ドレスサオリ当てたのでメモロビ見てきます。
________その後、体調が落ち着いた私は駆け付けてくれたセリカと共にその場を離れた。放棄されて長い時が経った通学路が、枯れたオアシスの縁をなぞるように伸びてアビドス高校第3校舎と旧オアシス前繁華街を繋いでいる。陽を隠すほどの砂嵐が発生しているが、旧オアシス前繁華街へはこの道を辿るだけなので迷うことはないだろう。
「…………サオリさん、支配人と一緒にいたの?」
道中、不安そうに問いかけてきたセリカに頷き、私は思い出せる限りのことを話した。自分をアビドスの生徒だと思い込んでいたこと、登校中にドーナッツアイスやその他の……かつて売られていたと思われる食べ物を食べたこと、そして支配人と一緒に第3校舎へ登校しようとしていたこと。
「…………一切疑問に思わなかった。最初からそうであったかのように私は振る舞っていて……アビドスの制服なんて、着慣れていると感じたくらいだ」
「せ、先輩達が喜びそうね……でも、そっか。さっきサオリさんは支配人と話してたんだ」
「……そう言えばセリカ、お前には支配人が見えなかったのか?躊躇いなく頭部に発砲してたが……いや、それは普通か」
ここはキヴォトス、誰もが銃を持ち誰かに撃ち込むのが当たり前な場所。頭部に発砲なんて気にしていたらキリがない……が、人が死んだら話は別だ。
死なないから引き金が軽くて、その分命が重い。そんな普遍的な感性を……私のような狂わされたアリウス生徒ならともかく、一般人のセリカが持っていない筈がない。だがセリカは支配人に致命傷を負わせたのにも関わらず平静を保っていて、むしろ私に落ち着くよう叫び続けていた。付き合いはまだ短いが、彼女なら動揺すると思ったのだが……。
「……多分サオリさんが支配人だと思って話してた奴、私には砂の塊に見えた。それが喋ってるってよりかは砂嵐の風が人の言葉みたいに鳴ってて、でも意味が分からない……そう!あの悪戯電話の言葉に聞こえた」
『…………⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
『…………︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
『……⬛︎⬛︎⬛︎。⬛︎⬛︎⬛︎、︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……⬛︎⬛︎、︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……』
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎…………︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
『………………』
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎、︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎………………︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎?︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
『………………⬛︎⬛︎⬛︎』
「…………って感じで、砂の塊に頭突っ込んで話してた!」
「嘘だろ……」
頭を抱えた。自分が自分の知らない言語で流暢に話をしていて、それに一切気が付けないでいたなんて不気味過ぎる。しかも相手は砂の塊?私は一体何と一緒にいたんだ?いや、支配人なのだろうが……実際にはそこにいたのは私1人な訳で……ああ駄目だ、混乱してきた。落ち着こうと軽く頭を振る。砂嵐だけでは説明できない量の砂が髪から溢れた。本当に頭から突っ込んでたんだな、支配人の胸と書いて砂の塊に……。
ここまで来ると自分が今喋っている言葉も信頼に値するものか怪しくなってくる。大丈夫か、通じているかとセリカに恐る恐る聞いてみると、セリカは「大丈夫よ」と言って私を宥めてくれた。
「私が背中を叩いてからは普通の喋り方に戻ってるから。あ、ごめんなさい!さっきは急に背中叩いちゃって……!」
「いいんだ、それで助かった。ありがとう……そういえばセリカ、お前から貰ったお守りにも助けられたよ」
「え?お守りに?」
自分であげたものだろうに、俄かに信じられないと首を傾げるセリカ。そんな彼女に私はお守りのことを話した。身体から熱が抜けて苦しかった時に温めてくれたこと、あの青色の炎が無かったらきっと間に合わなかったこと……。改めて感謝も伝えると、セリカは顎に手を置き考え込んだ。
「あの青い光は、お守りだったのかな……?」
「青い光?」
「うん。私がサオリさんを追いかけて来た時には、もうこの辺り一体砂嵐で覆われてた。どうしようかって思ってたら、青色の光……炎?が見えて、そこにサオリさんがいる気がして……」
「……それを頼りに、私に辿り着けたんだな」
「うん。日が隠れて寒くなってたけど、そこだけ暖かかったから、居るからそこかなって」
不思議な話だ……でもお陰で助かったから文句はない。
「サオリさんが事故りませんようにっていっぱいお祈りはしたけど、そんなご利益があるお守りだったのかな?」
「お守りだからご利益はあるものじゃないのか?そう信じて買ってくれたんだろう?」
「いや、本当にご利益があるお守りって中々ないんじゃない?気の持ちようと言うか気休めみたいなものって言うか……?」
「それを言ったら終わりだろ……」
「あはは……あ、でも私以外にもアヤネちゃんとか先輩達とか、柴大将がサオリさんのことを気にかけてる。だからみんながサオリさんが安全にバイトできますようにって祈ってると思う。その思いもあったんじゃない?」
「そうか……なら尚更、無事に帰らないとな」
そう決意し頷き合い、周囲を警戒しつつ歩を進める。砂に足を取られるお陰で進行速度が亀の様に遅い。その上陽が隠れてるせいで気温が下がっており、吹き付ける風も相待って体温がどんどん奪われていく。
私は懐に手を突っ込み、僅かに残る熱で指を温めた。いつもならコートがあるが今日は柴関ラーメンのTシャツ1枚。バイト中ならともかく、今この状況には適さない。ふと横を見ると……ああ可哀想に、セリカが鳥肌を立てて顔を顰めている。頭上の猫耳も逆立ってふわふわになってる。
「フフッ、冬毛だな」
「そんなじっと見ないで!触ろうとしないで!!」
ついつい伸ばしていた腕を引っ込める。後でアヤネと一緒に頼み込んだら触らせてくれるだろうか?ブルーの耳も触ってみたいな……ああ、駄目だ。寒くて変なことを考え始めている。だがそれでも歩き続けていたお陰で、私達はようやっと旧オアシス前繁華街の廃墟群に辿り着いた。
「だあああっ、着いたぁ……!!」
「休んではいられないぞセリカ、人の居る市街地はまだ先だ」
「分かってるって……それにしても、この廃墟にも人がいるように見えてたの?」
「ああ。観光客や店の人達もいた。声も顔も思い出せるくらい鮮明だった…………だから、正直混乱している。さっきまで綺麗だった街並みが、いつの間に廃墟になって……」
「……ここで買い食いなんかもしてたんだよね?砂だけど」
「ああ、マスタードーナッツのアイスや冷やしフルーツ、あとサハラブとかだな」
「冷たいものばっかり……って、サハラブ?何それ?」
「やはり知らないか。支配人はアビドスのローカル飲料だと言っていたが……」
「牛乳とコーンスターチと砂糖を混ぜて温め、それにココナッツパウダーやシナモンを掛けた飲料です。ネフティスの飲料メーカーが温かい飲料として売っていたのですが、砂祭りに合わせて冷たい版を企画・販売したんですよ」
「そうなのか。美味しいんだよなこれ……」
「フフッ、ですよね。私も大好きです」
そう言って支配人はサハラブの缶を2つ手渡してくれた。私の分とセリカの分だな、ありがたく受け取ってセリカに差し出す。瞬間、
(平手打ちの音)
青ざめた顔のセリカが私の腕を叩く。予備動作が見えた瞬間、驚きと困惑で動くことが出来ずに直撃してしまった。だが腕を叩かれた瞬間、直射日光でぼやけていた視界に闇と砂が戻ってくる。私は腕に握っていたサハラブの缶……ではなく砂の一塊を溢し落とした。
「サオリさん!!」
「っ!?クソ……!」
振り返る、並んで歩いていた支配人の姿はもうない。意識はハッキリしていたんだ、間違えるはずない!なのに……まるで別の記憶が差し込まれたかの様な不快感に肩が跳ねる。前兆なんてなかったのに、あの一瞬の間に幻覚を見せられた……?
「走って!」
そう言ってセリカは私の腕を掴んで引っ張る。その手はとても温かく、しかし焦りから汗が滲んでいる。支配人の手とは大違いで……いや、考えてる暇はない。今は逃げるのが最善だと判断して走り出す。
「すまんセリカ!また支配人が……!」
「分かってるけどびっくりした!急に明後日の方向に話し始めるんだから!とにかくここから逃げないと……!」
積もった砂と吹き付ける風を掻き分ける。体力に余裕のあるセリカが引っ張ってくれるおかげで私の足取りも軽やかだ。支配人が引っ張ってきた時と違って走りやすくてありがたい。
(喧騒)
瞬きをした瞬間砂嵐が掻き消え、周囲が廃墟から観光客でごった返した旧オアシス前繁華街に変わる。群衆が、道路の真ん中を走る私達を怪訝な目で見ている。何だアレはと言いたげだがそれを言いたいのはこっちだ。
私は咄嗟にセリカの手を強く握った。セリカが握り返してくれる、すると人々の姿や景色が掻き消えて元の廃墟に戻った。砂嵐が激しさを増していて目にゴミが入った。それを取り除こうと目を擦る。果たして視界が回復すると、また廃墟が綺麗な姿に……過去の幻覚に戻っていた。
「セリカ……セリカ大変だ。廃墟が街に、人がたくさんいて……!」
「私には見えない!ここはただの廃墟!!道なりに進めばいいだけだから、大丈夫だから……私を信じて走って!!」
「分かった……ああ、分かってる……!!」
瞬きの度に世界の明暗が変化し、明るく幸せな幻覚と暗く険しい現実が入れ替わる。冷やしフルーツ串の屋台を通り過ぎた。そこは道が砕けた広場だった。かき氷を売るキッチンカーを通り過ぎた。それは錆びた廃車だった。マスタードーナッツの支店を通り過ぎた。崩れかかったビルに砂まみれの看板が垂れ下がっていた。
瞬きのために消えたり現れたりする群衆の視線が痛い。よく見るとその中に支配人がいる。走って通り過ぎてもその先でまた現れて、眼前を通り過ぎる私達を見つめている。真顔で、水底の様な真っ黒な瞳で私達を見ている。彼女と目が合った瞬間瞬きをしたため姿が消えた。彼女が立っていた場所には砂があるだけだった。
ああ……私はすっかり狂ってしまっているらしい。だがその中でも目の前のセリカは変わらずに引っ張ってくれた。セリカは何も見えていないらしく、だからこそ真っ直ぐに進んでくれる。彼女なら大丈夫……私は周囲を見回すことを止め、セリカの背中を見続けることにした。警戒できないのは痛いが……いや、こんな狂った視界では役に立たない。セリカを信じて、足を止めるな……!!
だが……、
「……っ!?危ない!」
「え?うわっ!?」
(戦車の駆動音)
ずっとセリカを見ていたから、前方の景色は多少見えていた。だからそれを……迫り来る観光用レンタル戦車を目にした瞬間私はセリカの手を引っ張り返して横に転がった。クソッ、車道のど真ん中を走ってたばっかりに!!
「キャ……ゔっ!?」
「セリカ……!」
地面に激突した衝撃で手を離し、隣に投げ出してしまったセリカを見る。積もった砂がクッションになってくれたが、脇にあった廃車に頭をぶつけたらしい。立ち上がろうとしているがバランスが取れていない。すぐに肩を貸してやらなければ、そう思って駆け寄った瞬間、私は気づいた。
(砂嵐の風の音)
(朽ちた建物が軋む音)
(人のいない街の喧騒)
「……こんな廃墟に、戦車が走ってるわけ無いだろう…………!」
「やだなぁ、バイトさん。観光地ですよ?あるに決まってるじゃないですか」
背後から声、瞬きしていないのに世界が変容する。マスタードーナッツを食べる観光客達。かき氷や冷やしフルーツ串を売っている現地人達。サハラブの瓶を持つアビドス生徒達。旧オアシス前繁華街に居る全ての人間が私のことを見ている…………全員、支配人の顔をしている。獣人も、ロボットも、生徒も、顔に上から貼りつけたかの様に支配人の顔になっている。どうしてさっきまで気が付かなかった?いや、これですら当たり前のことだと認識していたんだ。
『っ……!!ですよね!ここで!2人きり!いっぱい青春しましょうね!!』
「…………どうして私なんだ?」
「……水槽を好きになってくれて、あんなにずっと眺めてくれて。だから好きになったんです。本物のオアシスを、砂祭りを…………アビドスを、見せたいなって思ったんです」
そう言って彼女は私の背後から抱き付いた。氷のように冷たい皮膚に触れて私の身体が跳ね上がる。サハラブの瓶を顔に押し付けられる。引き剥がそうとしたが力が入らず押し返され、瓶が唇に触れた。甘い香り、乳白色の液体。でも本当は砂なんだろう?そんなもの口に入れられないから必死に抵抗する。もがき、口を閉じ、だが3対の支配人の腕が私を取り押さえ、2本の支配人の右腕が私の口をこじ開けた。遂に瓶は傾けられた。
「________ッ!はあぁぁぁぁぁっ!!」
(銃声、炎が吹き上がる音)
その時、私はセリカの背後に青色の炎を幻視した。彼女は雄叫びと同時に私へ発砲。サハラブの瓶を、私に絡み付いていた腕を弾き飛ばしてくれた。割れた瓶と千切れた腕は瞬く間に砂へと変わり、私の視界も一気に暗転する。視界が薄暗い砂嵐の中に戻……いや、もっと激しくなっている!太陽を完全に覆い隠し風が視界を覆い、一寸先も見えなくなってる……!
「ぐっ……セリカ!」
自由になった身体でセリカの元へと這う。立ち上がることを諦めて砂に顔を埋めていたセリカを抱き上げる。私が騙されて投げ飛ばしたばっかりに、セリカは目を回して意識も朦朧としていた。後頭部に触れると大きなたんこぶの感触があった。ああ、私のせいで怪我をさせてしまった……。
「すまない、セリカ…………あの青色の炎、ずっとお前が守ってくれていたんだな」
「えへへ……どんなもんよ、全弾……命中よ…………」
そう言い残してセリカは意識を手放す。力が抜けた身体がダラリと垂れ下がる。私は彼女を1度抱き締め、背中に背負って立ち上がった。
こんなところに居られるか、さっさと抜け出さねば。だが砂嵐は私の方向感覚を吹き飛ばしてしまっていた。道路の痕跡をも探そうにも足元が暗い。屈んで地面を見続けながら進むか?ダメだ、セリカを背負いながらそんなことできる体力も、ゆっくり痕跡を探す時間もない。
途方に暮れた。とにかく前に進んだ。方向?分からんと言ってるだろう……!!でもどこかにまっすぐ進めば時間はかかるが旧オアシス前繁華街から抜け出せるはずだ。前に進まなくてはならない、出ないと砂鑢が私の体力を削り落とし、冰風がセリカの炎を掻き消してしまう。そうでなくとも、またいつ支配人が現れるか分からない。
(砂嵐の風の音)
(朽ちた建物が軋む音)
(人のいない街の喧騒)
聞き間違いだ、そうであってくれ、だがそうとしか思えなくなってくる。耳に入る音全てが支配人の囁きに、あるいは悲鳴に聞こえてくるのだ。そして全方位から支配人の気配を感じる。支配人はまだここにいると確信めいたものがあった。
影の中から手を伸ばそうとしている。私に触れられないのはセリカの命の炎が燃え続けているからからだろう。無くなったら、私はこの暗闇から明るい幻覚へと引き摺り込まれてしまうんだ。そして……、
(……冷えてきた。太陽がなくなると、砂漠とはこんなに早く気温が下がるんだな……ダメだ、余計なことを考えるな。凍え死ぬ前に、温もりが消える前にここから脱出して…………温もり?)
『あはは……あ、でも私以外にもアヤネちゃんとか先輩達とか、柴大将がサオリさんのことを気にかけてる。だからみんながサオリさんが安全にバイトできますようにって祈ってると思う。その思いもあったんじゃない?』
「……柴大将に謝らないと。そして感謝もしなきゃいけないな…………!」
セリカの私を思った祈りがお守りなら、柴大将の祈りはきっとこれだ。私は懐に手を突っ込み、お守りと一緒に保管していたそれを取り出した。指針が示した先は…………、
(アビドス砂漠上空)
黄金の砂の水面に、黒シミのような影が1つ差す。けたたましいローター音が乾いた空気を震わせ、砂混じりの風を切り裂いた。勇ましく空を飛ぶそれはアビドス高校所有のヘリコプター、雨雲号である。
絶賛飛行中(何なら最高速度)だが両脇のドアが開け放たれており、その左側から両足を放り出し、ホシノは遥か彼方のアビドス砂漠の果てを見下ろしていた。アビドス砂漠に到達してからずっとそうしているが、お求めのものは未だ見つかっていない。
「ノノミ、電話はどう?」
「ダメです、セリカちゃんもサオリさんも繋がりません!電波の届かないところにいるみたいで……」
「やはり第3校舎に、旧オアシス前繁華街には何かあるのでしょうか?あそこで一体何が……」
反対側の扉から目視捜索をしているシロコ、機内で電話を続けるノノミ、細腕で雨雲号を駆るアヤネ、そしてホシノの4人で協力してサオリとセリカを探している。十数分前に届いたモモトークから2人の異常を察知し、大急ぎで準備して2人を追い掛けているのだ。
『さおりさんがだいさんこうしゃにいった!なにかおかしい!!!!いまおいかけてる!みんなきて!」
『まだおわってなんていなかった!!』
セリカから届いたモモトークの内容を思い出し、ホシノは片膝を立てて溜め息を吐き捨てる。ちょうど今日の定例会議で第3校舎の話をした矢先にこのざまだ。大切な後輩と客人が危険な目に遭ってるかも知れない、その犯人が支配人……アビドスの先輩かも知れない、そのことがホシノを苛立たせる。
そんな心情を後輩達には悟られまいと懸命に心の奥底に仕舞い込み、いつも通りに振る舞おうと試みる。だがその努力は虚しく、あるいは長い付き合いのある間柄だからか、3人はホシノの怒りに気づいていた。だがそれを指摘するとホシノは余計に気を使うだろう、空回りして落ち込むだろう。あと自分達も支配人に対して思うところがある。OGとは言えこの野郎と思っている。そんな訳で3人はホシノをそっとしておくことにした。結果機内は重苦しい空気が漂うことになるが、全員それをありがたく感じているのだった。
…………そんな雰囲気を変えたのはアヤネの絶叫だった。
「もうすぐ旧オアシス前繁華街が見えま…………なっ、何ですかあれ!?」
それを聞いて全員が前方を見る。その先にあったのは巨大な砂嵐だった。いや、ただの砂嵐ならアビドスではよくあることなのでアヤネが驚くことなどないはず。一体どうしたのかと疑問に思うホシノ、ノノミ、シロコ。しかしすぐにその違和感に気がついた。
「嵐が目の前にあるのに、どうしてここは凪いでいるんですか……?」
「……ノノミ、あの砂嵐、動いてない。確かあそこが旧オアシス前繁華街だよね?そこを覆い隠して、停滞している。こんなの普通の砂嵐じゃない」
「だから付近の空域は凪いでいる……?特異現象と言うものでしょうか……ホシノ先輩、どうしましょう!?」
「…………っ」
アヤネから指示を仰がれたホシノ、しかし彼女もどうすればいいか分からずに歯軋りする。とにかく立ち上がり、少しでも情報を得ようと限界まで身を乗り出した。その行動を察したアヤネは雨雲号の速度を落とし、ホシノが落ちないようにしつつ限界まで嵐に近づこうと試みた。
「……とりあえずシロコちゃん、捜索中断。席に戻ってシートベルトして待機」
「ん、したよ」
「ノノミちゃん、電波が届かないんだっけ?」
「はい……っ!?もしかして、あの中に!?」
「状況的にそうだよね……!アヤネちゃん、ヘリ止めていいから分析して。詳しい数値はいいから雨雲号で突入できるかだけ教えて」
「分かりました!自動操縦、ホバリング…………少々お待ち下さ________」
「っ!?やっぱなし!!突っ込んでアヤネちゃん!!」
「え!?ホシノ先輩!?」
「見つけた!あそこ!!」
そう叫んでホシノは指を刺した。その先には砂嵐から抜け出した人影が見えた。目を凝らす……意識がないと思われる1人を背負い歩く1人、どちらもお揃いのTシャツを着ていて……どちらの顔もよく知っている。
「セリカとサオリ!!」
「アヤネちゃん!2人の方へ向かってください!!」
「はい、ノノミ先輩!ホシノ先輩機内に戻って!」
「もう戻ってる!行って!」
(ヘリコプターの駆動音)
舵を限界まで傾けるアヤネ。それに応えて雨雲号は速度を増し前進する。進むほどに人影の解像度は増して2人の惨状が分かるようになる。意識を失っているセリカは震えて唇わ青ざめさせており、あと何故か後頭部に大きなたんこぶができていた。
それを背負い歩くサオリは外傷こそ見当たらないがセリカ以上に顔色を悪くしており、歩くどころか立つのもやっとに見えた。しかし歯を食い縛って前に進み、そして雨雲号に気が付いたようで顔を綻ばせていた。
ああ、無事だった。いや無事ではないか、ボロボロだ。だけど生きている。そのことに全員が安堵し、そしてすぐに迎えに行ってやろうと心地良い焦燥を覚えた。それはサオリも同じようで、安心した様子で立ち止まり、こちらへ小さく手を振る。何か光を反射するものを持っているようで、まるで雨雲号への救難信号のように点滅するのだった。
…………だが次の瞬間、その場の全員が笑顔を凍らせる。
「ん……?砂嵐が動いて……サオリに迫ってる!」
シロコがそう叫ぶと同時に後方を振り返り、すぐに顔を戻して走り出したサオリ。シロコの言う通り砂嵐の壁がサオリに迫っている。止まった足を再度動かし、必死に前に進んでいた。だが砂に足を取られ、そもそも体力の限界だから、スピードは全然出ていない。雨雲号に乗る全員の心臓の鼓動が早くなる。反比例してプロペラの回転音が嫌に遅く感じる。スピードは最高速度のはずなのに遅く思え、砂嵐の壁が迫る速度は嫌に早く感じた。ああ、サオリと砂嵐の間にはあと数メートルもない。雨雲号は間に合わない……!!
「っ……!!アヤネちゃん右に急旋回!!」
「え!?そんなことしたら間に合わなくなりますよ!?」
「いい!私が先に行く!!」
そう言ってホシノはシートベルトを外し、自分のショットガンと盾を掴み取る。
「ホシノ先輩、まさか……!?」
その言葉の、ホシノの考えを察したアヤネは頬を引き攣らせ、
「はい、これが1番速いと思います♪」
ノノミはノリノリではしゃぎ、
「ん、カウントダウンはまかせて」
そしてシロコはサムズアップをして見せた。
「よ〜し、みんなは後から着いてきてね!シロコちゃん、3カウント!」
「ん!3!」
そしてホシノは扉を開ける。
「「2!!」」
シロコとノノミは声を合わせる。
「「「1!!!」」」
アヤネが舵を力一杯引っ張った。
「……うん、いってくる」
(プロペラの重低音)
急旋回が雨雲号が軋ませる。遠心力が身体を引っ張り、しかしそれに抗わず速度に変える。そしてホシノは外へ飛び出した。
脚力と遠心力が組み合わさったホシノは弾丸のように砂漠を飛び、雨雲号よりも早くサオリへ接近することに成功する。しかし飛んでるのではなくカッコよく落ちてるだけ。どんどん高度は落ち、サオリまで残り10メートルのところで着地する。だがその時背負っていた盾を広げ、スケートボードの様に乗って着地したのだ。おかげで速度を落とさずに滑走し、サオリへ近づくことができた。そしてホシノは遂にサオリの眼前へ到達する。目を丸くするサオリが見える。砂嵐の壁がサオリの真後ろまで迫っている。ホシノはショットガンを構え、渾身の力で放った。
(銃声、集中突破)
桜色のプラズマを纏ったスラッグ弾がサオリの横を通り過ぎ、砂嵐の壁に激突し爆発する。その衝撃は壁を後退させ、サオリは前に倒れ込んだ。
「うおっと危ない。サオリちゃん大丈夫?」
足元の砂に顔を突っ込みそうになったサオリは間一髪、ホシノに抱き止められる。セリカの分も重さがあるが、ホシノはそれを気に留めずにサオリの身体を支えて見せた。
「……ああ、ホシノ」
「無事でよかったよ……あれ?」
小さな身体に顔を埋めるサオリの頭を撫でる。するとホシノは彼女が何かを握り締めていることに気がついた。
「……コンパス、柴大将から……貰っててよかった……『迷ったらコンパスを信じること』だからな。お陰でホシノに辿り着けた…………」
「そっか、そう…………本当に良かった」
(風の音、誰かの呼び声)
サオリに向けていた視線を前に戻すホシノ。先程吹き飛ばした砂嵐が勢力を戻し、こちらへと迫っている。その風に何か良くないものを感じたホシノは、しかし冷静に対処策を模索した。
(また吹き飛ばす?それでもいいけど復活するならキリがないよね。でもサオリちゃんとセリカちゃんを抱えて逃げ切れるとも思えない。ここは……)
「……みんなを頼ろっか」
そう言ってホシノは足元の地面を思い切り踏みつけた。衝撃で盾が回転しながら飛び上がり、ホシノの手に吸い付く様に掴まれる。そして桜色の光を放つシールドを展開、ホシノ達を包み込んだ。
「これでよし、じゃあアヤネちゃん、撃っちゃって!!」
「はい!火力支援、行きます!」
無線機に……その向こうにいる頼れる後輩に呼びかける。背後に迫る大きな影、ホシノは振り返ることなく盾に身を隠した。
(発射音、豪雨ミサイル)
砂嵐にミサイルが突き刺さり、爆炎を上げる。たった数メートルの距離は普通なら被害は免れないが、堅牢な装甲がそれを許さない。ホシノは相棒の頼もしさに鼻を鳴らし、ちょうど真上に到達した雨雲号へサムズアップをして見せた。
「シロコちゃん!」
「ん、降下する!」
手慣れた様子で命綱を装備し、シロコとノノミは飛び降りる。実はアビドスでは雨雲号の本格運用が決まった時にヘリ降下の訓練を始めていたのだ。その手法は所謂ラペリング降下と呼ばれるものと同一で、外の世界の人間なら着地する直前に命綱を握り締めてブレーキをかける。しかし2人はキヴォトスの生徒である己の頑丈さと砂のクッション性に賭け、ブレーキをかけずほぼ飛び降りの様相で着地した。これが1番速いのだ。
「ん、とっととズラかる!」
「ホシノ先輩!ベルトを!」
「ありがとー2人とも、いい降下だったよ」
ホシノ、シロコ、ノノミの3人がサオリとセリカを包み込む様に抱き締める。ベルトでそれぞれの身体を固定し離れないようにする。不備がないかをしっかり確認し、シロコは無線機に叫んだ。
「アヤネ!引き上げて!」
「はい!たああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
命綱を巻き取る装置はあるのだが待ってる時間はない。豪雨ミサイルを食らっても尚迫り来る砂嵐にそう判断して、アヤネは機体を上昇させ丸ごと引き上げた。
命綱の巻き取り装置が火花を散らす。下の皆が振り子のように大きく揺れる。何か悲鳴が聞こえる気がする。今だけ保ってくれ、そう祈りながらアヤネは旋回し…………、
「________はぁ。り、離脱成功です……!!」
「さ、さすがだよアヤネちゃ……うぷっ」
「ん゛っ、んん……うぷっ」
……無事に砂嵐から離れ、全員を機内に乗せることができた。
「みんな無事でよかうぷっ……ったです♪サオリさんとセリカちゃんの意識はありませんが……」
青ざめてるが寝息が安定してきたセリカとジャイアントスイングに耐えられず白目を剥いて気絶したサオリの頭を愛おしそうに撫でるノノミ。彼女の言葉に頷き、ホシノは後方に遠ざかる砂嵐を眺める。右手でシロコの背中を摩りながら、これからのことに大きく溜め息を吐いた。
「色々考え直しだね、サオリちゃんから話も聞かないと。本当に…………何でこんなことするんだよ」
「ホシノ先輩っ!背中撫でて……!手ぇ止めないで……!」
「あ〜はいはいシロコちゃん。ヘリにも慣れないとねぇ……」
「あはは……5回転くらい、しましたもんね……んぷっ」
「あはは……雑な回収になってすみません。座席の下にエチケット袋がありますので……」
「ん゛っ!!」
……その後雨雲号は何の問題もなくアビドス高校に到着した。砂嵐はそれ以上追い縋ることはなく、だが笑い声の様な、慟哭の様な風鳴りを砂漠に木霊させていた。しばらくしてセリカは目を覚まし、たんこぶに氷嚢を当てながらシロコの介抱をすることになるのは別のお話である。
…………サオリは都市部の病院に搬送され、3日間目覚めることがなかった。
ここだけサオリが裏バイトで働いていて、ひどい目にあったりあわなかったりする世界
錠前サオリの裏バイト奇譚19
業務内容:柴関ラーメンの配達
注意事項: 『迷ったらコンパスを信じること』
勤務期間:8時間×
給与額:1時間1600円×
コメント:配達は性に合ってる。
アビドスのみんなにお礼 らーめんおいしい
…………ええと、サオリさんの荷物と着替えはこれですね。あら?これは……バイト帳簿?サオリさん、こういうのしっかりつけてるんですね。偉いです♪
柴関ラーメンは……まだ書いてる途中みたいですね。しばらく入院になりますし、これも持っていきましょうか。
……うん、サオリさんいっぱい頑張りましたもんね。いっぱい休んでもらって、いっぱいお世話しましょう♪ウフフ……。
ー十六夜ノノミ