色々思うところはあるが、普段より飲食店の爆破が減ったのはいいことだろう。そう思うことにする。頑張れ、天雨アコ。
……最後に、今回の事件の元凶であるバートリー夫人とその周りの人達だが………CEOと使用人達は無事だ。洗脳が解け、適切な治療を受けて、迷惑をかけた分だとスラム街への慈善活動に力を入れるようになった。化粧品も変わらず販売している。新作が楽しみだな。
………対するバートリー夫人は、完全に気が触れてしまった。
「あんな風に、ずっと血と美しさに関することを、譫言のように言い続けています。それがあればあの姿が元に戻ると信じている。もちろん、与えてなどいませんが」
「……セナ。治療は続けるのか?」
「もちろんです、彼女も死体ですから。とても哀れな……哀れな死体です」
隔離病棟で横になっているバートリー夫人の様子を見せてもらった時、セナは彼女を真っ直ぐに見つめながらそう答えた。治る見込みは恐らくない。それでも治療は続くのだろう。本当に死体と言って差し支えない身体と心になっても、バートリー夫人はまだ生きているのだから………。
(数日後。ゲヘナ自治区、ハイウェイ)
今日のゲヘナ自治区は雲1つない晴天。真っ青な空に魔法陣のような光が映えるいい天気で、その下を緊急車両11号が走っている。乗っているのは私とセナ。救急医学部の仕事ではなく個人的な用事……ゲヘナ自治区を出る私を見送ってくれるのだ。
「……よかったんですか?便利屋68が目覚めるのを待たなくて」
「いいんだ。レッドウィンターの輸血パックのおかげで、セナが頑張ってくれたおかげで全員の手術が成功した。それだけ分かれば十分。セナ、ありがとう」
「これが私の仕事ですから」
当たり前のように、だが誇らしげにそう言い返したセナ。あの後私と一緒に病院送りとなった彼女だが、1晩で退院してすぐに便利屋達の手術をしてくれた。レッドウィンターからの輸血パックのおかげで必要な血も集まり、手術は無事成功。便利屋達はまだ意識は戻っていないが、体力が戻れば勝手に目覚めるそうだ。
そして私は3日ほど入院させられ……、
(入院時)
「セナお前1晩で退院してるじゃないか!なら同じくらいの負傷の私だってもう退院していいだろ!?」
「あなたは重症の死体なんですよ、ちゃんと身体を休めてください」
「空崎ヒナ!これがおまいうか!?これがおまいうと言う奴か!?」
「よく喋る死体ですね、ほら眠っててくださいサオリさん」
「むぐぅっ!?」
(口に睡眠薬を突っ込まれる音)
……ようやっと傷も癒えたので早々に立ち去ることにした。あまり厄介になるのも良くないからな。
「私としては、そのまま救急医学部に入部してくれてもいいと思っています。手当も的確でしたし、サオリさんはよく動けますから」
「ありがたい申し出だが、私は指名手配犯な上にそもそもゲヘナの生徒じゃない。だからそう言うわけにはいかないだろう」
「誤差です」
「誤差ってお前……」
「そう思うくらいにはあなたを気に入ったんです。サオリさん」
とても誤差とは思えなくて顔を引き攣らせていると、セナはこちらを一瞥し真っ直ぐにそう言ってのけた。言葉に詰まっているとセナは微笑み、顔を前に戻して運転に集中する。
「思えば出会い方は最悪でしたね……でも、あなたに出会えてよかったです」
「……そうか。ありがとう。………私もだ、セナ。お前に会えてよかった、色々と世話になった」
「違います、『これからも世話になる』です。定期的に健康診断を受けに来てください。………通報しないであげますから」
……この数日で分かったのだが、セナは結構強引な奴だ。有無を言わさず、多少手荒なことをしてまでも患者を治療する。でも全ては患者の、目の前で苦しんでる人達のためにやっていることで、真っ直ぐで心優しい人なんだ。それは他のゲヘナの生徒も同じなんだと思う。自分の好きなものや、使命に真っ直ぐでそれでいて心優しい。そんな彼女らと一緒に戦って、この事件を解決することができた。そんな彼女らの性根が、生き様が、私は赤き姫君なんかよりもとても美しく思えた。
ハイウェイを降り、辿り着いたのはゲヘナ自治区と⬛︎⬛︎自治区の境界。ここを抜け、⬛︎⬛︎自治区を通過し、その先にある別の自治区で新しいバイトを見つけた。その自治区に行くのもバイトの内容も初めてのことで、ゲヘナに後ろ髪を引かれる思いはあるがそれ以上に楽しみなんだ。……さっきのセナからの誘い、救急医学部の仕事も悪くないかと思えた。でも、私はまだ世界を知らなさ過ぎるし、私は私をまだ分かっていない。もっといろんなことを学んで、その果てに自分が何なのかを決めたい。だから今日のところは、ゲヘナを去ることにする。
「……なあ、セナ。ゲヘナはいいところだな。また来るよ。健康診断や怪我をした時以外でも。私もここが気に入ったから」
「楽しみにしています、お元気で。今回は本当にありがとうございました」
緊急車両11号を降り、⬛︎⬛︎自治区に続く道を徒歩で行く。私が遠く離れ見えなくなるまで、セナはゲヘナから見送り続けてくれた。それに手を振って前に進み、不意に日差しが眩しくて手のひらで遮る。すかして見えた真っ赤な血潮が、私の中で力強く流れていた。
「________ なななな、なっ、何ですってーーーーーー!!!???錠前サオリはとっくにゲヘナを出てるううう!!???」
「あらら〜、ムツキちゃん達助けてもらったんだから、お礼くらい言いたかったのに」
「それに関しては伝言を預かってるよ。礼はいらない、お前達に助けてもらったのだから……だって」
「ありがとうございます、先生……。助けてもらったって、あの温泉街での任務のことでしょうか……?そんな、アル様を助ける手伝いをしていただいたのに、私達の治療の面倒まで見てもらってしまって………」
「吊り合わないね、フェアじゃない。錠前サオリに大きな借りができてしまった。ちゃんと返さないとね、社長」
「もちろんよ!見てなさい錠前サオリ、次会った時には……ええと、う〜ん………どうやってお礼をしたらいいのかしら?」
「ま、そこはその時に考えればいいんじゃない?困っているところを私達で手伝ってあげたりとかさ」
「私内臓売ります!それでお金を作って錠前サオリに渡せば……!!」
「はぁ、ハルカ……その方法は無し。ムツキの言ってる通り、その時考えればいいと思う」
「そうだね。とにかく今は元気にならなくちゃ。アル、ムツキ、カヨコ、ハルカ。ちゃんと安静にしてるんだよ」
「ええ、そうさせて貰うわ。本当にありがとう、先生。………ところで、錠前サオリはどこに行ったの?確か自分探しの旅をしているのよね?」
「ああ、うん………まあ口止めはされてないからいいかな。セナから引き受けた仕事が終わって、すぐに次のバイト先を探してたから紹介したんだ。今はそこに向かってる」
「バイト先……?私達も知ってる場所ですか?」
「うん、便利屋のみんなにも馴染み深い場所だよ。サオリは……、
________アビドス自治区に行っているよ」
ここだけサオリが裏バイトで働いていて、ひどい目にあったりあわなかったりする世界
錠前サオリの裏バイト奇譚17
業務内容:救急医学部案件・売血調査
注意事項: 『病み上がりであることを忘れないこと』
勤務期間:1日
給与額:100000円+氷室セナによる健康診断及び治療の永年無料権
コメント:負傷や頑張った分給与を増やすと言われたが、セナの私財が削られるのが申し訳なくて丁重に断った。その代わり、2〜3人ならセナのところに友達を連れて来てもいいそうだから、姫達も健康診断を受けさせようか。みんな元気でやってるといいのだが……。