錠前サオリの裏バイト奇譚   作:@Ana

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あにまん掲示板で投稿したものです。こちらにも掲載しておきます。

元スレ
https://bbs.animanch.com/board/3463026/


公園の清掃

公園の清掃バイトを始めた錠前サオリだ。⬛︎⬛︎自治区にある広い公園で、毎日賑わっている場所だ。私がやるのは公園全体の掃き掃除にゴミ拾い、ゴミ箱のゴミ回収、そして公共トイレの掃除だ。

アリウスにはこんな綺麗な公園は無かった、そこを使う人達の笑顔も。これを守れるんだ、やり甲斐のあるバイトだな。それに時給は2万円。気前がいいな。張り切っていこう。

なになに、注意事項として『幼児服が捨てられていたら回収して雇い主に提出すること』……らしい。幼児服?そんなの捨てられてるのか?集めて何をするつもりだ?怪しいが、一旦様子を見よう。

 

 

(1日目)

 

掃き掃除とゴミ拾い中だ。街路樹が多いから落ち葉と木の枝が多いな。ポイ捨てがほぼないのはいいことだ。……おや?

「幼児服……本当に捨てられているんだな」

可愛らしい猫の絵が描かれたシャツだ。回収しよう。貰っていた専用の袋に入れた。

「キャアアアアアアアアアアッッ!!」

「っ!?何だ!」

駆け付けるとそこには獣人(三毛猫)の少女と母親らしき獣人。二人とも腰を抜かして何かを凝視していた。

「どうした!?」

「ああっ、すみません!あれを見つけてしまって……」

あれ……と指差された方を見ると、鳩の死骸がそこにあった。何かに食い殺されたようで、周りには血が飛び散っているが全体的に乾いている。昨晩やられたのだろう。可哀想だが、これも自然の摂理だ。

「そういう事か……いや、お前達が無事でよかった。私は公園の清掃を任されている者だ。あの鳩は私が片付けておこう」

「すみません、ありがとうございます」

「お姉ちゃん……」

「ん?どうした?」

まだ涙目の少女が私を見上げている。屈んで視線を合わせ、その子の次の句を待つ。

「片付けるって、どうするの?捨てちゃうの?」

「そうだな、死骸は放っておくと腐敗……腐ってしまって、病気の原因になってしまうんだ」

「……お墓、作ってもいい?」

「お墓?この公園に埋めるという事か?」

小さく頷いた少女に、母親は「お姉さんを困らせちゃいけません」と嗜める。確かに、あまりいい事ではないかも知れないが、この子の優しさは立派なものだ。

「すまないがそれはできない。だが丁寧に取り扱うと約束しよう。任せてくれないか?」

「……分かった。ありがとうお姉ちゃん」

その後少女と母親に見守られながら、死骸を私のタオルで包んで持ち帰った。仕事が終わった後に拠点の廃墟でそれを燃やし、灰は明日公園の茂みに撒くつもりだ。タオルをダメにしてしまったが、時給がたっぷり貰えるんだ。これくらいはいいだろう。

 

(2日目)

 

「どうしてこんなところに……」

掃除のために男子トイレに入ったら、幼児服が落ちているのを発見した。今度はシャツと靴下とスカートもある。昨日のものといい、明らかに女の子向けだ。何で落ちているのかはまだ分からないが、それはそれとしてこれを回収している雇い主はやっぱりまずいんじゃないか?……とりあえず、回収するか。今度会った時に理由を問いただして、変態だったら縛り上げてヴァルキューレの前にでも転がしておこう。

「あ!女の人がいる!」

「ここ男子トイレだよ〜!入ったらダメなんだよ〜!」

振り返ると、二人の獣人の少年(シロクマとダックスフンド)がいた。

「すまない、私は公園の清掃を任されている者だ。先に使いたいなら出て行こう」

「早く出て〜!」

「トイレしたい〜!」

さっさと退散し、トイレの前に設置されたベンチで休む事にした。しばらくすると少年達はキャッキャとはしゃぎながら出て来る。

「お姉ちゃんありがとう〜」

「もういいよ掃除しても」

「そうか、なら業務に入らせて貰う」

「あ、そうだお姉ちゃん!」

掃除に取り掛かろうとしたら、少年達に呼び止められた。

「お姉ちゃん掃除の人なら、公園のお化けの話知ってる?」

「お化け……?すまないが知らないな。昨日来たばかりなんだ」

「なんだ〜残念」

「ええとね、お化けって言うのは、この公園に夜に入ると、お化けに食べられちゃうって噂があるんだって」

食べられる、と聞いて昨日の鳩を思い出す。

「野良猫か何かではないのか?」

「違うよ!猫も食べられたんだって!」

「友達の妹がね、家で猫飼えないからってここで育てようとしたんだって。でも次の日には食べられて血だらけになってたって言ってた!」

「それは……怖いな」

夜になると捕食される……やはり野良猫しか思い浮かばないが、そんなのがいるのか。警戒しないとな。

「何か分かったら教えてね!」

「ああ、分かった」

「じゃあねお姉ちゃん!」

走り去る少年達を見送り、私はトイレ掃除を始めた。

 

(14日目)

 

夕暮れ時、今日の業務を終えた私は公園の物置で清掃道具やまとめたゴミを片付けていた。後日業者が回収してくれるゴミ袋、落ち葉や木の枝、お菓子のゴミなど。それから離すように置いた、幼児服だけ入った袋。

……多すぎる。たまに落ちているくらいだと思っていたら、毎日公園のどこかに幼児服が捨てられていた。更に服のサイズが少しずつ大きくなっている。初日は2〜3歳、今日拾ったのは幼稚園児くらいか?まるで持ち主が着れなくなったものを捨てているかのような……いや普通に燃えるゴミの日に捨てればいいだろう。どうして公園に捨てるんだ。掃除してる身にもなって欲しい。

「バイトさん、お疲れ様」

「ん?ああ、雇い主か」

不意に話しかけてきたのは今回の雇い主、公園の管理人をしている獣人(雀)の女性だ。私は彼女に向き直り、軽く一礼。そういえば今日会う約束だったな。

「公園を綺麗にしてくれてありがとうね。おかげで近隣の人達も喜んでいるわ」

「私は私の仕事をしているだけだ。それに、やり甲斐も感じている」

給料の入った封筒を差し出され、受け取る。確かな厚みに顔が綻ぶ。……ふと、彼女が持つ紙袋に目が行った。

「それは服屋の紙袋か。買い物の帰りだったか?」

「ああこれ……、娘の新しい服なの。見て」

取り出し、広げられたのはここ⬛︎⬛︎自治区を治める学園の付属小学校の制服だった。

「これから入学か、きっと娘さんも喜ぶだろう」

「ええ、だから今からあげに行くの」

「……今から、あげに行く?」

言葉のニュアンスがおかしい気がする。家に帰って、見せてやるとかそう言う意味だろうか?そんな疑問が顔に出ていたようで、雇い主はコロコロと笑い出す。

「バイトさんもここまで続けてくれたし。娘を紹介しなくちゃね」

そう言って彼女は私の真後ろ、幼児服が入った袋を指差し……指?羽を差した。

「あれ、娘が捨てたのよ」

「なに、娘さんが?」

「ええ。娘は公園に住んでいるの」

 

(14日目、残業)

 

日が完全に沈むまで後少し。夕暮れの残り香が弱々しく公園を照らす中、私と雇い主は無言で歩いていた。辿り着いたのは街路樹が並ぶ散歩コースの外れ。あまり人目につかない場所だ。そう言えば鳩の死骸があったのもここだったな。雇い主はそこに紙袋を置いた。

「ここに置いとけば明日には無くなってる。娘が持って行くの」

「公園に住んでいる、娘がか?」

公園に住んでいる娘。今まで公園の清掃をしてきた中で、それらしい人物は見たことがない。それらしい痕跡もだ。私の知識と経験が正しければ、この公園に住んでいる者はいないはず。

「集めてもらった服は全部、あの子が着れなくなって捨てたものなのよ」

「そうなのか……いや、納得できない。どう言うことだ?お前は娘と住んでないと言う事か?」

公園にいて、服を置いてくと持って行って、着れなくなったら公園に捨てる。どんな子育ての仕方だ、アリウスでも無かったぞ。

怪訝に思っていると、雇い主は本当に悲しそうな、苦しそうな表情で話し始めた。

「若い頃に望まぬ子を産んじゃって……ここに捨ててしまったの」

「捨てた?」

「ええ。でも一晩経って、やっぱりダメだって思って、迎えに来たの。でももういなかった。忽然と消えてた。その時は優しい誰かに拾われたんだと思って安心して、同時に何でことをしてしまったんだろうって、本当に酷い、私は母親の風上にも置けないって……」

どんどん上擦っていく声。間違ったことをしてしまったと後悔して震えている。それが嘘だとは感じず、何故だかミカのことを思い出す。

……いや、ミカに失礼だな。雇い主は、こう……歪だ。発言がさっきからずっとおかしいのもあるが、纏う雰囲気が……敵意ではないが、いいものでもない。

「……それで、どうなったんだ?」

「…………うふふ」

続きを促すと、彼女は急に落ち着きを取り戻し、含み笑いまでしてみせた。

「優しい誰かは公園だったの。この公園が拾い、公園が住ませ、公園が育ててくれた。全部をして貰うのは申し訳なかったから、せめて服だけでもと思って、用意するようにしているの」

「な、何を言って……」

「あら、もう着てくれたのね」

その瞬間、衝撃のあまり呼吸が止まった。絞った喉から変な音がし、体は震えるように硬直し、目はかっと開いて雇い主を見ているのにうまく認識できない。

……何かいる。私の真後ろに。距離を取って状況を確認するべきだ。そう訓練したはずだ。なのに体はいうことを聞かない。今までの血の滲む努力を全部否定するように、ゆっくりと首だけ動かし、真横を見やった。

「似合っているわね。こっちにおいで。ママによく見せて」

雇い主は翼を広げる。それはとてとてと雇い主に駆け寄って、抱き付いた。私はまたゆっくりと体を動かし、真後ろを見た。

「バイトさん。この子が娘よ、可愛いでしょ?」

「ああ、なあ……お前は」

 

 

 

「-----本当にそれが娘に見えるのか?」

 

彼女が娘と言っているそれは雀の獣人ではなく異形……いや魚人と言うべきものだった。鱗で覆われ、粘性の潤った肌。口はぱかっと開かれ、細長い針のような牙が並んでいる。いつかの日にシャーレで見た、誰かが置いていった魚の図鑑。そこにあったチョウチンアンコウのそれだ。

……ああそうだ、あれはきっとチョウチンアンコウなんだ。魚人の背中には腸のような管があり、それが私の真後ろの方に続いていた。先ほど振り返った時、私はその果てを目で追ったのだ。だが街路樹と夜の闇に隠れて見通せなかった。だが何かがいる。大きな大きな何かが、私をじっと見ている。娘をちらつかせて、そちらに引き摺り込もうとしている。ああなんて事だ、何で私はこれに気が付かなかったんだ。気づいていたら、こんなバイト受けなかったのに!!

 

『この公園に夜に入ると、お化けに食べられちゃうって噂があるんだって』

 

前にあった子供の話を思い出す。いつの間にか陽が完全に沈んでいる。だから出てきたんだ、こいつがそうだ。公園のお化け、夜になると出てきて、侵入者を喰らう……。

「っ!!おい!それから早く離れろ!危険だ!」

恐怖を無理やり噛み潰し、アサルトライフルを構えた。照準は娘に合わせる。

「ちょっと、そんなもの娘に向けないで頂戴!!」

「それがお前の娘な訳がないだろ!どこからどう見ても化け物だ!!」

「そんな訳ない!!この子は私の娘なの!見てよ!もうすぐ小学生なのよ!制服もこんなに似合っていて、これから入学で、一緒に学校に通うの……ねえ?私の可愛いお姫様………」

頬擦りする雇い主を、娘は何の感情もない目で見ている。すぐに興味をなくしたようで私に向き直り、両の手を伸ばして来た。

「お腹すいたの?ならご飯にしましょう」

そう言って雇い主は手を離した。とて、とて、と可愛らしい足取りで娘が近づいてくる。私はアサルトライフルを構えた。

「うわああああああっっ!!」

我ながら情けない声を上げて発砲、1マガジンを空にする。娘の体は私達のように弾丸を弾かないようで、弾丸はぷつぷつと音を立てて肉の中に吸い込まれた。ぴゅっと血が吹き出した。嫌な記憶を思い出させるが、感情には浸っていられない。

娘はよろけこそしたが、立ち止まる事なく私の方に接近している。……倒せる気がしない。早く逃げなくては!マガジンを変えながら後ずさる………ダメだ!後ろには大元がいるんだ!

じゃあどこに逃げようかと周囲を見回した瞬間、絶望した。

 

とて、とて、とて。

 

とて、とて、とて。

 

とて、とて、とて。

 

娘だ。全く同じ姿形の娘の群れが、暗がりから歩み寄っていた。囲まれている、いやそれだけじゃない。真後ろにあった大きな存在の気配が、公園全体に広がっている。

最初からそうだったのだろう。あの娘達は、巨大な何かは、この公園そのものなんだ。私は公園に襲われ、公園に捕食されようとしている。

手榴弾、射撃、持っているあらゆる物を使って迎撃を試みる。傷つけられるし、大きなダメージを与えれば動かなくなるのも分かった。だが数が多すぎる、どんどん娘達が暗闇から湧いて来て、私を取り囲む。身動きが取れなくなっていく中、私はそれでも抵抗を続けた。

「うおおおおおおおおっっ!!………クソ!!」

最後のマガジンを使い切り、ハンドガンに持ち替える。だが威力の低いそれで何ができる?いっそ自分の頭を撃ち抜いてしまおうか?そんな絶望的な思いつきすら真剣に考えてしまうほどに追い詰められた、その瞬間。

 

(鳥の羽音)

 

「うん……?」

音のする方を見ると、一匹の鳩が木にとまっていた。夜闇の中なのにやけにくっきりと姿を視認でき、そしてなぜか見覚えがある、不思議な鳩だった。

鳩は私を一瞥すると飛び去る。よく見ると、そこにいる娘の群れらの中に隙間を見つけた。ここからなら突破できそうだ。

私はなけなしのハンドガンの弾を躊躇いなく使い、その隙間を強引に突破する。その先の暗闇からはまた娘らが出て来たが、いつの間にか鳩も近くにとまっていて、また飛び去ったのでその後を追った。鳩が飛び去る方向は包囲が甘い。まるで導かれるように私は走り続けた。

 

『……お墓、作ってもいい?』

『すまないがそれはできない。だが丁寧に取り扱うと約束しよう。任せてくれないか?』

『……分かった。ありがとうお姉ちゃん』

 

………実際そうなのかは分からない。だが私は助けられた。

「ありがとう、恩に着る」

無事に公園の敷地を脱出した時、姿が見えなくなった鳩へと祈りを捧げた。

 

 

翌日、あの公園で雇い主の遺体が発見されたそうだ。何かに食い殺されたような外傷があり、そんな事をする猛獣が自治区にいるのかと住民達は恐れ慄いていた。さらに興味深い事に、公園の至る所に小学校の制服が落ちていたらしい。一部のものは血塗れで、銃痕や爆破の後もあったそうだ。

ヴァルキューレの車両が公園に向かっていくのを一瞥し、私は︎⬛︎⬛︎自治区を出た。分からないことはあるが、それを調べるのは私の仕事ではない。それにもう関わりたくもない。しばらくはこの自治区には来ない事にする。

 

 

 

ここだけサオリが裏バイトで働いていて、ひどい目にあったりあわなかったりする世界




錠前サオリの裏バイト奇譚3

業務内容:公園の清掃
注意事項: 『幼児服が捨てられていたら回収して雇い主に提出すること』
勤務期間:14日間
給与額:1時間2万円×4時間×14日間=112万円

コメント:鳩達へ豆をやっていたら、糞害がすごいからと先生に止められた。仕方ないので野鳥保護の団体に募金をした。これで礼になるだろうか。
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