実は本作関連でやってみたいことがあり、それの準備を進めております。目処が立ったら改めて報告するので気長にお待ちください。
(3日目)
「柴関ラーメンにいたずら電話、ですか?」
「うん、そう。何とかならないかな、アヤネちゃん」
セリカの問いにアヤネは腕を組み考え込む。険しい顔になる2人の前に私はサンドイッチとスープを置いた。
「食べながらでいい、聞いてくれ。柴大将も困っているんだ」
「はい、もちろんです。朝ご飯ありがとうございます」
「いいさ、私が食べるついでだからな」
「いっただきまーす……ん〜!美味しい!」
拙い手作りの朝食に喜んでくれる2人を眺め、私はスープを口に含んだ。うん、問題ない味だ。
ここはアビドス高校の家庭科室。今は朝食を作ってセリカとアヤネと一緒に食べているところだ。と言うのも、アビドス自治区に滞在中は廃墟で寝泊まりするつもりだと話したら、対策委員会からアビドス高校で寝泊まりする許可を貰えたのだ。シャワー室も家庭科室も使わせて貰えて、当たり前だが廃墟よりもずっと快適に過ごせている。
一応監視の名目でアヤネとセリカが朝と夜に様子を見にくるのだが……まあ、こんな感じでだいぶ緩い。ただの朝食会と夕食会になってしまっている(食費はちゃんと出してくれる)。何だか心配になってくるが、これもまた信頼してくれている証だろう。裏切らぬよう気を引き締めなくては。
閑話休題、私とセリカはアヤネにバイトでの悩みを……配達用携帯電話に掛かって来る悪戯電話のことを相談することにした。初日の1番最初に掛かって来たそれは結局、その後も何度も何度も掛かって来るのだ。
「内容はこう……私の知らない言葉だった。最初は通じるかな〜って思って英語で受け答えしてみたんだけどダメだった」
「セリカは凄いな、英語が使えて。私は今喋ってる言語しか分からないぞ」
一応英語と古代語をアリウスで少しだけ勉強していた。だが戦闘訓練が最優先だったから片言で喋れる程度にも習熟していない。他の言語を習得することの難しさは分かっているつもりだから、私はセリカを手放しで褒めた。するとセリカは顔を真っ赤にして反論してくる。
「いや、大したものじゃないから……!勉強したカタコト英語!……ああ、でも今考えたら、あれは英語じゃ無いと思う。発音とか違ってた………気がする」
「英語じゃない……どんな感じだったか思い出せる?セリカちゃん」
「う〜ん……ごめん、毎日聞いてるのに上手く思い出せないと言うか、記憶にもやが掛かってる感じで……。何だか思い出そうとすると、気持ち悪いって言うか……」
「気持ち……悪い?ええと、サオリさんは思い出せますか?」
「いや。実は私はまだ悪戯電話どころか、配達の電話そのものに出たことがないんだ。基本あちこち走ってるからな」
「そうでしたか……とにかく、未知の言語の悪戯電話、キヴォトスに他の言語を使う自治区はないはず。そもそもどうして柴関ラーメンに?」
「……分からない」
1日目に同じ質問を柴大将にしてみたが、回答は私と同じだった。まあ柴大将の人柄なら恨まれたり、それこそ極端だが店を爆破してやろうなんて考える奴はいないだろう。だからこそ分からない、あの悪戯電話は何が目的なんだ……?
「………そう言えば、着信拒否にはしてる?セリカちゃん」
「してる!なのに掛かって来るから気味悪くって……」
「掛けて来る奴の番号はずっと同じなんだ、相手は複数の電話番号を使って悪戯を仕掛けているわけでは無い。なのに着信拒否が無効化されている……これはハッキングでもされてるのだろうか?」
「ごめんなさい、その分野は私も分からないので何とも………」
「やっぱりそうだよね……ああもうムカつく!昨日なんて5回連続よ!?6回目は文句言ってやろうと思ったら普通のお客さんで、思い切り怒鳴っちゃって……ああ〜やらかしたぁ………!!」
「そう気にするなセリカ、誰にだって失敗はあるさ。スープのおかわりはいるか?」
「…………飲むぅ……ありがとサオリさん……」
皿にスープをよそってやり、テーブルに突っ伏しているセリカの前にお供えでもするかのように置いてやる。柴関ラーメンが中々濃い味だから、あっさり系のオニオンスープを作ってみた。その香りに誘われてぶうたれ顔のセリカが起き上がり、ちびちびとスープを啜り始めた。可哀想に思えてアヤネと一緒に猫耳を撫でてやる。いつもなら怒るのに撫でられるがままで、相当気が滅入ってることが見てとれた。
「さっきも言ったが、私は基本的に配達だから電話を取ることはなくて、柴大将はラーメンの調理で忙しい。電話に1番対応してるのはセリカなんだ。だから1番被害に遭ってるのもセリカで……可哀想でならない」
(もふもふ)
「…………」
「柴大将も大変でしょう、せっかく配達を始めたのに変な人に粘着されるなんて………分かりました。その悪戯電話の番号を教えて貰えませんか?」
(ふわふわ)
「…………」
「アヤネ?何をするつもりだ?」
(もこもこ)
「…………」
「逆探知やハッキングなどの大それたことはできませんが、電話の発信元を辿ることはできると思います。誰が掛けてるか分かれば、直接言って止めて貰うこともできるかと」
(ふにふに)
「……………」
「なるほど……だが悪戯電話とは言え個人情報だ。一度持ち帰らせてくれ、柴大将に話してみる」
(ほよほよ)
「はい、お願いします!」
「……………………ぅ」
「ん?どうしたセリカ?」
「あっ」
「うがあああああああああああ!!耳もふもふするなあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「あっこら、スープが溢れるだろ」
「ご、ごめんねセリカちゃん……触り心地良かったからつい」
「ああもう!!そう言いつつもふらないで!!!!分かったから手を離して!!!!」
セリカの堪忍袋の尾が切れたところで話を切り上げ、アヤネとセリカを宥めつつ朝食を食べ終わる。そして全員で仲良く歯磨きと食器洗いを終わらせた頃には、校庭の方から賑やかな話し声が聞こえて来た。
「ブルー達も来たな、行くか」
「はい、今日も迎えに行きましょうか!サオリさんの見送りも!」
「何かすっかり定番になってるけどさ〜……恥ずかしくない?こう、青春してるみたいでゾワっとすると言うか」
「青春してるならいいことではないのか?あの時……エデン条約調印式の時、ファウストはそれを守るためにお前達と一緒に戦った。そうだろ?」
「ま、まぁ、そうかも知れないけど…………って、待って?ヒフミさんのことファウストって呼んでるの?え?」
談笑(セリカは何故か戦慄し、アヤネは何故か苦笑いしている)を続けながら家庭科室を後にする。正面玄関でブルー、クリスティーナ、そしてホシノと合流する。服にこびり付いた砂を払っていた3人は私達を見るとふわりと顔を綻ばせた。
「おはようございます!」
「おはよう先輩達」
「セリカちゃ〜ん!アヤネちゃ〜ん!サオリちゃ〜ん!お迎えありがとね〜、おじさん嬉しくて泣きそうだよ〜」
「皆さんおはようございます〜♪サオリさん、今朝はよく眠れましたか?廃墟よりはいい環境だと思いますが……」
「問題ない。気遣いに感謝する、クリスティーナ」
「ノノミそれ昨日も聞いてた……ん?サオリ嬉しそう」
「何?……そう見えるか?」
「うん。何かあった?いい夢でも見た?」
「いや……そうだな。夢でも見ているみたいだと思ったんだ」
さっきファウストの名前を出したからだろうか。懐かしき自分の罪を、そして晴れ上がった青空をふと思い出した。あの時はあの空が、ファウストとアズサ、対策委員会を含めたあの場の全てが忌々しくて仕方なかった。彼女達が守ろうとしていたもの、自分達は絶対に手に入れらないと思っていたものへの憎しみと虚しさ、それでも姫だけは守りたいと必死になっていたこと……色々思い出して辛くなるな。
でも……でも今は尊いものだと思えている。そして今も昔もそれは眩しくて明るくて……アビドスの面々のそれを体現しているかの様な生き方がとても素晴らしいものだと感じたのだ。その中に自分もいることが、本当に夢でも見ているみたいで……。
「……青春とはいいものだと、そう思っただけさ」
「…………うへ〜、そんな可愛いことシラフで言えちゃうの?サオリちゃんってば本当に純粋だよね。汚れ切ったおじさんには眩しいな〜」
「そ、そんなことはないと思うが……。それに、ホシノは汚れてないしむしろ綺麗だと思うぞ」
「うぉっ!?」
「うんうん!ホシノ先輩はとーっても可愛いですよね♪」
「うん、小さくて可愛い先輩だと思う」
「アハハッ、ホシノ先輩タジタジじゃん!」
「意外と攻められると弱いですよね、ホシノ先輩は」
「そ、そんなこと言って……!みんなしておじさんを揶揄うな〜!」
プンスカと言う幻聴が聞こえてきそうな可愛らしい怒り顔。私達を叩いてやろうと腕を振り回しているがその軌道は当たりそうに無く、仮に当たっても痛くないだろう。そんな戯れに笑い合い……おっと、そろそろ出なくては。
「じゃあいってくる。お前達、勉強頑張るんだぞ」
「はい、いってらっしゃいサオリさん!さっきの話もよろしくお願いします」
「私が来るまで柴関ラーメンのこと頼んだわよ、いってらっしゃいサオリさん!
「ん、いってらっしゃいサオリ。気をつけて」
「いってらっしゃいサオリさん。何かあったら呼んでくださいね、私達……愛と正義の覆面水着団が助けに来ますから♪」
「うへ〜、学校終わったらラーメン食べに来るよ〜、だから頑張ってね……いってらっしゃい、サオリちゃん」
「……ああ、みんなありがとう」
「いってきます」に「いってらっしゃい」が帰ってくるのは、なんて幸せなことなんだろう。再認識し噛み締めながらアビドス高校から出た。キヴォトスを照らす太陽、他の自治区と比べてやけに暑く感じるのはアビドス自治区の気候故か。それに負けじと見上げてみると、ファウストが晴らしたあの時のような青空が広がっていた。よし、今日も頑張ろう。
「…………行ったね、サオリちゃん。うん……うへ〜、本当に真面目で素直で純粋で、とってもいい子だよね。色々あったらしいけど、先生を撃ったって話も聞いたけど……ふふっ、すっかり牙を抜かれちゃったよ。うん、本当に……あんないい子が酷い目に遭うなんて、そんなのダメだよ。ましてやその原因が、アビドスのかつての生徒だなんて…………」
「……ホシノ先輩」
「分かってる、分かってるよアヤネちゃん。1人で行ったりなんてしない。だからみんなで力を合わせて……サオリちゃんを守ろうか」
「……はい。皆さん、今日の分のBDを見終わったら部室に集合してください。アビドス高校廃校対策委員会、緊急会議を行います!」
「________よぉ、サオリちゃん!今日も朝早くからありがとうな!」
「ああ、問題ない。早速だが何をしたらいい?」
柴大将曰く、ラーメン屋の朝は早い。スープを炊き、食材を切り、ラーメンを手打ちする。その他諸々の作業を開店までにこなさなければならないのだ。
この作業は屋台ではできないので柴大将の自宅で行われている。アビドスの住宅地にある立派な一軒家(他の自治区ではバカにならない金額になるが、アビドスだとタダ同然らしい)に行き、私でもできる食材の仕込みを手伝う。例えばもやしを茹でたりネギを切ったりだ。増設されて随分と広々としたキッチンを2人でパタパタと駆け回り、手際よく作業を終わらせていく。時々わからないことを教わるため、もしくは私のミスをカバーしてもらうために柴大将の手を煩わせてしまったが、それでも1人でやるよりずっと早く終わったと褒めて貰った。まだまだ一人前には遠いが、役立っているなら何よりだ。
仕込んだ食材を屋台に詰め込み、都市部の広場に行こうとした時、私はすっかり忘れていたお使いを思い出して柴大将を呼び止めた。
「え?悪戯電話の電話番号が欲しい……だって?」
「ああ。アヤネが電話の元を調べたいそうだ。もし何か分かったら悪戯電話だって止められるはずだ。柴大将とセリカの負担もなくなる。だが個人情報だからな……どうだろうか?」
「なるほど、アヤネちゃんに心配かけちまったな……よし。本当はダメだけど、アヤネちゃんなら信頼できる。きっと悪いことには使わないはずだ。電話番号、送っていいぜ」
「感謝する、大将……やはりセリカやアヤネ、アビドスの生徒達を信頼しているんだな」
「勿論!あの子達は誰よりもアビドスを……そこに住む俺達のことを考えてくれているからな!ああ、サオリちゃんのことも信頼しているさ」
「わ、私か?」
アビドスの生徒達と柴大将の絆に感心していると、唐突に私の名前を出されて声が裏返った。気持ちはありがたいが、どうして急に?それにまだ会って3日目だぞ……?
「一緒に仕事をしてりゃあ……いや、ラーメンを食べてる姿を見れば分かるさ。サオリちゃんがとってもいい子だってな!」
「そうか……その、照れるな……」
「はっはっは!悪い悪い!……サオリちゃん、自分探しの旅をしてるって言ってたよな?」
「……ああ、自分のやりたいこと、なりたいもの、これからどう生きるかを探している」
「そうかい……じゃあアビドスでも何か得られるといいな!きっとサオリちゃんなら、たくさん素敵なものを見つけられるさ」
「……ありがとう、柴大将。今はとりあえず、このバイトを頑張ることにするよ。このラーメンも……私が見つけた素敵なものの1つだからな!」
「おお!嬉しいこと言ってくれるね!!時間が空いたら作り方教えてあげよう!」
「フフッ、その時はよろしく頼む」
柴大将の歓声を受けて気合いを入れ直し、私は新しく購入したスマホでアヤネに電話番号を送った。
屋台とバイクをいつもの広場に運び出し、テーブルを広げて早速開店。無事にランチタイムに間に合って、たくさんの客がラーメンを食べに来てくれた。
「柴大将!柴関ラーメン並2つ、大盛り1つだ!」
「あいよお待ち!」
「柴大将!チャーシュー丼の注文があったが、そんなメニューあったか?」
「ああ、店舗だった時のメニューだな。屋台になった時に規模縮小のために廃止してたんだが……いや、注文されたなら出すさ!ちょっと待ってな!」
「柴大将!!ラーメン大盛り20杯追加だ!何だアイツは!?ラーメンを飲み物みたいに……!!」
「いい食べっぷりじゃないかお嬢ちゃん!!うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「噂以上の美味しさ!アビドスまで来た甲斐がありました♣︎」
「風紀委員会の手伝いもあるから、長居はできないわよ!アカリ!これが最後だからね!」
「フフッ……その節はお世話になりました。いずれ恩返しさせていただきますわ、救急医学部の狙撃手さん?」
「っ!?…………人違いだ」
「……セナ部長には、元気そうだと伝えておきますわ」
「んーっ!チョコレートソースかけてもなまこソースかけても美味しい!すごいね大将さん!」
「ありがとよ!!うおおおおおおおおおお!」
……とんでもない変数が飛び込んできたがどうにか捌き切り、今日も壮絶なランチタイムを乗り越えることができた。テスターがこんなこと言うのはどうかと思うが、配達の依頼がなくて良かった。これワンオペだったら柴大将倒れてただろ……。
(携帯電話の着信音)
美食研究会もゲヘナに帰り(奴らの通信機からアコの怒鳴り声がここまで聞こえてきた。復興中に何やってるんだコイツら)、客足も落ち着いてきた昼下がり。配達用携帯電話が子気味いいメロディを響かせた。
「おっと!今電話を……」
「柴大将、調理中だろう。私に任せてくれ」
「そうかい、じゃあ頼むよ……って、サオリちゃんが電話とるの何だかんだ初めてだな。大丈夫かい?」
「問題ない。セリカから習ってるし、ずっと見てたからな」
そう言って携帯電話を手に取り、通話を開始する。そして同時にセリカの電話対応を思い出した。
『……もう!!これで6回目よ6回目!!いい加減にしないとぶっ飛ばすわよ!!…………あれ、お客さん?ああっ、ごめんなさい!!!!』
……いや、こっちじゃなくて。
『……はい、こちら柴関ラーメン!配達ですね?ご注文をどうぞ!』
まずは挨拶、そして注文を聞く。
『……はい、確認しますね。柴関ラーメン並1つ、大盛り2つ!よろしいですか?』
注文を復唱して確認。
『……では住所を教えてください。ええと…………はい、ありがとうございます!すぐに配達しますね!』
そして最後に配達先を教えて貰う。メモに取っておく。
『……はい、ありがとうございます!失礼します!』
お礼も忘れずに言う……以上。同じようにやれば大丈夫だろう。よし、やるぞ。
「……はい、柴関ラーメン。配達の依頼だな?注文を言ってくれ」
「…………………………バイトさん」
「……柴関ラーメン並1つだな。了解した」
「……どうしてホテルを出たんですか?どうして私を置いて行ったんですか?水槽を気に入ってくれていたじゃないですか。どうしてですか?」
「……よし、では住所を教えてくれ」
「どうして?どうして砂漠は広がっているんですか?どうして?どうして校舎を捨てなきゃいけなくなったんですか?どうして?どうしてオアシスは枯れ果ててしまったんですか?どうして?どうして私達だけこんな目に遭わなきゃいけないんですか?どうして?……ねぇどうして?」
「……感謝する。すぐに届けよう」
「ねえバイトさん。どうして私達は殺されなきゃいけなかったのですか?」
「……改めて、注文してくれてありがとう。失礼する」
「…………待ってます」
(通話を切る音)
「よし、柴大将!柴関ラーメン並1つだ!」
「おうよ!……それよりサオリちゃんすごいな!受け答えできるなんて!最初からサオリちゃんに任せておけば良かったよ!」
「そうか?大したことはしてないと思うが……」
何だか柴大将、とても褒めてくれるな。まるでできないと思っていたのに予想外……と言ったところか?いや、ただの電話対応だからそんなことはないと思うのだが……まあいいか。
テーブルの片付けや接客をしながら待っていること数分。柴大将から出来たての柴関ラーメンが入ったおかもちを受け取りバイクに乗せる。そして駆け寄って来たセリカ……ではなく柴大将と最終チェックを行った。
「宣伝用のチラシは持った?」
「ああ、持ったぞ」
「釣り銭のポーチは?」
「ここに」
「コンパスと地図は?」
「あるぞ、お守りもな……落ち着いてきたが、客足はまだまだ止まりそうにないな。すぐに戻る」
「いや、今日はアビドス高校が午前中で終わりらしいから、セリカちゃんがもうすぐ来るんだよ。だからこっちの心配はせずに、安全運転でいっておいで」
「そうか……了解した、いってくる」
柴大将と客達に見送られて私は出発した。目的地はアビドス高校第3校舎で……あれ?確かそこは……私の知るアビドス高校ではない。ええと、砂漠のど真ん中の建物だったよな。地図にはそう描かれてあったはず……。
「……あ」
やってしまった。バイクを走らせながら地図を広げようとしてしまい、誤って手を離してしまった。地図は風に吹かれて飛んで行き、アビドスの空の中にかき消えてしまう。せっかく貰ったものなのに、備品をぞんざいに扱うなんてバイトとして失格だ。
「……でも、まあ、いいか。行かなきゃ。あそこに」
場所は分かる。何となくだけど、そこにある気がする。私は迷うことなく、説明できない何となくのままにバイクを走らせた。
「________いやぁ凄いなサオリちゃんは。まさかあの迷惑電話の話が聞き取れるなんて!横で聞いててびっくりしたよ。セリカちゃんにも教えとかなくちゃな……お、柴関ラーメン並ね!すぐ作るから待っててな!」
幕間・サオリのバイト百景(100個あるとは言っていない)
15.⬛︎⬛︎ビーチ
立ち寄った時のバイト:ビーチ前屋台警備
説明:アウトロービーチの付近にある⬛︎⬛︎自治区のビーチ。海の家ではなくたくさんの屋台が食べ物を売ったりくじ引きなどのミニゲームを提供しているのが特徴で、それらを組合が管理している。
コメント:ビーチでのことを先生に伝えておいた。毎回面倒ごとを押し付けてしまって申し訳なくなる。ヨシミと放課後スイーツ部の面々にも近づかないよう言っておいた。まあ大丈夫だと思うが……みんなで食べたココナッツケーキ、落ち着いたらまた皆で食べに行こう。あの時は恐ろし過ぎて味がしなかったからな。
追記:……ココナッツジュース販売禁止だって、サオリは言ってたはず。なのに何でどの店も、ココナッツジュースを売っているんだろう?
ー連邦捜査部シャーレの先生