ガゼフに着いていって王国に仕官した単独転移アインズ様   作:万里支店

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本文中の六腕の戦闘は捏造が含まれます。


ガガーラン&ティナVS六腕

――ヒュン

――ピゥン

――ピュン

 

 無数の蝋燭揺らめく倉庫内に、そのか細い明かりを切り裂くような鋭い音が響いている。

 

「チィッ!」

 

 そしてその音を塗り潰すように、野太い声とガシャガシャとした騒音が続いた。

 

「ふん。近付けまい」

 

 さらに重なる冷徹な男の声。野太い声の主、ガガーランは苛立たしげに吐き捨てた。

 

「けっ! テメェこそオレを捉えきれてねぇだろうが」

「見たところ、それも時間の問題のようだがな」

 

 ギリッと奥歯を噛み締める。男の言う通りだ。戦いが始まってからこっち、ガガーランは後退を強いられていた。

 視線だけでゴブリンの二、三匹を殺せそうなほどに力がこもる。その殺気を受けてなお悠然と立つ黒鎧の男。六腕がひとり、"空間斬"ペシュリアン。

 遠間にいる相手を、あるいは物陰の標的だけを斬るという技の正体は知れた。ウルミという、鞭のようにしなる異様な長剣だ。それを巧みに操ることで噂に語られる妙技を為してみせるのだろう。

 

 だが、これはタネが割れた程度で破れる類いのものではない。鞭の軌道を見切るは極めて困難。加えて光源も頼りなく、しかも揺れる蝋燭であることが、よりウルミの軌道を見づらくしていた。

 

「ティナ。せめて蝋燭だけでもなんとかならねぇか?」

「すぐには無理。数も多い」

 

 問われたティナは仄闇に跳ねながら応えた。その後を追うように、矢や第二位階魔法《雷槍》などが迫る。無数の《魔法の矢》は礫やクナイで誘爆させ、散らしていた。

 当然のこと、ペシュリアンはひとりで待ち構えてなどいなかった。無数の魔法詠唱者、野伏などの混成部隊と共にいたのだ。今ガガーランがペシュリアンと向かい合っていられるのは、彼女へ向かう横やりをティナが捌いてくれているからに他ならなかった。

 

「さすがはアダマンタイト級冒険者と言ったところか。これほどの人数差で、戦闘になっているなんてな」

「だろう? うちの自慢の斥候なんだ。口の悪さと性癖以外じゃ天下一品よ」

「心外。美女への愛の大きさも天下一」

「そぉいうとこだよ!」

 

――ピゥッ!

――ギィン!

 

 踊る灯を避けるように、刃の蛇が闇を這う。ガガーランは辛くも戦鎚で弾いたが、危なかった。

 

「へへっ、だんだん見えてきたぜ?」

「ほざけ。幸運は何度も続かんぞ」

 

 ペシュリアンの手が翻る。薄暗い倉庫にあの艶消しの黒鎧だ。手元も恐ろしく見づらい。アインズの魔法で暗視が効いていなかったら、ここまで防げてはいなかっただろう。

 激しい金属音を響かせながら、頭を、首を、太ももを守る。鎧から露出している部分だ。ガガーランがそこを覆っていないのには、元の鎧の形状もさることながら、急所を晒すことで相手の攻め手を誘導する意図もあったのだが、こうも相性が悪いと、カタビラでも着込むべきだったか。

 

「《雷槍》!」

「《衝撃波》!」

「不動金剛盾の術!」

 

 瞬間、倉庫内が金色の光に照らされた。ティナの不動金剛盾だ。魔法に対して効果の薄い金剛盾は蒼雷を浴びてすぐに四散したが、ティナの目的は盾ではなく、その光量にあった。

 

「ぐっ……!」

 

 薄暗い倉庫に慣れ、影に潜み動き回るティナを見逃すまいと凝視していた敵は急な光源の登場に対応できず、一転して白い闇に眩んだ。

 

「はぁっ!」

 

 そして放たれる無数のクナイ。それらはひとりの眉間を貫き後ろの腹に刺さり、あるいは太ももを大きく割き、あるいは腕で防がれた。

 

「……思ったより削れなかった。こいつら中々やる」

「みてぇだ、なッ!」

「そっちはそっちで頑張って」

「おうよ!」

 

――キンッ!

 

 もう何度目か、首への攻撃を防ぐ。首。腿。顔。こめかみ。腿。

 次第に、ガガーランには違和感が積もっていた。あまりにも、攻撃が弱点に寄りすぎていないか? 上と下に散ってはいるが、それだけだ。普通に戦っていてあって当然の偏りを大きく越えている。現にガガーランは、この戦いがはじまってからこっち、胸や腹に衝撃を受けていなかった。

 

「……そういえば、払った手応え、やけに軽いな」

 

 無数の斬り結びを経て、ガガーランの戦鎚は繰り返しウルミを弾いているが、それを持つ手にはおよそ痺れや疲れはない。アインズの支援によるものかとも思っていたが……。

 

――ヒュン!

 

 再びウルミが唸る。ガガーランは思い付きのままに、それを手甲で弾いていた。

 

「なにっ!?」

 

 驚愕するペシュリアンの声。そこに浮かぶ動揺に、ガガーランは確信を得た。

 

「なるほどな……。さてはテメェのその武器、オレの鎧を抜けねぇな?」

 

 笑むガガーラン。押し黙るペシュリアン。

 思えば他にも違和感はあった。遠距離攻撃の部下を揃え、長物で相手を近付けない戦法をとるペシュリアン。重い全身鎧は果たしてその戦法にそぐうものだろうか。着込むにしてももっと軽く済ませ、距離を取りやすいようにしてもよいはずだ。

 すなわちあの鎧は、ウルミが予想外の動きをした時、自身を傷つけないためのもの。

 

「ま、違ったらどのみちジリ貧だしな。ティナ!」

 

 叫ぶガガーランの背後に、音もなく影が差した。名前を呼ばれた瞬間に意図を察したティナが降り立ったのだ。

「一瞬背中任せた!」

 背後に戦友を感じたガガーランは身をたわめる。誰が見ても一目で分かる。突進の構えだ。

 

「近付けるな!!」

「《泥濘化》!」「《鈍足》!」「《麻痺》!」

 

 ペシュリアンからの指示を受けた魔法詠唱者たちから魔法が飛ぶ。いずれもガガーランやティナの動きを鈍らせるための魔法たち。

 

「死ねぃッ!」

 

 そこへ重なるペシュリアンの声。必殺の一閃は夜闇をうねり、ガガーランの頭を食い破らんと迫る。

 しかし、ガガーランは一瞬とて鈍らなかった。

 

「オラァ!」

 

――ギャリィン!

 

 左の手甲で鋼の蛇を弾き、ガガーランは大砲のように吶喊した。

 

「なんだと!?」

 

 ペシュリアンは振り切った体勢から辛うじて後退するが、もう遅い。

 空間を支配するための武器は、空間がなければ意味をなさないものだった。

 

「《超級連続攻撃》ィィ!!」

 

 弾いて刃圏に侵入したガガーランは、必殺の武技を発動させる。戦鎚を振り上げ、鬼神の形相で猛然と叩き付けた。その様は、さながら自棄をおこした鍛冶師のようで、ガァン! ガギン! ゴガン! と鋼を叩き潰す音が倉庫内にこだまする。

 ペシュリアンはもう声をあげることもできない。ただ丹念に、もはや形を保てずにいる鎧と一緒に、叩かれるのみだった。うめき声すら出ない。叩かれる衝撃で肺から空気が絞られ、そのついでに漏れる声が、彼の最後の声だった。鎧と一緒に延べられていく四肢が、彼の最後の視界だった。

 

 ペシュリアンの形が完全に人でなくなったのを確認し、ガガーランは汗を拭い戦鎚を担ぎ直した。

 振り返ると、ティナがクナイを拭いているところだった。

 

「終わったか?」

「ちょうど今」

「ずいぶん速かったじゃんか。結構残ってたろ?」

「拘束が効いたフリをした。油断を誘うのは大事」

「なるほどね。指輪サマサマだな」

 

 ガガーランは鎧に覆われた手に目をやった。甲の中には指輪がある。リング・オブ・フリーダム。その効果を噛み締めていると、手甲にある傷に気がついた。ペシュリアンの最後の一撃を弾いたときの傷だ。

 

「……考えてみれば、蒼の薔薇の最前線はオレなんだよな」

「? 今さらどうしたの」

「いやな、ペシュリアンの野郎を思い切りぶっ叩けたのは、言っちまえば固さのお陰だなってよ」

 

 鎧の性能と、アインズの支援によるその向上。

 

「オレはもっと思い切りよく敵陣に突っ込んでいけるように、防御を固めるべきかもしれねぇと思ってよ」

「驚き。そろそろ鎧がいらないかと思ってたのに」

「うるせぇ」

 

 いつものやり取り。ガガーランが呆れながら返すと、いつもと違う言葉が続いた。

 

「いいと思う」

「あ?」

「今日の勝因だったから」

 

 ピュウ、と口笛を吹く。

 この皮肉屋からもそう見えたらしい。

 とりあえず、この戦いが終わったら小さな円盾でも腕に付けるか。そう考えていた。

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