……そういえばパジャマイベントのストーリー見た後に改めてセミナー案件・兎狩り編を読んだんですけど、当時の自分が想定していた50倍くらいコユキがクソガキで爆笑しました。一挙手一投足に「お前マジか」って言ってた気がする。ヤバいですねアイツ……。
柴関ラーメンの配達のバイトを始めた錠前サオリだ。店主が新しい取り組みとして料理の配達をやってみようと考えているらしく、そのテスターとしてラーメン配達をするのがメインの業務内容だ。
ここでは今回の雇い主である店主の他に、アビドス高校のセリカがアルバイトとして働いている。彼女に任せればいいのではと思ったが、どうやら配達に使うバイクの免許を持っていないらしい。そこで免許を持ったアルバイトを探していて、先生の紹介で私が採用されたのだ。ちなみに同じアビドス高校の生徒であるクリスティーナとホシノは免許を持っておらず、アヤネは車の免許を持っているけどアビドス高校の仕事で忙しい、最後にブルーと(まだ会ったことがないのだが)もう1人のブルーとやらはロードバイクで配達しようとして大失敗したから採用が見送られたそうだ。散っていった彼女らの分も力になれるように頑張ろう。
……ああそうだ、まずは柴関ラーメンについて説明しないとな。ここアビドス自治区に屋台で出店しているラーメン屋で、自治区内外から客がやってくるほどの人気店だ。店名にもなっている定番メニューの柴関ラーメンは580円と低価格ながら中々量があり、太めの麺に絡み付く濃厚なスープは勿論、チャーシュー、煮卵等のトッピングも絶品で……いや本当に美味しいなこれ!!
「はふっ……、むぐむぐっ!」
「ああもう、誰も盗らないからがっつかない!あとお箸グーで持たない!」
「……むぐっ!?んむゔっ!!」
「ほら喉に詰まったじゃない!お水お水!」
先輩アルバイトの黒見セリカから水を貰い、その後お箸の使い方を教わりつつ柴関ラーメンを食べ進める。
ここはアビドス自治区の都市部の一角。少し開けた広場のような場所で柴関ラーメンの屋台とテーブル席が設営されている。もう少ししたら営業を開始し、客達もやってくるらしい。それまでの間にここで働き始める者として1杯食べておけと、ご厚意で柴関ラーメンを食べさせて貰っているのだ。
「いや、これは美味しい……本当に美味しい。すごい美味しいぞセリカ……!」
「もう、大袈裟だってば」
「大袈裟なものか!色々な所を放浪してきたが、ここまで美味しいラーメンは中々なかったぞ!」
「ハハッ、気に入ってもらえたようで何よりだよ!」
屋台の方から獣人(芝犬)の男性……柴関ラーメン店主の柴大将が快活な笑顔を浮かべながらこちらに歩み寄ってくる。彼が今回の雇い主で、私は先生から紹介されたこのアルバイトのためにアビドスへやって来たのだ。……まぁ、色々あって遅れてしまったのだが。
「柴大将、美味しいラーメンをありがとう。そして到着が遅れてすまなかった、改めて謝罪する」
「問題ないよ、むしろ大丈夫かい?旧オアシス前繁華街で遭難したって聞いたけど……」
「ああ、まあな……」
そう問いかけられ、私はセリカに視線を向ける。セリカはムスッとした表情のままウインクをして見せた。口裏合わせの通りに……と言いたいのだろう。と言うのも私の到着が遅れた本当の理由……あの旧オアシス前繁華街で起きたことは柴大将に話さないことを対策委員会の面々と決めたのだ。非現実的なことである上、余計な不安を柴大将に与えたくないから。
「……問題ない、極限状態の中でも生き残る訓練を受けているからな」
「そう言う問題じゃないんだが……まあ、元気だってならそれでいいさ」
「でも気をつけてよね、あそこは建物もかなり風化しているから。サオリさんも大将も、旧オアシス前繁華街には近づかない!いい?」
今一度注意をしてくるセリカに頷く。怒ったり不機嫌そうな態度が多いセリカだが、その根底には他者への気遣いや優しさが垣間見えるいい子だ。それは柴大将も理解しているようで、嬉しそうに微笑んで返事をしていた。
「分かってるよ。ありがとうセリカちゃん」
「私も理解している。心配してくれてありがとう、セリカ」
「……もう!ほら、準備しないと!早くしないとお客さん来ちゃうから!」
頬を赤く染めて膨らませたセリカにそう急かされ、私は急いで柴関ラーメンを完食する。スープも濃い味だがくどくなくて簡単に飲み干すことができた。次は替え玉を頼むことにしよう。
今回の報酬は1時間1600円で、バイト中はまかないとしてラーメンが提供される。キヴォトスの平均的なバイト給与よりも高い額だ。気前がいいな、張り切って行こう。
なになに、注意事項として『迷ったらコンパスを信じること』だそうだ。
「配達は都市部限定で行うつもりだけど、なにぶんアビドスは広いからね。何か間違って迷子になることもあるかも知れない。そんな時は地図とコンパスを照らし合わせて戻ってくるんだよ」
「了解した、使わせて貰う」
「あ、サオリさん。これも」
そう言ってセリカが渡してきたのは小さなお守り……と呼ばれるもの。生で見るのは初めてだ。
「これは……」
「交通安全のお守りよ。わざわざ買ってあげたんだから、大切にしてよね!」
「そうか、感謝する。……ところでこれはどう使うものなんだ?」
「え?」
「お守りを持つのは、いや見るのも初めてなんだ。だから使い方が分からなくてな……」
「そうなの!?……ううん。お守りは使うものじゃなくて持ってるものよ。持ってたら悪いものから守ってくれるから、大切にしてよね!」
「そうか……了解した」
持っているだけで悪いものから守ってくれる……とても便利だな。ついこの前に悪いものに襲われた身としてはありがたい限りだ。
『バイトさん、綺麗って言ってくれてたじゃないですか。どうして逃げるんですか?どうして私達は、こんな目に遭わなきゃいけなかったんですか……?』
いや、彼女は悪いものではない……か?あの時聞いた慟哭を思い出して思い悩む。首が少しむず痒くなって手のひらで撫でる。魚の鱗の感覚がした気が……いいや気のせいだ。
「配達の注文が来るまでは屋台の接客を頼むよ………サオリちゃん?」
「ん?……あ、ああ、すまない。了解した」
セリカとお揃いの制服を整え、頭に頭巾を被る。ふと遠くの方を見ると客と思われるアビドスの市民らがこちらへ向かって来ていた。あの数……満席になるな。早速忙しくなるが望むところだ、頑張ろう。
(1日目)
慌しいランチタイムの最中、初めての配達依頼がやって来た。
(携帯電話の着信音)
配達のために用意されたプリペイド式携帯電話、手が空いている者が対応することになっている。テーブルを片付けている途中だがそれが優先だな、一旦中断して……、
「いいよ、サオリさん。私出るから!」
「セリカ!分かった、頼む」
皿いっぱいのお盆を手に駆けて行ったセリカ。やはり私よりもずっと仕事が早く、こう言う時にもすぐ動いている。さすが私よりも先輩のアルバイターだ、彼女くらい動けるようにならないとだな。
そんなことを思いながら気合を入れてテーブルを片付けていると、セリカの怪訝そうな声が耳に入って来た。
「はい、柴関ラーメンです!……って、あれ?もしも〜し?」
「どうしたんだいセリカちゃん?」
「ああ大将、何か風の音はするけど誰の声も聞こえなくて……あ、喋り始めたって待ってこれ英語?聞いたことない言葉、ええと……あ、あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ!……あ、切れちゃった」
「何だったんだ?間違い電話だろうか……?」
「多分そうよね。はあ、せっかく初めての注文かと思ったのに……」
「仕方ない、そう言うこともあるさ。きっとすぐに次の注文が……」
(携帯電話の着信音)
「ほら来た!セリカちゃんよろしく!」
「了解!……はい!柴関ラーメンです!……はい、ラーメン2丁ですね!分かりました、すぐ届けます!ありがとうございます!………サオリさん、出番よ!」
「分かった、すぐに行こう」
テーブルの片付けがちょうど終わったタイミングで私にお鉢が回って来た。柴大将から出来たての柴関ラーメンが入ったおかもちを受け取りバイクに乗せる。そして駆け寄って来たセリカと最終チェックを行った。
「宣伝用のチラシは持った?」
「ああ、持ったぞ」
「釣り銭のポーチは?」
「ここに」
「コンパスと地図!」
「あるぞ、お守りもな」
「オッケー!いってらっしゃいサオリさん!気をつけてね!」
「初めての注文だ、しっかり頼むよサオリちゃん!」
「ああ、任せてくれ。行ってくる」
セリカと柴大将、そして数名の客に見送られて私は出発した。配達は問題なく行え、注文してくれた客からもいい評価をいただけたのだった。
その後何件かの配達を無事に済ませ、アルバイト初日を終えることができた。まだ至らぬ点はあるがセリカと柴大将がサポートしてくれて、精神的にも助かっている。ここ最近ひどい目に遭ったり恐ろしい事件に巻き込まれてばかりだったから、こんな風に穏やかな気持ちで仕事ができるのは嬉しくて、頑張ろうと思えてくる。懸念があるとすれば、あの不審な電話だろうか。最初にセリカが取った知らない言語の電話が、あの後も何度かかかって来たのだ。すぐに切れるが何度も来るのは煩わしい。明日はないといいのだが………。
幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)
14. ⬛︎⬛︎自治区の山間の村
立ち寄った時のバイト:シャーレ案件・植物採集
説明:有名な観光地である︎⬛︎⬛︎自治区の外れにある山間の村。ここに観光できるような場所はないが静かで温かな田舎の風景が広がっている。
コメント:あの後ふと調べてみたら、ヒダルソウが生えていたあの山諸共侵入禁止区域に指定されていた。村人達がどうなったのかは気になるが、この件に関しては先生が何とかすると言っていた。素直に任せることにしよう。
追記:うん、任せて。サオリもサヤも、もうこんな怖いものには関わらなくていいんだ。あれは私が滅ぼすから。
ー連邦捜査部シャーレの先生